第106話 雷霆縛りの荊
――ディオ王国、砂浜帯。
《六魔》雷魔ゼウスvsルーク、エステル、リンフィア。
巨体のゼウスと『神聖魔導団』二人とリンフィアの戦闘は終わらない。
ゼウスの蒼雷がルークを襲うと、難なくそれをかわしてみせる。
「喰らえ!」
宙を舞いながら銃弾をゼウスに打ち込む。
ゼウスは巨大な右腕で弾くと、右手に蒼雷を発生させた。
「槍……?」
ゼウスの蒼雷は徐々に一本の槍の形に変化する。
「――雷霆」
ゼウスは片足を後ろに引き、右手を後ろに引いた。
「やべ――投げる気かよ!」
ゼウスはルークに向かって蒼雷の槍を迅速に投げ飛ばした。
威力は数倍にも跳ね上がり、尋常ではない破壊力だ。
(これは防ぎきれねえ……!)
ルークが間一髪で体を逸らすが、蒼雷の槍はゼウスの腹を掠る。
抉るように貫通した槍はルークを風圧で吹き飛ばす。
地面に叩きつけられたルークは微かに吐血した。
「ぐはっ!」
「ルークさん!」
「大丈夫だ……」
エステルはルークに駆けつける余裕がない。
現にゼウスは姿を消していたからだ。
(どこから……いや、違う!)
ゼウスはルークの真上に姿を現した。
(まずい……!)
(おいおい、勘弁してくれ……)
ゼウスがルークを殴り潰そうとしたとき、ゼウスは宙に静止した。
いや、正確には何本かの荊に拘束されていた。
「ぬ…………」
「ふー、危なかったよ……」
リンフィアだ。
「あれは、リンフィアの魔法か……」
「今のうちに逃げてルークお兄ちゃん!」
荊の棘がゼクスにいくつも刺さり、血が噴き出す。
「ぬあッ――!」
ルークが体を起こしてすぐにゼクスの真下から逃げ出すと、ゼクスは筋肉を膨張させ、荊を弾き返した後、地面を殴りつけた。
「とんでもねえな……。リンフィア、助かったぜ」
「えっへん、私の力――それこそ植物魔法なのだ!」
「植物魔法……ってか、リンフィア魔法仕えたのな……」
「使えます。使えてなかったわざわざレクセア王国にリンフィアを付き添いさせません」
エステルが呆れ顔で言っているかと思いきや、その顔は真剣だ。
――エレクトリック・チェイン。
エステルは自らの弦楽器から放った鎖でゼウスを束縛していた。
「今です――早く……」
といっても、顔は苦しんでいる。
雷耐性のあるゼウスにとって、エステルの雷はゼウスに通用しない。
故に、弦の力だけで何とかゼウスを押さえつけていたのだ。
この戦いにおいてエステルの雷魔法がほぼ使い物にならないとすると、エステルにとって致命傷のようなものだった。
「分かっている! 黄昏の歪曲――!」
5秒のチャージの後に放たれたルークの黄金の銃弾がゼウスに向かって放たれる。
「うわっ!」
エステルの鎖をゼウスが弾くと、急所は外れたがゼウスの右肩に直撃した。
(当たったんならこっちの勝ちだ……)
――バキバキバキ……。
ゼクスの肩骨は縦横無尽に破壊され、ゼウスは左手でその肩を抑える。
「なんだ……これは……」
「驚いたかよ雷魔――。その銃弾は当たった部位を最後まで砕き尽くす。かつてお前の仲間を殺した銃弾だ」
「サキュバス――か」
「分かってんじゃねえか」
ルークは妖気な笑みをゼウスに向けた。
「追撃だよっ!」
リンフィアが巨大な魔法陣をゼウス中心に召喚した。
「はぁっ!」
今度は先端に鋭い刃をもった蔓のような植物が無数にゼウスの体を突き刺す。
「ぐああああぁぁぁぁぁっ!」
「魔眼・解放――!」
ゼウスが悲鳴を上げる最中にルークは蒼き眼を開眼させた。
――魔眼。
常に5秒先を予知する完全未来予知の眼だ。
ルークは天に向かって5発の銃弾を打った。
「流星群――!」
5秒経ち、5発の銃弾がゼウスの脳天に降り注ぎ、大爆発を起こす。
5秒先を見通し、落下地点を予測した秘技だ。
(ま、威力はその分弱いけどな……)
「――リンフィア! 右に跳べ!」
「えっ……!?」
ルークが叫ぶと、砂煙の中から一筋の蒼雷が飛んでくる。
リンフィアはルークの忠告通り右に跳ぶと、掠り傷程度で済んだ。
「ありがと、ルークお兄ちゃん……」
「気にするな」
未来予知による予測が役に立った。
ルークは安心して胸を撫で下ろすと、一弾の銃弾を砂煙に向かって打ち込んだ。
銃弾がゼウスの巨体に当たった感触がないと察したルークは魔眼を解いた。
「逃げた――のか……?」
「気配はなくなったみたいです……でも何故……」
「ふっふっふ、多分怖気づいたんだよ!」
「そんなことないと思う、けど?」
エステルが周囲を見渡すもあれだけ目立つ巨体は見当たらなかった。
「気を付けろよ……。気配を消してどこかに潜んでる可能性が――」
――その刹那だった。
――イイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィィィィ!
突如、ディオ王国の海が蒼雷に包まれた。
唸るような蒼雷の音が響き、上空100Mも蒼雷が立ち上る。
「なんだあれ……」
高く立ち上る蒼雷は徐々に小さくなり、50M級の人型の蒼雷へと形成された。
刹那、そこにいた3人全員が驚愕する。
「何……だと……」
「あれを今から相手――するんですか……?」
「お、大きい――」
その時、ゼウスの形をした蒼雷の体が人の血色を纏った。
故に50M級のゼウス――巨人。
『これはお前らに向けての天罰だ……』
半身を海を浸かったゼウスの巨体から放たれる声がディオ王国中に響く。
「おいおい、あれが陸上に上がったら、ディオ王国が壊滅するぞ……」
その刹那だった。
「ぐっ――ッ!?」
「何だ……!?」
ゼウスが声を漏らすと、その巨体の首に五本の針が刺さっていた。
――ルークの隣に何も言わずに立っていた白い仮面の男。
「お前――ユーズ! 来てくれたのか!」
――ユーズラル・ダティスト。
それが彼の名だった。
これにて三月の毎日投稿は無事終了しました。
二月の宣言通り、一日も欠かさず更新しました。
嘘だと思う方は目次のサブタイトルの横をよく見てみてください。
ということなので、四月からまた不定期更新となりますが、これからもよろしくお願いします。
春は多忙な時期なので日が空いてしまうことがあると思います。
それでもまたこの作品を読んでくださると嬉しいです。




