第31話 心に聞け
ロギルスによるとんでもない告白を聞いてソラは驚愕を隠せず立ち上がった。
――利用されてた? ――信じたくない。
その思考がソラの脳内を何回もぶつかり合う。
「それは……どういうことなんですか……」
緊張で唾液を飲み込むことすら忘れていたソラは両手をぐっと握りしめた。
「儂がロイドを別世界から召喚したことは覚えておるな」
「……はい」
「ロイドの次に召喚した人間こそがぬしなのだ」
「――っ!」
ソラは目を大きく見開いた。胃袋を握りしめられるような感覚がソラの精神をえぐりとるかのように感じられた。
「おぬしを召喚してしまったことに関しては謝る。すまぬ」
「いや、いいんです。おかげで退屈な現世かも脱せたことですし。……それに異世界で恋人だってできましたし。その辺のことに関しては満足してるんです」
「……というと?」
「……俺に……何をさせようと……おっしゃるんですか……」
ソラの躊躇ある質問に数秒の沈黙が訪れる。
「詳しいことはぬしには説明できないがヒントなら教えられるだろう……」
「ヒント?」
「ああ、そうだ。神薙ソラ。ぬしは神の集う地でどの世界の人間よりも優れた逸材と判断された」
「《ドリュアセルタ》……」
「うむ、詳しい話は時を追って説明しよう。《ドリュアセルタ》が決めた決定事項それが――神薙ソラの異世界召喚なのだ」
――異世界召喚。
ソラが薄桜色の超絶美少女から出会って今に至るまですべての出来事が蘇った。自分が風呂に入っていたところを超絶バッドタイミングで異世界に転移してしまったあの日――。
あの日から物語の全ては神の思うがままに進んでいたのだと――。
「そして、ぬしは――最大の敵を殺すことになる」
「――っ!」
その時、ソラの中は不安から確信に変わる。
「なあに、そんなことかよ。いいんじゃないんですか? それ。楽しそうじゃん」
「そうか……ぬしならそう言ってくれると思っていた」
「それに、俺、この世界で二回死んでるし? あの時俺に3度目の命を与えてくれた神様ってのはロギルス様……あなたなんですよね……」
「なんだ……気付かれていたか……」
「ふっ、声でバレバレですよ……」
一度目の死はソラが魔導師になった直後。そして、二度目の死は元虚無の棺桶の幹部デリエラ・オーフェルスとの戦闘。
ソラはすべてを思い出す。
「ぬしに与えた力……それは――不死身の力――だ」
「ははっ、まじかよ。まあ、そんなことだと思いましたよ。なら神様? 俺にこの異世界を託してくださっているならもっと力をくださいよ。――いや、欲しいんです」
ソラが深々と頭を下げると、ロギルスは微笑して、
「ならば……。ぬしの心に聞け……」
「何っ!?」
その時、ソラの視界は黒々と漆黒に染まる。
* * * * *
(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い…………)
――死んだ?
――いや、死んでいる?
――これから死ぬ?
死にはもう慣れた。
俺は何をしている?
俺は誰であり、どこにいるのか。
そんなことすら分からない。
ただ見えるのは漆黒の空間の中に一筋の流れるような赤。
ああ、思い出した――心臓に刺さっているこの冷たい金属の感覚は……。
*
まただ。さっきと同じ金属の感覚。
痛いな。
「おい! 神薙ソラ! てめぇの力はそんなモンかよ! その程度のくせに俺を斬りつけた? はっ。笑わせんなよ雑魚が!!!」
不意に知っているかのような男の声が聞こえてくる。
――このフレーズどこかで聞いたような……。
ああ、意識が飛びそうだ。さっきの繰り返しじゃないみたいだ。心臓が痛い。
「ちっ。もういっそ……。――このまま死んじまえよ!!!」
そうか……。
そうか、これは俺が死んだときの……。
――同じ人物に二回殺されたときの……。
情けねえな俺。
実に無力だ。
こんなもんでイーディスの英雄? 笑わせんなよ……。
「ソラ……」
「ソラっち!」
「……ソラ?」
知っている声。
最初に聞こえたのは俺の恋人の声。
次に聞こえたのは可愛らしい町娘の声。
そして、最後に聞こえたのは俺のハーレムを許可してくれた女性の声。
ああ、思い出した……。ここは今俺がいる世界の記憶。
現世の記憶なんてもう関係ないだろ。
――今やらなければいけないこと。
――もっと強く。最強の魔導士に。
――そして、イリスを救うことだ。
青白い光が射した。少年の目の前から漆黒は青に侵食されていく――。
*
――気付くと知らない地に立っていた。
奥行きが見えない何もない青々とした地。足元に床すらなく、浮いているような感覚。
無の空間でソラだけの実態があった。
(……ここは俺の心の中なのか)
直感ではあるものの、見せられた悪夢から想像できた。
自分が創造してしまった心の中なのだと。
と、後ろから人の気配がする。突然現れた気配はソラにゆっくりと歩を進めながら歩いてくるのを感じた。恐れる心なくソラは後ろを振り向いた。
「誰だ……。お前は……」
人というべきなのだろうか。ただ、人の形をしただけの漆黒の影の姿はそこにはあった。黒の奥に空間の青の色が透けてみえる。――半透明の人影といったところか。
「よう……」
人影から声がする。
ソラは目を大きく開いた。その声は自分そのものの声だったからだ。
(……まあ、無理もないか)
「よう……俺」
「俺は俺自身に眠る裏の力だ」
遅れました。
7月上旬までは投稿頻度さがります。詳しい投稿予定日は本作のあらすじをご覧いただけると助かります。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
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