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第27話 復讐の瞳

「よう……久しぶりだな」


 ソラは自分を無造作に刺激する恐怖を押し殺して、嗤う。

 

「ほう……俺の姿を見たわけでもないのに、知っているとな」

「ああ、俺はお前の魔力を知っている。王都イーディスエリーでデリエラとの戦闘をずっと監視していた魔導師だな」


 ――赤髪の男。片目が金瞳の男。

 確かにその姿形は一度も目をしたことがない。が、この邪悪なる魔力。微かに自分と似た魔力を感知できる。イーディスエリーに最悪をもたらした最悪ギルド、虚無の棺桶(ボイド・コフィン)の元幹部2人との戦闘――。その後で姿を現した人物といって間違いはなさそうだった。


「ソラ。私はあの男を知っています。勿論、イリスも……それにミリィも知っているでしょう……」

「貴様は……? ああ、アイリスじゃないか。久しいね」

「慣れ慣れしくしないでっ! この外道!」


 アイリスが叫んで、赤髪の男をギロっと睨みつける。その空気に心臓をえぐるような緊張感が迸る。


(……復讐の目……)


 初めて目にするアイリスの鋭い復讐の目がソラの身体からだを硬直させた。

 ――気付いたとき、ソラの周りからイリスとミリィの姿は消えていた。


「イリス!? ミリィちゃん!?」


 赤髪の男に迫る二つの影。


「ロイド・イスタンベラァァァァァァァァァァァァ!」

「くだばれェェェェェ!」


 そして気づく。薄桜色の髪とライトブルーの髪の少女、イリスとミリィが赤髪の男に迫っていることに――。


「――紅窮の神槍(オブリアス・モア)!」

「イン・デル・イル・セル!」


 イリスの右手から放たれる柱状の炎と、ミリィの鋭く変化する風の辻斬りが赤髪の男に接触させる。

 赤髪の男は何も動かない。

 ――が、炎と風は儚く、そして、一瞬にして消滅した。同時にイリスとミリィは見えない衝撃に弾き飛ばされる。


「……何が起こったんだよ。――イリス! ミリィちゃん!」


 ソラは焦燥感を覚え、二人の少女の元へ駆け付ける。


「ソラ……。早く逃げて……。アイツは……魔法を……」


 そう言い残してイリスは気絶する。


「イリス! イリス! ……クソッ!」


 ソラはイリスの身体を地面にゆっくり降ろした。ミリィの方向を見たが、息を失っている。


「そうか……そういうことだったんだな。……虚無の棺桶(ボイド・コフィン)のマスター、ロイド・イスタンベラ」

「何だ……そこまでそこまで分かっていたのか。だが、知ったところではどうにもならない。……世界は物語のようにシナリオはないのだからな……」

「それ以上喋んなよ! ここで、イリスの仇を取らせてもらう!」


 一気にロイドの元へ走り出した。


「ダメです! ソラ! ……今のソラでは、ロイドには勝てない!」


 アイリスは目を不安と恐怖の涙で濡らしたまま叫ぶが、その声はソラの耳には届かなかった。


「……どうした、怒りで頭が真っ白になったか?」

「……っ!」


 気付いたころはもう遅かった。ソラの背後にはロイドが回っている。


(いつからそこにいたんだよ……畜生!)


 と、ロイドはソラの紅血の剣ブラッディ・クレイモアに素手で触れる。


(こいつ……何をしてんだよ!)


「そんな作り物でデリエラを倒したとか……笑わせんなよ」


 ソラの紅血の剣ブラッディ・クレイモアは一瞬にして消滅した。

 ロイドはソラの頭部を左手で掴み、軽い力で真下に押す。

 ――ソラは体ごとすさまじい威力で地面に叩きつけられた。地面には大きな亀裂が幾つも入り、3Mにも及ぶ大きな窪みが発生した。


「くあっ!」


「ソラァァァァァァァァァァァァァァァァ!」


 アイリスの叫び声だけが溶岩島を響かせた。


「――降臨せよ……」

「おっと、アイリスをるのだけは困るな……。貴様の力が必要不可欠だからな……」

「どういうことです……か」

「それは、言えるはずがないだろう」

「言う気がないならあなたはここで終わりです! ロイド!」


 イリスは開いていた本を巨大な音を立ててバンと閉じた。

 ――その音と同時に、ロイドの足元の地面が一気に崩れる。溶岩島が崩壊するかのような勢いで大きな地鳴りと共に、溶岩が噴き出した。


「ほう……。召喚魔導師の魔術は恐ろしいな……。本来、長い魔法詠唱に備えて覚えるものと聞く」

「堕ちなさい! 地獄の底へ!」


 崩壊する足元から噴き出した溶岩がうねるようにロイドに向かう。

 ――が、ロイドの周辺に無重力空間が発生し、溶岩を避けている。


「ミリィの魔力!? ……まさか、あの時に魔力を吸収したんですか」

「その通りだ。さすがは長い付き合いだけあるものだ。愛するアイリスよ」


 と、溶岩は一気に風でかき消される。


(これはまずい……ロイドの魔力無効化吸収能力に勝てるのは魔力でもない自然の溶岩だったと思ったのに、それが効かない……。もう、成す術は)


 気付いたとき、ロイドはアイリスの目の前にいた。


「アイリス……貴様は誰にも渡さない……」

「何を――んあっ!」


 ロイドはアイリスの唇に自分の唇を接触させた。


「んん……ああん……」


 ロイドの右手が、アイリスの尻を通り、正面の上半身をゆっくり上に、胸を通過して撫でた。ロイドが唇を話すと、白く光った糸を引いた。

 アイリスの体の中にドクンと何かが入り込んだ。が、アイリスはそれに気付くことなく、地面に両膝をつく。ロイドは少し後ろに跳ぶ。


「そうだアイリスよ。手土産をやろう。貴様の師匠に会いたくはないか?」

「まさかあなた……」

「ああ。そのまさかだアイリス」


 ロイドが巨大な魔法陣を召喚させると、その魔法陣から一人の人間……いや、《神》が浮かび上がった。

 全身から大量の血を流し、容姿は若く、短い白髪の人影だった。

 ――それを見た刹那、アイリスの瞳から数えきれないほどの涙が流れる。怨みと悲しみと憎悪が入り混じった涙が、一滴、また、一滴と地面に落ちていく。


「目をお覚まし下さい……。ロギルス様! ロギルス様ァァァァァァァァァァァ!」

「また、近いうちに会おう……愛しのアイリスよ」


 ――ゴオオオオオオオオォォォォォォォォ。


 無数の岩石が一気に浮かび上がった。溶岩島が怒ったかのように見えた。

 が、それはアイリスの魔力が暴走を始めたことだ。


「殺してやる……。殺してやる……。殺してやる!」


 喉が殺されたかのような声で、ロイドに吐かれた。


「ふん……」


 ロイドは紅の魔力と共に、消え去った。



 全てを失ったかのような思いを感じながらアイリスは無気力感を覚えた。崩れそうな心は、本当の愛を忘れる。救われなかった体は暴走した魔力と共に、機能しなくなる。アイリスは地面に身体をつけた。

 未だに吹き上がる溶岩は崩壊した溶岩島と共に、憎しみを共有する。置き去りにされたかのように騎士たちは、体を動かすことすら許されない。

 

 ――灼熱の地は、いつまでも、倒れた身体を焼きながら自然のままに生きようとする。

 すっきりしない終わり方になってしまいましたが、これにて第二章『アインベルク王国』篇は終了となります。ここまで読んでいただき本当に感謝申し上げます。

 次回から第三章『虚無の回廊』篇に突入です。

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