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第67話 侵入ルート

 ――レクセア王国。


 極寒。

 その王国を一言で表すならその言葉が適切だろう。

 故に雪国――。

 大量の雪が槍のように吹き込んでいる。

 五大国で唯一の軍国主義国であるレクセア王国を印象付けるように。


 今日に限って吹雪が強い。

 前方が白銀の世界に染まっていて、レクセア王国の面影すら見えていない。


 その中で一人の男は彷徨っていた。

 南国ディオ王国の『神聖魔導団(アルテンリッター)』、ルーク・アルトノイトだ。

 右目を隠す長い黒髪を右手で庇いながら、雪道をただ歩いている。


 これまでに倒した魔物の数は数十にも上っていた。

 ルークの体力は極寒と魔物の襲撃により、徐々に削られている。


(防寒対策――もっとしてくればよかったか……)


 ルークは心の中でため息をつくと、目の前に違う光景が映った。


(これは……!)


 吹雪の合間に微かに見える銀世界に、石垣とみられる外壁なようなものがあった。

 外壁は、ずっと奥まで続いていて恐らく巨大なものと思えよう。

 

(レクセア王国……なのか……?)

  

 ルークがレクセア王国に立ち入るのは初めてだった。

 と言っても、軍国主義国であるレクセア王国に入国する魔導師など滅多にいないのだが。

 それでもルークは、今回、レクセア王国の『神聖魔導団(アルテンリッター)』ゼクス・アーデルニアに会わなければいけない。

 それが故にわざわざ長い雪道を歩いてきた。


 アインベルク王国からレクセア王国へは交通機関がない。

 ベル王国への交通機関もないのも同様だった。

 

 ルークは低い石垣の外壁を飛び越えて、ついにレクセア王国へ入国した。

 ――いや、侵入した。

 

(……って、セキュリティー弱くない!?)

 

 あまりにも容易にレクセア王国へ入れたルークは驚きを隠せていなかった。

 今回、たったの一人で旅に来たルークだったが表情に出てしまい、頬が緩んだ。




 

    *




 

 なんとか、侵入は成功した。

 ルークが今注目すべき点――。


(吹雪で前が見えねぇー!)


 今日に限っての猛吹雪、王国の象徴たる王城も見えない。


 ――目に入るのは白銀。

 ――耳に入るのは騒音。

 ――肌に入るのは極寒。


 と、白い雪と吹雪の煩い音と寒さで頼りになるものが何もなかった。

 

(せめて、吹雪が弱くなれば……)


 ルークは不利な状況に置かれていたが、そこで断念するわけにはいかなかった。

 時間がない――。

 ベル王国にいるはずのソラはもう交渉を終えて帰っているかもしれない――。

 と、焦燥だけがルークを襲っていた。


 

 ルークはただただ得体の知れないレクセア王国を歩いていた。

 民家は極力通らないようにした。

 無論、ルークは現状、ただの侵入者に過ぎない。

 侵入に気付かれて、軍の兵士に追われている可能性が出てくるからだ。


(とりあえず、態勢を整えるとしようか……)


 ルークは目の前に薄く見えた石造りの屋根がある場所に避難した。

 見たところ民家ではなさそうだ。

 民家というならばこの屋根の高さは何だろうと考えられる程だからだ。

 故にかなり、屋根が高い。

 

(まずは、城への方向を特定しないとな……)


 城に行けばゼクスがいるはずだ。

 現在、レクセア王国は国王が不在とされている。

 つまり、ゼクスがその軍の統率権を握っているとされるならば、ゼクス本人が国王の務めを代理しているに違いない。


「おい! 侵入者はまだ見つからないのか!」

「はい、只今軍の兵士が四集団に分かれて詮索していますが未だに発見の報告は……」

「まさか、侵入者に倒されたわけではあるまいな?」

「いえ! そんなことは我が軍隊に限ってありません!」


 ルークが突如聞こえる兵士らしき男の声に肩をビクつかせた。

 声の主が徐々に近づいてくる。


 ルークは咄嗟に石柱に身を隠すと、奥から無数に近い程の兵士が走ってきた。


(なんでこんなところに兵士が!? まさか吹雪にうたれて休憩でもしてたのか!?)


