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第74話 作戦会議

 ――《クレア学院》は静まり返っていた。

 

 その要因を作り出しているのはたった五人の存在。

 各王国の最強魔導師『神聖魔導団(アルテンリッター)』だ。


 中央国アインベルク王国代表、神薙ソラ。

 南国ディオ王国代表、ルーク・アルトノイト。

 東国リリパトレア王国代表、エステル・アトラーヌ。

 西国ベル王国代表、セレスティナ・カッツェヴァイス。

 北国レクセア王国代表、ゼクス・アーデルニア。


 いずれの魔導師も各王国の国王に認められし最強の称号を持つ魔導師だった。

 誰一人としてその存在を知らない者などいなかった。

 ソラに関しては、この数か月、いや、数日で名を急激に名を挙げた。

 先日のロイドとの戦闘において、アインベルク現国王陛下アインスト・アインベルクの目の前で聖剣シリウスを自分のもののように使いこなし見事敵を打ち倒したことが大きな原因を作っているのだろう。


 そして、今、《クレア学院》の学院長室にその五人は集結していた。

 加えて、学院長アイリス、その妹のイリス、ミリィもその中に入っていた。


「全員揃いましたね……」


 学院長アイリスがそう呼びかけるとゼクスを除く全員が頷いた。


「今回ここに集まってもらったのは皆さんもご存じだと思いますが、改めて説明します。人間界を侵略しようとし、現在も増殖を続けている魔王の守護魔《六魔(サーヴァント・セイス)夢魔(サキュバス)の討伐――それが今回の任務です」

「もっと簡潔に述べればよいものを……要するに殲滅すればいいのだろう?」

「まあ早まるなゼクス。それに標的はサキュバスだけじゃあねえ」

「何……?」


 ルークが勿体ぶるように話を振るとゼクスも眉を寄せて興味を示す。

 

「人間だ――」

「何を言っている。人間を殺せば神の集う地(ドリュアセルタ)の神によって裁かれるぞ」

「あくまでも拘束だぞ、ゼクス。その人間は恐らくサキュバスの力を借りて魔導師になった」

「人間界の人間が魔導師に? そんな馬鹿な話があるか」

「ないとは言い切れんのう……」


 そう間に入ってきたのはセレスティナ。

 橙色の髪を微動だにさせず、ゆっくりと間に入り込んでくる。


「説明しろ。セレスティナ」

「すべての人間は魔力核といわれる魔力を発生させるものを持っているのじゃ。つまり、その魔力核に魔力を外部からの干渉によって強制的に注入すれば魔力核は機能するはずじゃからのう……」

「そうか……。では魔力を持つ者は皆魔導師。つまり、その元人間魔導師を殺しても問題ないはずだ。何故拘束をせねばならない……」

「馬鹿かお前は――」

「何だと?」

「サキュバスに関与していた人物ならば少なからず魔王の有力な情報は持ってる筈だろ? それにサキュバスは魔王の守護魔の中でも唯一知能を持ってんだ。この機会を逃せば一生魔王への攻略法は見つからねえってんだ」


