第40話 緊迫する猛威
現在、戦闘可能な戦闘員はソラ、イリス、ミリィの三名。ミリィ調査隊員は非戦闘員であり、ロギルスは心臓部に致命傷を負っている。――この数少ない戦闘員でどうゾルザークを撃破するかということになるわけなのだが、
「イリス、ミリィちゃん。よく聞いてくれ」
「ええ……」
「うん!」
ソラが二人に目線を送ると三人同時にこくりと頷いた。
「優先すべきなのはゾルザーク撃破なんかよりもアイリスさん奪還だと思うんだ……」
「違うわソラ! アイリスはそんなこと望んでない筈よ!」
「うん……、もしゾルザークの魔術が発動して世界中の魔力を消滅させちゃったりなんかしたらミリィたちの敗北は決定する……」
「ミリィの言う通り……。アイリスはゾルザーク倒した後よね……」
ソラは下を向く。しかしこれは、諦めではない……無論、希望だ。
「ああ分かった分かったって! なら、優先すべきはゾルザーク撃破……そんでもって、アイリスさんを奪還する! アイリスさんをロイドの手のひらになんか置けねえかんな!」
「ええ、アイリスは私のたった一人の家族……絶対に助けるわ!」
「ソラっちかっこいい……!」
考える――あの巨大な植物魔獣ゾルザークを討伐する手段を――。
――浮遊する雲に届くほどの巨体。
――尋常ではない樹木の成長速度。
――王都を見下ろす無数のギョロ目。
一撃で倒すという夢はほど遠かった。重ねて、魔力消滅魔法までの時間も分からない討伐のタイムアタック。
「弱点になる弱点なんてあるの……?」
「落ち着けイリス。――ギョロ目だ」
「ギョロ目……? でもどうして?」
「――直感だ」
「「「なっ……!」」」
説得力のないその言葉にイリスとミリィは呆気にとられた。
「ふっ、ふざけているの……!?」
「そうだよソラっち……」
「いいや、目っていうのはどの生物にとっても痛覚には敏感なんだよ……。樹木の硬そうな肌を攻撃するのと柔らかそうな目を攻撃するのとでは感触が違う……」
「まあ、言われてみれば……ね?」
「確かにその方が確実にダメージは与えられる……。樹皮を攻撃するよりかは断然マシね……」
「なあ!? ……だろ!?」
『作戦会議は終わりか……?』
空からロイドの声がした刹那、イリスに向かってゾルザークの巨大な根が向かってくる。
「――っ!?」
(まずい、魔力の生成が間に合わ……)
その時だった。一本の漆黒の魔剣がゾルザークの根を断ち切る――。
断面を漆黒の魔力で塞がれ、ゾルザーク根の急速な成長が止められた。その場所だけ時間が止められたかのように――。
「ソラっち!」
「ありが……とう……」
「いいってことよ!」
ソラは思い切り、息を吸い込んだ。
「ロイド! こちらの作戦会議は終わった……その内に俺らを倒す計画は立てたんだろうな……」
『ほう……。余程自身があるようだ』
「ちょっ、ソラ! 相手を挑発したら……」
「心配するな……。――勝ちに行くぞ」
「……ええ!」
「りょーかい致しましたあっ!」
ソラは深呼吸をする――。
「おい、ロイド! お前が今までにイリスやアイリス、ミリィちゃんにロギルス様……そして、イーディスの人たちにしてきたこと――ここで全て償ってもらう!」
『いい意気だ……。まあ、それなりに暇つぶしに付き合ってくれるんならありがたい……』
「あ、あと! ――お前は魔王にもう関わるな……俺がぶっ倒すから……」
『笑わせてくれる……。魔王は貴様が想像している強さより遥かに強い……』
「俺はお前が想像している強さより遥かに強い……」
『なんだと……』
この瞬間、空気は凍る。ほとばしる緊張感が喉を押し返してくる。
「ソラ、魔王を倒すなんて宣言しちゃって……本気?」
「ああ、本気だ……」
「ソラっち……」
