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第50話 解けない謎と決意

 * * * * * * * * * * * *


 ――俺は暗闇の中に流されていた。


 見えるのは俺の体それだけだ。何度見返しても見える景色は何もない漆黒の世界。

 前にもこういうことはあった。デリエラとの戦闘の時だ。

 待てよ。ってことはつまり――。


「神薙ソラ――」


 知っている声だ。


「ロギルス……様……」

「いかにも。ぬしは何を迷っている……」


 迷う? そうか。


「全部お見通しなんですね……」

「ぬしが何に迷っているのかは(わし)には分からん……。しかしな――――」


 召喚神ロギルスが何を言っていたのかははっきり解らなかった。けど、――これだけは分かる。


 ――――。


 ソラの心に確信が芽生えたとき、目の前の漆黒の暗闇が徐々に閃光の輝きに満たされていく。


「そうだ! 待ってください! 俺が今、居る場所――……」


 が、その声はロギルスに届かなかった。遅かったか。





 * * * * * * * * * * * *





「お兄ちゃん? お兄ちゃん……!?」


 長い夢に魘されていたようだ。

 ソラが目を覚ました先には涙で目を潤した楓花がいた。

 楓花の黒髪がソラの頬を走り一瞬ドキッとしたのは黙っておこう。と、ソラは自分が膝枕をされていたことに気付く。

 後頭部に当たるスベスベな楓花の太ももが程良い感触を生み出していた。この太もものために諭吉十枚はくだらないなど愚かな思想を頭に浮かべていた。――これは病みつきになるな。

 と、ソラが部屋中を見回しても紗雪はいない。


「俺の可愛い楓花よ――姉貴はどこに?」 

「お姉ちゃんならもう寝ちゃったよ? 明日専門学校早いからって」

「そっか……」


 聞くべきなのか。『サキュバス』について。この街で何があったのか。

 だが、聞けば余計の疑問を持たれる筈だ。ソラはサキュバスの件について知っていることになっているのだから。


「お兄ちゃん――本当は知らないんでしょ?」

「え? 何を?」


 バレたか?


「サキュバスっていう人たちのこと。お兄ちゃん、紗雪姉(さゆきねえ)からサキュバスのこと聞いた時、初めて聞いたような反応してたもんね――」

「ははっ、やっぱりお見通しなんだな」


(俺って人間は本当に分かりやすい。何でも、頭の中を覗かれているみたいだ)


 楓花はハンドタオルで涙をしっかり吹いた後、ソラが膝から落ちないように両手でしっかり支え、深呼吸をした。

 その甘い吐息を微かに感じ取るソラ。うほっ。


「まっ、私もサキュバスのことが世界ニュースになっているから、お兄ちゃんがこのことを知らないのは驚き何だけどね!」

「そりゃ――まあ――」


 楓花は一つ咳払いをする。肩を回しながら気持ちを落ち着かせる。


「五日前のことなの。いつもと変わんない平凡なこの街に突然、蝙蝠のような翼と悪魔みたいな尻尾を生やしたコスプレイヤーみたいな女性だけの集団が来たの。そしたら、私達はサキュバスだーとか言い始めてね――街の男性たちを一斉に襲い出したの。かっこいい鎌で斬られた男性たちが急に倒れだしたと思ったら凄く元気がなくちゃって――」


 少し理解が不十分だった。


「元気がなくなる? それは、どういうことだ?」

「そうなの。その襲われた男性たちが医師の診察を受けたところ『鬱病(うつびょう)』ってことになったみたい」


 鬱病? 本当にそれだけか?


「他の被害は?」

「それが無いの……。本物の鎌の筈なのに血一滴も流さない事件だったの」

「そっか――ありがとう」


(血が流れない事件か。それにサキュバス。男の人に淫らな夢を見せてその夢に侵入してあんなことやそんなことをするという女の悪魔で有名なやつだよな……。鎌で斬ると見せかけて何かを奪っているのか?)


