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第115話 氷風の空中戦

「あら? 誰かしら……」

 

 ラティスは学院の屋上から見下ろす女生徒――ミリィ・リンフレッドに向かって訊ねた。


「ミリィはこの学院の最強魔導士! ソラっちやイリスっちよりも強い天使様なの!」


 大きく主張する胸を張って答えるのは、見回りで学院を離れていたミリィ。

 学院の騒動を聞きつけ、猛スピードで駆けつけてきた。




「「「嘘をつくな!!!」」」




 口を揃えて女生徒たちがツッコミを入れた。

 

「えっ、ちょっと――かっこいい登場が台無しに……」


 尋常ではない緊張感を振り払う存在感を持つ少女。

 それが彼女だった。

 

「まあいいですわ――あなた、さっきわたくしのことを氷魔だとか呼んだかしら?」

「うんうん、やっぱり図星だったのかな?」

「そう……魔界ではわたくしのことをそんな風に呼んでいるのでしたね――いいですわ、わたくしのことを折角だから自己紹介しておきましょう」

 

 ラティスが宣言すると、女生徒たちが一斉に唾を飲んだ。


「わたくしはリヴァイアサン――この世界の頂点、魔王サタン様の守護する魔よ」

「ふうん、リヴァイアサンって言うの……」


 ラティス――(いな)、リヴァイアサンはじっとミリィを見つめる。


「まあ、呼びにくいからラティスっちでいいよね!」

「勝手にすればいいわ――私はリヴァイアサン。ラティス・レシストという名は自分を偽るための偽名に過ぎない……」


 次の瞬間、ミリィは背中から大きな翼を生やし、宙に飛んだ。


「ふうん――自称最強と名乗ったけれど少しは期待してもいいのかもしれませんわ」


 ラティスが舌なめずりをすると、宙を飛ぶミリィに向かって氷柱(つらら)を飛ばした。


「速いっ!? ――ってそんなわけにもいかないよ!」


 ミリィは自慢の機動力で迅速の氷柱を避けた。


「ふふっ、なかなか面白そうね――」


 その刹那、ラティスは周りに魔力を発生させ、ゆっくりと宙に上がる。


「あなたのように機動力は優れてないけど空中戦という観点から見れば対等かしら……」

「わざわざミリィの得意ステージに上がってきてくれてありがとねっ」

 

 口調はいつもと変わらず能天気だったが、顔つきは真剣そのものだった。

 女生徒はその神聖な光景に目を奪われ、言葉を失う。

 ミリィの実力は確かに強い。

 あのイリスと対等に戦った(第90話参照)のだから――。


「今度はさっきのようにはいきませんわ――」


 ラティスが呟くと背後に出現した巨大な魔法陣からとんでもない数の氷柱が凄まじい速さでミリィを襲う。

 が、ミリィは自慢の機動力でそのすべてを避け切ろうと次々へとかわしていく。


「そう簡単にはミリィを倒すことはできない、よ!?」


 とその時。

 氷柱の一つがミリィの右翼を貫く。

 機動のバランスを崩したミリィは右手に魔力を込め――



神渡(かみわた)し――!」



 刹那、空間が(ゆが)み、魔力が消滅した。

 氷柱を残すことなく、そのすべてが空間の歪みと共に消える。

 ラティスが心の奥底で驚愕する。

 顔だけは(くだん)の冷静さを保つ。


「今のは――」


「油断大敵、だよ?」


 ミリィが収束させた空間からのカウンター。

 ラティスが造形した氷柱がラティス目がけて発射する。



「――ッ!?」



 ラティスがこの場にいて初めての驚愕した顔を見せる。

 目を大きく、見開き、目の前の事実に信じられない顔をして――。



「――サイクロンバースト!」



 氷柱がラティスに到達する前に、ミリィの風魔法による追撃。

 巨大な空気(かい)が氷柱を渦巻き、ラティスに直撃した。

 機動力を持たないラティスにはその凄まじい速さに対応しきれなかったようだ。



「やった!」

「ミリィちゃんやっぱり――」

「すごい!」



 女生徒が称賛している。

 ラティスの周りには砂煙が立ち、氷の破片が小雨のように中庭に降り注ぐ。



「ふふふ、ふふふふふふふ……」



 突然、奇妙な笑い声だけが学院銃を包み込む。


「まさか――」

 

 ラティスはまだ生きていた。

 

「そんな――」


 ミリィは珍しく悔しそうな顔を見せた。

 砂煙の中にラティスが滞在しているため、下手に追撃はできない。

 警戒心を最大にしてラティスの動きを待つミリィ。


 その刹那。

 砂煙の中から氷の龍が飛び出す。

 本物の(ドラゴン)ではないようだが、ミリィは右翼を回復させ、避ける。


「ミリィ! 後ろ!」


 女生徒の声に気づき、後ろから折り返してくる龍を風魔法で追撃し、破壊(デストロイ)

 生きているかのような龍の動きだった。


「――ッ!?」

 

 ミリィが前方を向き直ったとき、ラティスが姿を(あら)わにしていた。

 それも、さっきのような碧眼ではなく、血で眼球が充血したリヴァイアサンが――。

 紅色の目を持つラティスに変貌していた。


「今のわたくしは全てのものの記憶を操る――命のないものだってこのように造形した龍に記憶を吹き込むことでまるで生きてるかのような流線の動きをさせる」


 突如、ミリィが唸りを上げる。




「うっ、うああああああああああああああああああああああああああああ!」




 少女の叫び声が王都に響き、女生徒も混乱していた。


「心配する必要はありませんわ――」




「ラティス――様……」




 ミリィから(こぼ)れた言葉。

 それは目の前のラティス――リヴァイアサンに忠誠を誓うような一言。


「みっ、ミリィちゃん!? 気を確かに!」

「ミリィちゃん!」


 女生徒から投げかけられる言葉にも一切反応の様子を示さない。


「どう――なってるのよ……」


 ミリィが一歩――また一歩とラティスに近づく。


「さあ、来るのですわ――このわたくしのところに……」

「はい、ラティス様……」


 ミリィの目が空虚な目に変わっていた。

 一点を見る気も失せたかのような寂しげな目。

 ラティスの思うがままに操られるミリィ。

 ミリィはラティスによって新しい記憶を植え付けられた。


 ――ミリィはラティスの奴隷であるという記憶。


 ミリィがラティスの目の前にたどり着いた時、歩くことを止め、その場(地面)に膝をついた。

 



「あらあら、いい子――



       ――そんないい子はこの場で死んでもらいますわ」




 周りの女生徒たちが驚愕したとき、数名の生徒がラティス目がけて走る。

 一人は右手に魔力を込め、一人はラティスに向かって銃を発砲して――。

 

 ――が、それはもう遅い行為。

 

 既にラティスの手には鋭い氷柱が握られ、氷柱が後頭部を貫通する直前だった。


 ――ただ切実に間に合わなった。


「「「ミリィちゃん!!!」」」


 その刹那だった。


 ギィィィィィン!


 金属音のような音と共にラティスのもつ氷柱が宙に弾かれる。

 ラティスの(もと)にいたミリィの姿はそこにはない。


「え…………」


 ラティスが何が起こったかわからなくなったような目をするとはっと我にかえった。

 

 ――ラティスの目の前に姿を現した二人の魔導士。



 ――一人は、両手に黒き剣と白き剣を下げた二刀魔導士。

 ――一人は、桃色の髪をもち、意識を失ったミリィを抱きかかえた魔導士。



「あら――意外と速かったのですね。ソラ様にイリス様――レクセア王国ぶりですわね」

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