表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/125

第16話 ギリターナ平原の夜

 ――ギリターナ平原 川周辺。

 突如現れたヘンタイ触手ガニにイリスの体は犯されていた。5本の触手がイリスに巻きつき、ヌメヌメとしたその触手がイリスをベトベトにしていた。触手がイリスの下着に侵入し、そのほどよい触手プレイがソラを魅了していた。


「んん! ああん! そこは!」

(どこからそんな声がでるんだ!? くっ、くそ! このまま見ていたいが――)


 頬を赤く染めながら嫌がっているイリスを見て、助けられずにはいられなかった。

 ――感情より先に、手が出ていた。

 ソラは宙に跳んで、ヘンタイガニの真上に来る。

 ヘンタイガニは残り1本の触手を高速でソラに向かわせた。


「させるかよ! ――空手術、兇閃牙迅拳(きょうせんがじんけん)――!」


 ソラは右手に多量の漆黒の魔力を込めて――憤怒の一撃。

 拳と共に放たれた漆黒の魔力がヘンタイガニを地面に叩きつけた。ぐちゅっと音を鳴らして、甲羅ごとぶっつぶしてやった。


「GUAAAAAAAAAAA!」

「イリス!」


 ヘンタイガニは予想外の衝撃に耐えられず、反動でイリスを宙へ放り投げた。

 ソラは着地と同時に、空中に投げ出されたイリスの姿を追った。

 イリスの地面への頭からの着地を直前に、ソラは思い切り前方へ跳び、イリスを両手でキャッチ。


「イリス! 大丈夫か!? あっ」


 イリスの体についたヌルヌルの粘液を肌で体感したソラは気持ちがおかしくなる。服を半分脱がされ、ほぼ半裸に等しい。シャツの下のブラジャーが微かに透けているのを発見したソラは頬を赤くしてイリスから目をらした。


(そうだ。これは、ただの粘膜でそういうやましいことは……)


 ――ない。

 頭をブンブンと振って、イリスをチラ見するとジト目でソラをにらんでいる美少女の姿はそこにはあった。


「なっ、何でしょうか……イリス……さん?」

「すぐに助けてくれなかった理由を教えてもらおうじゃない?」


 裏のあるようなイリスの問いかけにソラは背筋を凍らした。

 

(どうするんだ俺! ここで本当のことを言うか、それとも、嘘をついて誤魔化すか……)


 と、ソラが人生の危機を感じているその時。


「まっ、いいわ。だいたいは予想つくから……。その……早く降ろしてよね」


 イリスは微かに頬を赤らめてソラから視線を逸らした。ソラはやっべめっちゃ可愛いとか思う暇もなく、焦ってイリスを地面へ降ろした。

 ――と、その時。


 イリスは服を脱ぎだして、ズボンまでも脱ぐ。薄桜色の髪をかき上げて川に足を忍ばせた。

 ソラはまずいと思いイリスとは反対方向に体を高速半回転させる。


「いっ、イリス!? 急に何を!?」

「決まってるじゃない。粘膜で汚されてるんだから洗い流すのは当然でしょ?」


 今のソラにはイリスがどんな表情をして、どんな格好をしてそう言っているのはわからない。が、そんなソラをイリスは信頼しているからこそ、半裸を平気で見せつけられるのか。


「恥ずかしく……ないのか?」

「それは恥ずかしいけど! だって、ソラだから……いいかなって」


 優しい口調で慎重にそう呟いた。ソラの胸はドキドキしすぎた。

 無音で流れる穏やかな川の水をすくい上げて、それを体へとゆっくり流す音――。

 その微かな音がイリスの半裸を想像させた。


 ――ソラの変態妄想が経過すること5分。


 この5分間は短いようでとても長い。そんな時間だった。

 突然、ソラの方に自分以外の両手がポンッと乗る。

 ソラは一瞬ビックリしたが、一瞬でそれはイリスだと判断した。


「もういいけど? あっはは、ごめんね。いきなり……」

「そっ、そう……か。でも、謝ることなんてないぞ? その嬉し……ああ、いや。興奮したんだし」


 ソラは自分の言ったことを深く反省した。興奮するとかよりは、嬉しいと言った方がよっぽど良いというものだ。


「もう、本当に――――ヘンタイさんなんだから……」


 イリスは最高の笑みを見せてそう言った。ソラは何度か目を疑った。

 イリスはもともとこんな明るいような性格でもなかった。いつからこんなにも理想の性格になったのかはソラにはわからないが、この関係をずっと、永遠に、続けたいと心から願った。

