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第66話 交渉とベル王国

 ――ベル王国王室。


 セレスティナの手は微かに震えていた。

 今まで堂々の振る舞いをしていた彼女が嘘のように。

 

 父上。

 その単語を聞いたソラにはある明確な一つのことが頭を錯乱する。

 セレスティナが発した単語――故に、セレスティナの父に当たる人物。

 即ち、ベル王国の現国王陛下だ。


 と、瞬時に王室のドアは開かれた。


「この方が、ベル王国の――」


 ソラが驚愕していると、男はセレスティナの元へ歩を進めていく。

 見た目こそ白髪でかなりの高齢だ。

 だが何故だろうか。

 この場に居た全員には彼に太刀打ちできる気がしなかった。

 先程まで廊下にいたイリスたちもその様子を廊下越しから覗いていた。


 ――だが、その時のソラただ一人があることが分かっていた。

 男は隠し潜めている気だろうが、ソラには筒抜けだ。

 その尋常ではない魔力に――。


(嘘……だろ……)


 この場にいる全員で襲い掛かったとしよう――圧倒的な魔力の差に皆殺される。

 

 ベル王国の国王陛下にして、セレスティナの父上。

 彼の名こそが、ダレス・カッツェヴァイスだ。


 ダレスはセレスティナの目の前で立ち止まると、その刹那、セレスティナの頬を張った。

 ――パチン。

 と、男の手のひらと女の頬が衝突し合う音が鳴り響く。


「なっ、何を……! 一体どうなってやるんだよ……」

「いわゆる、虐待――ですね……」


 この場にいる全員が、親と子の虐待場面に気を取られている裏腹にイリスは「良い様ね」と心の中で嘲笑しているに違いない。

 恐らくそのはずだ。

 今まで、セレスティナが場の支配権を握っていたのにも関わらずそれをある一人の男の加入によって一転した。


 イリスとミリィ、べレニスの三人は廊下から王室に足を踏み入れ、ソラの元へ駆け寄った。


「イリス――これはどういう……」

「さっき、国王の人が廊下を通って、セレスティナのことを説明したのよ。ついでにと思って今回の交渉の内容を伝えたんだけど……」

「それで、国王が行動に出たってことはまさか……!」


 セレスティナは父ダレスからの暴行を受けても、決してダレスを睨まなかった。

 それこそが国王の実娘であり、次期国王としての跡継ぎであるという(たしな)みなのかもしれない。

 

「セレスティナ――。我がベル王国は独立国だ」

「……はい、お父上」

「だがな。同志である『神聖魔導団(アルテンリッター)』の要請に応えぬのは間違った判断だ。お前は国の最強にして国の顔。――国の顔であるお前が他国に反抗的な態度を取ったらどうなる……」

「大国の中で唯一国交を持たないベル王国は……」

「ふん、分かっているようだな」


 国王ダレスの考え。

 『神聖魔導団(アルテンリッター)』は五大国では繋がりがある。

 その上に立つ者として各国の政治の最終決定権を持つ国王という存在だ。

 国王が下した命令は絶対にして服従する。

 故に、ベル王国が他国に対して反抗的な態度を見せればベル王国の未来はない。

 セレスティナはそれを冒そうとしていたのだ。

 自国の存亡に関わる重要な判断を誤った。

 父ダレスからの叱責と暴行を受けるのは今のソラに納得できた。


 無論、アインベルク王国とリリパトレア王国の『神聖魔導団(アルテンリッター)』が揃っていることから国王ダレスはベル王国は決定の劣勢に立たされていると判断した。


 ダレスは、ソラたちのいる方向を向いた。


「すまない――。アインベルク王国、そして、リリパトレア王国の魔導師よ。この通り、セレスティナは少々傲然な娘だ。よろしく頼む」

「い、いえ……。国王様が謝ることなんてありません。俺たちは交渉の目的で来たわけですから。――と言っても、承諾するまで粘る気ではいましたが」


 ダレスの謝罪にソラが弁護するように応えた。

 ソラ曰く、ダレスの魔力はセレスティナよりも上回るとしてみて怖い男だと悟っていたが、ダレスは慎重な国王らしい。

 ソラはセレスティナの強欲さに断念しそうになっていたが、国王ダレスの介入により交渉が成功したことに胸を撫で下ろした。


「そうか――。それと一ついいか。他国の魔導師は我が国が好んで独立しているとよく言うが、それは誤った情報だ」

「え……?」


 ダレスから突如放たれた言葉にソラは一瞬逡巡した。

 無論、他のイリスやミリィたちも同様に驚愕していた。


「ベル王国は、大きな砂漠に囲まれている……。実際お前たちが通ってきた砂漠だ」

「それって、あのあっつい砂漠かな?」

「ちょっ、ミリィ! 国王様にその態度は!」


 ミリィの国王に対する失礼極まりない態度にイリスは小声で耳打ちした。

 ここまで運がよかったのか、ミリィがタメ語で話してしまった人間は全員怒った態度は取っていなかった。


「ああ、ベル砂漠だ。その暑さが故、ベル王国は他国との国交が開けない……」

「そういう……ことだったんですか……」


 ソラは今までそんな簡単なことに気づかなかったことに驚いていた。

 貿易人は、その砂漠を商売目的で好き好んでベル王国まで来てくれないという話である。


「ソラ君――まさか、気付いていなかったのですか?」

「えっ、と……まぁ……」


 エステルがジト目で睨んでくるが、ソラは返答に困っていた。


「ベル砂漠の暑さは魔界一を誇る暑さだ。他国の貿易人はその砂漠を歩いただけで干からびてしまうからな。故に、死の砂漠――他国の者は実際にベル砂漠を歩かないとその暑さを実感できないのだ」

「よく俺たち、ここまで来れましたね……」

「あのルークの奴。わざと、私たちを――」

「い、いやイリス……。それはさすがにないんじゃないかな?」

「イリスちゃん。ソラ君の言う通りです。ルークさんに限ってそんな真似はしないと思います。恐らく、私達を信じてくれていたのかと……」

「そうね。純粋なお子様はよくそう言うわ……」

「えっ!? ちょっと、ひどいですよ!」


 どこか、イリスとエステルは気が合わないところがあるらしかった。

 しかしソラはその関係を居心地が悪いとは感じていなかった。


「ねぇソラっち。よく考えたらまたあの砂漠を通って帰らないとダメなんだよね?」

「あっ…………」


 ミリィの言うことは正しかった。

 今の魔界に何キロも先へとワープする魔法を持つ者は発見されていない。

 故に、あの灼熱の死の砂漠を再び通って王都イーディスエリーに帰らないといけないというわけだ。


「ってことは、セレスティナさんもあの砂漠を――!?」

「……何を言っておるのじゃ」

「……え?」

「夜のうちに移動すればいいだけの話じゃろう」


 セレスティナのたったの一言で場が凍り付いた。

 誰一人として、砂漠の暑さに捕らわれ、その考えに辿り着かなかったからだ。

 ソラたちは不意を突かれた気分に襲われていた。

 

 そして、ベル王国サイドの交渉は成立。

 無事、『神聖魔導団(アルテンリッター)』のセレスティナ・カッツェヴァイスが同行して戦力に加わることが決定した。

 

 ソラたちは夜になるまで王城へ待機させて貰えるようになった。

 国王ダレスからの少しのお詫びの気持ちかもしれないが、ソラはそれで十分だった。

 加えて、食事もとらせてもらえるということで、長旅の休養の時間がソラたちにやってくる。


 ――しかし、ベル王国の王城ということもあり、なかなか精神的な緊張が取れないまま時間は過ぎていった。

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