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第14話 アインベルクの招待状

 王都イーディスエリーにまた変わらぬ朝がやってくる。

 カーテンの隙間から朝の光が射し込む。

 神薙ソラはそんな朝を迎えた。目を覚ます。ゆっくりと目を開く。

 ソラは手に伝わる人間の温かな感触を感じる。


(あれ……? なんでイリスがここに? そうか……、俺はイリスと恋人になったんだ……)


 同じ『寮』、同じ『ベッド』、同じ『時間』を共有していた。彼女イリスと共に。

 イリスはソラの手のひらをギュッと握って眠っているらしい。――ソラは薄桜色のさらさらの髪をそっと撫でる。そして、今にも溶け出しそうな真っ白な頬にゆっくりと触れた。

 そのとき、イリスの手はぴくりと動いた。


「ん、んん……」

「おはよう……イリス」


 ソラは定番の朝の挨拶を言うと、イリスは寝起きの辛さを振り切って微笑む。


「おはよう……ソラ」


 ――ソラの人生初の恋人生活の一日目が始まる。



  *



 今日も普段通りの学院生活だ。大した距離ではないが、ソラとイリスは一緒に登校。周りの女生徒の視線を感じつつも、さりげなく同じ教室に入室した。


「おっはよーう! ソラっち、イリスっち」

「おはよう」


 と、二人は同時に挨拶を返した。挨拶をしてくれたのはミリィ・リンフレッドであった。ロングなライトブルーのポニーテールがぴょんぴょんと跳ねている。――おまけに大きな胸も揺れている。

 他の女生徒を見たところ注目を浴びるのは当然だが、ソラとイリスが恋人同士だということはまだ広まっていないようだ。

 小柄なミリィはなにやら紙(?)を持っている。


「ねえねえ、これこれ! ソラっちとイリスっち、イーディスの英雄だって!」


 嬉しそうにミリィはそう言ったのだ。――新聞記事だった。ソラとイリスは無論、目を疑った。


虚無の棺桶(ボイド・コフィン)の残党を仕留めた《クレア学院》のイーディスの英雄!?」

「ま、まじかよ……」


 イリスが途中まで新聞記事を読み上げると二人は驚きを隠せない。


「イーディスの英雄とかチョーーかっこいいじゃん!」


 突然、ソラは大きな声で叫んだ。


「ね? かっこいいでしょ? ミリィも羨ましいなー!」

「私にはよく分からないんだけど……」


 ソラの憧れの気持ちと羨ましがるミリィの気持ちが分からないイリスは肯定してくれなかった。


「まっ、無理もないんじゃない? あの虚無の棺桶(ボイド・コフィン)倒したんだし、この王都のヒーローだよね!」


 満面の笑みを見せながら王都の街娘ミリィはそう言った。一瞬、ソラはドキッとする。

 横からイリスの視線が刺さる。ソラはそれに応えて笑顔を返した。


 ――ゴーン!


 始業の鐘が鳴り響いた。と、後ろから背丈の高い女教師の気配がした。


「おらぁ、席着けー」



  *



 ――昼休み。

 ソラとイリスは食堂へと足を運ぶ。

 昼なのに、二人ともなぜか生クリームがたくさん乗ったパフェを注文したらしい。

 二人は席に着き、テーブルの上に乗ったパフェを口に運んだ。


「うっ、うめえ!」

「ホントね!」


 口に広がる甘いクリームのハーモニーを感じた。ソラは異世界で初めてこんなにも絶品を食べたような気がしたと感激した。

 ここで、ソラは一つ咳ばらいをして……。


「ごほん。イリスさんやイリスさんや」

「ん?」

「あのー。この前のドラゴン討伐のクエストやっぱ行かないか?」


 恐らく、以前の依頼クエストの掲示板で見たあの依頼書のことを言っているのだろう。



*************

【溶岩島に住むドラゴンを倒して】

最近、溶岩島に住んでたドラゴンの動きが変なんだ。

今にも王都に飛んでくるかと思い、毎日が不安で仕方がねぇっすわ。

どうか、討伐をお願いしたい。


依頼人:溶岩島で鉱物を採ってる俺

報酬:1,400,000エリー

備考:3~4人以上推奨

*************



「無理よ」


 即答だ。


「ええっ!? なんでさ!」

「ソラ、ドラゴンの噂聞いたことないの!?」

「お、おう」

(それはな、俺は元々異世界にいなかったんだし……)


