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第77話 秋葉原狂騒

 ――荒廃した世界。

 

 無数の高い建物――ビルが整備された道路上を立ち並んでいる。

 都会。

 そういう言葉を思い浮かばせる場所。


 店か何かと思わせる場所は女の子のデザインが描かれている広告やポスターなどが見られる。

 

「ソラ……この場所が――人間界……なの……?」


 イリスにとって故郷魔界とは雰囲気そのものが違う場所だった。


「まあ――な。ここが……一応秋葉原だ。でもこれって……」

「どうかしたの? ソラっち」

「恐らく雰囲気の問題だと思います。私もかつて一度『神聖魔導団(アルテンリッター)』の任務で人間界に来たことがありますが、以前の秋葉原と呼ばれる場所はもっと繁盛していましたから……」

「ああ、エステルの言う通りだな。今となっては人の姿の一つも見えねぇ……」


 エステルはルークはどうやら人間界に立ち寄ったことがあるようだ。

 二人曰く、秋葉原という都市は勿論、買い物客などで賑わいすぎていたというほどだ。

 そして今、サキュバスの襲撃を受けて以来、人の姿や気配の一つも感じられないという。


 足元には雪を思わせるような白い灰が降り積もっていて、空気が霧がかっている。

 故に荒廃都市だった。


 秋葉原陣に向かった五人――ソラ、イリス、ミリィ、ルーク、エステル。

 五人の中には各五大国の最強魔導師『神聖魔導団(アルテンリッター)』が三人いる。

 

「でもおかしいな……」

「ルークさん? どうかしたんですか?」

「気づかないのかソラ。ここは秋葉原――サキュバスのアジトだぞ」

「確かに気がかりですね。今も尚、個体数の倍増を続けているサキュバスなのに一体くらい見かけてもおかしくないくらいですが……」


「いや、違うわ!」


 と、イリスが突然大きな声で叫んだ。


「イリスっち!? 大きな声出すと見つかっちゃうよ!?」

「見つかっちゃう……? 分からないの!? サキュバスはもう――!」

「……まさか!」


 イリスが顔色を青く焦燥しているとき、この場にいる全員が自分が置かれてる境地を悟った。

 刹那、ソラたちの周囲を囲んでいるビルの窓ガラスを割りながら飛び込んでくる人影が見えた。

 ガラスの割れる音を立てながら無数の数えきれないほどの人影――サキュバスの襲撃だ。


「俺たちはここに来た時点で既に包囲されていたのかよ!」

「総攻撃――じゃないよな?」


 ソラがそう思ったのも、あまりにものサキュバスの多さだった。

 見ただけで百体はいると推測された。


「逃げましょう!」

「逃げるって何を言うのエステル! 空中はサキュバスが!」


 その時だった。

 サキュバスの持つ巨大な鎌に魔力が凝縮していく。


「まずい!」


 一斉に魔力をため込んだサキュバスは鎌からその魔力を放つ。

 尋常ではない速さで魔力はソラ達のいる地面に直撃した。

 ――ドドドドドドドドドン!


連弾(れんだん)乱砲(らんぽう)……!」


 地面に落ちたとされたサキュバスの魔力は、ルークの狙撃によってすべてが撃ち落とされていた。

 砂煙が弾幕により、二つを分けたとき、ソラとエステルは地上で待機していた。


「剣技、ホーリースペクトル!」


 ソラの純白の聖剣シリウスが振り上げられると閃光の斬撃がサキュバスの大半を殲滅した。


「残りは任せて! ソラっち」

「私も参戦するわ!」


 イリスとミリィが空中へ飛び、東西から襲ってくるサキュバスに向かう。


終骸の魔炎(デス・ピラス)!」

「イラ・ベラ・デリ・オリーラ!」


 イリスが技名を叫び、ミリィが魔法を詠唱する。

  