 

「ソラ?」

「ん?」

「アインベルク王国までまだまだだし、もう暗くなってくるし……今日はここで一泊して……それからまた歩きましょう?」

「そうだな、そうしよう」


 太陽がギリターナ平原の奥底に沈んだ。

 ――そして、夜がやってくる。

 



  *




 イリスが起こした焚火たきびを光として夕食の準備にとりかかっていた。

 ソラは何か夕飯になりそうなものを探した――だが、探す必要はなさそうだ。

 そう思って、地面に倒れたヘンタイガニの方へと歩を進めた。


「ソラ? どうかしたの?」

「イリス! 今日の夕飯はこれだ!」


 数秒の沈黙。イリスは白目をむきそうなくらい驚愕と絶望を味わった。


「えええええぇぇぇぇぇっ!?」


(そっそうか、異世界にはカニを食べる文化はないのか……)


「まあまあ、見ていろって!」


 ソラは鞄から一本の包丁を取り出し、ヘンタイガニの6本の触手を切り落とした。それから、巨大な甲羅を手ではぎとり、中に入っていた。カニみそを容器に移した。巨大な2本のハサミと8本の足を切り落とし、綺麗にカニの甲羅に並べた。

 手際のよいソラのカニさばきがイリスの心をひきつけた。


「これって!」

「知ってたか? カニって美味いんだぜ!?」

「知らなかった……ホント、ソラってどこから来たか全く分からないわ」


 イリスが目を丸くした。まさか、現世モラルでの人生が異世界で役に立つだなんて、ソラもそこまで期待していなかった。恋人の彼女にいいところを見せられて、ソラも満足だ。


「ちょっとここに火くれないか?」


 と、ソラはカニの甲羅に指をさすと。


「こうね!」


 イリスはカニの甲羅に火をつけた。

 少し経つと、カニのちょうどいい香りが二人を癒した。


「ようし、イリス! カニはこのカニみそを使って食べるんだぜ!」

「へえ。そうなのね……すごく美味しそう!」


 二人はカニみそにカニの絶妙な肉をつけて、ちゅるっと口に頬張った。


「「うっ、うめえぇぇぇぇっ!」」


 その歓喜の叫びが、ギリターナ平原全体に響き渡った。




 *




 二人は野外生活に備えてテントを持参していたので、テントを張ってその中で二人、就寝する。


「おやすみ」

「おやすみなさい」


 耳に聞こえてくるのは流れる川の水の音のみ。その音以外に聞こえる音はなく、現世モラルでは感じることのできない自然界の音を感じさせた。

 今日もいろいろあったんだと今日一日を振り返る。アインベルク王国に向けて恋人と一緒にギリターナ草原を歩いた。そして、謎のカニを倒して、それから一緒に食事をとって――。

 とても、楽しかった。ソラにとって退屈な現世モラルでの生活は異世界で充実する生活へと変わった。こんなに幸せなことはない。そう思って、ソラは一粒の涙を流した。

 ソラは、イリスと同じ空間にいながらも、ぐっすりと眠りにつくことができた。



 ――眠りについてから3時間が経った。



「ねえ、起きて……ソラ」


 ふと、聞こえる少女の声にソラは目を覚ました。真上から聞こえる女神様の導きにソラは応える。


「イリス……? なっ!?」


 ソラが見たその姿は、自分の上に四つん這いになってまたがって乗っているイリスの姿だった。

 頬を赤らめたイリスがそっと手をソラの頬へ移動させる。ソラはその温かみのせいか、頬が赤くなった。――それに、女の子がまたがっているだけでも頬が赤くなるというのに。


「ねえ、ソラ……。ここなら誰も見てないし……」

「えっ、ちょっ」

「――お願い。私を……食べて?」


 数秒の沈黙が続いた。


(まずいまずいまずいまずい! このままだと俺は! イリス、ヘンタイガニでも食べてヘンタイになっちまったのか!?) 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