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第15話 召喚神ロギルス

 ――神聖なる雲の上のとある異空間。


 鏡に映っていたのは神薙ソラだった。先日のデリエラ・オーフェルスとの激闘の映像と見られる。その姿を雲で体全身を覆われ、姿顔が見られない男が眺めていた。


「どうでございましょう。ロギルス様」


 と、雲の男ロギルスに話かけたのは赤髪の男だ。


「なかなか良い。流石は私が召喚した男だ……」

「ロギルス様のご好意に合って安心しました」

「ならばどうよ……。ロイド。お主の代理を務める者よ。接触するのはどうか」

「お言葉は嬉しいですがロギルス様。あの男、神薙ソラはどうも私とは相性が合わないかと……」

「そうか……時は長い。お主の意志が変わることを待つとしようぞ」

「はっ」


 赤髪の男はロギルスに向かって深く一礼をする。


「それに、この調子であれば、ヤツの撃破も大変ではないのかもしれぬな」

「おおせの通りです。召喚神たるロギルス様の力さえあればヤツの討伐こそ容易いものです――――ロギルス様の力があれば……です」


 と、赤髪の男は微かに笑い、腰にささっていた双剣を音を殺して抜く――。


 ――グサ。


「むうふっ!」


 雲の中からロギルスの声がする。

 

 ぐしゃ。


 と血が飛び散る。


「ぐっすりとお眠りくださいませ。ロギルス様」

「きさ……ま……。どういう……ことだ」

「ロギルス様のお力は俺が貰います……。今までありがとうございました」

「力を……もらうだ……と」


 赤髪の男は嗤う。ロギルスを貫通した片方の剣に魔力が流れこむ。


「ぐっ、あぁ、アアアアアァァァァ!」


 突然、赤髪の男は胸を押さえながら叫んだ。両膝をついて嘆いていた。胃袋や心臓が何者かに握られるような辛い感触。


(この魔力、尋常じゃない……。さすがに……神の力を奪うってこういうことなのか……。――だが、こんなもの!)


 赤髪の男はその苦しみ、痛みを乗り切って立ち上がった。


「ふふっ、ふはははは……。ロギルス様よ、この俺をこの世界に召喚してくれて、ありがとうございます」


 ロギルスは体に薄い雲の層を纏ったまま、地面に倒れ込んだ。

 混濁した血液が雲の層から大量に流れてくる。

 この世界の全ての理は非常識で成り立っていると言ってもいい。世の中は不平等だ。下位に立つ者。それから上位に立つ者。中には頂点に立つ者がいる。そして、裏切りもある。例え、上位の者が下位の者と信頼関係を築いていてもやがて物事の均衡は崩れていく。

 いつだって、身の安全が保障されているわけでもない。いつだって、支配できるわけでもない。その中には必ず『例外』というものが存在するのだから。


 


  *




「では、お気をつけて」


 と、白髪のアイリスは鞄を背負ったソラとイリスを見送っている。

 アインベルク王国からの招待の手紙が届いてから翌日の正午。早速、二人は王国に向かうことを決心した。

 だが、王国に行くためには、王都から交通機関が出ているわけではなかったのだ。つまり、――歩きだ。

 王国に行くためにはギリターナ平原という広大な土地をおよそ30km渡らないといけないという。昨日、アイリスからその残酷な知らせを受けたソラとイリスだったが、いろいろあり、何とかその話を了承した。アイリスが二人を説得させるためには無駄な骨折りだったというのだ。


「では、行ってきますぜ!」


 ソラがそう挨拶すると、アイリスの後ろからぴょこっと小柄なミリィが顔を出す。3歩ステップを踏んで、アイリスの前に出る。


「ミリィ、しばらく会えなくなって寂しいけど、いい旅してきてね! 二人とも!」

「帰ってくるのはいつになるか分からないけど元気でねミリィ」

「うん! イリスっち! ソラっち!」


 ミリィの声にイリスは返す。続いて、ミリィは二人の名前を元気よく呼んで、見送りを終えた。


「んじゃ」

「じゃあ、行ってきます」


 と、ソラとイリスは言い残して二人に手を振り、その場を去った。

 1分も歩けばアイリスとミリィの姿など胡麻の粒のようなものだった。

 共に歩く果てしない道はいつまで続くのだろうか。そんな思いを胸に、アインベルク王国への過酷な道を行く。



  *




 ――目を疑った。目の前に広がる景色は尋常ではない美しい景色。


「すっ、すげえな」


 ソラは息を飲む。

 王都イーディスエリーを出て、少し歩けばギリターナ平原があった。

 その平原は緑一面の平らな野原が広がっていて、多くの川が何本か見えた。神秘的な魔力を感じる。カタツムリのような不思議な形をした植物などが生えていて、これもまた見ごたえが良いというものだ。

