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第54話 少女と散歩道

 『神聖魔導団(アルテンリッター)』。

 魔界に存在する五大国の最強魔導師――五人。

 ソラはその一人、アインベルク王国の空白を埋める形で、ロイド戦の一件でその功績が認められ、『神聖魔導団(アルテンリッター)』に王直々に任命された。

 彼ら『神聖魔導団(アルテンリッター)を管理・支配するのは各王国の国王に当たる。

 そして王の命令により、任務に駆り出される。 

 ダンジョンの侵入の自由化や各国間の自由の行き来など様々な特権も認めれている。


 その中で、今、新たに分かった事実。

 ソラの眼前にいる少女、エステル・アトラーヌがリリパトレア王国を代表する『神聖魔導団(アルテンリッター)』だ。

 

 エステルはサキュバスに押されていたソラを、絶妙な雷撃魔法で撃退し、救出した。

 《六魔(サーヴァント・セイス)》と呼ばれる六体の魔王の守護魔。

 その中の一体、夢魔(サキュバス)を撃退した実力は測り知れない。

 彼女もまた、頼れる最強魔導師とみても相違ないだろう。



 ――ソラとエステルは『ある場所』へと向かう途中だという。

 白い灰が降り積もった一本道を歩く。

 周囲にサキュバスの気配はないとエステルは言うので、ソラも信用して隣を歩くことにした。

 道を挟むようにして彼らを取り巻くのは、秋の紅葉。

 白い灰が積もってしまっているが、微かに除く紅葉の朱は風情を感じる。

 異世界の少女と歩く道に白い灰がなかったらどんなに良いのだろうか。


「なあエステル……」

「はい……?」


 エステルはソラの呼びかけに逡巡することなく、ソラの方を振り向いた。

 出会ったばかりだというのにお互いの警戒は全くない。

 それも同じ『神聖魔導団(アルテンリッター)』としての肩書なのだろう。


「結局、人間界はどうなっているんだ? どうして俺が――この世界に強制送還されたんだ?」

「そうですね……詳しいことは今、向かっている私達のアジトにいるもう一人の『神聖魔導団(アルテンリッター)』聞いてみるといいかと! 彼は私なんかよりずっと頭が回るんです!」

「アジト――? 今、アジトに向かっているのか!」

「はい! ――と言っても彼と私の二人だけの隠れ家みたいなものですけどね……」


 アイリスの敬語口調よりも可愛らしくて活気のあるエステルの敬語口調は何となく癒される。

 ――それに今『彼』と言ったか?

 と、ソラの頭の中であることが錯綜した。


「まさか、男女二人で――そんな……」

「ちっ、違います! いくらルークさんといってもあの方はそんなヤワな人じゃないです!」


 赤面したエステルが頬を膨らませながらソラに視線を送った。

 ソラは一瞬その愛嬌のある仕草にドキッとしてしまった。

 恐らく、ルークという人物がその三人目の『神聖魔導団(アルテンリッター)』だと悟る。


(何考えているんだ俺! 俺にはイリスという恋人が……!)


 そんなソラの愚かな思考を呪った後、気になることが一つ。


「そういえば――エステルって何歳なの?」

「えっ……」


 しまった。

 とソラは思う。

 普通女性に年齢は聞いてはいけないのだと。


「ソラ君ってそんなに常識を(わきま)えてない人類なんですか……?」


 呆れた顔をして俯くエステルにソラは慌てて訂正しようとする。


「ちっ、違くて――」

「何が違うんですか? 言い訳をするより素直に謝った方がいいですよ」

「…………」


 ソラは少女の威圧に押され、何も言えなくなる。

 

「仕方ないです――十七です、私」

「よかったー……」

「え――?」


 ソラが安堵の息を吐くとそこには疑問を顔に浮かべた少女の姿があった。


「いや、こんなに馴れ馴れしくエステルと接しててもし年上だったらなと……」

「そんなこと――でしたか……。少しは気を遣ってくれる優しさはあるようですね。噂によるとイーディスの英雄とやらは女子学園に通うスケベな女たらしの男性と聞きましたが……」

「いや、全然違うんですけど!? 誰だよその噂流したやつ……!」


 他国までに伝わる噂は余計な情報も流れているらしい。

 その情報を密かに流しているとすれば、王都イーディスエリーの情報屋だ。

 

(この子――やり手だ……)


