第59話 再来のイーディスエリー
魔界――。
王都イーディスエリーの暗い路地裏の一角でソラはイリスとの再会を果たしていた。
「ソラが無事でよかった……」
「俺も、イリスに早く会いたかったぞ……」
二人はお互いに言葉を交わし、顔を見つめ合う。
――と、二人の顔は近づく。
徐々に距離を詰め、お互いに唇が接触しようとした刹那。
「あの……そういう猥褻的な行為は他所でやってくれませんか?」
「そうだそうだ。いくら、恋人の再開が嬉しいとしてもこちらとしては見てられん」
二人の感動の再開に割り込むように、ルークとエステルの声が襲った。
ソラとイリスは肩を一瞬ビクッとさせ、距離を取った。
「る、ルークさんとエステル!? いつからそこに!?」
ソラが驚いて、聞くがさすがのルークやエステルも呆れ顔だ。
「元からいました。勘弁してください」
「イリス……知ってたのか……?」
呆然とため息をつくエステルを見てソラはイリスに話を振った。
「そ、そういえば――いたわね……」
イリスは不覚にもそっぽ向いた。
「イリス――それは困るぜ」
「ごっ、ごめんソラ。まさか、まだ此処にいたとは思わなくてね」
「悪いが、イリス殿。俺らは『ソラが戻ってくるまでここで待機してて』と言われたが……」
「ぐっ……!」
ルークの言葉にイリスは矢に撃たれた気分だ。
「はぁ……。何故かソラ君はルークさんと私より遅く魔界に戻ってきました――しかも三十分遅れで」
「えっ!? それは本当か!?」
「本当です。私とルークさん、そしてイリスちゃんはソラ君が裸を公衆の面前で晒さないよう常に警戒態勢を取って回収の準備をしていました」
「そうか……。まっ、まあ、そういうこともあるんじゃねえの? ってな」
ルークは敢えて口出しを拒んでいた。
*
四人は《クレア学院》に戻った。
ルークとエステルに関しては『戻った』ではなく、『行った』の方が正しいのかもしれない。
故に、ルークとエステルはこの場に来るのは初めてだ。
自国の様式とは異なる建物の作りを拝んでいた。
学院長室に辿り着く前に、ソラは女生徒に囲まれいろいろと襲われた。
イリスと同行していたため、無理な強要をされなかったことが不幸中の幸いだった。
ルークとエステルは有名な人物で現に『神聖魔導団』であるが故、視線が痛いたしかったのも事実だ。
――学園長室、扉前。
久しく見る広大で豪勢な扉も変わらず立っていた。
初めての時は少し入る前に逡巡していた時もあったが、今となっては入るのが楽しみになってきている。
「ソラ。魔界に久々に帰って来てやりたいことや言いたいことがあるでしょうけど、大体のことはルークさんから聞いたわ。大変なことになっているみたいね」
「な、なんだやりたいことって――まあ、大変なことになっているのは変わりないな。早く、手を打たないと」
「『やりたいこと』ってまさかやっぱりお前ら――」
突然、ルークが二人に割り込んでくると、ルークの言葉を理解したためだろうか――ソラとイリスの顔がお互いに赤くなった。
「ルークさん。ふざけないでください。拘束しますよ?」
「わっ、悪い……」
この時に限ってはエステルが優勢だった。
その圧倒的な威圧感にルークも反論するのを躊躇う。
ルークの謎の言動を無視しつつも、ソラは学院長室の扉をノックした。
ノック音が《クレア学院》の廊下に鳴り響き渡る。
学院長室前の廊下は用事がある時以外、立ち入りを基本的に禁止している。
重要な会議があるときがあったりするのも勿論、学院長アイリスの機嫌を損なうとされるからだ。
「どうぞ」
ノック音に答えるように凛々しい女性の声が言葉を返してくる。
ソラはゆっくりと眼前の大扉を開けた。
そこに広がる光景にはいつも通りの背景がある。
そして、そこに居るは二人の女性。いや、美少女か。
「そっ、ソラっちだ!」
突然、驚愕するように大声を叫んだ一人の美少女がソラに飛び込んだ。
美少女はソラの右腕にくっつき、その豊満な胸を押し付けた。
