第18話 城の晩餐会
――アインベルク王国。
ソラとイリスは専属メイドのエイナに誘導され、アインベルクの城の豪華な廊下を歩いていた。
「メイドさんは普段は何してるの?」
「ちょっと、ソラ!? 聞いていいことと悪いことが――」
「わたくしは城の風呂掃除や皿洗い、夕食作りなどメインに行っております」
ソラの問いを止めたイリスだったが、それを押し切ってエイナは答える。
「へえー、やっぱり! メイドさんって王様のご奉仕とかしないのか?」
「わたくしのようなメイドの底辺なんかが陛下のお手伝いなんてとんでもないですよ!」
「そっ、そうか……ごめん」
「いえいえ、構いませんよ。ソラ様は今日、こうやって王国に招待されたお客様です。なんなりとお申しつけくださいね」
ソラとエイナとの会話をイリスがジト目で睨んでいた。
「イリス? どうかしたのか?」
「ちょっと、エイナさん? さっきから、おっぱい揺らしながら歩かないでもらえます!? ソラを誘惑したって無駄ですからね?」
突然、イリスが大きな声でそう言いつけた。思いもしなかった言葉にソラは驚く。――メイドのエイナは少し半泣きになって、
「もっ、申し訳ございません! はしたなかったのでしょうか」
と、後ずさりしてエイナはイリスに向かって土下座した。
――ソラはイリスの胸とエイナの胸を交互に見て、何かを理解して一つうなずいた。
エイナの胸は巨乳と言ってもいいほどだったが、それに比べてしまうとイリスの胸は……。そんな貧富の差が女性同士には起こり得るのだろう。
「うふふー、ソラ。どうかしたのかなー?」
ソラは背筋が凍りそうになったのを感じた。イリスが棒読みで笑っている(!?)のは大体そういうときだ。
「ごっ、ごめんなさいー!」
エイナに続いてソラもイリスに向かって反射的に土下座してしまった。
――と、奇跡の土下座コラボ―レーションが出来上がった。
「顔をお上げなさい」
イリスの声に二人は反応して顔を上げる。
「さあ、いきましょ?」
(めっ、女神だっ……)
イリスの輝いた眼差しが二人の心を浄化した。わけが分からない時間になったが、意味のある時間でもあったと確信した。その理由は後になっても分からないままでいた。
*
「椅子に座っていらっしゃるお方が、アインスト・アインベルク陛下。その隣で立っていらっしゃる方が、陛下の妹様にあたるレイフェル・アインベルク第一王女です……。わたくしは中には入れませんのでここからはお任せします」
エイナはそう言って、大きな扉を開ける。
――ソラとイリスの心を駆け巡る緊張感がピークに達した。
ギィィィィと音が鳴る。そのせいか、何気ない音でさえも重く感じる。
「よく来た――神薙ソラ殿、イリス・エーヴェルクレア殿」
椅子に座った陛下に向かってソラとイリスは同時に一礼して部屋の中央まで歩き、片膝をついた。
国王アインストがいたその王室は城のロビーよりも遥かに大きく、豪華な空間となっていた。
アインストは王様らしい服装を纏い、やや長めの金髪が存在感を大きくしていた。
アインストの横に立っていたのは、アインストの妹にあたるレイフェルだ。レイフェルは同じく金髪ロングで前髪をストレートに垂らした王女編みチックな可愛らしい髪型になっていた。とても美人だ。
「王都イーディスエリーから参りました神薙ソラと申します」
「同じくイリス・エーヴェルクレアと申します」
緊張感が走る重い空間――。
二人は身分差によるプレッシャーで押し潰されそうになっていた。
「はっはっは。よいよい。そう固くなるな。顔を上げよ、お二人共よ――。汝らはイーディスの英雄だ。俺との身分なんて同じようなものではないか」
突如、アインストは陽気に笑って王室の空気そのものを変えた。
「しかし!」
イリスは顔を上げてそう言った。
「ごめんねー。兄上ったらこんな性格だから」
と、アインストの隣にいるレイフェルが両手を合わせて笑顔でそう言った。
