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第29話 魔導書と魔王

 少しこけた顔をした美顔白髪の男性はロギルスといった。

 召喚魔導師の神と称された神なのだが、その顔、容姿はほとんどの人は見たことがない。人前に出ることはあるのだが、全身を雲で多いその身を隠していたとされているからだ。

 そして今、ロギルスは目を覚ました。


「お久しぶりです……ロギルス様。ずっと、ずっと待っていたのですよ」


 涙を流しながら白髪のアイリスは手で目を拭いながら告げる。


「すまない。あの日……突然、姿を消してしまってな……」

「いいえ。いいんです。ロギルス様のことですから……。詳しい事情なんて聞きたくありません」

「……アイリスよ。魔力の調子はどうだ」

「良好といっていい程調子がいいですよ」

「ははっ。そうかそうか。よかった……」


 と、その感動の光景を見ていたイリスは一歩前に出た。そして、ロギルスに向かって深く一礼をした。


「ロギルス様。このような私がと無礼なことは承知しております。私はイリス・エーヴェ――」

「ああ、知っている。イリス・エーヴェルクレア。アイリスの妹なのだろう。まあ、そう固くならなくてよいわ」

「は、はあ……。ご存知でしたか」

「勿論、神薙ソラとミリィ・リンフレッドのこともよく知っている」


「まっ、まじすか!」

「あ、ありがとうござい……ます!」


 ソラとミリィは神様に自分たちの存在を認知されていただけで驚愕の色を隠しきれずにいた。

 ロギルスは一つ咳ばらいをして――。


「うむ。何か聞きたいことがあるのだろう? アイリスよ」


 アイリスは自分の心が読まれ目を大きくしたが、すぐに平常心に戻り、抱えていた一冊の魔導書をロギルスに手渡した。

 と、ロギルスは一瞬驚いた顔を見せたが誰もそれに気づかない。


「……魔導書か。懐かしいな、あの頃アイリスに渡したものだな」

「はい。この魔導書……何でしょうか……。ロギルス様の魔導書とは思えない程あまり魔力効果が見られないのです」

「この魔導書にはわしの意志が封印されいる……」

「意志?」


(嘘だな……)


 ソラはすぐにそう感じた。


(目が右上を向くのもそうだし、まばたきが多いな。人ってのは緊張すると、脳内のドーパミンってのが増えるっていうからな……。甘いぜ神様よう! まあ、アイリスには黙っておくか……。事を大きくするのも好きじゃねえからな)


 現世モラルで得た知識を心で考えながらロギルスの行動を観察していた。

 刹那、ロギルスがソラをちらりと見た。ソラは背筋を凍らせたが、ロギルスの視線はアイリスに戻った。


「なぜ、ロギルス様が私なんかに意志を託したのですか?」

「アイリスを……信じていたからだ。出会ったときからアイリスの魔力は計り知れない程希少で儂が背負う……そう決めたからだ」


(嘘丸出しだぜロギルス様よう。まっ! 人には語れないものはあるよな……)


 ソラは一人でこくりと頷くが、ミリィが隣でその姿を見ていると疑問を抱きながらじっと見ていた。


「なっ、なんだよ……」

「ううん。何でもない。ソラっちが何かニヤけてたから……」

「おっ、俺! ニヤけてたの!?」

「まっ、まさか! ソラっち、私の胸を見て発情したの?」


 それを聞いてソラの頬は赤くなった。そして、イリスの視線が気になる。


「ミリィちゃん!? 何言っているのっ!? って、てか、こんな話イリス何かに聞かれたら……」

「ごめんごめんソラっち。からかいが過ぎたかな?」


 小声でこそこそと語りあっていたソラとミリィをイリスが睨んでいた。幸い、会話内容は聞かれていなさそうだったので、ソラとミリィは笑みを送った。と、イリスも笑みを返してくる。別の笑みが込められていそうだ。


「ロギルス様。その……先ほどからロギルス様の魔力を感じられませんが」


 異質な質問に一斉に沈黙した。場の空気を一瞬で変えてしまう質問となったらしい。

 ロギルスはそれを聞いて下を向き、黙っている時間を設けられた。


「儂は……魔力を使えなくなった……」

「…………」


 唐突なその答えに返す言葉を失う。と、ソラは先陣をきって、


「それはどういう……。ロイド・イスタンベラと関係でもあるんですか?」

「儂の魔力……いや、魔法は……。ロイドの完全吸収によって失われた……」


「完全……吸収……だと……?」


 ソラは言葉を詰まらせる。


「儂は短期間だが、ロイドと接触をしていたのだ……虚無の棺桶(ボイド・コフィン)によるイーディスの火災事件から……な」


 そこにいた全員が目を大きく開いたのは当然のことだった。


「ロギルス様……。それは虚無の棺桶(ボイド・コフィン)の大犯罪者をかくまっていたってことなのですか?」


 アイリスが恐れながら言葉を重ねる。


「捉え方によってはそうなってしまうのかもしれない。……儂はロイドを自らの手で別世界から召喚した」

「……は?」


 その言葉に大きく影響を受けたのはソラだった。

 召喚した? 別世界から?


「神のおきてに召喚された者は死なせてはならないというものがある。儂は何度もロイドを元の世界へ逆召喚しようとした。……だが、できなかった。奴の魔力の方が儂の魔力より遥かに超えてしまったから……だ。掟を破れば神としてはいられなくなる。それを覚悟で何度もロイドを殺そうとした。だが、奴の力は大きすぎた……」

「なるほど……ね。じゃあ、ロギルス様っちは何のためにロイドを召喚したんです?」

「それ……私も気になるわ」


 ミリィの問いかけにイリスも便乗した。ソラは続けてこくりと頷く。



「この3年以内に……魔王が復活するからだ」



「…………」

「魔王……だと……?」



 ――魔王。それは、すべての魔物を超越した存在を指す。どの魔物よりも強く、世界を絶滅の危機へと追い込んでしまうほどの強さを誇っている。

 緊張感がほとばしる中、アイリスは椅子から立ち上がった。

 勢いで木製の椅子ががたんと倒れる。


「詳しく……お聞かせください」

「300年前になるが魔王はある一人の男が倒した。その男の正体は未だ知られていないのだが。……この世界では、魔王は何度も蘇っている。そして、次に蘇るのはこの3年以内と神々の間で絶対的な決定が行われた。――そこで優秀な人材になるであろうロイドをこの世界に召喚してしまったのだ」


「ごめんなさい。私達、ロギルス様を疑ってしまったみたいで……」

「私からもお詫びを……」


 イリスとアイリスは姉妹揃ってロギルスに頭を下げる。

 と、ロギルスはベッドから立ち上がり頭を下げたのだ。


「ロギルス……様?」

「神様であろうお方がとんでもないですよ!」


「いや、いいのだ……。頼む、ロイドをお前たちの手であやめてはくれぬか」


 数秒の沈黙。重い空気だけがそこにいた人を刺激していた。

 召喚した人を殺すのは神の掟に反する。無論、ロギルスは神としては生きられなくなる。



「いいん……じゃない?」



 と、先走ってそう答えたのはソラだった。アイリスは目を大きくしていたのだが、イリスとミリィは笑っていた。


「うん! ソラっちの言う通りだよ!」

「そうそう! これだからソラなんだよ! ……いいでしょ? アイリス」


「……ええ、しかし、ロギルス様は神様の座を――」


 ロギルスは頭を上げてにこっと笑った。



「構わない……。すまない。そして、ありがとう……」

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