 人間が魔導師になる説についてはソラが身に染みて納得できていた。

 人間だったソラが魔導師になれたのは召喚神ロギルスによる魔法の類で魔力を与えられたからだ。

 そして、サキュバスが魔王に関する情報を持っているのは確定事項だ。

 《六魔(サーヴァント・セイス)》とは故に魔王を守護する最強の六体を意味する。

 六体の中でも人型で唯一の知恵を持つサキュバスと関わっていた者なら少なかれ情報を持っているのは間違いではない。


「ちなみにその人間は黒蝮雷蓮(くろまむしらいれん)だとか言っていた」

「ふん、ふざけた名前だ。そいつを見つけた刹那殺してやる――」

「おいゼクス。さっきまでの話を聞いていたのか?」

「聞いていたに決まっているだろう冗談だ」

「お前が言うとマジで本当に聞こえるからやめてくれ……」


 緊張した空気の中でもルークは冷静でいた。


「では、本会議のメインの話に入ってもよろしいですか?」

「すまないなアイリス。進めてくれ」

「いえ。問題ありません。――では、簡単に言うと役割分担です。現在、人間界を占拠しているサキュバスは二か所に大きな拠点を置いているとの報告を聞きました」

「秋葉原とイタリア……か」

「さすがの把握力ですねソラ。ええ、ソラの判断によるとボスのサキュバスは秋葉原。そして、黒蝮という人間の魔導師はイタリアに身を置いて待ち構えていると――」


 アイリスが最後に放った言葉はあくまでもソラの予想に過ぎなかった。


「その根拠はあるの?」


 イリスはソラの予想に疑問を抱く。


「いや、ない。けど、俺はそう思う」


 ソラは元は人間界の住人であった。

 つまり、現地でオタクだったソラにとって秋葉原とは常に存在が大きかった。

 しかし、根拠はなかったが理論はあった。

 ソラが人間界に転移したとき、ソラを襲ったサキュバスはボスの命令を受けていることはわかっていた。

 人間界――つまり地球の地理を知るソラは秋葉原とイタリアはほぼ反対側に位置していることを知っていた。

 故に、秋葉原が主な拠点だと踏んでいた。

 だが、黒蝮雷蓮がイタリアにいるという根拠はなかった。

 ただそんな気がしていただけだ。


「ミリィはソラっちの意見を信じるかな? ソラっちはこういうときはホント頼りになるんだよ!」


エステルは全員の顔を伺った。


「ソラ君がこう言っている以上、他に手立てが立たないようですからこれでいいでしょう」


 とアイリスはこくりと頷いて、


「ええ、それでは決定です。イタリア拠点はセレスティナとゼクスに任せましょう」


 アイリスがそう言い放った刹那、とんでもない静寂が訪れた。


「待つのじゃ、そういうことは断じて許さぬ!」

「拠点の一つ潰しなど俺一人でも余裕だ」


 セレスティナとゼクスが同時に立ち上がり、言葉を発したのもほぼ同時だった。


「いいじゃないですか。それだけ気が合うんですから……」


 アイリスが促したことも、同時に言動をとったことからだろう。

 確かにこれだけ気が合えば、逆に作戦もうまくいくかもしれない。


「ふざけるなアイリス・エーヴェルクレア。貴様も堕ちたものだな……」

「ここは、こいつの言いなりにはなりたくないがゼクスの言うことも正論じゃろう……」


 ここで二人はある言葉を隠していた。

 それは二人が現在いがみ合っていることだ。

 セレスティナとゼクスはお互いに生理的に受け付けないと言い張っている。


「落ち着いてください。本来ならゼクス一人に行かせるところでしたから――」

「何だと……?」


 ゼクスの顔色が変わる。


「ゼクス。あなたはサキュバスを殲滅しようとしているじゃないですか」

「なっ、それは……」

「なんじゃ、そういうことであったか。要するにゼクスの見張りを――と」

「おい! 何故この俺が俺より格下の者に見張りをされなければならない!」


 常に最強でありたいゼクスが見張りをされることは、言い換えるなら迷子にならないように母親が幼少の子供を見守っていることに等しかった。


「仕方のないことです。ゼクスを止められるのは『神聖魔導団(アルテンリッター)』だけですから」

「では何故、ルークにしなかった? 奴なら、俺への賭けに勝った褒賞として今は一時的ではあるが格上とみている……」


 ゼクスから告げられる事実に全員は驚愕していた。


「ルークさん、もしかしてゼクスさんとの戦いに勝ったんですか?」

「ま、まあ――あれを勝利と呼ぶなら俺は乗る気ではないけどな……」

「それってどういう――」


「少し黙れ……」


 ソラとルークの会話にゼクスが低い声で警告をする。

 さすがに二人も身を凍らせた。


「やはり怖いな――ゼクスは」

「はい……なかなか容赦ないですね……」


 再びソラとルークが呟くとゼクスは怒涛の視線を送ってくる。

 ルークは慌てて愛想笑いで誤魔化しておく。


「これもまた仕方のないことです。元々ルークはソラたちと同行する予定でしたから……」

「ちっ。それでこのセレスティナを? こいつの実力は知らんが――」

「このとは何じゃ? おぬし。わらわを見縊ってくれては困るのう……。わらわこそ貴様を下に見ているからじゃ」

「ほう――言うようになった……か。今回の件は許容してやる。ただし、邪魔な真似はするなとだけ言っておこうか」

「貴様こそ邪魔にならぬようにのう……」

「俺に文句でもあるのか貧乳……」

「なんじゃとこの牛乳瓶みたいな髪型をしおって!」


 どうやら、ゼクスとセレスティナは仲が悪いらしい。

 セレスティナの言う牛乳瓶みたいな髪型とは、ゼクスの逆立ててある銀髪を言っているのか。


「はいはい、そこまでですよ二人共。では、以上の通りです。出発は魔界時刻の正午。それまでに各自身支度を済ませておいてくださいね」


 最後はアイリスの向けられた笑みで作戦会議は幕を閉じた。

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