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第44話 最後の決戦

 ――ソラの中で何かが変わる。


 自分の魂の器が入れ替わったかのような。


「『死んだ』ってどういうことなのよ……」


 豹変したロイドを見て微かに笑うソラ。イリスはソラの『死んだ』という言葉を耳にして不意にそんな言葉が出る。

 ソラは既に吸血鬼(ヴァンパイア)モードになっており、右手に持つ紅血の剣ブラッディ・クレイモアから漆黒魔力を垂れ流しにしていた。そこから少しの殺気は感じられない。アインベルク王国の国王アインストでさえも素朴に思う疑問だ。


「そうか。言っていなかったんだな……。俺は異世界に召喚された時、ロギルス様から《不死身》の力を授かったんだ……。ああ……それと俺が今ここに立ってんのは魔力で骨の一つ一つを接続しているからって感じだわ」


 それを聞いた瞬間、イリス、いや、そこにいたほとんどの魔導師が心を疑った。


「ロギルス様の……不死身の力を……!?」

「まっ、そんなところだ……。聞きたいことはいろいろあるだろうが……、今はそういう場合じゃ……なさそうだな」



「コロ……ス……」



 喉を潰したかのような重い声。ソラの背後にはその声だけがただならぬ殺気を漏らしていた。




 ――しかし、




 その刹那、ソラが今まで隠していた殺気が一気に溢れだす。全身から漆黒魔力が放たれ、物理的な攻撃ではないことが分かっていてもロイドの身は硬直した。無論、ソラの殺気を肌で感じたその場にいた全ての魔導師が体を動かせなかった。



 ――恐怖による支配。

 ――絶対的な使役。



 ソラの心に隠れ潜む物。それは、万物を支配する黒き悪魔だった。実際には存在しなくとも、強い魔導師である程その存在を錯覚した。


「ウッ……!」


 堕天使の姿に成り果てたロイドでもその殺気の圧に息を殺される。

 ソラが紅血の剣ブラッディ・クレイモアを振り上げかけた時、




 ――ロイドの全身から滝が逆上りしたような血飛沫が流れる。




 ロイドが気付いたときには体は斬られていた。たったの一瞬だけ、(まばた)きをした。それだけなのに、ソラは目の前ではなく、背後に移動していた。ロイドはビクビクしながら後ろを振り向くと、ソラの振り下ろされた後の紅血の剣ブラッディ・クレイモアが目に入る。


「――抜刀襲神影ばっとうしゅうじんえい(かい)。斬る対象が視覚を一瞬でも閉ざした瞬間、獲物を襲う虎の如く、斬り下ろす……」


 間近で見ていたアインストは、何が起こったのか目で判断することはできなかった。

 ――時空間移動と居合斬、そして、恐怖による支配。故に、ソラは一方的()つ絶対的優位な戦闘をしているのと等しい。




 ――しかし、物事はそう上手く進まなかった。




「くっ……!」


 突然、ソラが声を上げ、地面に膝をついた。


「ソラッ……!」


(まずいな……。さっきの魔力の威嚇で粉砕骨折を結合する魔力の均衡(バランス)が崩れた……)


「ぐはっ……!」




 ――ドォン!




 ソラの中腹にロイドの膝が見事に当たり、建物三つを破壊する程の勢いで飛ばされる。

 手足がガタガタになりながらも、立ち上がろうとするが、咳き込むと同時に大量の血を吐き、地面に付着する。



 ――ロイドはソラの目の前に立っていた。



「シ……ネ……」


 ロイドは背中に生えた二本の黒い翼を広げる。翼から高分子魔力エネルギーを放ち、空中で集結させている。――恐らく、限界までエネルギーを溜め続け、ソラにぶつけるのだろう。


(そうか……! 魔力が……!)


 アインストは必死に動こうとしたが間に合わない。先の一撃で体力が消耗している。

 ――アインストがとった手段は……、


「セカイハ……ケス……」


 ロイドが創造している魔力エネルギーの塊も限界の大きさまで達した。黒々とした魔力に電流のようなエネルギーが入り混じっている。それを目の前に動けないソラはどうすることもできない。吐血を続けるソラは焦りの色を見せるだけだった。


(本当に……死ぬ……! 紅血の剣ブラッディ・クレイモアを一度収めて、回復に魔力を回しても間に合う時間じゃない……! ――ああ、どうにもならないか……)


 ソラはゆっくり、目を閉じる。




 ――諦めたいわけではなかった。

 ――けどそれは。




「ソラ!」「ソラっち!」「ソラ君」



「…………」



「…………」



「…………」



「…………」



「…………」




 ――声が聞こえる。

 ――どこか優しい声。

 ――近いようで近くない。

 ――そんな声が。




 俺にだんだん近づいてくるその光は――。



 ロイドの高分子魔力エネルギー弾は放たれた。命を刈り取る勢いですぐに爆発した。




 ――逃げる間は与えられなかった。

 ――与えられなかっただけである。




 近づいてくる一筋のその光。そして、与えられたのは一本の聖剣だったのだから。




 ――その時、立ち上がる煙幕がバサッと一刀両断された。




「危なかったぜ……」



 息が荒くなりながらもイーディスの英雄は立っていたのだ。

 

「バカ……ナ……」


 復讐心に押しつぶされ、心を失いかけているロイドは焦っていた。


「どうやら……間に合ったようだ……」

「ありがとうございます……アインスト陛下……!」




 ソラの左手に持つその白き剣――聖剣シリウス。

 そして右手に持つその黒き剣――紅血の剣ブラッディ・クレイモア




 

「ウッ……!」


 ソラの姿を見たロイドは頭の中で、あるイメージが錯乱した。


「ユウ……シャ……。ウッ、アァァァァァァァッ!」


 ロイドの頭には――巨大な敵を前に対峙する白い剣と黒い剣を両手に持つ剣士。純白と漆黒の剣士。


「ミ……ライ……」


 その時、ロイドの二つの黒い翼は消滅し、目が黒から元の片目金瞳に戻り、手足のドラゴンの如くの爪は短くなった。肌の色も戻り、八重歯も短くなる。


「そうか……貴様だったのだな……。」


 ロイドはどこか懐かしそうに微笑んだ。

 ソラは両手を交差させ、二つの剣を上げる。




 ――ソラは何も言わず、その二つ剣を振り下ろした。




 ロイドの未来は黒き剣に掻き消され、ロイドの復讐心は白き剣に洗浄された。

余談ですが、ロイドが体内召喚した『火竜」第二章で出てきたあの火竜です。

あと1、2話挟んで第四章に移ります。

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