第65話 王族のセレスティナ
ベル王国王城内――。
後に、兵士に特別許可書を見せると、また簡単に通してくれた。
べレニスの許可書と比べると、特別許可書の方が王の直筆の記名をされたばかりのもので信頼度は高いだろうが――。
王城の中はアインベルク王国の王城と造りはそれほど変わらなかった。
廊下は石造の作りだが、所々に大理石のような豪勢な石が敷き詰められている。
天井には、シャンデリアと中々費用はかかっているらしい。
ソラたちはべレニスに案内され、赤い絨毯の上を緊張したまま歩いている最中だった。
「ソラ様はアインベルク王国の城に入ったことはありますか?」
「あ、はい――招待された身ですが」
「アインベルク王国とベル王国の城の設計者は同じとご存知ですか?」
「そっ、そうなんですか?」
「――はい。と言っても何千年もの前の話ですけど……」
べレニスの話からすると、アインベルク王国とベル王国には何らかの関係があるのだろか。
もし、アインベルク王国所属の設計士及び建築士が設計し、王城を建てたと仮定するなら完全独立国と呼ばれるベル王国にしては異例の行動だ。
そして今現在でも完全独立という壁を潜り抜け、他国から人を雇っていたり物資を取り入れたりしている可能性はゼロではないということである。
それから、べレニス率いるソラ達は、案内をされ続け、ようやくある場所へと辿り着く。
――豪勢な巨大な扉。
その色彩までもが、今まで見てきた王城の扉とは存在感が明らかに違う。
「ここが、セレスティナ様の住まわれている王室になります」
「この扉の先にいるんですか……?」
「――待機しています」
「……ッ!」
べレニスを除くこの場にいる全員が一斉に息を飲んだ。
『神聖魔導団』と呼ばれる五大国の最強魔導師がすぐそこにいる。
ましてや、この場にソラ、エステルを含む三人の最強が今ここに集結していることになる。
加えて、国王の娘にあたる人物だ。
肉体的な疲労が募っていた四人だったが、それを精神的な緊張と焦燥が上回った。
「べレニスか――」
突如聞こえた、女性の声。
その声は扉の向こうからのものだった。
「セレスティナ様、アインベルク王国からの――」
「よい、入れ」
べレニスの説明を断つようにして、女性の声が響いた。
ソラ、イリス、ミリィ、エステルの四人は即時にセレスティナの声だと悟り、緊張を一気に高める。
「はい――」
べレニスは女性の声に答えると、扉を開ける。
巨大な扉ながら金属部品が擦れる音を出しながらゆっくり扉は開かれた。
べレニス含めるソラ達は全員、セレスティナの部屋に入っていった。
セレスティナ・カッツェヴァイス。
ベル王国の国王陛下の実娘で、現在の『神聖魔導団』の一人だ。
透明感のある澄んだ橙色の髪は背中まで伸びている。
この中で最も髪が長かったイリスよりも髪は遥かに長い。
手に持ったベル王国カッツェヴァイスの家紋が入った扇子は王族という高貴な印象を与えてくる。
いかにも、王族と思わせられる程の美貌だった。
恐らくアインベルク王国のレイフェル王女と並ぶだろう。
「わらわに何の用じゃ――わざわざこんな小僧共がずかずかと……。ほう、エステルもいるとはな。それにアインベルク王国の新しい『神聖魔導団』とやらはそやつか――べレニス」
セレスティナの扇子はソラに向けられていた。
ソラは驚愕する。
何の迷いもなくソラに向けられた扇子――故に、これは相手の強さを一目で見計らったことになる。
「はい。彼はアインベルク王国の『神聖魔導団』。神薙ソラ様です――そして、その隣にいらっしゃるのはご友人の……」
「そんな情報、わらわは求めておらぬ。第一、残りの二人には興味がないのじゃ。弱い者と関わればわらわの名誉が汚されよう――ここから出ていくといい」
「なっ……!」
突然、イリスとミリィに鋭い視線が送られた。
罵声までとは届かない静かな声だったが、心臓が握りつぶされたような感覚がイリスとミリィを襲った。
「セレスティナ様――!?」
「やめてください、べレニスさん。……イリス、ミリィちゃん。気を悪くさせたらごめん。今は彼女の言う通りにしてくれないか?」
「いいのよ、ソラ。あなたは何も悪くないわ」
「うん。ちょっと、悔しいけど、ソラっち頑張ってね」
以外にもイリスとミリィは気が立ってないない様子だった。
王族の前で反抗すればと考えると、不幸中の幸いだったが――。
二人は黙ってセレスティナの部屋から立ち去って行った。
「べレニス、貴様もじゃ。この場においてわらわの奴隷である貴様には関係のない話じゃ」
「はい――」
ソラは実際、頭の中では怒りに満ちていた。
この場で、それを抑えなければいけないことを理不尽に思いながらも耐えていた。
ここに来たのはあくまでも交渉だった。
故に、セレスティナに一度でも反抗的な態度をとれば交渉は水の泡だ。
セレスティナに命令されて、べレニスも続いて部屋を出ていく。
――そして、三人の『神聖魔導団』がそこに集結した。
「貴様はソラと言ったか……」
「はい……」
「わらわは強い者の名前は覚える主義でのう。『神聖魔導団』に昇格したからにはわらわを失望させないようにするのじゃ」
「は、はぁ――」
セレスティナはソラを強い者として認めてくれているらしい――最強の称号あってのものだと思うが。
「ふん、まあよい。貴様らはわらわに交渉を持ちかけているのだろう? 話せ」
と、ここでエステルが先陣を切って口を開く。
「《六魔》が目覚めました――夢魔、サキュバスです」
「何? もう奴等は――少し、早すぎはしないか」
「魔王の復活が早まりました。それは既にご存知の筈ですが」
「ああ、そんな話もあったのう……。で、わらわに討伐の協力を――とそんなところじゃろうな」
「はい。場所は人間界です。予定では『神聖魔導団』全員とその他の戦闘員とともに進軍するとの話です」
「――却下じゃ」
「…………え」
交渉決裂は早くやってきた。
セレスティナからの断りの一言。
ただ、それだけの言葉でソラとエステルは驚愕し、目を丸くする。
「理由を説明できますか……」
「夢魔など《六魔》で最弱じゃ。そんなものをわざわざ『神聖魔導団』を使ってまで討伐する必要があるか? 貴様らが勝手に倒してればよい。まして、わらわのような王族が人間界まで出向かうなど冗談を言っておろうな?」
「待ってください」
ここでソラが話の間に入る。
「サキュバスは無限増殖を今も進めています。そして、拠点――いや、戦力を二つに分けて人間界を侵略するつもりです。一つの世界がサキュバスのアジトにされた場合、魔界はどうなると思いますか……?」
「それは、そうなってから考えればよいのじゃ。わらわには無関係じゃがのう……」
「なっ――!」
ソラが投げた言葉は、簡単に返されてしまう。
ソラとエステルは交渉を何も動じずに断っていくセレスティナに手も足も出なかった。
――一体とうすれば。
その刹那だった。
「まあ、待てセレスティナ……」
扉の向こうから高齢の男性の声が聞こえた。
高齢といえど、それは低く重い声だった。
「お父上――!?」
セレスティナが声を聞いた瞬間、今まで自然体に座っていた椅子から急に立ち上がった。
「セレスティナさんの父上ってまさか――」
「そんなことが……あるのかよ……」
エステルとソラは男性の声の持ち主はまだ見えていなかったが、瞬時にそれを悟っていた。
この小説もあっという間に70部です。
まだまだ折り返し地点には至っていませんが、これからもよろしくお願いします。