と、斬り裂かれたゾルザークの根の断面が、漆黒の魔力の封印によって膨張――。膨張した断面は破裂し、ゾルザークの体内に流れる魔力粒子の流れの均衡が崩れ、連動して根が漆黒の魔力に侵攻され、消滅する――。
ゾルザークは危機を感じ取り、自ら根を切り離した。
イリスとミリィは目を見開いたが、ソラの息は整っていて前方を視線を逸らさずに向いていた。
「イリス、ミリィちゃん――援護頼んだ……」
そう呟き、言い残してソラは自らの時空間異動で一番近いギョロ目まで一瞬で移動した。ゾルザークの反射速度を超えて、ギョロ目に紅血の剣を刺す――。
ギョロ目は白から赤に変色し、切れ目から樹液が飛び出す。
ソラは樹液さえも猛威し、5M先のギョロ目まで跳び、次々へとギョロ目を攻撃する。
(ふん、魔力消滅の魔法発動まで残りわずか五分といったところか……。五分でゾルザークを倒す奴は存在しない――。最強にして最強の植物魔獣ゾルザーク……いくら神薙ソラだろうが討伐は不可能だ……)
ロイドはソラの攻撃を黙ってみているだけである。表情はまさに余裕だった。
「イン・デル・イル・セル……、破ッ!」
数十の螺旋状の枝が一気に斬り裂かれた。ミリィによる風の斬撃――。
(そうか、ミリィ・リンフレッド……。あの小娘は空を飛べたのだったな……)
「ソラっち! 道は開いたよっ!」
「ありがとう! 助かったぜ……!」
ソラは休むことなく、怒涛の勢いでギョロ目を始末していた。漆黒の特攻は次から次へとギョロ目を切り刻み、ゾルザークの頂へ登っていく。
ミリィが螺旋状の枝を消し去り、開いてくれた道を足元の樹皮に魔力を集中させ駆け上る。
――ゾルザークの舞い散る葉がソラの真横を通過した刹那。
(これは、火薬の匂い……! クソ!)
「――紅焔繚銃火!」
下方からソラ……いや、ゾルザークの葉に向かって無数の炎の塊が向かってきた。以前よりスピードは増し、すさまじい勢いで炎は舞い散る葉を消し炭にして、焼却。
「センキュー! イリス!」
根の付近にいたイリスは無言で、頷いた。
(――引火する葉なんてただの小細工ね!)
ソラは止まらず、移動する速度を上げて樹皮を駆け上がる。ソラに無数の枝が向かってくるが、紅血の剣で斬り落とす。さらに速度を上げて、音速の速さを保っていた。
ゾルザークの全長の四分の三は駆け上がった筈だ。
「ロイドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
ソラが叫び、時空間移動を駆使しながら駆け上がり、ゾルザークの頂に近づく。ロイドはもう間近だ――。
しかし、ロイドは嗤っていた。
――ドンッ!
――大きく響く何かがぶつかった音。
――その音の真相はすぐに理解できた。
――ソラの猛攻は止まっていた。
「嘘……でしょ……。ソラ!」
「ソラっちーーーー!」
イリスとミリィは目を大きく見開き、目蓋から微小な涙が溢れていた。
『ゾルザークが創造する結界にまんまと衝突したようだな。……まあ、無理もないだろう。この結界はゾルザークの特殊能力……人の目に感知されず、魔力の気配もゼロに等しい……例え一流の魔導師でさえも感知できない。故に、絶対防御だ……! その結界に音速で衝突すれば、それなりの反動がある。体中の骨は粉砕骨折するも同然だ……』
ロイドは勝利を確信した。
――ソラはイーディスの地面に向かって落下していった。
「ソラァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」
一人の少女の悲鳴がイーディス中に響く。
40話突破!
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