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第55話 六魔の真実

 ――洞窟。

 魔力の発行体が点々と浮遊している空間。

 空間の広さは天井が非常に高く、隠れ家(アジト)と言えば広すぎる程だ。

 希少な鉱物が岩石に埋められている――アメジスト、エメラルド、ガーネットなどの希少な鉱物だ。

 

(あれ……こんなところあったか? 価値が高そうな鉱物がこんなにあったら今頃話題の鉱山で有名になっていてもおかしくないよな……)


「ははっ。驚いたかな? 神薙ソラ――」

「え――?」

 

 不意に自分の名前が呼ばれたソラ。

 目の前には洞窟に入って間もなく見た一人の男性。

 長い黒髪が右目を隠したイケメン風だ。

 背中には二丁のライフルが収納してある――とするとライフル使いの魔導師なのだろう。


「この空間は俺の王国の奴等が勝手に造った空間でな。まあ……あまり気にするなとのことだ。お前のことはアイリスから聞いているんでな。栗色の髪の黒い瞳――外見の特徴は聞いているが……って神薙ソラであってるよな……!?」

「い、いや――神薙ソラですけど!? 俺……」


 平然を振舞ってた黒髪の男の態度が転変すると、ソラは緊張感が解れたような焦燥を覚える。

 

「あーよかった……」


 男が安堵して胸を撫で下ろすと、ソラの後ろに立っていたエステルが身を乗り出す。


「ごめんなさい! ルークさん! 勝手にアジトに連れ込んじゃって……」

「いや――構わないんだが……」

「ルーク……さん……? ってことはあなたが『神聖魔導団(アルテンリッター)』の……!?」


 ソラの言葉を聞いたルークと呼ばれた男は目を丸くした。


「ああ……俺が南国のディオ王国の『神聖魔導団(アルテンリッター)』で間違いない。ルーク・アルトノイトだ。同じ立場同士、協力しにきてくれたのかな?」

「そうです。サキュバスの術中にはまっていたところをエステルが助けてくれて――」

「おお! そうか! エステルも成長したということか!」


 ルークの称揚を受けたエステルは微かに頬を紅潮させ、両腕を胸の下で締め上げると何かを主張するような豊満の胸が協調された。

 ソラの視線は半分胸、半分顔といった感じだ。


「もう、そういうのはいいですから――ルークさんの口から今の現状を説明してください!」

「わ、悪い……。しかし、俺は夜型の人間だから仮眠を取りたい。詳しい話はその時だ。このアジトには大風呂が完備されいるから二人で入って時間でも潰して来たらどうだ? サキュバスと戦闘したっていうからな――体でも洗い合って……」

「なっ、何を言うかと思えばまたそれですか……!?」


 エステルの顔は真っ赤に染まり、恥ずかしさを訴えてくるよりも恨みを訴えている。

 対するソラは初対面のルークの言動に困惑し、自分の心の居場所を探している。

 

(でもそれいいかもな。こんな美少女と――裸の付き合いを……)


 ソラの妄想が膨らむと同時に、ぶんぶんと頭を振った。


「すまないな――俺は眠たいんふわぁ……」

「喋るか欠伸(あくび)するかのどっちかにしてください」

「寝てしまったな……」


 ルークは欠伸した直後、真後ろに設置してあったソファに倒れ掛かりそのまま眠りについた。

 ――沈黙。

 ソラはエステルを数秒凝視した後、あることを決心した。


「よし、一緒に入るか。風呂」

「馬鹿ですかアホですか死にたいんですか……」

「じょっ、冗談だって……」





   *




 

 結局美少女と風呂に入ることはできなかったが、風呂はルークの発言通り、本当に広かった。

 これがディオ王国の経済力か。

 ルークはディオ王国の人が造ったアジトとは言っていたがこれほどのものだとは。

 ソラはルークの王国を見たことも行ったこともなかったが、かなりの金持ち国だと言える。

 まず、風呂以前に高価な鉱物が埋め込まれている洞窟地帯なんてほぼない。


「さて、始めようか……」


 ソラとエステルはアジトの所定の場所に行き、ルークの話を聞くことにした。

 やっとルークの目が覚めたからなのだが――。


「ソラ。お前は《六魔(サーヴァント・セイス)》を知っているか?」

「はい。エステルからその存在については聞きました。サキュバスがその六体の一体だと言うことも」


 ルークから放たれる一言からそれは確かだ。

 実際ソラは、《六魔(サーヴァント・セイス)》については全ての情報を知らない。

 知っているものは、

 ――その六体は魔王の守護魔だということ。

 簡単に述べればそれだけだ。


夢魔(むま)サキュバス、快楽に生きる醜悪たる性の色欲魔。それが奴《六魔(サーヴァント・セイス)》だ。その(ほか)には、炎魔(えんま)氷魔(ひょうま)天魔(てんま)雷魔(らいま)怨魔(おんま)と呼ばれる凶悪な守護魔計六体……。《六魔(サーヴァント・セイス)》が現れたってことは――魔王の復活が近いということだ」