――ミリィ・リンフレッド。
低身長で小柄な体躯をしているのにも関わらず、大き目な胸がいつも存在感を主張している。
水色の長髪が艶やかな透明感を出し、イーディスの街娘としても有名だ。
ミリィはその実力さが故、学院内でも隊を率いる実力者である。
「ソラっちー! ミリィはずっと会いたかったよおー!」
「ミリィちゃんただいま――でもちょっと離れてくれないかな? あの、後ろの視線が痛いから」
ミリィの豊満な胸がソラの右腕を押し付ける。
この態度は小柄な胸の持ち主のイリスへの挑戦だ。
一方で、イリスはミリィに対して一方的な火花を散らしていた。
「ミリィー? 今、すぐにソラから離れたら紅焔繚銃火一発で許してあげるけどどう?」
「げっ、ごめんってイリスっち……」
ただならぬ狂気を感じたミリィがソラから三歩離れた。
「ごめんなさいねイリス。こんなところで炎魔法ぶっ放したら――修理代を考えてくださいね」
奥の大椅子に座っていたアイリスが不敵な笑みを向けまま、凶悪な視線を向けた。
――アイリス・エーヴェルクレア。
イリスの姉として、《クレア学院》の学院長を任されている。
白髪でミリィとは格上の豊満な胸の持ち主は、イリスと対極的である。
「アイリスさん、突然学院を開けてしまってごめ――」
「いえ、謝る必要はありませんよソラ。一先ず、『神聖魔導団』昇格おめでとうございます。そちらにいるお二方と一緒にいるということはアインベルク王国の最強魔導師の件については知らされていますよね?」
「お、おう。知らされたが……。やっぱり、アイリスさんも知ってるのか?」
「勿論です。ルークとは実は長い付き合いですし、エステルは二度顔を合わせてます」
「へぇ。アイリスさんって顔が広いんだな」
「これでも学院長です。私だってこの学院長の座に就いていなかったら王国の『神聖魔導団』になっててもおかしくないです」
「い、いや――それはないでしょアイリス」
イリスが必死に否定すると、アイリスは『そんな』という表情を見せた。
どうやら、ソラの『神聖魔導団』の件は学園にも知られているらしい。
ちなみに、ソラはアイリスに対して何故かタメ口だ。
ルークとアイリスは立場上、同じと言っても過言ではないがアイリスはそれなりに心を許しているというのか。
「妹ながらに厳しいですイリス。今度、決闘でもしてみますか?」
「なっ、何言ってるのよ! そんなことできるわけ――」
「何それ! 面白そうじゃないか!」
「ミリィもその闘い見てみたいなー! なんか兄妹喧嘩みたいで!」
「ミリィちゃん!? それはちょっと縁起が悪いよ!?」
イリスの言葉を中断するかのようにソラが興味深々に割り込むが、まさかのミリィも便乗した。
ルークとエステルはアットホームのような雰囲気に、仲間外れにされた思いがあり、ここに来てまだ一度も言葉を発していなかった。
(うう、入りずらい……)
エステルはまだ十七の少女で、入りたい気持ちもある。
それとは裏腹にルークは大人の事情なりの心は弁えている。
時が来るまで待とうという算段だ。
「では、《六魔》について話しましょう――。他の『神聖魔導団』がここに集まったということは、《六魔》が動いているということですよね?」
突如、アイリスから放たれた一言に空気が凍った。
「待ってくれ! なんでアイリスさんが《六魔》を!? ――この情報って確か、『神聖魔導団』だけの極秘の情報なんじゃ……だよね? エステル?」
「えっ、あっ、はい! そうです。アイリスさんが知っているだなんて聞いてません」
ここで初めて言葉を発したエステルだったが、一瞬逡巡しながらも事情を話した。
「ごめんなさい。実は――そうもいかなくなったみたいです」
現在、1章や2章あたりの文章を読みやすくするために改稿の予定を進めています。
主に改行や細かい誤字修正などの改稿で、物語の変更は一切ございません。
ご理解いただけると幸いです。




