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第7話 虚無の棺桶

 ――魔導協会地下。


 明るかった薄桜色の少女イリスの髪は突如暗くなる。

 暗闇の檻の中でイリスは胸に手を当てる。


「ソラ……。あなたが共犯者として檻に入れられなかったのは不幸中の幸いだわ……」


 栗色の髪のソラは檻の中の美少女を見て答える。


「ああ、俺が必ず犯人をつきとめるよ。手がかりならある」

「手がかり?」

「なあイリス、《クレア学院》に大きな図書館ってある?」

「あるけど?それがどうかしたの?」

「いや、気にしないでくれ」

「……そう」

「……イリスは必ず助けるから!それまでは待っててほしい」

「分かった。待ってるわ」


 ソラとイリスはお互いに顔を見合わせてソラは立ち去ろうとする。


「もう時間だ。神薙ソラ」


 と、後ろから警備員の声がする。


「はい、すみません」


 魔導協会の警備は厳重だった。

 ソラが魔導協会に立ち入るために細かい身体のチェックなどで1時間はかかった。

 異世界に来たばかりのソラにとって身分証明が発行されていない生活は辛いものだ。


 

 *



 ――《クレア学院》図書館。


 図書館は薄暗かった。

 異世界に電気はほぼ普及してない。

 しかし、電球の代わりを成す光のオーブのようなものが空間にいくつか浮いている。その光で何とか調べ物はできるというものだ。

 その図書館の中で一人のソラはいくつかの分厚い本を机の上に並べている。


 『魔道書』、『紋章全集』、『王都イーディスエリー』、『ギルド辞典』、『過去の事件集』……。


 ソラの頭の中には、森で遭遇した犯人と思われる男の手の甲に刻印された謎の紋章が浮かぶ。


(あの十字架の紋章は……)

 

 と、ソラは『紋章全集』の3000ページ程にも及ぶ分厚い本を開く。



 *



「ミリィちゃんここも駄目だよ……」


 一人の女生徒はライトブルーでポニーテールの少女にそう告げる。

 ミリィ・リーフレットをリーダーとする10人で構成された調査隊はすでに派遣されていた。

 7人の探索魔導師と2人の回復ヒール魔導師、ミリィで構成された調査隊だ。

 探索魔導師はとても優れている。わずかな魔力の痕跡や魔力の流れを感知できるからだ。


「あー、もうミリィは疲れたよー。休憩しよ?」

「ダメですよ先輩! 今もイリス先輩は!」


 ミリィの言葉に一人の探索魔導師の女生徒は反対した。


「もー、ワガママだなあー。……セリーヌっちはー。腹が減っては戦ができぬって言うでしょー?」


 ショートな青髪の少女セリーヌ・アレストレイはミリィの背後に周り、脇の下から手を通し、ミリィの豊満な胸をがしっと鷲掴みにした。


「ひゃっ!」

「そんなに食いしん坊だから、体の成長が胸の成長に追いつかないんですよー」

「くっ、くすぐったいってセリーヌっちぃぃぃーー!!」


 セリーヌの清潔な手はミリィの胸の感触を肌で感じている。胸を揉んでは跳ね返してくるその感触がセリーヌにとってはたまらなく快感であった。

 ミリィは顔を赤く染めながら笑っている。

 セリーヌの方が年下なのに年上のミリィの身長は少し低い。

 そう言われて当然だった。しかし、ミリィの胸だけは目立つほどにある。

 ライトブルーの髪で小柄で可愛く胸がある少女なんてほとんど見ないだろう。


 そんなミリィとセリーヌの姿を見て周りの女生徒もクスクスと笑っている。


「まあまあ、先輩もセリーヌもそこまでにして、休憩しましょう」

「しかし!」


 と、ミリィの胸を触りながら反論する。


「セリーヌちゃん、他の子たちも魔力使いっぱなしで疲れてるんだし……」

「そうだぞおー?セリーヌっち」


 他の女生徒の言葉にミリィも便乗した。

 

「しっ、仕方ないですね……。ちょっとだけですよ?」

「分かってる分かってる」


 ミリィは3歩ステップを踏んでコンクリートの地面に座り込んだ。


 

 *



 ミリィ調査隊は昼の休憩を終え、王都イーディスエリーで最も雰囲気が悪い地に来ていた。

 建物で太陽の光を遮り、ギャンブルを専門とする店が立ち並んでいる。そこには、目つきの悪い男たちがたくさんいた。

 ミリィ達は、犯人が来そうな場所はここしかないと考えたのだ。


「何か気味が悪いです」


 と、一人の女生徒がそうつぶやいた。

 確かにそうである。悪いイメージの男たちが集まるこの場所で、美少女たちが立ち入るのだから嫌な視線を感じるのも無理はない。


「やっぱり、ここは魔力の気配がするわ……」

「地下からっぽいけど」

「行ってみましょう先輩」


 周りの女生徒の声に先頭を歩くミリィは立ち止まる。


「うん、分かった……。行こう」



 *



 その頃、《クレア学院》の図書館でソラは、『紋章全集』に1900ページまで目を通していた頃だった。


「あー、似たような紋章ばっかで何が何だか分かんねえー!」


 と、ソラは一人で大声で叫び、全身の力を抜いた。

 休みたいソラだったが、美少女イリスのことが頭から離れなくてすぐに調べものにとりかかった。


(あれ?これって)


 その本に描かれている紋章を見た瞬間すぐにわかった。

 あの十字架の紋章だと。直感で感じ取った。


(……虚無の棺桶(ボイド・コフィン)?)


 その紋章を改めて見た瞬間、何か不吉なものを感じた。


(何かギルドの名前みたいだな……。アイリスさんに聞けばわかるかな)



 ――この時のソラはまだ何も知らなかった。

 ――後に聞かなければよかったと後悔することになるということを。

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