「おっ、王女様!」
「ばっ、馬鹿ソラ!」
ソラは突然立ち上がり、レイフェルの前に駆けつけた。ソラの謎の本能が働いてしまったのだろう。
ソラはレイフェルの手を両手で掴んで。
「王女様! おっ、俺の……」
「どっ、どうしたの!?」
驚いて目を丸くしたレイフェル王女。ソラの後ろに何やら殺気が飛んできた。鋭く構わず差してくる視線にソラは背筋をびくりとさせた。
「ソラー? 何を私の前で浮気しようとしてるのかなー?」
「ちょっと待ってくれイリス! こっ、これはそう意味じゃなくてだな」
と、ソラは慌ててイリスに胸の前で両手を振って否定した。
「ははっ、あっはははは! 面白いのう汝らは――こう見えて美人だからな仕方あるまい」
「もーっ! 兄上ったら……」
国王様がこんな性格でよかったと心から思うソラとイリスだった。普通の王様の前で王様の妹をこんな目に合わせたら重罪で死刑になるのは間違いないだろう。どうやらアインストはそういう王様ではないらしい。
アインストは立ち上がる。
「ではイリス殿、ソラ殿。夜の晩餐会の時までゆっくりしていってくれ。廊下にいるエイナ殿が相手になってくれよう……」
「晩餐会……ですか!?」
「私達なんかがそんな……」
「イーディスの英雄よ。遠慮することないぞ。王国は汝らを自ら招待したのであるぞ」
「ありがとうございます。アインスト陛下」
と、イリスがそう言って一礼すると同時に、ソラも同じく一礼した。
*
――そして、日が暮れて夜になった。
ソラは晩餐会ということでタキシード姿になっていた。窮屈だと感じてたが悪くはないと思った。
「よく似合ってるわよ」
と、イリスがソラの姿を見て褒めた。それに比べてイリスは、白色のイブニングドレスを着ていて背中が露出していた。その姿を見て、ソラは目を惹きつけられた。
「イリスも……その……可愛いぞ」
「そっ、そう? ……かな」
イリスはソラの褒め言葉に頬を赤らめた。
後ろで見守っていたメイドのエイナが微笑んで、
「さあ、行きましょう。今夜の晩餐会の主役はあなたたちにございます」
そう言いながらエイナとソラ、イリスは3人同時に晩餐会の会場に足を運んだ。
エイナはソラとイリスの後ろについていた。そして、そこには大きな祝福の拍手が起こった。
晩餐会の会場はとても広く、数々のごちそうが並べられていた。異世界のイタリアン風料理といったところか。
伯爵を始めとする城の関係者、各王都のリーダー核となる人物が席に座っていた。そしてアインベルクの城で仕えている総勢100人のメイドも横一列にずらりと並んでいた。
席には2つの空席があり、そこにソラとイリスが座るように用意されていた。エイナは他のメイド達の位置につく。
「すっすげえぜ……」
「こんな私達のためにこんなにも大きな会を――」
と、二人は絶賛して席に着いた。
国王アインストは微笑んで、
「ソラ殿とイリス殿をもてなすのはこれでは足りないのかもしれんが、今日はたくさん食べてくれ。――さあ、乾杯としよう!」
アインストがそう乾杯の合図をすると、グラスとグラスがぶつかり合う音が大きく響いた。
晩餐会全ての参加者が賑やかに談笑していた。晩餐会はずっと続くのであった。
*
賑やかな晩餐会は終わった。参加者の大半が席を離れ帰った。
と、ソラとイリスが席を立とうとしたとき。
「おっと、待ってくれぬか」
隣からアインストの声が聞こえる。
「何でしょう?」
「汝らこれからどうするつもりで……?」
「はい。王国の宿泊所を探して滞在しようかと……」
「何を言って? この城に泊まるのだろう? これも兼ての招待状だろうに」
数秒の沈黙が続く。ソラとイリスは顔を見合わせた。
「なっ、なんですとォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーー!?」




