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第34話 覚醒の紅血

 王都イーディスエリーには大図書館がある。

 貯蔵されている本の冊数は一億にも上るほどだ。その中には数々の魔法について書かれた書も貯蔵されているという。魔導の歴史や魔法詠唱など魔導師のにとって有益なものがあり、現在でも名のある魔導師が訪れる。


「お前だな……。イーディスを騒がせているのは」


 ソラが図書館の屋上を見渡すと確かにそこには男が一人立っていた。その隣に、幼い少女が一人、縄で拘束されているのが見てとれる。幼い少女は命には別条はないが眠らされていた。

 

「その子を放しなさい!」


 イリスが叫ぶも男は表情一つ変えず、硬直していた。


「黙……レ……。ワタ……シハ……誇リ高……キ……ロイド様ニ……忠誠ヲ……誓イ……」


 男の口調には少し違和感があった。

 その話しぶりを聞いたソラは目を大きくする。


「ロイド……だと」

「まさか!」

「そのまさかだよイリス。……あの男、支配されているな」

「操り人形ってわけね……。聞いたことがあるわ。ロイドの三大固有能力《支配》……」

「ふざけた話だよな……。魔導師が三つの魔法を持つだなんて」

「ええ……」


「時間ハ……ナイ。ロイド様ノ……命令ニヨリ……貴様ラヲ……ココデ……滅ス」


 男の声を聞いたソラだったが、迷いはしなかった。男の言葉から見て、ソラやイリスをこの場所に呼び寄せることが目的だったといえるだろう。


「あの男……。精神まで何もかもが支配されているってわけか。仕方ない、手荒な真似はしたくなかったんだけどな……」

「ソラ?」

「ごめんイリス、ここは俺にやらせてくれ。アレを……試したい」

「ええ、わかったわ」


 ソラはイリスに笑顔一つ見せて男に体を向ける。腕を上げて――叫ぶ。


「――来い、紅血の剣ブラッディ・クレイモア!」


 これで、召喚神ロギルスから力を授かって初の紅血の剣ブラッディ・クレイモアの召喚となった。

 が、刀身は変わらず、全身漆黒の色を帯びている。


「ソラ……それは」


 イリスは事を尋ねようとしたが、ソラのすさまじい殺気で言葉を失った。


(す、すごい……)


「抵抗ヲ……ヤメ……ロ。少女ノ……命ハ……ナイ……」


 男は腰にしまっていた剣を抜き、藍色の魔力を帯びさせた。


「しまった! あの子が!」

「心配するな……イリス……」


 ――と、ソラは自らの剣で自分の腕を切り裂いた。その時、空間に大量の血飛沫が舞った。


「さあ、喰え……。紅血の剣ブラッディ・クレイモアよ……」


 空間に舞う血が一気に紅血の剣ブラッディ・クレイモアに吸い寄せられるように染み込んでいく。ソラの持つ剣の刀身は漆黒の色から血の赤の色へと変化していった。


「これは……!」


 イリスは驚愕し目を大きく開いた。


「――バージョン、吸血鬼(ヴァンパイア)……」

 

 その紅血の刀身にイリスは驚きを隠せずにいた。それと対照に、男は表情一つ変えなかった。感情がないからなのだろうか。

 ソラは、紅血の剣ブラッディ・クレイモアを地に突き刺した。刹那、剣の矛先から血で構成された魔法陣が浮かび上がった。魔法陣の血の線がソラに向かって吸い寄せられる。そして、魔法陣自体がソラの一部となり、ソラの体に紅血の筋として現れる。ソラの爪と八重歯が少し長くなり、瞳が赤くなった。


「これが紅血の剣ブラッディ・クレイモアの真の力だ。剣に自分の血を吸わせ、剣と自分自身が一体となる……」

「そ……」


 ――と、イリスが口を開いたその刹那、ソラはその場から一瞬にして消えた。


「嘘……!」

「何処ヘ……行ッ……タ……」


「よく見ろ……ここだ」

「ッ!?」


 ソラは一瞬にして男の背後に移動していた。


「まさかこれは……。時空間移動!?」


 この世界では時空間移動とは、一点の場所から一転の場所へと見えない魔力的な空間を作り、高速な魔力の粒子の流れに沿って移動する魔法である。その移動速度は光の速さを超え、使用できる者はごくわずかである。


「お前の血……吸わせてくれよ……」

「ナン……ダト……」

「――仙鶴ノ雨(せんづるのあめ)


 その剣は滑るような時空間移動を利用して男の心臓をも貫通させた。


「グハッ!」

「吸血鬼となった紅血の剣ブラッディ・クレイモアは血を吸えば吸うほど強くなる」


 ソラは剣を男に突き刺したまま男の頭上に跳んだ。すでに左拳には漆黒魔力が込められていた。


「左は打ちにくいな……。まあ、いっか……。――兇仙牙迅拳(きょうせんがじんけん)!」


 ソラの左拳が男の頭に触れた瞬間、一気に漆黒魔力は放たれ、男を図書館の地下まで吹き飛ばす。

 

「アアアァァァァァァァァァァァァ!」


 あまりにもの勢いに図書館は全壊、男は地下100Mまで飛ばされ、大きなクレーターのような穴が開いた。

 ソラは幼い少女を抱えて、イリスの元へ戻る。幸いにも幼い少女は無傷だ。


「ソラ凄いよ! この力があればロイド倒せるかもしれないわ!」

「まっ、これで二十パーセントってとこか?」


(二十……!?)


 その事実にイリスは呆気に取られていた。


「もっと凄いのあるからな! 楽しみにしとけよ! イリス!」

「本当、頼りになるのねソラは……」


 二人はお互いに顔を見つめ合って笑っていた。

 イリスはこの後に待っているロイド戦に希望の光が見え、心の底から安心した。その期待があっての笑いなのだろう。


「そうだ、あいつは! あの人自身は一般人だ。死んでもらったら困る……」

「ソラ!」

「安心してくれ。死なない程度に軽く打ったんだ。死んではいないはずだ」


 ソラは急いで、図書館の瓦礫を避けながら男のいる穴を覗いた。


「助けて……くれ……」


 穴の奥底から聞こえるその声は、戦闘中とは少し違った口調だった。


(支配が解けたのか……!?)


「よし、待ってろ! 今行くからそこでじっとしていてくれ!」

「私も行くわ」

「わかった」


 幼い少女を抱えたまま、ソラとイリスは地下へと降りた。


「あんたにロイドのことで聞きたいことがあるんだ」


 ――その時だった。


「うっ!」


 男の口からこの世のものとは思えない程の触手が溢れだす。


「助け……アアアアアアアァァァァァァァァァァァ!」


「何だこれは! イリス! 離れて!」

「ええ!」


 二人が男から離れると、触手は男を覆い、巨大な人型の怪物になった。その触手の怪物は眼球は飛び出して、体中に粘膜を纏っている。


「そういうことか……」

「ロイド自身が情報が漏れるのを防ぐために男の人に術式をかけたんだわ」


 ソラは剣を力強く握りしめた。心の中で何かを決心するかのように。


「やるしか……ないんだな……クソッ!」


 人型の触手の怪物はソラとイリスをギロっと睨めつけていた。

長期の投稿休止をお詫び申し上げます。

1か月の時間を経て、再度投稿を開始致します。


ソラの進化した力はいかがでしたか。


次回からまたよろしくお願いします。

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