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第28話 愛しき召喚士見習い

 少女がいた。

 生まれて間もなく10歳にも満たないような可愛らしい少女。透き通った白髪を持つ清楚な少女が――。


「アイリスよ。わしのような召喚魔導師になりたいのならな……」


 川を眺めていた少女は一人の男の声に呼ばれてその綺麗な髪をなびかせながら振り返る。優しい風に吹かれ、周囲の木々も悉く美を訴えている。


「魔法詠唱を覚えようか……」

「はい! ロギルス様!」


 若い容姿のその男は少女と同様の白髪を持っている。その男は成人未満の若々しい肌を持った美少年といったところか。

 男は少女に笑みを浮かばせる。


「アイリス。ちょっと見ていてくれぬか?」

「ロギルス様の魔法が見れるんですか!?」

「ああ、そうだ……。よく見ているのだぞ?」


 そう言い残すと男の手の平に一冊の本が魔力と共に現れた。その本の中身は空白しろのままで何も書かれていない。

 男の周囲に聖なる神秘的な魔力が浮遊し始めた。


「降臨せよ。黒き暴食の英霊よ。し漆黒の汝は、我が身を滅ぼさん。シャドール!」


 魔法詠唱と共に川ど真ん中に黒い人影の魔物が召喚された。川岸の上方に位置する橋の高さを軽々と超えて堂々と現れる。


「わあ……!」


 突然、現れた魔物の勇ましき姿に少女は目を奪われた。


「この魔物は、比較的難易度は高いがこれは魔法詠唱と言って、召喚魔導師はこれなしには魔法は使えづらいな……」

「ロギルス様は、その……魔法詠唱なしで魔法が使えるんですか?」

「まあ……な。だが、儂が見込んだ君もできるようになるさ……」

「本当!? ……なんですか!? やったあ! ロギルス様に認められた!」


 と、男は少女の清楚な白髪の髪にポンと手を乗せる。少女の頬は赤く、男に憧れ……いや、尊敬の目を誠実に向けていた。


「だがなアイリス……。燃えたっていい……、だけどな、召喚士の道は苦しいときもあるだろう。失敗は考えるなよ……成功したときのことだけ考えたまえ。そうすれば、いつかは天からの恵みが降りかかるだろう……」

「はい! ロギルス様!」


 暖かい空気が肌を触り、眩しい太陽の光が木々の間から射し込んでくる。初々しい雰囲気が少女にはたまらないほど好きだった。


「そうだ……アイリスよ……」

「なんでしょう?」

「この魔導書を授ける……。だが、絶対なくすんじゃないぞ?」

「えっ! いいんですか!?」

「ああ、いいだろう。君が儂の継承者になりたまえ」

「わあー! ありがとうございます! 大好き! ロギルス様!」


 少女はまだ幼い無邪気な笑みを男に向けた。



 

  *




「ん、んん……」


 むにゅっ。

 王都イーディスエリー《クレア学院》に帰ってきたソラたちは、寮の中で新たな朝を迎えた。疲れきったその体を癒すべく、昨晩は早めに夢の世界へとダイブした。

 火竜の討伐の報酬は貰ったのだが、討伐したという証拠は虚無の棺桶(ボイド・コフィン)元マスターのロイドにより消滅。100,0000エリーの報酬だけ貰って帰国した。アインベルクの騎士団長レントは幸い無事だった。右腕は亡くしても平常心をやや保てていると報告が入っていた。

 ロイドは逃亡したが、現在アインベルクの警備隊が派遣され、調査が行われている。ロイドは元々、最悪の指名手配犯とされていたのだが、より一層警備の目が大きくなった。


 と、ソラの顔に当たるこの柔らかい感触。

 ――考えるまでもない、もうわかっている。だが、


(大きい!? あれ……いや、待てよ。イリスじゃない? この感覚は……)


 ゆっくりソラは目を開けた。その目に映ったのはライトブルーの髪を持つ巨乳で小柄な街娘の姿。


(ミっ、ミリィちゃんがなぜここに!? 確かここはイリスとの相部屋で誰も入ってこれないんじゃ……)


 ソラはその胸の感触から離れようとしたが、離れない。頭部はミリィの両腕にがっしりと固定されている。新感覚のその感触にソラは顔を真っ赤に染めた。


(息苦しい……!)


