第104話 蒼雷の襲撃
ディオ王国の海中で一つの潜水艦にトラブルが生じていた。
海面から降り注ぎ、沈み込む無数の巨大な岩石が潜水艦を襲う。
「一体何が起こっているのでしょうか……」
潜水艦の操縦士が焦燥しながらルークに問いかける。
「この潜水艦が攻撃されていると見て間違いないだろうな……」
「えっ――!?」
「普通ならこんなに持続的に巨大な岩石が何個も何個も沈んでくるだなんてあり得ねえよ……」
「まさか」
「《六魔》だな……」
「それって魔王の守護魔って言われてるアレですか!?」
「ああそうだ。その《六魔》の狙いは俺たちだ……。陸地に上がる前にここで窒息させようとしているんだな――」
「まずいですよ! このままでは死んでしまいます! エンジンが故障された今、陸地に上がる算段は――」
「いや、案ずるな」
ルークは真剣で真顔だった。
不幸中の幸いにも、岩石は潜水艦には当たっていない。
都合よく、避け切っている。
「このまま上がってくれ操縦士さん! 俺の魔力空間からエンジン代わりになる銃弾をいくつか取り付けた。海水の塩分と反応して大爆発を起こす仕組みになってる!」
「さすが、ルーク様です……。では、行きますよ!」
「岩石は避けれないが、そのまま突っ切るぞ!」
(少々、銃弾の使い方は間違っているが、銃弾は立派な地雷なんだよ……)
ルークが叫んだ瞬間、海中に放たれたルークの銃弾が大爆発を起こした。
――ドォン!
爆風とともに潜水艦は海中を急上昇した。
「キャァァァ!」
「お姉ちゃ――!」
エステルとリンフィアの悲鳴が潜水艦中に響く。
潜水艦に四つの岩石が衝突しても潜水艦は強度を保っていた。
――が。
「まずい、浸水しました!」
操縦士が叫ぶも、ルークは迷わず『進め』と促すだけだ。
そして、潜水艦が海面に達したとき、初めてその光景が目に映る。
岸となっていた防壁は粉々に砕かれ、一つの大きなクレーターのようなものが生じていた。
「あれか――降ってきた岩石の正体は」
「そのようですね……」
ルークは操縦士を抱え、エステルとリンフィアとともに潜水艦の外に脱出する。
着地――とはいえず、着水した後、魔力の足場を作り、陸地に跳んだ。
「あんたは逃げてくれ……」
ルークが操縦士に耳打ちすると、操縦士は慌てて立ち去って行った。
「俺たちを強襲しやがった《六魔》とやらはてめぇだな……?」
ルークが睨めつけた先には一つの人影があった。
いや、人と言っていいのか。
3Mにも上る高すぎる身長とかなりの筋肉量。
白い髭を生やした巨大な人の姿はまるで巨人だった。
(おいおい、まじかよ……。こいつでかすぎるだろ……)
次の瞬間、巨人は一瞬にして姿を消した。
「――ッ!?」
ルークが大きく目を開いて、瞬きをした刹那、エステルとリンフィアの姿が消えていた。
代わりにそこにいたのは巨人の悪魔だ。
「うあぁぁぁっ!」
ルークが動揺して声のした方向を見ると、遥か遠方の巨大な岩石の山に体がめり込んでいたエステルとリンフィアの姿があった。
(どんな怪力だよ――)
「ふん……」
その時、ルークの脇腹に巨人の右足が迫っていた。
「ちっ――!」
ルークが時空間移動で上に跳んで避ける。
(あぶねぇ……これ喰らった死んでたぞ……)
が、巨人は空を跳んだルークの目の前にいた。
「なん……だと……」
刹那、ルークは巨人の左手によって地に叩きつけられる。
それも、迅速に。
「ぐあァァァっ!」
地面には大きなクレーターのような穴が開いていた。
それほどの衝撃だったのか。
その時、巨人に紫電の残光が貫かれる。
エステルの雷魔法だ。
――が、巨人にエステルの雷は通用していなかった。
「嘘……確かに今、貫いたはず……」
(無事だったのか……エステル……)
と、巨人の右腕には蒼い雷が纏っていた。
巨人が地面に右拳を叩きつけると、エステルの足元から蒼い雷が襲った。
「ぐっ……」
「お姉ちゃんっ!」
エステルが反射的に声を上げたが、まるでダメージはなかった。
雷の魔導師であるエステルには如何なる雷であろうと無傷で終わる。
「やっと分かりました。あなたに雷が効かない理由が――《六魔》雷魔……それがあなたの正体……」
「やっと理解したようだな。俺はゼウス。お前らの言うサーヴァント・セイスというものに興味はない。ただ、お前らを天に葬ってやるだけのためにわざわざ出向いてやったんだからな」
根太い怖い口調の声が、ディオ王国に響いた。
3M級の巨体が理解できるような声だ。
《六魔》雷魔、ゼウス――それが、その巨人の正体。
ゼウスと名乗る巨人は一方的な攻撃をやめていた。
「これ以上お前らと話すことはない――生きていたことを後悔しろ……魔王の名の下に」
天地を凌駕するような蒼雷がルークに襲い掛かる。
*
――アインベルク王国。
王城から1km離れた大通りでソラとイリスは待機していた。
レントは、国民の避難のために誘導役を国王アンストに頼まれている。
「本当に《六魔》なんて来るのかな……」
「まあ、来るとは限らなそうだな。俺たちが餌だんてなんか複雑な気分だ」
「ソラは食べられるかもしれないわね……」
「何を根拠に言ってんだ!? 怖いこと言うなよ――」
「別に? ただそんな気がするだけ……」
敵の襲撃があるかも分からない状況でソラとイリスは退屈に襲われていた。
「…………」
「…………」
「何か言えって……」
「何を言えばいいのよ……」
「…………」
「…………」
「暇だな……」
「暇ね……」
二人はただ空を流れる雲を眺めていた。
大通りの国民の非難は完了している。
何も起こらないという退屈さに疲れていた。
――その時だった。
「やれやれ、わざわざ俺様を待っててくれてたんだ?」
誰もいないはずの大通りに人の気配が一つ現れる。
赤い髪に黒のメッシュが入ったソラと同じくらいの身長だ。
「…………」
「この魔王様に仕えるこの俺様こそが、万物を焼き尽くす絶対無敵の王者! イフリート様だってんだよ!」
「…………」
「おっ、おい。てめぇ! 何か反応しろよ! 驚くとか逃げるとかあんだろ!?」
イフリートと名乗ったそれは《六魔》の一人、炎魔イフリートだった。
ソラとイリスはここまで来ると驚くのに飽きていた。
「お前、来るのが遅いんだよ! 何時間待たせんだよ!」
「そうよ! 暇すぎて喉乾いたわよ!」
「ちょっ……その反応はねぇぜ……。せっかく、かっこいい登場をしたと思ったのにさ……。空間が歪む陽炎の中を歩くかっこいい俺様っていうシチュエーションなんだよこれは」
「イフリートと言ったか……。全く弱そうなやつに当たっちゃったなイリス!」
「そうね、さっさと終わらして他の仲間の加勢に行きましょ」
ソラとイリスの煽りにイフリートの額に太い血管が浮かび上がる。
「てんめぇ……イフリート様を見下したこと後悔させてやるよ――」
次の瞬間、アインベルク王国の大通りの地面から大量の溶岩が噴出した。
3月限定の毎日投稿も残すところ2日となりました。




