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第58話 三度目の異世界転移

「ちょっと待ってください! ルークさん、この場で裸になるとかさすがにばつが悪いっていうか……」


 つい先程、ルークから告げられた『服を脱げ』という命令。

 無論、その三人の中にはエステルという純粋な少女がいるのだ。


「そうです! ソラ君の言う通りです! ――いくらなんでもそれは……」

「おっ、お前ら何を勘違いしているんだ!?」

「え……?」


 顔を紅潮させながら訴えかけるエステル。

 しかし、ルークは何故か頭を振りながら拒んでいた。


「エステル、お前ならこの意味が分かる筈……だろ!?」

「いや、まさか――でも」

「あの? どういうことなの? エステル……」


 ソラはルークが混乱しているとみて、状況を理解したと見えるエステルに敢えて話を振った。


「ソラ君はこの世界に強制送還された時――どんな感じでしたか?」


 わざと言葉を濁すかのようなエステルの口調にソラはそれに察した。


「裸――だが……」

「そうです。基本的に世界間の転移は己の身だけが転移する。つまり、装飾品や所持物は他の世界に移動できないんですよ」

「でもそれだけで裸になる理由が……?」


 告げられた内容は理解できたが、話の筋が見えない。

 他にいくつもの探りを入れてみたがやはり分からなかった。


「二人共、すまなかった」


 一度、改まったルークは軽く頭を下げて謝罪。


「万物を魔力空間に保管する――それが俺の魔法だ」

「な……」

 

 一言だ。

 たったの一言でソラは驚愕した。

 

「その魔法……使い方によっては最強なんじゃ……」

「まあ、そうとも言えるかもしれないな。保管できる物については量的な限度ないから……」

「ってことは、魔物やサキュバスでもその空間に封印できるってことなんですか?」

「不可能ではないな。しかし、魔法空間に保管しているものと共存することを考えると多少のリスクはある……」

「ソラの言った『最強』はあながち不当でない――現にそう言われているからな」

「ルークさんってまさか自尊心が満ちている人なんですか……?」


 ルークの何気ない自信が引っかかるソラ。

 少し、消極的な呆れを込めた口調でつい本音が漏れた。


「ごっ、誤解はしないでくれ! 俺はそんな――ただ『神聖魔導団(アルテンリッター)』という立場を国王から授かって誇りを持っているというかな……」

「すみません俺が悪かったです――で、そのルークさんの空間魔法に衣服を移動させて魔法ごと魔界へ飛ばすと……そんな算段ですよね?」

「お、おう。よ、よく分かったなソラ」


 動揺するルークだったが、ソラは寛大に受け止める。

 それとは裏腹にまだ腑に落ちない様子のエステルがルークを凝視していた。


「で、今から私に脱げと……そうおっしゃるんですよね? ルークさんは」

「ああ、そうだが……? なんだ、エステル。まさか俺を目の前にして恥じているのか? 俺との仲じゃないか……」

「ルークさんとエステルは何やってるのッ!?」

「ちっ、違います! ソラ君、彼の言葉を信じないでください。彼は新手の敵です。サキュバスの加担者です!」


 エステルは咄嗟にソラの右腕を両手で掴み、身を引いてくる。

 ソラはエステルの勢いに圧倒され、思うがままに動かされてしまった。

 『裸』の話から連想して、余計にエステルのアレを想像してしまうのは気のせいだろうか。

 ――普段から想像しているわけではないと心の中で必死に否定した。


「ちょっと!? エステルそれは酷いって! 俺泣くぞ!?」

「いいえ、ルークさんは立派な性犯罪者です!」

「すみません――ホント、許してください」


 結局、ルークはエステルに土下座をして許してもらうことになった。

 部分的に理不尽さを感じたのだがそこに関しては暗黙の了解を交わした。


 故に、エステルは別室の岩盤に隠れ、衣服を脱いだ後、厚めのバスタオルを巻いて二人の男の前に再び姿を現した。

 無論、下着類の卑猥な物品を覆い隠すプライバシー保護は施しているのでそこは安心だ。

 即ち、ルークとソラもバスタオル一枚を巻いて同様に直立していた。


 ソラは唾を飲んだ。

 ただでさえ、豊満な胸。

 イリスと比較するとかなりの代物だ。

 そして、タオル一枚という肌の露出度の増加。

 男性の目を奪う格好としてこれ以上の幸い中の幸いはない。


「あまり見ないでください! 早く魔界へ行きましょう……」

「そっ、そうだな」

 

