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第2話 漆黒の魔剣

 ソラは《王都イーディスエリー》の中心街にやってきた。


(やはり異世界だなここは。石造建築や木造建築ばかりだ。現世でいう明治あたりくらいの文明か……? まあ、異世界はこんなものだとは分かっていたけど……)


 栗色の髪のソラは、超絶美少女のイリスに服を買ってもらった。

 イリスに呆れられたソラは3倍にしてお金を返すと誓った。

 しっかりとした服を買ってもらう前は布きれ1枚を羽織っていただけだったのでどれだけ街の人に変な目で見られたことか――。


 結局、ソラはイリスと喫茶店で一休みしている。

 喫茶店の仕様は木造で外装も石垣と風情のある一店だ。


(これって、周りから見たらデートじゃね?)


 と、思う。

 現世でオタクだったソラは美少女と喫茶店なんてお決まりのシュチュエーションであると思っている。

 ソラはこの異世界に来て最初に飲んだのはコーヒー(?)だった。

 それに比べてイリスはトロピカルなジュースを上品にストローで飲んでいる。


(異世界のコーヒーは不味い……。けど、異世界の女の子はとても美味しい!)


 馬鹿か。

 とソラは反省した。

 イリスを変な目で見てしまう俺の癖が悔しい。

 

「なあ、イリスは学生なのか?」

「学生……? 学生というかまあ《クレア学院》っていう魔導師学院に通ってるけど――それがどうかしたの?」

「まじで!? いいねそれ! 俺もそこ通えるのか……!?」


 ソラの中で異世界での初めての期待が膨らんだ。

 しかしその期待は、数分もしないうちに終わる。


「無理よ」

「……へ?」

「だって、《クレア学院》の生徒は全員女子だから」


 だがしかし、期待は終わってなどいなかった。

 ソラは開き直る。


「なら尚更じゃないか! 俺は異世界でハーレム・ライフを送りたいッッ!!!」

「ふふっ。やっぱり、ソラってお馬鹿さんでヘンタイなのね……」


 イリスが今日一番の最高の笑みを浮かべた。

 なぜ、笑われたのかソラには想像もつかなかった。 

 地味に変人と思われているのが腑に落ちないが――。


(俺が異世界にいなかったら、この笑顔意地でも盗撮して自分の部屋に永久保存で飾ってたわ。100万円の価値はありそうだな――)


 と、犯罪者じみた思考を持つソラ。

 


 ――が、『災難』は突如起きる。



「きゃーーーーーーっ!」


 ソラとイリスは真っ先に悲鳴に反応し喫茶店の外に飛び出した。

 悲鳴がしたのは二人がいた喫茶店のとなりのレストランからだった。


 ――半壊した石造建築の建物、ソラの目には血を流して倒れた人々の姿が映りこむ。


(おいおい、これって異世界召喚された俺への挑戦状なのか!?)

「ソラ! あなたは逃げて!」


 そんなことを考えてる場合じゃないとソラは反省する。

 『逃げて』……? そんな言葉はソラには通用しなかった。


「イリスは逃げないのか?」

「ええ。私には魔導師として闘う義務があるから!」

「……魔導師? イリスは魔法が使えるのか!?」

「魔法を使えない一般人は早く逃げるの!!」

「いいや、俺は女の子を置き去りにして逃げない主義でね」

「もう! 面倒くさいただのヘンタイお馬鹿さんなんだから!どうなっても知らないよ!?」

「いいぜ。責任取らないといけないんだろ…?」

「なっ!」


 『責任』と聞いた瞬間、イリスの頭の中に『ソラに全裸を見られた』ときのことが蘇る。

 故に、イリスの顔は真っ赤に染まっていた。


 ――刹那、半壊したレストランに漂う白き煙の奥から男の人影が一つ。


「あれは、ウェイター? ――まさか、自らの客を殺したのか……?」


 とソラは呟く。

 隣にいるイリスも歯を食いしばって構えている。

 そこには短剣を胸に突き刺された店員の姿があった。


「俺はウェイターなんかじゃねえよ。ただ変装してただけだ。お前らどうせ、俺の正体を聞いてくるだろうが、俺から言うことはなんもねえよ!」


 と男が言った途端、イリスの周囲の空間に数十の魔法陣が現れた。


「なら、仕留めるまで! 喰らいなさい――紅焔繚銃火エターナル・ガンファイア――!」


 イリスが技名らしきものを叫んだ時、目に見えない速さで魔法陣から炎の塊が放たれ、男を直撃。

 すさまじい衝撃(インパクト)で爆炎による強い風が当たり一面に広がる。


「すっ、すげぇ……。人は見かけによらないってこういうことを言うのか――。」


 ソラは感心した。

 本当は感心している場合ではないが。

 炎であるものの美しい軌道を描いて飛んでいった。

 ――男がいた場所の煙が薄くなってきた。


「嘘……でしょ……!?」


 男は倒れていない。

 そして、イリスが何よりも驚いたことが男の服が全く汚れていないということだ。

 と、男の周りには光の(バリア)が召喚されていた。


(おいおい、あの技を受けて傷一つ与えられてないとか何者だよアイツ……!)