「ソラっちこういうの好きなんだね! えっちいよ」

「ん、んぐふ! んんんん!」


(ミリィちゃん、起きてたのかよっ!)


 ソラは慌ててもがく。ソラが頭をちょこちょこと動かすためミリィも我慢が過ぎず、


「んあっ!」


 少しいけない声を聞いてしまったと思って、ソラは硬直した。罪悪感でもない複雑な罪悪感がソラの心臓を刺すような感覚を味わった。

 ――と、その背後から……。


「ソラー? 何してるのかなー?」


(まずいっ! この声!)


 間違いなくイリスの声だ……と悟った。ソラは今度こそ死をイメージしながらも、もがいてしまう。

 

「みふぃーふぁん! ふぁなふぃふぇ!」


 ソラの顔面はミリィの豊満な胸に圧迫され、言いたいことを伝えられない。嬉しい心持ちと恐怖の心持ちがぶつかり合っていた。


「私の胸はソラのものだから!」


 イリスが急に叫んで、一緒になって寝ころび、ソラの後頭部から胸を押し付けた。


(おいおいおいおいおいーーーっ!? 何故そうなる!?)


 前からも、そして、後ろからも胸が押し付けられソラの心はずたぼろにやられた。


 ――ガタン!


 と、急に寮部屋の扉が力強く開く音がした。3人はその音に背筋をビクンとさせた。

 そこに立っていた女生徒……青髪ショートのセリーヌ・アレストレイだ。


「なーにしてるんですかー?」

「あぁ、これはセリーヌっち。待って。これは、ちが……」

「私はその……だな……つい……」


「《クレア学院》の柱となる3人がこんなところで朝から破廉恥やってどうするんですか!?」


 セリーヌの叫び声が寮全体に響き渡った。

 3人はセリーヌの長きに渡る説教を受けた後、下級生の恐ろしさを知った。




  *




 《クレア学院》には、ベッドがたくさん並んだ部屋がある。

 アイリスは、一人の眠ってしまっている男を目の前に一冊の本を抱えながらずっと見つめている。


「ロギルス様……。何故目をお覚ましにならないのですか……」


 ただただ涙を流しながら目の前の人物を想っている。想っても想っても目を開けない。

 時間が経てばまた、不安が募るだけだ。


「まだ、あなたに教わってないことがたくさんあるんです……」

「アイリスさん、神様なら大丈夫だと思うぞ。これでも、召喚神となったお方って言ってたんだし」

「私もそう思うよ」

「ミリィも同じく!」


 アイリスはソラとイリス、ミリィの言葉を聞いて目を手で拭った。そして笑みを見せた。


「そうですね……。ごめんなさい。泣くだなんて……ロギルス様に失礼ですよ……ね」

「アイリスっちとロギルス様ってどんな関係なの?」

「ロギルス様は私の幼少期からの師匠に当たるお方です。まあ、イリスと顔を合わせたことのないお方ですが……ロギルス様は特定の人以外、一切関係を持たなかったというので。それと、この魔導書は私がロギルス様から授かったものなんですよ!」

「そうなのか! 神様から魔法教わるなんてすごいじゃないか!」

「ふふっ。ソラには及びませんよ。ソラには正直負けてしまいます」

「いっ、いや! 俺はそんな!」


 ソラは焦りながらも少々気恥ずかしかった。異世界に来てまだ1か月も経たない自分を疑ってしまうほど、自分の力を信じ切れずにいた。


「アイリスさんはその……。どうやって神様なんかと出会ったの?」

「それが……。普通に道を歩いていたら拾っていただけたといいますか……」


(神様って気まぐれなのかっ!?)


 ソラがそう心でつっこみを入れたときだった。



「久しいな……アイリスよ」

 


 不意に声がした方向を見ると、間違いなく白髪のロギルスだった。



「ロギルス……様……」


 

 アイリスは、また、その嬉しさに涙を流した。

第3章スタート!

結構濃い内容となってきますのでこれからも是非よろしくお願いします。

第2章の章末で述べた章タイトルとは異なってしまいましたことをお詫び申し上げます。

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