 何かとは言及しないが、あるモノに呆気に取られていたルークだったが、初めて自分の役目を思い出した。

 と、ルークは目に見えない自分だけの魔法空間から結晶のような石を取り出す。


「これは別世界への転移結晶だ。かなりの高濃度の魔力で生成されている希少な石――これはディオ王国でしか産出されない極秘の鉱物。この石の存在を知られたら戦争も起きかねない。もっと、最悪な事態が起こるとするなら、世界を消滅させる可能性もある。他言無用で頼む。いいか?」


 ルークが述べていることはソラにも大体理解できた。

 故に、転移結晶が悪の手に渡れば人間界で暴走して、人間を全員魔力の力で殺す――そういう悪用をされては困るということだろう。

 国家機密にされているのも納得できる。


「分かりました――約束します」

「私も同様です」

「話が分かる人で助かった。ではいくぞ」


 ルークは手にした転移結晶を三人の中央に置き、魔力を発生させた。


「示せ、喧噪たる地の神よ。我を(いざな)い、未知なる精を転送す! ハァァァァァァッ!」


 魔法詠唱を終えた後、ありったけの魔力を転移結晶に注入している。

 直接的に転移結晶には触れていないが分かる。

 そして、その魔力が自分のものとは異なる異質なものであるとソラは痛感した。


(――すごい)


 かつて召喚神ロギルスがソラにしたかのような異世界転移を自らの手でやり遂げようとしている。

 それだけでルークの凄さは身に染みて体感した。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。


 突然ルークから流れ出る魔力の重さに洞窟も限界を感じ、唸りを上げている。

 まさに崩壊寸前といったところで目の前の世界は一瞬にして変わった。





    *

 




「いたたたたた……」

 

 気付いた頃に居た場所は見覚えがあった。

 空を見ただけでわかる。

 

 ――異世界に戻ってきたのだと。


 何やらソラは着水しているらしかった。 

 冷たい神聖な水の感覚――。

 自分が尻をついているのは知っている感触だ。

 と、ソラは不意にデリエラ戦の一件を思い出す。


(ってここ、王都の噴水かよォォォォォォォォォォォ!)


 噴水――ということは、今いる場所は広場にあたる。

 つまり、たくさんの人が賑わう楽園地だ。

 加えて人の視線を集めること以外に悲惨な境遇はあった。

 

 ――異世界転移をした後、全裸になっていることだ。


「キャーーーーーーーーーーーーーー!」


 イーディスの青空の下に響き渡る悲鳴。

 必至の反応だった。

 突然、全裸で現れた男性を見て叫ばない人間など居てたまるか。

 

 ソラは襲いかかる視線を無視しながら必死に他の二人を探した。

 ルークとエステルだ。

 彼、彼女も一緒に転移してきたのだ。――しかし、二人の姿はどこを探してもいない。


「こっち来て……!」

 

 と、不意に背後から少女の声が聞こえた。

 エステルのものとは異なる、どこか聞き馴れた少女の声――。

 手を引かれたソラは全裸という羞恥を周囲に晒したまま裏路地に逃げ込んだ。――少女と共に。


「はぁ、はぁ……ありがとう……助けてくれたんだね――って!」


 ソラは目を丸くした。

 一緒に息を切らしながら同じ空間時間を共にしている彼女。

 薄桜色の長い髪に、真白の雪――今にも溶けそうな白い肌。

 そして、ソラの目に入ったものは《クレア学院》の制服――現に、少女が纏っている服装だ。


「イリス……」


 そう――彼女、イリス・エーヴェルクレア。

 ソラの現在の大切な恋人として――そして、パートナーとして闘っている少女。

 イリスを見た刹那、ソラは本当に異世界に戻ってきたのだと確信がついた。


「おかえり、ソラ。私、寂しかったよ?」

 

 イリスはその一言を発した後、微かにソラに向かって微笑んだ。

 風に(なび)いた薄桜色の髪が僅かに揺れた。

おかげさまで第四章も折々返し地点ぐらいとなりました。

10話程イリスが不在だったのでやっと書ききった感がたまらなく嬉しいです。

おかえりイリス。


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