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第75話 二人の気持ち

 ――女子寮のある一室。


 数分前にサキュバス戦に向けての作戦会議を終え、出発は正午ということになった。

 魔界の正午は人間界の深夜にあたり、潜入に好都合な時間帯らしい。

 無論、人間界には時差があるため、深夜というものは秋葉原でいう時間帯であるが。

 正午になるまでは各自の身支度を済ませておくことになり、一時解散となった。

 正午まであと三時間はあった。


 《クレア学院》の女子寮のある一室では、ソラとイリスが同じ時間を過ごしていた。


「ソラ。アインベルク王国の『神聖魔導団(アルテンリッター)』昇格おめでとう」

「あ、ありがとう。俺はあまり嬉しいわけではないんだけどな……」

「ううん。心配しないで。私はいつだってソラの味方――だから。いつだって力貸すから……」

「イリス……」


 イリスの最後の言葉は少し弱弱しかった。

 ソラはイリスの表情を伺う。


「何かあったの?」


 ソラが優しい声でそう呟くと、突然イリスがソラに近寄り、両腕をソラの腕に回してくる。


「おっ、おい! 抱きつ――」

「ソラ……もう会えなくなるのかと思ってた……」


 そう、イリスが言った刹那、ソラは自分の自分の胸のあたりが何かで濡れているのだと感じた。

 ――泣いていた。


 ――会えなくなる。

 イリスがそう言い放ったのもソラが突然二人でクエストを達成させた夜、人間界へ転移してしまったからだ。

 それから、何日かソラはイリスの前に姿を現さなかった。

 二人は恋人である以上、いつでも――できる限りならずっと一緒にいたかった。

 イリスにとって、ソラは大切な人。

 

 ――十年前の王都イーディスエリーの全焼事件。

 凶悪ギルド《虚無の棺桶(ボイド・コフィン)》によって、イリスは裏切られ、大事な家族までも奪った。

 その中でアイリスだけが唯一の家族だった。

 そして、ソラは魔界に現れた。

 力をつけ、ついにイリスの因縁を晴らし、イーディスの英雄とまで称されるようになった。


 ソラにしがみつきながらもイリスは泣き崩れた。


「イリス。ごめんな……。俺も人間界(向こう)にいるとき、一日でも早くイリスに会いたいと思ってたんだ……」

「当然よ――」

「そう……だよな……」


 イリスはゆっくり立ち上がった。


「ほら――拭けよ……大事な可愛い顔が涙で濡れちゃ……勿体ないだろ?」


 ソラはイリスの涙をハンカチで拭き取った。


「何よ……。こんなときばっかり恥ずかしいセリフ吐いて、さ……」

「恥ずかしいセリフ!? そっ、そんな!」

「ふふっ」


 イリスは微笑む。

 久しぶりに見るイリスの微笑みがソラは惹かれた。


(俺がこいつに惚れたのも――この笑顔だったのかな……)


 そんなことを思いながらもソラは頬を赤らめた。


「なあ、イリス――。この先もさ。ずっと一緒にいてくれないかな?」


 ソラの素の言葉を聞いたイリスは頬をわずかに紅潮させていた。


「勿論――。私もソラと一緒にいたいもの……」


 イリスが言い残すと、二人の顔の距離は近づく。

 静寂な部屋の中で、二人の唇はそっと距離をつめる。

 心を澄ませば小さな物音でさえも聞こえそうだ。

 窓越しで爽やかな風が吹いている。

 ソラの腕にイリスの透き通るような桃色の髪と今にも溶けそうな真白の肌が触れ合っていた。


(この感覚だ――ほんと懐かしいな……)


 ソラはどこかその感触に懐かしさを覚えた。

 二人の唇はそっと離れる。

 お互いに微笑み合うと、イリスはソラに抱きついてきた。


「イリス?」

「お願い。このまましばらく居させてくれるかな?」


 その刹那だった。


「ちょっ! ダメですミリィちゃん!」

「いいっていいって! 実際のところエステルっちも気になってるでしょ!?」

「それは――ありますけど……。いや、やっぱりダメです!」


 二人の女子の声が廊下側から足音と共に近づいてくる。

 ソラとイリスはその二人の声の持ち主は既に分かっていた。


「ごめんイリス。少し、離れてくれるかな?」

「気にすることないわよ――」


 と、そう言いかけ、イリスはソラの腰から手を離さない。


「い、イリス!?」


 徐々に、二人の声は近づき、やがてドアの前で止まった。


 ――バン!

