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第5話 森のピクフィー

 ――王都イーディスエリー街


「た、助けてくれ!」

「お前の助けは来ねえよ」


 男は一般人に剣を向ける。


 ――グサッ。


 ドロドロと血が垂れ流しになっている。

 淡く光る一瞬の輝きと共に一般人は消えた。


 ――ガラン。


 突然、ビンが転がる音がする。男はその音の方向へと視線を変える。

 男が振り向いた時、ライトブルーのポニーテールの少女が一人。


「待ちやがれ!」


 が、男は少女を追ったが、少女の姿は消える。


「ちっ、魔導師か……」


 男は剣を強く握りしめた。


「神薙ソラ……必ず殺す」



 *



 イリスと街を歩いていたソラはふと、依頼書を見る。



―――――――――――――

【森の農場のピクフィーの討伐】

俺の森の農場に変なモンスターが来て、野菜とか荒らされちまった。

ちっと追い払ってほしい。


依頼人:農場のおっさん

報酬:3,0000エリー

―――――――――――――



「イリス……? ピクフィーって魔物か?」

「魔物というか……まあ、可愛いだけのモンスターかな」

「つまりそこまで強くないと?」

「そうね……一言で言えば弱いわ――いや、弱すぎるわ」

「ふーんそっか、ピクフィーってのが出る森って『あの森』か?」

「そう。《イーディスの森》はこの王都に一番近くて一番美しい神聖な場所といわれてる……。その……ソラと出会ったところの」


 変な思い出が思い出せれ、イリスの頭の中にソラと出会った時のことが鮮明に飛び交った。

 少々、顔を赤くしたイリスだったが気を取り戻し、真顔へと戻る。


 ――と、知らずうちに二人の目の前には神聖なる森が見えていた。




 *




 二人は森の中にある依頼主の農家のおじさんの家へと向かった。


「おおい、兄ちゃんとお姉さんや。こっちにいるぞーい」


 森の向こうにいたのは依頼主のおじさんらしい。

 二人は小走りでおじさんの元へと続く。


「んじゃ、おっさん! 早速依頼(クエスト)をこなさせてもらうぜ!あれ?って農場なくないか?」

「ソラ……家の近くに農場があるとは限らないでしょ……?」

「そっそうだな」

「それじゃお二人さんワシについて来い。ここから10kmは歩くぞい」


『えええええぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!!!』


 イリスは絶望し、頭を抱えながら呪われそうな呪文(?)をぶつぶつと唱えている。

 それを聞いているソラは必死に目と耳を疑った。


「おいおいおいおい、ちょっとおっさん!冗談だよな……?」

「何を言っておる。紛れもない事実じゃぞい」

「…………」



 *



 あれから、何時間経ったのだろうか……。

 何故か目の前にいる『おっさん』は汗一つ掻いていない。

 ましてや、息切れ一つしていないのだ。


 高齢者の『おっさん』。

 それに比べて若き二人は全身に汗を掻きまくり、息切れしまくり。


 だが、ここまで山登りしてきた甲斐はあったというものだ。

 イリスとソラの目に入ってきたのは可愛らしい球形のモンスター。


(あれがピクフィーなのか)

「それじゃおっさん! 倒せばいいんだな?」

「うむ。じゃけんのう、ワシの野菜を少しでも傷つけたら『報酬』はナシじゃぞい」

「そっ、そんな!」

「何言ってるのよソラ。野菜を傷つけなければいいだけの話でしょ?」

「うっ――」


 見た目以上に恐ろしいおっさんは、ソラが怯えるほどだった。


「それじゃソラは下がってて? 私が全部燃やせば済むことだから」


 イリスの言い分を聞いて慌てたソラはイリスの服をちょこっと引っ張って木の陰で耳打ちをする。


「イッ、イリス!? もし、農場全焼したらどうするんだよ!? 俺たち退学になるかもしれないぞ……。それにあのおっさん、絶対俺たちを潰してくるから…!」

「なっ、じゃあ、ソラはできるの!? 大体、この依頼(クエスト)を選んだのは私なんだし、私が責任をもってだな」

「まあまあ、気にすんな! 俺がやるよ。責任は俺が持つから。それに――」

「それに?」

「天然のイリスちゃんも可愛いぜ!!!」

「ばっ、馬鹿!」


 イリスの顔は茹でたタコのように赤くなった。


「そんじゃ行きますか――魔剣 紅血の剣ブラッディ・クレイモア――!」


 ソラは魔力を開放し、漆黒の剣を召喚した。

 そのすさまじい溢れ出す魔力に可愛い球形のピクフィーは背筋が凍り、農場から逃げ出そうとする。


(農場を傷つけないために自分の膨大な魔力で追い出した!? その手があったのか)