 と、ソラは心の中でツッコミを入れた。知っている訳がないと。


「ドラゴンはね。300年前にどこかの王都一つ焼き払ったってことで有名なのよ。それを倒すとか無茶にも程がありすぎるわ」

「そうか……」

 

 驚きつつ残念がるが、そのとき、ソラは気付いてはいけないものに気付いてしまった。

 ――少女の頬に白い生クリームがくっついている! これはチャンスだ……と思い……。


「なあ、イリス。ほっぺたに白いのがついてんぞ」

「しっ、白いの!? どこどこ!?」

「ふっふっふ。その白い生クリーム。この神薙ソラがとってみせよう……」


 と、さりげなくソラはイリスの頬に人差し指をのばし、頬についている白いのをとってあげた。


「何だこれ。ベタベタするな……」


 無論、ここは異世界であり、生クリームは本当の生クリームとは限らない。


「ソラの指、白に……。私がとってあげるね?」

「いっ、いいって」


 イリスは強引にソラの手首を両手で掴んだ。イリスはソラの人差し指を自分の口に近づけて……。

 ――ぱくりとくわえたのだ……!


「んん。んあっ」


 イリスは頬を赤く染めながら、ソラの指を口でお掃除している。

 当然、周りの食事中の女生徒はほぼ全員ソラたちを注目した。


「い、イリス先輩?」「あのイリスさんが!?」「嘘でしょ……!?」


 周りの女生徒たちはひそひそと耳打ちをしながらこちらを凝視している。


(はっ、恥ずかしいけど、可愛いィィィ。おっ、落ち着けぇ神薙ソラよ。これはただのイベントであって、そういうやましいことは……)

「んあっ。ああん」


 イリスはゆっくりと口を離した。甘い唾液が白い糸を引き、プチンと切れた。

 と、そのとき。

 ――パチパチパチパチ。


 盛大な拍手が起こった。一人残らずソラたちを祝福しているかのように――。


(おっ、おかしいだろこれぇぇぇぇぇ!?)

「突然、ごめんね?」

「お、おう」


 頬を赤らめたイリスが謝ってきたが、突然の出来事に動揺した俺は返す言葉が見つからなかった。

 ――そのとき、食堂に一人の足音が響いた。

 その正体は白髪の女性アイリスだった。


「学院長先生だわ」「何でここに?」


 と、周りの女生徒が一気に静まりかえり、疑問が殺到する。


(また白いのキタアァァア!)


 ソラはそう思うことしかできなかった。イリスは今の行為が実の姉であるアイリスに見られていたのかと思って少し不安になる。


「ソラ、イリス。あなたたちに王国から手紙が届いていますよ」

「おっ、王国だって!?」


 アイリスによる突然の知らせに一番驚いたのはイリスだった。


「王国ってあったのか?」


 と、ソラが問うと。


「王国も知らないのかソラは。アインベルク王国。この王都イーディスエリーを直接支配している王国だわ」

「そうなのか! で、そんな王国が俺たちに?」

「はい、まずはこれを読んでみてください」


 アイリスは何も書かれていない白い便箋を渡して、魔力を注いだ。すると、真っ白だった便箋に黒い手書きの文字が浮かび上がる。

 恐らく、プライバシーを守るために施されたものである。


「ん? 神薙ソラ……。イリス・エーヴェルクレア……。イーディスの英雄よ……。汝らを我がアインベルク城へ招待する……? 」


 ソラが手紙の内容を読み上げた。手紙に一つの豪華な招待状が重なっていた。


「とういうわけで行ってください」

「…………」


 アイリスが笑顔でそう言うが、ソラとイリスは固まった。

 数秒の沈黙の後、初めて口を開いたのはソラだった。



「ええええぇぇぇぇぇぇーーっ!?」



 ソラの始まったばかりのイリスとの『寮』生活は一日目で幕を下ろす。

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