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第48話 密室で実妹交流

 裸のソラの目の前には裸の美少女がいた。美少女は両手で自分の胸を隠すが、その大きさに圧倒され、隠しきれていない。顔を真っ赤に染めている美少女は恥ずかしめで満たされていた。


楓花(ふうか)……。いや、でも待てよ!? 何故楓花がここに!?」


 美少女の名は神薙楓花(かんなぎふうか)

 ソラの実妹にあたる高校一年の美少女であった。小柄な彼女はどこかミリィに似たもの()を持っていて素晴らしく可愛い。ソラにとってそんな実妹の顔を拝めることになるとは幸せであった。


「いやいや! お兄ちゃんこそいつからそこにいたの!? さっきまで、私、普通にお風呂に入っていただけなのに……」


 どうやらソラは、実妹の入浴中に侵入してしまったらしい。


(さすがに夢だよな……。さっきまで俺は異世界に……)


 ソラは自分が見ている現実を夢だと疑い。頬を強く(つね)る。


 ――こんな典型的なことをしたって夢という証明はできまい。


 と、ソラは楓花の胸を凝視していた。そして、あることに気付くと、


「楓花……。胸、大きくなったな……」


(何言っているんだ俺――。情けない――)


 ソラの言葉を真に受けた楓花は、さらに顔を真っ赤に染め、茹蛸(ゆでだこ)のようになった。諦めた楓花は自分の両手を胸から離す。

 辱めの気持ちは捨てて、呆れる気持ちになった。


「おっ」

「それは、半年もしたら大きくなるよ……。お兄ちゃん……。半年もどこに行ってたの?」

「え……? 半年……?」


 思いもしなかった言葉が楓花から投げかけられる。

 半年? つまりは、六カ月か。しかし、ソラが実際に異世界にいたのは三カ月だ。六カ月も家を出ていたことにはならない筈だが――。


「お兄ちゃん……。お風呂に入ったまま半年も帰ってこなくなったんだよ……?」


 下を俯いていたまま顔を上げず、物悲しそうに問いかける楓花。

 ソラはそのリアルさに夢とか現実とか考えている暇もなく、すぐに現実だと理解した。

 

 戻ってしまったんだ――元居た世界に。


 ソラは自分が置かれていた状況を考え、整理する。

 ――異世界から戻ってきてしまったこと。

 ――半年も家を出ていたこと。

 ――妹を悲しい思いにさせてしまったこと。


「楓花……。ごめんな」

「うん……」

「でも、俺が半年もの間、何をしていて、どこにいっていたのかは言えないんだ」

「うん……」

「本当、ごめん」


 ソラは申し訳なささに実妹に頭を下げた。全力で。

 

「お兄ちゃん。顔を上げて。私はお兄ちゃんが帰ってきてくれただけで十分なの――おかえり」

「楓花……」


 楓花はソラに向かって微笑んだ。彼女の目元にはお湯なのか涙なのかは分からない。だが、それは嬉しさと愉悦感からのものであると直感した。

 ソラはもう一つ謝罪するべきことがあると気付く。


「あっ、あとな――裸見ちゃってごめん……」

「それはお兄ちゃんだからって許さ――」


 と、楓花が言いかけた時。

 楓花が足元を滑らせ転倒してしまう。同時にソラの視界も天地が返ったかのような感覚。


「いっつつつつ……」

「ごめん! お兄ちゃ――。ひゃうっ!」


 ソラの手のひらにはすべすべした美少女の肌の感触があった。それも、指を沈ませると押し返す弾むような柔らかさだった。

 はっとしたソラは自分の愚行に気付き、とっさに手を離そうとすると、


「あれ?」

 

 ソラの手は美少女の肌から離れなかった。

 自分の右手を見てみるとそこには、楓花の両手で抑えられた自分の腕があった。


「ちょっ、何してるの!? 楓花!?」

「ねえ、お兄ちゃん――楓花の胸、成長してるでしょ?」


(何何何ぃぃぃぃぃぃぃぃ!? このギャルゲー的な展開は!)


「んっ、んあっ! あっ!」


 喘ぐ妹を見ていられなくなったソラは全身の筋肉に力を入れ、欲望を制御している。


(まずい……。これはやばい! 落ち着け俺……。妹を手にかけるのは犯罪ではないが、これは俺のプライドが許さねえ!)


「お兄ちゃん! お兄ちゃん! お兄ちゃ……! んあっ!」


(やめてくれ楓花! 今すぐ俺の手を離してくれェェェェェェェェェェェ! お兄ちゃんとか言われながらこんなことされるのはまずいって! 俺のギャルゲーオタク時代を思い出させる気かァァァァァァァァァァァァ!)


 ついにソラは――本能を保てなくなる。


「楓花……」

「なあに? お兄ちゃん」

「俺、なんか変な気分に――」


 楓花の頬はまた一味違う赤に染まっていた。


「私ね? 私……お兄ちゃんになら――」




 ――バァン!




 不吉な音がした。 

 楓花の決意の言葉を押し切って、ドアが開く音だけが鳴り響く。


「楓花!? お姉ちゃんがいつ彼氏と混浴していいとか言ったかなー?」


 ドアの向こうから聞こえる声に楓花は肩を動かすこともできず、身が硬直していた。

 懐かしめを覚えるような恐怖の声にソラも身動きがとれなかった。


「姉貴……」

「お姉ちゃん……」


 と、ソラを楓花の彼氏だと思い込んでいた女性がソラを見て気付く。が、気付くのが遅い。


「そっ、ソラ……!? なんでこんなところに居るわけ!? ちょっ、いつ帰ってきたの?」

「ごめん姉貴……いろいろあってだな……」


 そう、その女性こそがソラや楓花の実姉。

 神薙紗雪(かんなぎさゆき)。紗雪は映像系専門学校に通う学生である。夕食を作っていたのだろうか、エプロン姿でロングな黒髪を後ろで一つ縛りにしている。


「はぁ……。まあいいよ。ソラが帰ってきたってことだし今回は許す」

「ほっ、ホント!? お姉ちゃん優しす!」

「いやぁー、ありがてぇ」


(本当に助かった。もし姉貴が本気で怒ったら命があるかどうか……)


(うんうん! お姉ちゃんの恐怖の支配は只者じゃないよね!)


 ソラと楓花はお互いに顔を見合わせながら同時にこくり頷き合った。まるで、心の会話をしたかのように――。


「じゃっ、説教始めようか!」

「――――――――」

「――――――――」


 心底安心できたのは――、一瞬だけだった。

 何時間説教を受けたのだろうか。

 思春期がどうだかとか――。

 ついでに、ソラが半年家出していたことにも数々の説教を受けた。

 しかし、異世界とか言ったところで信じてくれないだろうからあえてソラは口に出していない。

 何も言えないもどかしさを心の中にしまって我慢するだけの――ただ一方的な攻撃による説教を受けたままで終わった。

 




   *





 『オタク』。

 それは、自分の趣味に過剰に愛する人たちをいう。それは、アニメオタクだけではなく、軍オタやアイドルオタ――中には心理学オタ、幼女オタなど様々なものがあるのかもしれない。

 そして、ソラは今しようとしていること、


 ――我に返る。


 これは何を意味しているのか。

 答えはすぐそこにあった。


 ソラは中学時代からこよなく愛するものがあった。異世界に転送される前まではそれは掛け替えのないものであった。


 ソラの目の前には一つの扉が控えている。




 ――そう、アニオタの部屋である。


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