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第6話 囚われの少女

 ――燃える森。

 ――神秘的な美を感じさせる森は一瞬にして爆音とともに炎の海となる。

 

 その森の奥で、一人の人間は狂気へと立ち向かっていた。

 先程、ソラとイリスがこなした依頼(クエスト)の依頼主。おっさんだ。

 おっさんの前には、長髪で黒髪の30代ほどの男が一人いた。

 燃え盛る熱い炎に包まれた森にいる男は平然と立っている。

 次々と燃える木々と倒れる木々。


「この森をこんなことにしたのはお主か。ワシの大事な農場をこんなことにしおって――。ただでは済まないと思うがいいぞい!」


 闘志を燃やしたおっさんは、一本の草刈り用の鎌を手に持ち、構えている。


「ジジイさんよ。不条理という言葉を知っているか……。世の中には魔法のようには上手くいかない……。貴様の行為は無駄なあがきだ……」


 自分の背中まで伸びた黒髪をした男はそうおっさんに告げる。


「逃げるなら逃げろ……。だが、来るなら来い……」

「ふん。男が逃げるなど、一生の恥だぞい。逃げるのは苦しいことだ!」


 おっさんは男に向かって走り出した。


「ヤァァァァ!」

「無駄なあがきだ……ジジイ」


 おっさんが鎌を降り下ろす。


「ガァァ!……おのれ」


 鎌は地面に見事に突き刺さる。――その瞬間、男はおっさんの腹を軽く殴り、気絶させてしまった。

 おっさんは倒れる。


「このまま、森と共に消えるがいい……」


 男が歩き出そうとした瞬間だった。

 男に向かって一閃する漆黒の剣が背後から飛んできた。

 漆黒の剣の持ち主はやはりソラだった。森全体がが燃えている――全焼しているのを見て急いで走ってここまでやってきたのだ。


 ――が、男は間一髪で上に跳ぶ。避けられたのだ。


「行かせるか! ――紅焔繚銃火エターナル・ガンファイア――!!!」


 男の頭上に突如現れた魔法陣から炎の塊が高速で放たれる。

 しかし、男は真上に体を向けて、口から膨大な炎を吹いた。

 ――紅焔繚銃火エターナル・ガンファイアは男の炎にかき消される。


「ちっ!」

「いや、いいんだイリス。これで、この森をやった犯人はあいつだと分かったんだから」


 男が炎の魔法を使っていることで、森を全焼させている人物は明らかとなった。


「お前……。よくもおっさんを!!!」

「飛んできた汚物を打ち返したまでだ」

「貴様!」


 男がおっさんを悪く言うとイリスは大きな声で怒りを露わにする。


「ここで貴様らの息の根を止めたいところだがやめておこう……。このまま、だと森と共に灰と化すからな……」

「待て!」


 イリスは男を足止めしようと、背後に大きな魔法陣を出したが、一気に数十の木が倒れたことで、男の姿は見失ってしまう。


(ん?紋章……?)


 ソラは、木が倒れた直前に男の手の甲にあった不思議な紋章を見つけた。

 

「ソラ……。あいつはこの前私たちを襲った男の『協力者』だ。ソラが倒れた後、血まみれの男を回収した男だった」

「なんだって!?」


 ソラは目を丸くした。

 以前、ソラとイリスが出会ったすぐ後、とある喫茶店で休憩していたところ、突如現れ、ソラたちを襲った人物の協力者そのものであった。


「ってことは、奴もここ最近連発している殺人事件の関係者ってことか……」

「ソラ! 私たちも早く脱出しよう! ……このままだと森に生き埋めにされてしまうわ!」

「そうだな……。行こう!」


 この後、なんとか脱出した。

 おっさんは、街の医療所で診断してもらったところ、何とか命は助かったそうだ。



 *



 ――クレア学院、学院長室。


「イリスとソラが無事で良かったです……」


 豪華な椅子に座ったアイリスはそう一息つく。

 ソラとイリスは先の一件をアイリスに報告していたところである。


「森が全焼した件についてですが、この王都で起こっている連続殺人事件と関係しているって見た方がよさそうですね……」

「やっぱり、殺人事件の犯人ってのは、この前俺たちが戦ったアイツなんだな、アイリスさん」


 と、ソラはアイリスに確認する。


「そう……ですね」

「何か犯人の正体の手がかりはないの?」


 と、イリスは問う。


「ないです……。――いきなりですけど、明日から調査隊を派遣します」

「えっ!? それって危険なんじゃ……」

「大丈夫ですよ、ミリィ・リンフレッドをリーダーとする10人で構成された優秀な調査隊です。心配ありませんよ」


 ソラは目を丸くした。アイリスの言葉には知っている美少女の名前があったのだから――。

 ソラの脳裏には、ライトブルーのポニーテール少女の姿が浮かぶ。


「ミリィってそんなに凄いの!?」

「勿論です! ミリィはこの《クレア学院》でも実力はあります。それに、学院唯一の飛行型戦闘魔術を誇る超エリート魔導師です」

「まじ……かよ……。空も飛べるってこと!?」

「はい! ……そ・れ・に! イリスの親友ですから!」

「ばっ、馬鹿なことを言うなアイリス!」


 イリスは顔を真っ赤に染めた。恥ずかしがりながら反論した。

 ソラはイリスに続いて、人は見かけによらないということをさらに実感した。

 しかし、アイリスの顔がどうも変だった。なにか、思いつめるような暗い顔をしている。


「アイリスさん? どうかしたのか?」


 と、心配そうにするソラ。

 

「イリス……。私、今から最低なこと言います。正直、気が進まないのですが……」

「アイリス? まあ、話は聞くけど……」

「先程の森の全焼事件。魔道協会からイリスに犯行の容疑がかかっています」

「……え?」


 予想もできなかった言葉にイリスとソラは一瞬沈黙した。


「それってどういうこと! アイリス!」

「無茶苦茶すぎるんじゃ……」

「それが森に足を踏み入れた人物で森を全焼させるほどの魔法を持った人は《クレア学院》の序列2位しかあり得ないと魔道協会から……。私も、反対の抗議をしかけたのですが……駄目でした。ごめんなさい」


 魔道協会。それは、世の中の悪事を取り締まる現世(モラル)でいう警察的な役割を果たすこの異世界ならではの最高機関であった。

 本部は、王都イーディスエリーにおかれ、監視の目もよく行き届いている。

 そんな王都なのに、連続殺人事件があり、犯人が捕まらないという事実がそこにある。


「ですから……イリスには真犯人が見つかるまで、牢獄に来てもらいたいという通達が来ています」

「アイリスは気にしなくていいわ。炎の魔導師の私が疑いかけられてもおかしくなもの……」

「イリス! いいのかよそれで!」

「ソラ……だから、少しだけ待っててね。すぐに戻るから」


 そこにいた3人の中の空間に深刻で思い空気が伝わる。

 窓際にいた白髪のイリスは顔を少しうつむけた。



「……本当に……ごめんなさい」

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