第69話 レクセア賭戦Ⅱ
――強者故に最強。
レクセア王国の『神聖魔導団』にして、最強格と謳われしゼクス・アーデルニア。
対峙するルークは息を切らしながらも標的をとらえていた。
(クソ……。まるで勝ち目がない。あいつのソニックブレードが発動すれば狙撃力が下がってしまう……)
ルークは『神聖魔導団』最強故に魔界最強の狙撃力を持つ。
スコープを覗かずとも鋭い直感で確実に獲物を仕留める神業だ。
対してゼクスの放ったソニックブレードは剣を振動させ斬撃を雪に反響させた。
つまり、斬りつけた対象を支配するゼクスの魔法となるとこの雪地がある範囲で既に支配されている。
その刹那、ルークの足元が微かに盛り上がった。
「――っ!」
瞬時に反応したルークは後ろに跳び、すさまじい勢いで噴出する雪をかわす。
が、雪は進行方向を変え、ルークを襲う。
「ぐはっ……!」
時空間移動を連発したばかりのルークは使用を躊躇い、直撃を喰らった。
雪は自由落下の原理とともにルークを飲み込む。
「馬鹿が――雪には俺の魔力が大量に仕込んである。ただの雪と勘違いするな……」
「んなこと分かってんだよ!」
ルークは体内から魔力を放出させた。
雪は徐々に溶け落ちる。
「ただの雪だとしても熱に弱いのは分かってんだぜゼクス。――って、どこに行きやが……」
ルークが雪から脱したとき、眼前にはゼクスの姿はない。
「プロの狙撃手でも背後は隙だらけか?」
「しまっ!」
背後からゼクスの声が聞こえた刹那、ルークは体の軸を回転させ振り返る。
振り上げられたゼクスの双剣を見て、後ろに跳び、一丁のライフルを腰に差し、魔力空間から一本の短剣を召喚した。
「ヴァニシング・オン――!」
ゼクスが呟いた時、双剣が一瞬にして消える。
――いや、消えたわけではなかった。
――バギン!
ルークの短剣が砕け弾ける音。
ルークの身体は上から下へ一気に切り裂かれた。
しかし、体を振り切り、運良く致命傷は避けた。
「消える剣――至近距離に至った条件で発動できる瞬間的な速さで百倍の威力の斬撃を放つ……か……」
「よく覚えていたな……が、それを防げなかったのはあの時と変わっていない」
「さあな……お前の剣の腕が上がっただけなんじゃねえのか?」
「敵を褒めるとは良い度胸だ。劣勢に立たされている分際でよく言える……。どうした、アレは使わないのか? お前のその目がなければ『神聖魔導団』に入れなかった底辺魔導師め……」
「おいおい、言ってくれんじゃねえかよ……」
ルークの右目を隠す黒い長髪はまだその正体を現していなかった。
故に、ルークは左目だけで狙撃をしていたに等しい。
両目なしに狙撃など、悪条件極まりないだろう。
ルークは右目にかかった黒髪を右手で掻き揚げた。
――そこに見える目。
――蒼く、過去を失った空虚な目。
――未来を呪い、先を嫌っている目。
――魔眼。
「改めてみると気味が悪い目だ。不吉な目だな……」
「そうかよ……。この目には何も映っていないさ……。ただ――先が見えるだけ……のな」
「常に五秒先を予知し、予知した分だけ自分の寿命を失う悪魔に呪われた目――また拝める日が来るとは……な!」
ゼクスは時空間移動を使い、ルークの眼前に現れる。
「ヴァニシング・オン……」
下段から振り上げられたゼクスの瞬間的な双剣が襲うが、ルークには当たらない。
まるで、先を予知していたかのように体は五秒前に動いていたからだ。
ゼクスは振り切った双剣を振り下ろす。
ルークはそれを回避するが、双剣は雪地に突き刺さった。
――いや、突き刺した。
双剣を柱として、ゼクスは体を浮かせ時空間移動を使い、蹴りを放つ。
ゼクスは予知していても反応しきれない速度で攻撃を仕掛けるが――当たることはなかった。
ルークは真上に一つの魔力の銃弾を放った。
(こいつ、何処に撃ってやがる……)
ゼクスは何度か双剣を振るうがルークが再召喚した短剣にそのすべての斬撃は受け流される。
――グシャァァァァァ。
「くっ……あぁ……」
突如、ゼクスの右肩から血が噴出した。
(そういうことだったか……)
そう、ルークが真上に放った魔力の銃弾――魔力弾が天で折り返し、落下の威力を利用して威力が倍増しながら戻ってきた。
そして的確にルークに命中させたのである。
「五秒先を読み取って正確な位置に銃弾を落としたのか……?」
「ああ、お前がいくら回避したとしても五秒先が分かる俺はお前が五秒後にいる位置に銃弾を落としただけだ……」
ゼクスはルークに魔眼の使用を促したことを後悔する。
が、ルークの魔眼の使用は多少のリスクを伴う――使用時間分の未来を失うことだ。
ゼクスは肩を動かそうとする。
「ぐっ……。しまっ……。貴様、まさか――」
「やっと気付いたようだなゼクス。俺はただお前の肩を狙ったんじゃねえぜ。お前の肩関節を狙った」
肩関節を砕かれれば肩はしばらく動かなくなる。
故に、ゼクスは双剣を使えない。
「――忘れたか! お前の足元には俺が支配した雪が潜んでいることを!」
「予知済みだ……」
「なっ!」
そこでゼクスはあることに気付いた。
「魔法陣……だと……」
密かに張っていたルークの巨大な魔法陣が雪の支配による噴出を抑え込んでいた。
ゼクスは予期しない事実に驚愕した。
片腕を潰され、支配物を失ったゼクス。
が、ゼクスは嗤う。
「何を――笑っている……?」
「お前さァ……案外鈍いんだなァ……?」
今までとは違うゼクスの狂気に溢れた嘲笑。
「いい加減気づけ……」
「まさ……か……」
五秒後を常に予知している状態のルークは漸くゼクスから次に告げられる言葉を知る。
「さっき貴様を斬ったばかりだぞ……」
全てを悟ったルークは自分に迫る危機に恐怖を覚えていた。
あらすじに今後の(2月)予定について追記しました。
予定通りの投稿をしますので宜しくお願いします。
3月は毎日更新する予定です。