「確かに威力はいい……。けどおせぇよ! そんなものでよく魔導師をやっていられると感心してしまうくらいだぞ、女」


 負けず嫌いなイリスは男の挑発を聞いて強く唇を噛みしめた。


(至近距離なら…)


 と、イリスは一歩で男に向かって跳んで一気に距離を詰めた。


「――紅窮の神槍(オブリアス・モア)――!」


 イリスの右手に半径1M級の魔法陣が出現し、一気に巨大な炎の柱が男に向かって突き出される――。


 ――が、男は軽々とイリスの技を避ける。


(……嘘!)


「だから、遅いっていってんだろ。くたばれ女!」


 男は空中に跳んだまま、後ろからイリスの腹を剣で貫いた。

 ――剣は貫通する。

 イリスの腹から血飛沫が舞った。


 ――彼女は倒れた。


「イリスッ!!!!!!」


 ソラは必死に走った。

 美少女な彼女を一番に心配して。

 そして、彼女の体を抱き上げる。

 何度も何度もイリスの名を叫んだ。

 自分の無力さが焦燥感を煽る。


「おかしいな……。いつもは一撃で仕留めるのにねぇ……」


 腹を貫通された筈のイリスはソラに向かって微かに笑った。


 ――笑っているのだ。彼は何かを託されている。

 ――そんな気がした。彼は決心する。

 ――アイツを倒そう。彼は尋ねる。


「なあ、イリス。魔法を使うにはどうしたらいい……?」

「どこまでいってもソラは馬鹿なんだから……。――イメージするの。誰よりも強い自分を――誰よりも最強の自分を……」


 ――誰よりも最強の自分……。

 ――そうか……。


 ソラはイリスを壁まで運び、下した。

 そして、男に向かって自分の体と垂直になるように手をかざした。


「なんのつもりだ……」


 ――俺は強い。

 ――最強の魔導師になる。

 ――誰にも屈しない最強に。


 数々のアニメを見てきたソラには、最強の自分を想像することなどたやすかった。

 そっと目を瞑り、最強の自分をイメージする。


「来い……。漆黒の魔剣――紅血の剣ブラッディ・クレイモア――!」


 ――嘘みたいだ。まじで魔剣が召喚できるなんて!


 そう。

 嘘みたいに魔剣《紅血の剣ブラッディ・クレイモア》は現れた。

 剣の全身が漆黒の色をしていて、所々に赤い筋が入っている。

 剣からは漆黒の煙が流れ出ている。


「なんだよ、なんなんだよその魔力量は!あの女の10倍はあるぞ…!」

「どうやら俺は《最強》になっちゃったらしいんだわ……。見せてやるよ、俺が現世(モダン)で極めた《神薙流(かんなぎりゅう)》の剣技をよ……」


 ソラはいい気になってそう言って、静かに男に向かってゆっくり歩き始めた。


(ちっ。まあ、魔力はあっても、実力は俺の方が上だ。問題ねぇ――)


 男は剣に最大限の魔力をこめた。

 男の剣からは、白く光る魔力のオーラが流れ出す。


「オラァァァァッ!」


 男はソラに向かって剣を突き出す。

 ――そして、剣はソラを貫通した。


 わけではなかったようだ。

 ソラの体が男をすり抜ける。


(何だ今のは…!)


「――抜刀襲神影ばっとうしゅうじんえい(まい)――。どうした?もう斬っているぞ」


 気づいた頃にはソラは男の背後に回っていて、気づいた頃には男の体を斜めに切り刻んでいた。

 ――刹那、大量の血が男から噴き出す。


「《神薙流》の抜刀術だ。瞬時に相手の死角に回り、生物が気づかないうちに死へと葬る」


 男は地面に倒れこんだ。

 ソラは魔剣を消す。

 自らの魔力を解除して。


「イリス、大丈夫か? 今すぐ病院に……って、異世界に病院なんてないか……」

「あ、ありがとう……。強いんだね……。お馬鹿ヘンタイのくせに……」

「その『お馬鹿ヘンタイ』とか傷つくな……。可愛い顔が台無しだぜ」

「……馬鹿」

「まあ、とりあえず生きてるしひとま……」

「ソラ! 後ろ!」


 ――気づいた頃には遅かった。

 ――すでにもう、剣はソラの『心臓』を貫通していた。


「油断したな……小僧」


 ――ソラから多量の血が流れ出す。

 

(俺は……死ぬのか……?)


 来たばかりの異世界を最期に見たままゆっくり目を閉じた。

 あれ。体が。

 

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