「そんなソラ君は……」

「俺は十八だ、一応……」

「そうなんですか!? 私、つい同い年かと……。その――ソラ君とか言っちゃって――」

「いや、いいよ。そんな堅苦しいことなんて――今まで通りの呼び方でも大丈夫だぞ?」

「そう……ですか……。ありがとうございます」


 少女エステルはそういって見せて一礼した。

 礼儀正しい少女だが、その愛嬌と花緑青の神聖な髪、優柔不断とはいえない鋭さがソラの心を擽ってくる。 

 他から見れば今のソラとエステルの状況は思春期の男女が二人並んで一本路を歩いているのだ。

 この状況を何と表現するか――それは明白なことだろう。


 ――もっと彼女といたい。

 そんな感情がソラの心から湧き上がってくる――エステルからは不思議な力を感じる。

 無論、イリスという美少女の恋人がいるソラには奥深く掘ってはいけない境遇だ。

 言うまでもないが、ソラにとって一番の女性とは姉妹の次に他でもない、イリス・エーヴェルクレアなのだから。


 彼女、イリスのことをふと考えると、ソラは早く魔界に帰り、イリスに会いたい。

 そう考えるしかない。

 しかし、本当に居るべき世界とはどちらなのか――人間界か、魔界か。

  

(一体俺は――どうしたらいいんだろうな……)


 そう、実際魔界には本来いないべき存在なのだ。

 だが、こうして魔界に貢献しているソラ。

 魔導師になって、数カ月の男が国最強の魔導士――『神聖魔導団(アルテンリッター)』に任命された。

 その事実を知ったその先にあるものは――二つの迷いなのだ。


「エステルの国ってどんな国なの……?」

「…………」


 ふと、思ったことを口にしてしまうソラだが、それと裏腹にエステルは数秒押し黙ってしまう。


「ご、ごめん――もしかして、いい気分じゃなかった?」

「いえ、そんなことないです……。あと、もう少しでアジトに着きますけど時間潰しに少しだけ話しましょう。同じ『神聖魔導団(アルテンリッター)』である以上、隠し事はいけません。まあ、隠し事という程ではないかな?」

「なるほど――」


 ソラは少し安堵した。

 もし、ここでエステルの気を悪くしてしまったら……と考えるとその先に待つものは何かは簡単に想像がつく。


「私の国、リリパトレア王国はアインベルク王国の東方に位置する王国です。レクセア王国ってご存知ですか?」

「ああ……たしか、それは学園の友人に聞いたな」


 友人とは言うが――イリス。

 所謂、恋人。

 この場所で余計な話をしてしまうと場がより困難になってしまうのでやめておこうと思う。


 レクセア王国。

 国王不在の中、ゼクス・アーデルニアの統率権の元、最強国として軍事力向上に今も務めている強豪国である。

 そう、軍国主義国だ。

 五大国の中でも最大の戦力を持つとイリスから聞いた。


「はい。リリパトレア王国は先程『貧乏な最弱国』と言っていたのは覚えていますか?」

「ああ、そうだな――さっきエステルが」

「まさに弱肉強食。リリパトレア王国はレクセア王国に支配されているのです」

「え……?」

「ある戦争をきっかけに元々、魔導師が僅かしかいないリリパトレア王国ですが、私が幼い頃に王国は敗戦しました」

「そっか――」


 その刹那、緊迫した空気が二人を襲う。

 最強国であるレクセア王国が最弱国であるリリパトレア王国を支配する。

 故に、最強が最弱を支配する。

 よくある簡単な話だ。

 

 魔界といえど、人間界にかつてあったものは魔界にも存在するらしい。

 そして、レクセア王国やリリパトレア王国にも『神聖魔導団(アルテンリッター)』がいる中、王国間の問題がある。

 あまり、想像ができない。 

 所詮、国同士でもやはり仲良くはできないのかと。


 現在も軍事力を向上させているレクセア王国がアインベルク王国を襲撃してくる可能性はないわけではない。

 

「ソラ君、見えましたよ――あそこがアジトです」

「洞窟……?」


 エステルは暗い話をしたのにも関わらず、気にはしていないようだった。

 エステルが指差す洞窟(それ)は、洞窟という他はないものだった。

 山肌に掘られた人工的な洞窟。

 他に感知されない魔力の結界が張られ――サキュバスの目を避けている仕様。


 ソラとエステルは揃って洞窟(アジト)へと入り、奥に進んでいくと一人の男性が目に入った。

5つの王国間の関係が複雑になってきました。

近いうちに相関図を掲載するのであまり心配する必要はないかと思われます。

この第四章はまだ半分にも達していません――これからの展開をどうぞよろしくお願いします。

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