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外伝1-2 不健全な試練

※この話は本編と少し路線がずれたお話――番外編となります。この番外編では本編とは違い、ソラを視点とした一人称で書かれています。

「説明してくれよ!」

 

 そのにいたのはやはり、淫乱美少女アレミルだった。俺は、必死に事情を聞き出そうと、アレミルの胸ぐらを掴もうとしたとき、


 ――すっ。


 見事に俺の右手はアレミルの体を通り抜ける。驚愕し、目が大きく見開く。


「――っ!?」


「ソラくん! さっきから驚きの連鎖だねぇ……?」

「う、うるせえな……」


 俺は図星を突かれ、耳を赤くした。


「これは、実体のないホログラムだよん」

「ちっ、そういうことかよ……」

「そんな場合じゃなあい! ソラくん! きっとつまらないだろうからキミに試練を与えましょう!」


(つまらない……か。俺はイリスの体になれて半分嬉しいんだけど。あ、いや、常識的に考えてこんなんだめだ……!)


 変な妄想をしてブンブンと思い切り顔を右左に振る俺。――意味不明な状況だ、彼女の話を大人しく聞こう。


「ソラくんはウチの催眠魔法によって今、夢の世界なのです!」

「おい。ってことはこの場所、この状況……俺がイリスの姿になっているのって……」

「そう、これは夢なのです! だからウチが5W1H……つまり、キミの記憶を辿ってすべての状況を操作できるのですよん!」

「ってことは俺の記憶を見れるってことなのかよ!」

「まあ、見れるっちゃ見れるけどウチはそんなのどうでもいいから周りに暴露するとかそんなマネしないけどねっ!」

「よかった……。じゃなくて、待ってくれよ! 今はそんな場合じゃないんだって! 俺は、現実に戻って早くおつかいをだな……」


 俺は焦る気持ちだけしかなかった。もし、遅れたとしてイリスを怒らせるとどんなに怖いことか。――そんなこと俺には想像できないくらい恐ろしい。


「それはゴメン! ウチ、君の体いろいろめちゃくちゃにしたいからそれは無理なの!」


(なっ、何言ってんだこいつ……。めちゃくちゃってまさか……ね……)


「えへへ! 興奮しちゃった?」

「してねぇーわ!」


 また図星を突かれてしまう。俺はつい叫んでしまったが、恥ずかしい気持ちしかなく後悔していた。


「顔赤くしちゃってねー。やっぱり可愛いじゃん!」

「――るせぇ」

「ははっ、ゴメンゴメン! 魔力貰いたいだけだから……!」

「魔力だと……!? いや、魔力くらいくれてやるからさ……」

「ダメよん。女の遊び心♡」

「どうでもいいだろ!? そんなことは……」

「ダメって言ったことはダ・メ・な・の!」


 俺はこの淫乱ドスケベ美少女に――遊ばれていた。


「わかったわかった。わかったからどうしたら夢から出れるかだけを教えてくれ……」

「うふふん。ありがと。じゃあこの夢から出る方法を教えるね?」

「ああ、教えてくれ……あ、教えてください」

「よろしい! この夢から出るにはウチが独断で作ったゴールをクリアしてもらいまーす! では! ウチが作ったゴールはー……」


 ごくり。と俺は唾を飲んだ。もしそのゴールが永遠にクリアできないものだったら。そう考えると腹が痛くてどうしようもない。初めから、わかっていた。この腹黒ドスケベ淫乱美少女の考えることだ――。


「この部屋で宿泊しているルームメイト三人の胸を生タッチしてもらいまああああーす!」

「ハアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァ……!?」


 あまりにも意外な――いや、馬鹿げた返答に俺は反吐(へど)がでそうになった。でも待てよ、この夢のルールを作っているアルミルだ。簡単にクリアできるルールを作るわけがない。やはり、穴でもあるというのか。


「イリスー……?」


 と、不意に背後の(ふすま)越しから知っている女の声がしてくる。女の声は徐々に大きくなる。故に、近づいてきているというのか。


「あーあ、さっきのソラくんの大声で皆気づいちゃったのかな?」

「お、おい! これはキミが作った設定だろう!? まだまだ聞きたいことが――」

「うふふ、じゃあねー!」

「ちょ、待ってくれ!」


 アルミル……いや、アルミルのホログラムは徐々に明かりを薄くし、最終的には消えた。

 おいおいおいおい、どうすればいいんだよ! 生タッチだ!? んなもん。簡単……いや、難しい!? でも、これは現実ではない――分からなくなってきたァァァァァ!