 

 と、ドアが勢い良く開き、そこにはミリィとエステルの姿があった。

 ライトブルーのポニーテールを揺らしたミリィが好奇心旺盛で駆けつけてくる。


「あー! やっぱりソラっちとイリスっち! エッチなことしてるー!」


 とも言うべきか、少しミリィの怒った感情が見えてきた。


「待って!? 俺とイリスはその――何もしていないというか……」


 ソラが言葉に詰まったのは、今実際にイリスと抱き合ってる状況があったからだ。


「仕方ないわね……」


 と、イリスはソラから何とか離れてくれた。

 ソラはこの状況を続けたかったが、ミリィとエステルという第三者の目があればそれはまた別だ。

 エステルなら少し嫉妬心を込めて怒ってくると思っていたが、逆に空気が気まずくて足を後方へ引く顔をしている。


「どうよエステル! ソラは私のものよ!」

「ちょっ、私はソラ君を取ろうとなんて思ってませんから!」

「まっ、ミリィはまだソラっちのこと諦めていないけどね?」

「どうかな? ミリィ。ソラはそんな真似はしないわ。いや、そんな真似、私を前にしてできないわ」

「いやなんで俺がイリスの尻に敷かれてるみたいになってるのッ!?」


 相変わらずのソラは美少女たちの悪ノリについていけなかった。

 ソラは微小な溜め息をついた。


(というか、イリスと密接なことをしているときに限ってミリィちゃんとか来るんだよなあ……)


 ソラは愛想笑いする。

 

「ねぇ、ミリィ。さっきあんたソラとエッチなことをしてるって言ったわよね?」

「そうそう! 駄目だよ? ソラっちとそんなことしちゃ……」

「別にしていいでしょ!? しかも、キスとハグくらい――それ以上のことなんてまだしてないし!」

「まだしてない? ってことは今後はそういうことをする予定なのかな? イリスっちさぁ……」

「しっ、しないわよ! しなければいいんでしょ!?」


 ソラはイリスとミリィの謎の葛藤を苦笑しながら見るだけだった。

 気づくとエステルは姿を消していた。

 恐らく、彼女なりの配慮だろう――とソラは悟った。


「ほらほら二人共落ち着いてって!」

「むー、仕方ないなあー。ソラっちの言うことだもんね……」


 ミリィは少し言い過ぎたかと内心反省しながらもイリスとの口論を諦めてしまった。

 イリスとエステルの件もそうだが、イリスは何故か喧嘩をしやすいタイプなのかもしれない。


「あんたソラの言うことなら聞くの!?」

「当然!」


「…………」


 ミリィは豊満な胸を強調しながらもえっへんと胸を張った。

 ソラはその胸に視線が行ってしまったが、またイリスの叱りを受けるだろうと一瞬で判断し、即座に目を逸らした。


(せ、セーフか……)


「それと、ミリィちゃん。なんでこの部屋に入れたの?」

「カギ――してなかったよ?」

「あ……」


 この部屋に最後に入ってきたのはソラだった。

 イリスはソラにジト目を向けていたが、それ以上何も言うことはなかった。

 ソラはこの失態の償いを込めて何かしてやりたいと悩む。



「よし! サキュバス戦の前に少し早めのランチに行こう! 全部俺の(おご)りってことで――エステルも誘ってな」

「え!? 本当なのソラ!?」

「おう! ガチだ! 時間もそんなにないから近場で済ませよう」

「ソラっちやっぱり最高だよ!」



 深く悩んだ結果だったが、二人に喜んでもらえて一先ず安心できたというところだった。 

大変申し訳ないのですが、二月の更新はこの話をもって終わりになってしまいます。

二月は特に多忙で、一段落ついたところでまた、3月1日から投稿を再開しようと思います。


ここで朗報です。

三月はついに毎日投稿全31話の更新になります。

サキュバス篇はあと10話前後で完結します!!!

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