「……っ!?」


 魔王の復活。

 魔王討伐が彼、ソラの大きな目標なのだ。

 まだ、準備が不十分だが急ぐべきことなのかもしれない。


「魔王の守護魔と呼ばれる《六魔(サーヴァント・セイス)》は、魔王が完全に復活するまで人間や魔導師の関与を受けないように常に護衛している」

「待てよ――。じゃあ、サキュバスは人間界に来てはいけないんじゃないんですか?」

「ああ、本題はそこにある」


 魔王の護衛をするということは、魔王の側近にいなければいけない。

 なのにも関わらず、サキュバスが人間界で暴れているのはおかしい話だ。

 エステルはその話を知っているかのように平然とその場に居留まっている。


「本来、《六魔(サーヴァント・セイス)》が現れるのはもっと後のはずだった。しかし、それが早まった」

「植物魔獣ゾルザークの魔力消滅魔法――これが関係しているんですよね?」

「ああ、人間界は魔力が少ない……魔界は魔力が多いとされる。この多い少ないの魔力均衡が崩壊したことで魔界は魔力を人間界に強制送還した。この動きで、人間界と魔界に存在する魔力を均等にする動きにより、不測の事態を応急処置したということになる」

「まさか、俺が人間界に来ちゃったのってそういうことだったんですか!?」

「俺の仮説が間違ってなければ……な」


 人間界は魔界に魔力を供給し続けることで魔力の存在しない世界を保っていた。

 実際、魔界では人間界から供給されていた魔力を魔導師が消化していた。

 しかし、ゾルザークの消滅魔法により魔界は人間界からの魔力供給を拒絶。

 よって、魔界は魔力を大量に消費できる強豪の魔導師を人間界に強制送還し、人間界で発生した魔力をその魔導師たちに消化させた。

 

 ゾルザークの魔力消滅魔法が解けた後にソラが人間界に強制送還されたのは未だに不明で、異例だ。


「《六魔(サーヴァント・セイス)》の中でも唯一の人型で知能を持つサキュバスが人間界に強制送還されたのも魔界に魔導師と誤認されたからかもしれないということだな」

「なるほど……そういうことだったんですね……」

「現在、サキュバスの拠点地は秋葉原とイタリアと呼ばれる地だ」

「イタリアに――!?」


 サキュバスのアジトは秋葉原ということだけを伝えられていたソラは驚愕した。

 

「俺の部下の調査結果だ。残念ながら間違いないな……」

「そう……ですか……。そこまで、拠点地を二つも作るほど――世界をどうするつもりなんでしょう……」

「世界規模にサキュバスが今、何らかの活動しているのは彼女らの目的にある」

「目的……ですか?」

「そうだ。サキュバスは所詮魔王の守護魔。魔王の元に戻ろうと魔界に帰るための強大の魔力を人間界の男性の微量な魔力を奪っているんだ」

「あっ! そういえば、俺たちって魔界に戻れるんですかね?」

「結論から言えば戻れるぞ。現在、人間界と魔界に存在する魔力が同じが故、容易かつ安全に移動できる。俺には隠密に手に入れた転移結晶があるからな」


 ルークの優しい口調とその事実に一先ず安心した。

 ソラの心にはただ一つの決心が浮かぶ。――魔王を倒すための第一歩として。


「ルークさん。魔王を倒すためには《六魔(サーヴァント・セイス)》を倒さない限り、不可能なんですよね?」

「そうだな。奴等が魔王の守護魔として君臨している以上、魔王の元まで辿り着くのは無理……だな……ってまさかソラ――お前、魔王を倒そうとしているのか?」


 初めて驚愕の目を見せたルークに、ソラは笑みを送る。

 それを察したルークは緊張感を出していた口元を緩ませた。

 ――頼もしい奴だ。と。


「だったら、サキュバスが魔界へ――魔王の元に帰る前に人間界でぶっ殺しましょう!」


 ――頼もしいな。本当に。

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