第46話 終戦とハーレムライフ
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10年前、王都イーディスエリー起こった王都全焼事件――。
犯人とされる犯行グループはギルドマスター、ロイド・イスタンベラをはじめとする虚無の棺桶だった。すべての物語はソラの異世界転移から始まった。
そう、超絶美少女イリス・エーヴェルクレアとの相互裸の出会い。過酷だった。最初は、楽しいハーレムライフを送る――はずだった。
しかし、ソラにとっては貴重な経験そのものだ。人を――大切な人を救う、そして、護るということ。その思いを経て、彼は強敵を退けた。
ロイドはその後、魔導教会に送還され無期の懲役を下された。異世界にも法による支配があったことにソラは驚いていた。異世界ってのはすぐ人を殺すってことなんだろ、と思っていることなのだろう。
ソラはアインベルク王国で大勢の住民の前でアインスト・アインベルクによって、世界を救った英雄として感謝状を授与され、賞金として100億エリーを貰った。が、ソラはその賞金の9割を王都の復興金として使用することに――。
その善意を持った行為は、王都の住民に支持され、魔王を討伐する二代目勇者といて期待された。
レント・ドゥバルクライはロイドにより、致命傷を負ったが、無事、命は確保した。
ソラの粉砕骨折は、本来ならば完治するのに数年かかるとされる重症だったが、《クレア学院》のプロ医療魔導師による先端魔術によって、全治一週間にかなり短縮された。
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――《クレア学院》医療室。
「ソラ、体はもう大丈夫そう?」
ベッドで看護師に包帯をとってもらっているソラに、心配そうにしているイリスは話しかける。
「おうよ。イリスの姿を見ているだけでもうピンピンに体が動きやがるぜ」
「どういうことよそれは……」
ブンブンと腕を振りながら意味が解らないことを発言するソラを見て、呆気に取られるイリス。しかし、久しく見るソラの楽し気な様子を見てイリスは少し幸せな気分になった。
看護師が包帯を屑籠に投げ入れ、荷台の前に立ってソラとイリスに一礼した後、
「神薙様のお身体は完治しましたので、魔力の使用は許可すると医師がおっしゃっていました」
「ありがとさん!」
畏まる看護師に、ソラの手は看護師にグッドポーズを向けていた。再び改め、看護師は一礼し、部屋を去っていった。――と、部屋のドアがガタンと音を立て、完全に閉まり切ったとき。
イリスはドアのカギを閉めて顔を赤く染めながら下を向いていた。
「ソラ……」
「な、なんだよ。イリス……」
挙動不審は仕草をとっていたイリスは、一歩、一歩と歩を進めながらソラに近づく。ソラは、無意識に、イリスが歩を進めるごとに、足を引きながら後退していた。
――ソラがベッドの端に辿り着き、後退が不可能になった。
バッ――!
突然、イリスがソラに向かって飛びつき、ベッドに仰向けになったソラの上に、イリスがうつ伏せになって乗っていた。
「なっ、イリ……」
(って……! 顔近すぎだろっ! むっ、胸が当たって……あっ!)
ソラとイリスは完全に密着状態だ。ソラの首筋に透き通った薄桜色の髪が触る。すべすべとした今にも溶ける雪のような肌が接触している。加えて、ソラの胸元に当たるイリスの胸の感触がたまらない。イリスの甘い吐息が微かにかかるとソラはゆっくり唾を飲み込んだ。
「可愛い……」
「――っ!?」
(何言ってるんだオレ……!?)
ソラは不意に本心が出てしまった。それを耳にしたイリスは顔をさらに真っ赤に染めた。徐々に体温が上がってくるのが伝わってくる。
(どうしよう……。心臓がドクドクしてる……。ソラに聞こえてないかな……)
イリスはソラの目をじっと見つめた。本当は、どこか違う方を向いてしまいたいほど胸が苦しかったのだが、そんな心など押し切ってソラを凝視する。
そして、二人の唇の距離はだんだん近づいてくる。時間が静止したかのような感触。ついに、二人は――つながった。
「んん…………。ああっ…………」
「はっ…………」
イリスの左足は、ソラの両足の間に入り込み、絡み合う。ソラは両腕をイリスの後頭部に回し、イリスとの距離を引きつけていた。
時間は流れ、二人は唇を離すと、カーテンの隙間から差し込む太陽の光が二人を繋ぐ白い糸を反射する。その糸はプチンと切れる――ソラとイリスはお互いに微笑み合った。
「イリスもその……ヘンタイなんじゃないのか?」
「ばっ、馬鹿……! そんなわけ……ないわよ。ただ……。ただ、これは、ソラだからできるっていうか何ていうか……。なっ、なんでもない!」
イリスはそう言いながらぷいっとそっぽを向いてしまった。と、イリスは、ベッドから降りて、
「さっ、とっとと行くわよ。怪しまれちゃうじゃない……」
――その時だった。
イリスがドアノブに手をかける。
「い、イリス……。なんか、ドア……膨らんでね……?」
「――っ!」
ソラがそれを指摘したとき、イリスの目でもしっかり、ドアが膨れ上がっているのが見て取れた。ドアの向こうには数人の人の気配が。
――ドォンッ!
突然、ドアが外れ、イリスを下敷きにして倒れた。
「えええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
そのドアの向こうには――数え切れないほどの《クレア学院》の制服を着た女生徒。その中には、ミリィを含むミリィ調査隊もいた。
「キャーーーー! ソラ様よ!」
「やっぱり可愛いわ!」
「今日はイリス先輩いないのね! チャンスよ!」
(いっ、いや、お前たちが踏んでるドアの下にいるんですけどォォォォォッ!?)
「総員、出撃ぃぃぃっー!」
ミリィが先頭に立って人差し指をソラに向ける。それと同時にミリィの背後に立っていた女生徒たちがソラに向かって走り込んでいった。
と、女生徒たちがソラに四つん這いになり、山積みのようにのしかかっていく。ソラに接吻をする女生徒、ソラに自分の胸を押し付けている女生徒、中にはソラの禁断のゾーンに侵入してくる女生徒も――。
そう、ロイド戦を後にしてソラに出来た新たな悩み。自分が目立ちすぎたせいで学院ほぼすべての女生徒が――――彼にアタックしてくるようになったのだ。イリスという恋人がいるということを知ったうえで。
「んふぁっ、たすけ……イリスぅー! うわっ、アアアアアアアァァァァァァァァァァッ!」
その刹那、ドアの辺りからバンッという大きな音がする。――これはまさか。
「あなたたち……? 何をしているのかなぁ? 私がいるのに……」
――イリスだ。恐らく、女生徒がソラの元へ行き、ドアの重量が減ったおかげで脱出したのだろう。
「えっ……!? イリスっち、いたの!?」
「一体どこから……」
女生徒が一斉に静まり、驚愕する。
「あなたたちがぶっ倒したドアの下からよ!」
「みんな! たいさぁぁぁーん!」
ミリィが叫ぶと、女生徒は畏まって一斉に部屋を出ていこうとする。
――が、そうもいかない。
「私から逃げられるとでも思ってるのかな……?」
(――ギクリ)
その部屋には微かな焼け跡だけが残っていた。
第三章完結。
読んでくださった方、本当にありがとうございました。
第三章は少しシリアス(?)の部分があり、少々重くなってしまいました。第四章に突入する前に、息抜きとして閑話(番外編)を3話ほど挟みます。