 ソラはいくつもの予想ルートを組み立てる。

 血の出ない武器とかそんなミステリアスな武器など、この世界に存在するはずがない。異世界と何かの関係があるとみて間違いはなさそうだった。

 ――もしかしたら、魔王とも関係があるのだろうか。


「あ、あとねお兄ちゃん――。サキュバスっていう人たち、今世界中に拠点を作っているらしいの」


 次の瞬間、ソラは驚愕する。被害はこの街だけではないのか、と。


「拠点……だと……。しかも世界中!? どうなってるの楓花」

「ここは埼玉だから関係ないけど、お兄ちゃんが好きな東京の秋葉原に拠点があるってニュースでやってた」

「なっ! アキバだとォォォォォォォォォォォォォ!?」


 この一件で一番驚愕した事実だった。ソラはアニメの聖地ともいわれている秋葉原が被害を受けていると聞いていると居ても立っても居られない気持ちになるらしい。


「あとねあとね。サキュバスっていう人たちが秋葉原を占領するからって東京にいる全部の女性を追い出して、男性だけを人質にとっているらしいよ……」

「人質に……!?」


(嘘だろ――。なんでこんなことになっちまってんだよ――。全部、俺の影響のせいだとでもいうのかよ!)


 もう何が何だか分からない。

 この世界で異世界と繋がりを持っているのは恐らくソラだけだ。


(まさか俺が、異世界転移の時に一緒に連れてきちまったのか――!?)


 謎が解けない。

 あまりにも解けなさすぎる。

 ――俺がこの世界に戻ってきてしまった理由。

 ――サキュバスがこの世界の男性を襲う理由。

 ――異世界ではなくこの世界に侵攻してまで人々を襲う理由。

 ――そして、サキュバスの正体。


 この世界に異世界の魔導師らがいない限りは俺一人で何をすることもできない。

 ――俺ができることなどただ一つしかない。そして、その裏腹に隠れているものは――


「ごめん、楓花……。一人にしてくれ」


 またきついことを言ってしまったのかと後悔するソラだったが、楓花が悲しそうにしていることは想定内だった。本当はあまり心配をさせたくないのだ。

 楓花はこくりと頷いたまま、ソラのオタク部屋を去っていった。

 こうなってしまった以上、異世界に帰る前に一つすることがあるらしい。もしそれが、神がソラに与えた試練なのだとしたら余計にソラの闘争心を刺激する。


(明日、楓花と姉貴には内緒で修行にでも行くか)


 そう心に決めたまま、ソラは目を閉じた。




   *




「ふふふ」


 ――この声は何だ。

 ――不吉な感じがする。


 ソラは白色なベッドの上に横になっていた。その周囲は赤いカーテンで囲まれ、香水のような匂いが漂う空間にいる。

 と、ソラの上に馬乗りになっている人物が一人。肌の露出が多い奇抜な衣装を着た女性が、一人、ソラの何かを欲しがっているような顔をしている。頬は赤く染まっていて、ソラの上着を脱がしていく――。


「あっ!」


 無意識に声を上げてしまった。何故か、体が敏感になっているらしい。触られただけでいつもの十倍以上の触覚が芽生えていた。

 女性はサービス心で、ソラの上半身をその舌で舐め回す。


「なっ、何を!」

「嬉しいんでしょ?」


 ソラの頬は真っ赤になり、体の体温も徐々に上昇していった。


「ふふ、こういう経験――可愛い顔して少ないのね」


 経験がないわけではないが、こういう色っぽい大人の女性にされるのは初めてだった。

 ソラは頭が真っ白になっていき、女性に洗脳されたかのような感情を抱き始めた。


「もっと――してください」

「ふふっ」


 奇妙な笑い声と共にある物が出される。

 そう、一本の鎌。桃色の鎌はソラの首元に近づけられる。

 

(やはり……男はちょろい)

 

 ――その時だった。

 ソラは鎌を突き立てられた恐怖に一瞬だけ気を取り戻す。

 淫らな恰好をした女性に一本の鎌――そして前提条件として今は『夢』であること。



「お前! サキュバスか!」



「――ちっ!」

 

 

 ソラが罵声を浴びせた刹那、女性がバックステップを踏むように宙を舞いながら後ろに跳んだ。

 女性は鎌を構えると、


「あなた、何故自我を取り戻せたのです!」


「は、知るかよ」


 ソラは立ち上がる。一つの決意を抱いて。


 

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