第71話 帰国準備
――レクセア王国。
ルークとゼクスの『神聖魔導団』同士の戦闘は無事幕を閉じた。
ゼクスの判断上、戦闘においての勝利はルークに優先された。
実力差や体力差では圧倒的にゼクスの方が優先だろう。
それでも、ゼクスは己の失態を反省し、尻拭いとしてソラやルークたちの要請即ち交渉を引き受けてくれた。
レクセア王国を襲っていた大吹雪も晴れ、帰国路を通るとすれば快適だ。
ヴァイドビム雪道の強力な魔物はルークに一掃され、しばらくの間は魔物の心配をする必要がないだろう。
ゼクスの一時的な協力でもあるが、ルークはレクセア王国王城での食事を共にさせて貰った。
ルークはまさかここまでもてなしてくるとは思っていなかったらしい。
戦闘から三時間が経ち、もうすぐ日が沈む時間帯だ。
「少し早足で行くぞ。夜になるとまた夜行性の魔物が出現する。面倒だ」
「なんだ? イエティでも出るのか?」
「そんな人間界でも魔界でも架空の魔物とされている者など出るわけがないだろうが」
ルークとゼクスはあくまでも同じ『神聖魔導団』として対等な立場で話している。
ゼクス側としては、同じ最強としてルークを見ているという。
二人は身支度を済ませ、王城から出ようとする。
「お、おいゼクス――なんだその服装は……」
「仕方がないだろ。貴様の流星群を受けたおかげで替えの私服を切らしている」
ゼクスは黒の生地に金の刺繍が入ったレクセア王国の軍服を着ている。
見た目上ではかっこいい分類に入るが、アインベルク王国に入国すればまず間違いなく国民に怯えられる筈だ。
「どうにかならないのか……?」
「安心しろ。いざという時はこのマントを羽織ってやる……」
ゼクスが羽織ったのは内生地が赤く、外生地が黒の無地のマントだ。
「いや、お前の逆立ての白髪とそれは相性悪すぎるだろ!? 返って別の意味で怪しいんだが!?」
「誰がヴァンパイアだ。俺はレクセア王国軍最高指揮権所持者にして『神聖魔導団』だぞ」
「そこまで聞いてないんだけどな……」
「アインベルク王国は人間界に行くための中継地だと聞いている。それさえ越えればいずれにせよ問題ない」
(その越えるのが案外大変だぞ……)
ゼクスの反応をあまり期待していなかったためか、心で静かに意味のないツッコミを入れておいた。
太陽の光が射しこんでいるが、さすがの北国と言ったところか、かなり寒い。
軍の兵士の話によると、氷点下を余裕で越える寒さだという。
ルークの服装は、ほぼ狩人の恰好で肌の露出も冬場の服装にしてはかなり多めだ。
そういう面では用心が浅い人間なのかもしれない。
王城の外に出ると若干あと残りのある冷たい風が肌を刺激してくる。
かなりの長時間同じ服装のため、風邪を引いてもおかしくない状況だった。
王城の門から出ようとするゼクスに門番の兵士は右手を額に当て敬礼していた。
ゼクスは門番の兵士に目を合わせることなく何事もなかったように出ていく。
ルークもその隣を歩いていたが、この態度はレクセア王国からすれば当然の対応なのかもしれない。
ルークは敢えて口出しすることなく、ゼクスの隣を歩いた。
*
――ベル王国王城内一室。
ベル王国の『神聖魔導団』であり、国王の娘でもあるセレスティナ・カッツェヴァイスとソラ達は交渉を成立させた。
アインベルク王国『神聖魔導団』神薙ソラ。
二人の最強魔導師を含んだ王室はかなりの緊張度を強調している。
エステルは国王ダレスとともに話があるためか王室を一旦出ていた。
残されたイリスとミリィ、セレスティナ直属の部下のべレニスは少し大人しかった。
「神薙ソラの友人といったか? ――さっきの無礼をお詫びしよう」
突然、セレスティナが声を上げるとイリスとミリィに向かって頭を下げた。
「えっ!?」
「ミリィ――に?」
状況が理解できなかったイリスは思わず困惑してしまう。
対してミリィも同じ状況だ。
「わらわはおぬしらを弱者とみなし邪魔者として追いやった――すまなかったのう」
「そっ、そんな……」
「ミ、ミリィは怒ってるけどね!」
イリスは逡巡しているが、相変わらずのミリィは思っていることを素に出してしまった。
相手の立場を理解していたミリィは反省して少し後ずさってしまった。
「よい。わらわとて貴様らに攻撃的な態度はもうとらぬ。また父上の説教は長いからのう」
「で、セレスティナさん。本当に交渉の件、よろしいんですか?」
ソラは確認のための疑問を投げかけた。
「それについては既に承諾済みじゃ。準備が出来次第、出発してもよかろう。――アインベルクへの砂漠道では馬車を出そう」
「ほっ、本当ですか!? ありがとうございます……」
「それとてソラ。アインベルクへの集合はいつごろになっておる?」
「予定では明日の朝方ですが……」
「そうか――ここからアインベルクまでは馬車でも六時間はかかるのう……。ベル王国から一番近いとしてもはやりそのくらいはかかるのじゃ」
「となると出発は日が変わった時間ですか?」
現時刻は日が沈んだ時間即ち夜の七時頃か。
「そうじゃのう……。では、出発までの間、全員王城での食事を許可する」
セレスティナは少し微笑みながらそう言葉を放った。
セレスティナが笑うのはこの場にいるエステルを除いてほぼ全員が初めて見た。
「やったー! ってことはステーキ食べれるかな!? ソラっち!」
「そっ、そうだな――食べれるぞ。多分……」
「勿論最高級のベル王国さんのステーキ肉を携えておる。好きなだけ食べるといい」
「いいんですか? セレスティナさん。彼女、結構食べますよ」
「そんなに食べて太っておらず巨乳とは少々腹立たしいのじゃが許可しよう」
ソラは、セレスティナの胸を思わず見てしまった。
セレスティナがミリィにそこまで嫉妬するのが分かった気がする。
例えるなら、ミリィがエベレストと仮定するとセレスティナはどこにでもありそうな台地だった。
「おい、神薙ソラ。貴様後でわらわのところへ来るのじゃ。ただし、何をするかは未定じゃ。痛くないくらいにたっぷり――」
「ちょっ、セレスティナさん!? ソラは私の……!」
「冗談じゃ……」
「なっ……!」
イリスがセレスティナに弄ばれ、手に持っていた水筒が握り潰され、バキバキに砕かれたのを見たソラは背筋を凍られた。
(どんな怪力してんだよイリス……)
*
ベル王国王城の暗い部屋があった。
そこには二つの人影が対峙したまま直立しているのが見える。
「久しいなエステル……。調子はどうだ」
「はい。おかげさまで順調です。リリパトレア王国いつか必ず――」
一人の少女の声は、外から聞こえる動物の鳴き声に掻き消された。
一つの人影は、口元にワイングラスを運んで一口飲み組んだ。




