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第21話 咆哮は遠く

 ――アインベルクの城の地下に大きな空間がある。

 その部屋は代々戦闘訓練のために利用されてきた。アインベルクの騎士団の戦闘訓練もここで行われている。


「さあ、来てください。ソラさん」

「手加減なしで行きますぜ!」


 ソラは紅血の剣ブラッディ・クレイモアを、レントは右手に黄金のランス、左手に巨大な黄金の盾をを持ち、鎧をまとっている。


「はあァァァァァァァァァァァァァ!」


 ソラは勢いよく剣を水平に構えてレントに向かって飛ぶ。


「うちの神薙流味わってみてください!――仙鶴ノ雨(せんづるのあめ)――!」

(なっ、止まった!? いや、違う。これはっ!)


 レントが気付いたころにはソラは目の前だ。ソラは漆黒の剣を腕で返し、レントの槍を滑るようにして鎧に突き立てた。

 レントは後ろに3M押し出された。鎧に剣の跡、傷が残った。


(鎧がなかったら……俺は死んでた……。あの剣筋……全く動きが読めない。さっきのは何だ。俺のランスに剣を触れさせずに流れるように攻撃したというのか?)


 と、ソラは剣を左手に持ち替え、右手に漆黒の魔力を集中させた。


「よそ見はいけないですよ! 騎士団長さん!」

(カウンタだと!? ……それに、剣を使わずに素手で俺の黄金魔法に立ち向かう? 馬鹿な!)

「――兇閃牙迅拳(きょうせんがじんけん)――!」


 ソラの右手は確実にレントの鎧の傷にヒットした。当たった刹那、爆風のようなすさまじい風が立ち起こる。


「くあっ!」


 レントの鎧は木端微塵に粉砕。レントは何回か地面にバウンドしながら、30M程突き飛ばされた。

 ランスを地面に突き立てながら飛ばされる距離を抑えた。


「やはりソラさんはイーディスの英雄なんですね! 僕も攻めに出てみましょうか」


 ソラは真剣な目でレントの出方をうかがった。

 レントはランスの持ち方を変え、肩のあたりまで上げたところ、ランスを後ろに引いた。


「飛べ、ディスバーストォォォォォォォォーーー!」


 魔力を込め、すさまじい速さでランスをダーツのように飛ばしてくる。


(やべ、これは――! まじで死ぬ!)


 ――刹那、飛ばしたはずのランスが一瞬にして消え去った。

 いや、消え去ったのではない。飲まれたのだ。

 漆黒の闇の魔力の波動がレントに向かって放たれる――。


(嘘だろっ!?)


 レントはとっさに巨大な黄金の盾で漆黒の波動を防ぐ。


(――この魔力量……とんでもない!)


 後ろを振り向くと、部屋の半分がボロボロに崩れていた。ダイナマイトが一斉に爆破したような残骸がそこにはあった。半壊した部屋に天井の大理石が落下する。


「ソラさん……。今何を」

「いや、自分でもよく……」


 レントの顔は驚愕の色から、歓喜の色に変わった。


「これですよソラさん……。人間は本当の死を想像すると真のイメージが沸く。全てを消し去りたいイメージが魔力として具現化したんです」

「それって!」


 ソラは初めて魔法を使ったときのイリスの言葉を思い出した。


『――イメージするの。誰よりも強い自分を――誰よりも最強の自分を……』


「イメージ……ねえ。あいつもそんなこと言ってたっけかな」

「はい。この力があれば火竜の討伐なんて苦ではないでしょう。ソラさんの一番の欠点は魔力の制御コントロールができていないこと……。まずは、己の『本当』を生み出し、それを制御できるようにする。それが魔導師としての基本なんです」

「分かりましたぜ! 引き続き鍛錬お願いします!」

「ああ、いや、ちょっと休憩を――。ソラさんの攻撃強すぎるんですよ」

「す、すみません……」


 ソラは苦笑しながらレントに謝る。ソラの笑みにつられてレントも苦笑した。


(――剣術だけでは、この先はダメ。そんなのは分かってる。……俺は、救わないといけないんだ。イリスを――)


 ソラは拳を強く握りしめる。




  *




 ――アインベルクの城 会議室

 その会議室にはアインベルク王国の国王アインストをはじめとする総勢10名のお偉いさん達がいた。その中にはイリスも含まれている。


「では、作戦会議を始める――」


 アインストがそう言った後、レイフェル王女が紙を見ながら、


「溶岩島に行くにはやっぱり船使わないとね。アインベルク王国を北に行くと海辺の小さい村があるからまずはそこまで行かなくちゃね。そこで、有名な船職人さんに熱耐性のついた大きめの船を生産してもらう感じだよね。溶岩島は広いから頑張ってちょうだいね。当日は、私と兄上は行けないから残念だけど無事に帰ってこれるように祈ってるわ」

「王女様一つ質問が」

「どうぞ」


 挙手したのは年をとった白髪の男性だった。


「溶岩島に人間が入るのは少しこんなんかと……」

「それは、問題ない」


 そう告げ口したのは筋肉質のごつい男性だ。


「アインベルク騎士団の中には、冷却魔法を使える優秀な人材がいる……問題はないだろう」

「おお、そうかそうか。わざわざ王女様に聞くようなことではなかったか。申し訳ございません」

「いいのよいいのよ」

「ははあ」


 王女レイフェルが微笑みながら許しを送ると、眼鏡をした若き男性が手を挙げる。


「あのぉ……僕からも提案いいですかねぇ……」

「なんでしょう?」


 レイフェルが発言の許可をしたその時だった。


 ――GUAAAAAAAAAAAAAAAAA!


 突然、アインベルクの城――いや、アインベルク王国全域に魔獣の吠えた声が響く。


「魔獣か……?」

「――いや、魔獣ではないな」


 と、国王アインストが暗い声で言う。


「これは、――火竜の咆哮ほうこうなのだろうな」

「なっ」

「まさか!」

「陛下! 溶岩島は王国より遥かに遠く……」


 全員が驚愕した。突然響く、大きな魔獣の声が溶岩島から聞こえる火竜の咆哮なんて誰も思わないことだ。会議に出席していたほぼ10人がその場でざわついた。その中でもイリスはお偉いさんの空気にうまく馴染めず、怯えながらも息を殺して黙っていた。


「動きが活発になり始めている――もう限界だ。明日にでも騎士団を出発させる」

「そうね……少し予定が狂っちゃうけどそうせざるを得ない状況だね。ソラ君やレント君に報告お願いね」


 国王と女王はそろってその場を仕切った。




  *




 ――アインベルクの城 地下。


「今の……」


 鍛錬の途中だったソラは突然鳴り響く咆哮に疑問を覚えた。当然のことなのであろう。


「そうです……。間違いなくドラゴンの声ですね」

「だったらもう、時間はないみたいだ」


 レントはまた、武器を構える。手に持った長き黄金のランスと巨大な黄金の盾。


「アインスト陛下の命令はすぐに下りる筈です……。それまでに、ソラさんの新技、完璧にします」

「ああ、お願いしますぜ!」


 鍛錬の部屋に鳴り響く金属と金属がぶつかり合う音がいつまでも響いていた。

今週は隔日投稿になると思います。

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