 兵士の軍団が小走りで吹雪の中へ飛び込んでいく。


「侵入者を逃すな! 見つけ次第抹殺せよ!」


 兵士の最後尾が吹雪の中へ消えていったのをルークが確認すると、周囲を見渡しながら石柱から離れて歩き出す。

 ルークが不思議に思うと、兵士が出てきた方向を伺う。

 ――と、そこには思いもしなかった光景がルークの目に映りこんでいた。


(おいおい、まじかよ……)


 豪快に前回になった豪勢な扉。

 故に玄関。

 玄関の両端には大きな石柱が二本建っている。

 そして、その石柱にはレクセア王国の家紋が大きく飾られていた。


(まさか、ここって大きな屋根がある休憩場じゃなくて――王城だったのかよ!)


 ――王城と呼ばれるほどの特徴が滲み出ている建物は王城としか連想できなかった。

 ルークは吹雪の中を迷走していたら偶然王城へと辿り着いてしまったということになる。

 まさに、不幸中の幸いだ。


(しかもここって正面玄関か。ここから入っていったら絶対バレるな……。回って裏から入り込むか)

 

 ルークの頭が数々の侵入ルートが浮かんだ。

 できることなら、兵士に見つからずにゼクスの元へと辿り着きたい。

 兵士に見つかったことで、王城に軍隊が集結すれば自由の幅が極端に減ってしまう。

 




   *




 ルークは気付くとある暗闇に迷い込んでいた。


(……まさか、俺がこんなマネをするようになったとはな)

  

 故に正当な手段を利用して、巨大な穴を掘った。

 ルークは自分だけの魔力空間を持っている。

 つまり、それがルーク自身の魔法だ。

 魔力空間から取り出されるものはルーク自身が保管している万物であり、実質なんでも備えてある。


 ルークが解き放ったのは一つの銃弾。

 大きい魔力に向かって銃弾は障害物を貫通しながら進んでいく。

 ここでいう大きい魔力はゼクス以外なかった。

 無論、この銃弾はゼクスの元へ向かっていて飛ばされた。

 

 ――唯一のデメリットとしてはゼクスに辿り着く前に自身の存在が感知されてしまうことだ。

 そう、賭けだ。

 ルークは地中に敢えて打ち込んだため、地面の中の空洞を歩いていた。


 人間が余裕で入れる空洞だった。

 つまり、銃弾の大きさが推測できるだろう。

 多少派手で強行突破に近いが、兵士の大群が城を出ていった今、直接ゼクスの元へ行けるならこちらの手段の方が良い。


 巨大な銃弾は低速でルークの目の前を進軍している。

 ――と、その刹那、銃弾は一気に急上昇し、地上に向かって掘り進めた。


 ドリルのように高速回転しながら銃弾は迅速に掘り上げられた。

 ルークの頭上に見える光は恐らく天井からのシャンデリアの光の類だろう。

 約100メートル先の頭上に行く手段は――、


(時空間移動か……)


 一点の場所から一点の場所へ、見えない魔力の空間を作り、高速な魔力粒子の流れに乗って瞬間的な移動をする歩法。

 その速度は光の速度を超え、誰しもが使えるわけではない。

 それなりの技術と大量の魔力を常に要しているからだ。


 ルークが時空間移動を使って瞬間移動するとある一室に出た。


「よう……ゼクス」


 ルークの眼前には白髪の男が立っていた。

 部屋には男以外誰にもおらず、ただ一人がただならぬ恐怖を備えた雰囲気を発していた。


 ――ゼクス・アーデルニア。

 その名こそが彼だった。


「侵入者と兵士共が騒いでいたが――お前だったとはな……。ルーク」

「いやあ……。案外キツかったんだぜ?」

「そんな小賢しい真似をせずに堂々と国に入ってくればいいものを……」

「は!? そんなことしたらお前たちの兵士に射殺されるだろ!?」

「貴様が兵の雑魚共に狙撃されるなど考えられんがな……」

「はは、そうか?」


 ルークは、レクセア王国『神聖魔導団(アルテンリッター)』ゼクスを前に平然を装っていた。

 しかし、実際は違っていた。


(ちっ、緊張しすぎて膝が笑ってるな……)

今回は単独行動が多く、地の分が多めになってしまいました。

次話からはルークとゼクスがどう動くかが見所です。


そして最後に。

100000PVありがとうございます。

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