 と、イリスは感心した。

 ソラは農場に足を踏み入れないように一気に跳んだ。

 ピクフィーは約30体――ソラが全滅させるには余裕の範囲だ。


「おらよ!」


 剣を上段に振り、ピクフィーは真っ二つ。まずは一体。


(すごい……。ピクフィーは軽すぎる体で剣だと余計に当たらないことで有名なのに)


 イリスは目の前の事実に関して大きく息をのんだ。

 そう、ピクフィーは体が軽く、空中に浮遊していて逃げ回るのが得意である。

 そして、攻撃範囲の狭い剣術では嘘みたいに攻撃が当たらない。

 先程、ピクフィーが弱いと告げたのは、攻撃に持ち込む力が弱いという算段なのだろう。

 しかし、ソラはその事実をねじ伏せた。


 ソラは次々へと剣を振り、ピクフィーを切り刻む。

 が、油断したそのとき、ソラの背中には3体のピクフィーが張り付いていた。


「ソラ!」


 イリスが叫んだその瞬間、ピクフィーは大爆発を起こした。


 ――ドンッ!


「アアアァァァ! ……こいつら」

「ソラ! ピクフィーは危険を感じたとき、自爆するから気を付けて!!」

「さっ、先に言ってくれよ!? 油断しまくってたじゃないか!」


 ソラは動くのを止めた。

 そして、剣を地面に突き刺した。


「何してるの!? 爆発するわよ!?」


 リスはソラを心配しているが、逆にこれは好都合だった。

 ピクフィーが落ち着いたソラを見て、近づいてくる。

 ――その時だった。


「――猛天大舞踏(もうてんだいぶとう)――!」


 ソラは地面に突き立てた剣を勢いよく抜き、体を軸にして一回転した。

 振り回された剣に全てのピクフィーが斬られる。

 一気に砂煙が立った。

 

 一安心したイリスはソラの元へ駆け寄る。


「ソラ、その剣術どこで習ったのよ」

「独学だけど……?」

(独学!? ピクフィーはほとんどが広範囲魔法で倒すのが主流だけどソラはそれを剣だけでやってのけた――。それに、今のソラは魔力の使い方が全然なってない。ただ、魔力を溢れ出さしているだけで全く魔力を使ってない。もし、魔力を使いこなせるようになったら……)


 イリスが驚嘆の念を表しているうちにクエストは難なく成功した。 





 *





 報酬を貰った。

 30000エリーだ。

 無論、ここは異世界なのでお金の単位も異なる。

 実際、この世界の相場などソラには分かる筈もない。


 ソラとイリスは森を出た。

 森を出る前は来た道を戻ることになったので、結構な距離を歩いてクタクタである。


「俺、報酬いらないわ」

「なっ、何を言ってるの!? 馬鹿ですか! ヘンタイですか!」

「だって、この前の服代、3倍にして返すって約束だろ?」

「でも、あれは使ったの3000エリーくらいだし……」

「細かいこと気にすんな! まっ、今の俺は借金状態だけどな」

「ソラのくせに……。その……あ、ありがとう」


 イリスの薄桜色の髪が風でなびく。

 キラキラとした瞳。

 真っ白な雪のような肌。

 赤く染めた頬。

 

 どれもが、ソラを刺激した。

 ドキドキする。

 春のような気候もあり、初々(ういうい)しさを身で感じた。



 ――ドォォォン!



 突然、王都全体に鳴り響いた爆発音。


「なっ、なんだ!?」

「森の方から……」


 ソラとイリスは同時にさっきまでいた森を振り返った。


 ――そこには信じられない光景があった。



 ――炎の海に飲まれている《イーディスの森》が。

いろいろと急展開になってきました。

次話あたりから真の本編に入っていくと思います。

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