 人に危害を加えなそうな可愛らしい鹿や猪のような小モンスターがいくつか見えた。


「この先に、王国が……あるんだな」

「ええ、そうね。頑張りましょ」

「だな!」


 ソラはイリスと意気込みを交えあう。すると、イリスは何かを見つけたのか、小走りした。


「イリス?」


 ソラはそんなイリスの姿を追って、走る。

 イリスは突然しゃがみ、地面に突き刺さっていたある植物を抜いて手に取った。薄光りしている魔力を感じさせる不思議な花。


「それは……?」

「これはね、ギリターナ草という植物ね。ここでしか手に入らないことで有名だわ」

「へぇ~。なんでそんなに有名なんだ?」


 興味心でソラはイリスに問う。


「これを常に常備しているとモンスターが近づいてこないのよ」

「まじか! じゃあ、それで王国までサクサク行けちゃう感じか!?」

「ええ! 細かい戦闘を交えずにどんどん行けちゃうわ」

「おー!」


 ソラは心から歓喜の声を上げた。こんなときにイリスがいて助かったと心の底から思った。


「まっ、効果はそのうち分かってくるわ」


 ソラはイリスからギリターナ草を受け取り、鞄の中にしまっておいた。 

 不安と希望を抱きながらも歩き続けた。




  *




 どのくらい歩いたのだろうか……。日は暮れ、夕方の野原に弱い月の光が射す。幸い、ギリターナ草の効果で魔除け効果があり、戦闘は避けられてきたものの、王国の姿形すら見えない。道を間違えたか? と思うほどだった。


「い、イリス? あとどのくらいかな?」

「知らない……」


 即答だ。


(いや、知らないのかよッ! なんか心配になってきたんだが) 


 ソラはきっとゴールが来ると信じて歩き続ける。イリスのテンションはほぼ0に等しかった。ただひたすら歩いているだけなのだが、最初は元気のよかったイリスでさえもだ。


「とえりあえず、あの川で休憩しようか」

「そう……だな」


 ソラが限界を感じてそう声をかけたとき、

 

 ――その時だった。


 バシャンッ!!!


「GUAAAAAAAAAAA!」

「なんだ!? カニか!?」

「嘘……。ギリターナ草の効果が効いていない!?」


 そこから現れたのは、見た目は弱そうな巨大ガニだった。手に持つ大きなハサミがガンガンと音を鳴らす。

 が、珍しくイリスは目を丸くしている。


「ソラ、あいつは――ヘンタイガニだ!」

(名前雑だなおい……)


 確かに、普通のカニではなかった。青い胴体で、甲羅から数十のヌメヌメとした触手が生えている。口からは泡ではなく、どうやらドロドロの透明色の液体を垂れ流しにしている。


「――絶対に、捕まらないで……ソラ……。あいつ、この世界で一番のヘンタイモンスターよ。ソラ以上に」

「何故、俺を比べた!?」


 ソラが、予想外のイリスの言葉に驚いていると、


「んあああああんん!」


 ソラの横にいた筈のイリスがいなかった。ソラは焦って、ヘンタイガニの方を見た――イリスがいた。

 ヌメヌメとした触手に巻き付かれ、イリスの服の中にまで触手が侵入していた。


「らっ、らめぇぇぇぇ! ソラ! 見てないで助けてえええ!」


 イリスが叫んでいるとソラは思う。


(捕まるの早すぎだからあ! 自分で言っといて捕まるとかおかしくないっすかあ……!? い、いや、でも待てよ? このままあの犯されてるイリスを見られるってことか?)


 ソラは頬を赤くしながらイリスをしばらく眺めた。

 性欲のあるがままに――。


(い、いや! ダメだろ! 何考えてんだ俺!)


 ソラは激しく頭を振って戦闘態勢をとった。

いつもたくさんのPVありがとうございます。急展開(?)になりましたが、これからもよろしくお願いします。

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