 イリスが目の前で巨大な炎の壁を作り、右手で勢いよく押し出すと、炎を壁がサキュバスを飲み込んでいく。

 壁に飲み込まれたサキュバスは灰と化していた。


 ミリィの凄まじい勢いの竜巻の中の無数の魔力のオーブが斬爆発を起こすと、すべてのサキュバスを斬り刻む。


「すごい――ですね――」

「うむ。ソラ達の仲間もなかなかやるな……」


 強襲をかけてきたサキュバスはあっさりとソラ達の手によって殲滅された。

 エステルの出る幕はなかったようだ。


「皆さん、一先ず物陰に隠れましょう。体制を立て直します!」


 全員が一斉に頷き合うと、秋葉原の荒廃した町の裏路地へと姿を消していった。





   *





 ソラ達が選んだ場所は比較的狭い路地であるが、屋根がついていて敵に気づかれないような場所だ。

 さらに、ルークの結界により、一時的に魔力感知を遮断している。


「皆さんにこれを渡しますね」


 と、エステルが懐から取り出したのは数本の注射器のようなものだ。

 サイズは小さめだが、その中には何やら紫色の液体が入っている。


「それは……?」

「まさか、毒薬とかだったりして!?」

「しっ、ミリィ――。声が大きいわよ」


 ミリィは目の前で何かが起こると居ても立っても居られないような性格だ。

 それをいつも押さえつけるのはイリスの役目でもあった。

 しかし、注射器の液体はソラとルークには見覚えがあった。


「まず、サキュバスの能力について説明しますね」

「能力……?」


 イリスが疑問に思うと、確かに今までにサキュバスの固有能力について聞かされていなかったことに気づいた。


「サキュバスの能力は痛覚の倍増――」

「え……」

「人には痛覚と呼ばれる痛みを感じとる機能があります。そして、サキュバスの能力とは一般にその痛覚をより繊細に――故に痛みを感じやすくさせる能力なんです」

「じゃあ、その魔法にかかったら私たちはおしまい……ってこと?」

「そっ、そんなのチートだよ。ミリィは認めないから!」

「い、いや、ミリィの空飛ぶ翼もある意味チートだぞ?」

「それは――」


 サキュバスの能力について説明されても、怖気づくことはなさそうだった。


「しかしさらに厄介なことがありまして……」

「まだ何かあるの?」

「サキュバスはあの巨大な鎌で人を斬りつけます。痛覚の程度は斬りつけられた回数によって変化するのですが――。一回斬りつけられたら痛覚は二倍、二回斬りつけられたら痛覚はそのまた二倍と……」

「つまり、四倍……」


 ソラとルークはその能力を知っていたためか、顔色を変えることはなかったが、ここでイリスとミリィがサキュバスの能力の恐ろしさに気づいた。


「サキュバスの能力はあらゆるものを倍増させる。サキュバスが自らの個体数を増やしているのはそのためと理論付けられています」

「だったらその妙な液体は何よ」

「うんうん、ミリィもさっきからそれ気になってたし」


 そこで、エステルは全員に注射器を各五個ずつ配る。


「その注射器の液体は薬ではありません――麻酔薬に似せたただの魔力です。サキュバスによる痛覚倍増の魔法に限界を感じたときに打ってください」

「打つと痛覚は戻るの……?」

「一に戻ります。ただし、この液体の魔力はサキュバスの魔力を中和させる特殊な魔力です。液体の魔力を体内に取り込みすぎると、他所の魔力に体は耐えられなくなり――恐らく死ぬでしょう」

「嘘……」

「じゃあ、何本までなら打っていいの?」


 ミリィが問いかけると、エステルは即答した。


「二本――」

「えっ!? ってことは、ミリィ達にこんな危ない注射器を五本も渡したのって――」

「本当にヤバいと思ったときにだけ使ってください。ただし、責任は取りません」


 数秒の沈黙が襲った。

 故に、注射器を三回使ったら死ぬという宣告をされたようなものだったからだ。


「まっ、三回使わないようにサキュバスの攻撃を避けとけばいいってもんじゃないのか?」

「ソラ――。そんな無茶なこと」

「うんうん! ソラっちの言う通りさ!」

「俺は、サキュバスに近づかれる前に射殺すればいいってことだからな」


 ルークまでもがソラの無茶ぶりに賛成してくれるようだった。


標的(ターゲット)はボスサキュバス。そいつを殺せさえすれば、すべてのサキュバスは消えます。サキュバスのアジトを見つけ次第、強豪突破です!」

「ああ、そうだな!」


 ソラをはじめとする五人の魔導師たちはエステルとルークから告げられる作戦をもとに行動を開始した。

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