表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/125

第57話 死の残余

 黒蝮雷蓮(くろまむしらいれん)と名乗る男が去って数分。

 獲物を取り逃がした悔しさが二人には込み上げていた。

 大きな音を立ててまで大騒ぎと不測の事態になったのにも関わらず、エステルは酔いに負けて眠ってしまっていた。


「黒蝮雷蓮。少し珍しい名前だが、間違いなくこの世界の――人間界の名前です」

「やはり――か」


 人間界側からの立場からすると魔界の住民の名前は異国風のものがほとんどだ。


「それに彼はサキュバスと何らかの関係を持っているとみて間違いなさそうですね」

「そうだな。これは早急に手を打たなければならない……か」

「はい。人間界の人間の――魔導師」


 ソラはこれには少し引っかかった。

 実際、ソラもその(たぐい)だからだ。

 人間から突然、魔導師になった――。


「確かに人間界の人間が魔導師になるということは聞いたことがない。もしそうだとしたら、魔導師になって三日しか経ってないとすると、彼は数日後に恐ろしく凶器になることが予測されるな」

「そう……ですね……」


 最強の魔導師『神聖魔導団(アルテンリッター)』である二人の攻防を掻い潜った人間が存在するだろうか。

 その時点で恐ろしいと言うのにこのまま放置しておけば魔界の大きな敵になるはずだ。

 それもサキュバスと手を組んでいるとすれば尚更だ。


「サキュバスにこの場所を報告された以上、もうここには居れんな」

「え……?」

「魔界へ帰るぞ、ソラ」





   *





 ソラは夢を見ていた。

 暗い闇の中――何もないただ黒い空間で神薙ソラは漂流していた。

 目を開けても光など一つなく、ただ暗闇の底に沈んでいく感覚。

 この感覚は何度もあった。


 ――そう、ソラが死んだ時だ。

 

 この夢、この瞬間――この現象を起こす人物。


「いるんですよね? ロギルス様」


 召喚神ロギルス。

 ソラを魔界という異世界に召喚した張本人――神だ。

 ロイド戦との一方でその功績を認められ、現在は神の集う地(ドリュアセルタ)でその一身を置いている。

 

「神薙ソラ。実は、ぬしにまだ言っていないことがある」

「俺に……言ってないこと……ですか……?」


 天から囁いてくる声に表情一つ変えず答える。

 もう慣れた声だ。


「ぬしに与えた力は二つある」

「不死身の力……ですよね?」

「三割はそれで合っている。一つは、魔界の魔力を取り込める力――所謂、魔力源とも言える。二つは、不死身の力――神の力だ」

「はい、しかしそれはもう聞いていますが……」

「その通りだ。以上のことはぬしに伝えた通り……だが、魔王の復活が早まったと聞いてな――このことを言っておきたいと思った」

「このこと――と言いますと……?」


 神ロギルスの隠し事。

 そう考えると重大なことだと言えるだろう。

 しかし、ソラは妙に不安を感じていなかった。


「ぬしは今何回死んだのか?」

「三回――ですが」


 そう、ソラは過去に三度の死を経験した。


 一つは、魔界に来てすぐのことだ。デリエラに背後から心臓に刀身を貫かれた一撃。

 二つは、デリエラとの噴水広場前での戦闘。


 この二つの死は、ソラがまだ戦闘馴れしていなかった頃なので何度も死への強さが弱かったと言える。


 三つは、ロイド戦。ロイド撃破まであと一歩のところで全身を粉砕骨折しの一件だ。


「もともと与えた神の力は(わし)の八割の神の力だ。神の力は魔力と違って存在量に限界がある。ぬしに与えた儂の神の力は、ぬしの死の際に自動使用されるように仕組んだ。ぬしは三回死んだと言ったな?」

「はい――ってまさか!」

「ああ、ぬしが死ぬことのできる回数――あと二回だ」

「――っ!?」


 つまりは、ソラが死んでも生き返る回数はあと二回のみということになる。

 ソラはロギルスから神の不死身の力を補充してもらうことを考えたが、どうやらロギルスに残された神の力は自分の存在を保つための力のみなのだろう。

 故に、神は神の力なくしては、神ではいられなくなるということだ。


「ぬしに言いたいことはただ一つ……」

「――――」


 神から放たれる一言に緊張感が帯びている。

 

「無駄な死は避けろ。ぬしに残された死は自分の大切な人のために使え……!」

「分かりました――ロギルス様」


 ソラは口元を小さな弧のように歪ませ、静かに目を閉じた。





   *





 再び朝が来る。

 洞窟の奥一角で三人の『神聖魔導団(アルテンリッター)』は目を開けていた。


「エステル、大丈夫か?」


 ソラは、昨夜のことを思い出した。

 誤って未成年なのにも関わらず、ルークに酒を出され、完全に酔ってしまった。

 

「だっ、大丈夫です! 昨日はお見苦しいところを……」

「だったら安心だな……行こうぜ」

「ソラ君は私の親ですか! そんな心配は要りません!」


(何故怒られた……!?)


 突然、大声を上げたエステルにソラは肩をビクッとさせた。

 どこか、顔を紅潮させているエステルにソラは目を泳がせる。


「ははっ、気にするなソラ。お前はまだまだ女心を分かっていないな」

「それ、どういうことなんですかっ!?」


 ルークはソラにそっと近づき、小声で耳打ちをする。


「エステルが寝ているところを襲ってもよかったんだぜ? お前見たところどうて……」

「襲わないですよ! って、さっきとんでもないこと言おうとしてましたよね!?」


 ソラの大反論に、ルークも愛想笑いをした。

 

「それに俺には大切な恋人がいるんです。そんな出会ったばかりの少女を故意に襲ったりなんか……しませんよ……」

「おおっ、お前ってやつは――!」


 ルークは何故か嬉しそうな顔をしている。

 

「そんなかっこいいこと言っちゃって本当は襲う度胸がないだけじゃないよな?」

「あのー……。マジ勘弁っす」


 少し、消極的なソラは一部を否定できずにいた。

 実際そんなところだ。

 

 しかし、ソラは恋人イリスを裏切る行為だけは絶対にしないと心に誓っている。

 一番大切な女性だから。

 そういうことだ。


「ちょっ、何を男二人でこそこそしてるんですか?」

「ああー、いや、何でもないけど?」

「そっ、そうだよエステル――俺たちはそんな……」

 

 ソラとルークは目を逸らしながら言い訳らしきものをしている。

 いや、怪しすぎるだろ。とエステルは心で思った。

 そんなことよりエステルには気になっていることがあった。


「二人から聞いた、黒蝮雷蓮(くろまむしらいれん)という男。少し気になります」

「ああ、その話は魔界(むこう)へ行ってから詳しく話そう。その方が手間が省けるってもんだ」

「ルークさん、その魔界の行先って……」

「そういえば、言っていなかったな――お前の通う《クレア学院》だ」


 ソラは不覚にも目を丸くしてしまった。

 その言葉――《クレア学院》――という言葉を聞き、懐かしさを覚えた。


「そうですか……ありがとうございます」

「何故、そういう?」

「いえ、なんでもないです」

「そ、そうか――では、お前ら、裸になれ」


 突如放たれたルークの言葉にソラとエステルは石化した。


「…………」

「…………」

次回から魔界へ戻ります。

『やっとだ』という気分です。


あと、ルークは変態ではないです(震え声)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