 ソラに与えられし試験。それは、胸の生タッチ。つまりは、衣服の上からタッチするのではなく、肌と肌の接触。禁断の行為を三回すること。くそー、俺の仁道では許されぬ。

 と、近づいてきた声がピタリと止まり、(ふすま)が勢いよく、すさまじい速さで開く。


「どうしたんですか? 一人で大声なんて出して……」


 俺に話しかけたのはアイリスだった。どうも、胸の話をされてから胸を見てしまう。だめだ、見るな俺。勘違いされるだろ? あ、いや、これは夢だったのか。落ち着け俺。性欲は捨てろ。俺は健全だ。普段通りでいいんだ。


「ああ、いや、なんでもないぞ!」

「――ぞ?」

「じゃなくて。なんでもないから……だわよ」


 そうだった。今の俺は紛れもない女子の姿。無論、イリスなんだ。アイリスさんの妹としての振る舞いをしないと怪しまれちゃうだろ。しかも、これでは不自然だ。よし。


「ごめん、ちょっと混乱しちゃってー。あのさアイリス」

「はい……」

「ちょっと、浴衣着てみない……? それ、私服でしょ? ほら、和室だからさ、それらしい服装を

着てみるべきだと思うのよ」

「わしつ……?」

「あ、和室ってのはこの部屋のことで……」

「そうなんですね。わかりました。では、着てみましょう」


 そうか、異世界人は和室を知らない。ちょっと、やらかしたな。

 でもしめたぞ。これで、アイリスさんが着替えるとき、その隙を狙えば――。


「ゆかた……とはこれのことですね?」

「うん……」


 と、アイリスは立てかけてあった浴衣を手に取った。


「じゃ! イリスから先に着てください?」

「――え?」

「着方は知っているのですよね?」

「まあ、そうだけどさ……」

「見本……見せてください。だって自分で着てみたいでしょ? 人に着せてもらうよりかは」

「う、うん……そう……だよね……」


 まあ、大丈夫だ。俺が仮に浴衣を先に来たとしてもアイリスが半裸になるチャンスは来るんだ。

 でもいつもはイリスから半裸になってたけど、俺が自らの手で自分から半裸になるなんてな。夢であっても信じがたい。とてつもない罪悪感に俺は襲われていた。

 と、俺は仕方なくイリスの来ている《クレア学院》の制服(上)を脱いだ。制服の下の半裸体を覆っていたのは女性の胸の周りにつけるアレだ。アレは、桃色をしていてごく普通のアレと同じだ。髪の色と揃えているというとこにはセンスがいい。いや、待てこれは夢だ。現実はそうとは限らない。それにしてもよくできている。肌の色、質感といい、イリスそのものだ。

 俺は手に持った制服をいつものように床に投げ捨てようとしたが、今の姿はイリスだ。女の子らしく、ハンガーに制服をかけた。


「イリス、ちょっと止まってくださいね……」


 その時だった。アイリスが俺にそう指示をしたとき、俺はその反射で後ろを振り向く。

 ――俺、いや、イリスのの胸元にはアイリスの手が迫っていた。それと裏腹に、アイリスは少し笑っていた。何か必死な顔をして。どこか苦しそうに。


「――えっ!?」


 俺は必至にアイリスの手を払ってしまった。

 


 ――なぜ、アイリスがそんな顔をしてイリスの胸を触ろうとしているんだ。

外伝ですが、三話で収めるつもりでしたが三話で完結する気がしなくなってきました。

補正を加え、四話or五話完結になりそうです。その後、第四章に入ります。

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