第102話 深海の城
ルーク、エステル、ユーズラル、リンフィアはディオ王国へ。
セレスティナとベレニスはベル王国へ。
それぞれがそれぞれの護衛地へと向かった。
――そして、アインベルク王国。
ソラとイリスはアインベルク城の正門を潜り、王城の廊下を歩いている最中だった。
ソラには現在『神聖魔導団』という特権があり、招待状なしでもアインベルクの王城に自由に出入りできる。
「懐かしいわね……」
イリスがそう呟くとソラは頷いた。
「そうだな……。この前ここを歩いた時はエイナというメイドさんに案内されていたよな……」
「そうね。いろいろソラに色仕掛けをしていたようだけど?」
「えっと――それは……」
自分の都合に合わない事実に直面した時、嘘をつけないというソラの悪い癖がある。
無論、その癖をイリスは見極めていて、非常に助かっている(いろいろな意味で)。
「まあ、それはソラが悪いわけじゃないから見逃してやるわ……」
「えっ、本当か!?」
「…………」
「あ……」
イリスが揶揄うように放った言葉にはまってしまったソラは口を塞いだ。
そうこう話しているうちに、眼前には一つの巨大な扉が見えていた。
「陛下と王女様に会うのもロイドとの戦い以来だな……」
「ええ……」
若干の緊張した心持ちだったが、二人は王室へ続く巨大な扉を手押しした。
*
――ディオ王国。
木製の高床式の住宅が立ち並ぶ、海岸国。
ディオ王国は広大な透き通った綺麗な大洋に囲まれた島国だ。
海の透明度は魔界一を誇り、点々と浮かぶ船やボートが空中に浮かんでいるように見えてしまう程である。
地面は、所々コンクリートで舗装されているが、そのほとんどの地は砂浜だった。
レクセア王国の極寒とは違い、日差しが強く、日傘などをさして日焼け対策をしている国民もいる。
ディオ王国は故に、『海の国』と呼ばれていた。
ディオ王国の海岸沿いを歩くルーク、エステル、リンフィアの三人。
仮面の無口なユーズラルだけは別行動として、身勝手に何も言わずどこかに去っていったらしい。
「気にするな、あいつはいつも突然現れて突然消えるからな」
ルークが二人の少女に向けてそう伝える。
気づけば、ユーズラルはソラ達と一緒にレクセア王国に向かったルークの付き添いの魔導師だ。
存在感がほとんどないものの、その奇妙な仮面だけは存在感は強かった。
「ユーズラルさんって一体何者なんですか?」
「そうそう! 私も同じこと思ってたよ。あのユーズラルお兄ちゃんの声なんて今まで一度も聞いたことないし……」
「そうか。やっぱりお前たちもそう思うんだな。実は俺もあいつが何者か分からない」
「え――?」
ルークの一言でエステルのリンフィアに疑問が生じた。
「あいつは何も喋らないまま俺の目の前に現れた」
「…………」
「それが何回も続いて、俺のところによく来るようになったんだ。あいつは俺の良きパートナーだと思ってるぜ。まあ、あいつが俺をどう思うかは分からないけどな」
「まさに謎に包まれた男って感じですね!」
「うんうん、そういうミステリアスなこと好きかもな?」
実際ユーズラルの正体を知る人はいない。
仮面をし、何も喋らなければ情報の零れようもないからだ。
――と、その時。
「おい! ルーク。帰って来たのかい」
そう後ろから声をかけてきたのは漁師の男だった。
普段からルークは国民との交流も深く、十分に『神聖魔導団』としては慕われすぎている人物だった。
「ディーゼルさん! お久しぶりです」
「どうだ、久々に釣りでもしてかねえか? 今、大量に魔物が泳いでいてピークなんだぜ!」
「やはりそうか……」
ルークは控えめに呟く。
というのも《六魔》出現に影響が出ているということなのだろう。
巨大で狂気な魔力が魔界に出現すれば、海を泳ぐ魚型の魔物でさえも混乱し、海中を暴れ回る。
その影響によって、魚の循環も迅速になり、大漁に繋がるということだ。
「申し訳ないんですけど、今回はパスします。ちょっと急用があるんで」
「そうかい。残念だが、まあ、だいたいはそういう話なんだろう?」
「察しがいいですね。では失礼します」
ルークは漁師のディーゼルに一礼した後、海岸沿いを再び歩き始めた。
エステルとリンフィアが不思議な顔をしながら後をつけていく。
「ルークさん。急用ってなんですか……?」
「そうか、言ってなかったかもな――ディオ王国の城に一度訪問するんだ」
「城……? そういえばディオ王国に城ってあるんですか?」
「確かにお城ないよね……?」
エステルとリンフィアが辺りを見渡すと、城らしき建物はなかった。
ディオ王国の住宅はすべて一階建てで全体的に低い。
そのため、視野が広くなり、王国の隅々まで見渡せるほどだ。
しかし、王国の中心と思われる方角にも城はない。
「ああ、ディオ王国は景観ってのを死ぬほど大事にしててだな――。城は深海にあるんだ」
「えっ!?」
「ってことは、海のお城!?」
エステルとリンフィアは驚愕した。
城が海の中にあるとは誰も想像つかなかったからだ。
むしろ、水中に建造物があること自体想像つくはずがない。
少なくともエステルは知っていてもおかしくない身分にある。
が、エステル自体、ルークと共に行動することがよくあってもディオ王国に訪問したことはなかった。
「そんな驚くことか? そこに潜水艦があるだろう? それに乗るぞ」
「おぉ――いつの間に……」
リンフィアが不意を突かれたかのように驚いた。
ルークが潜水艦の前の受付員に話かけると、受付員の女性は慌てて一礼をした。
ディオ王国の『神聖魔導団』として顔が広く知られているルークなのだから無理もないだろう。
念のためにルークが身分証明を提示すると、受付印はルークたちを潜水艦に案内し、乗せた。
しかし、エステルがリリパトレア王国の『神聖魔導団』だということは気づかれなかった。
――潜水艦に乗って早10分。
かなりのスピードで潜水艦は深海へ潜り、ついに水深10000Mに達していた。
深海と言える場所は普通なら光がなく、限りなく暗いとされる場所だったが、ディオ王国の海は透明度が極めて多きい。
水深10000Mもある場所でさえも日輪の光が届いている。
そして、周囲に浮かぶ魔力の発光体が周囲を明るく照らしていた。
「ルークさん、あれが城――ですか?」
「ああ、そうだ」
「お、大きい――」
潜水艦の目の前には、純白の煉瓦で建築された城が聳え立っていた。
城の周りは、巨大な泡に包まれ、どうやら空気は生成されている。
と、その時、潜水艦を操縦していた操縦士がルークたちの方向を振り向いた。
「あの泡は、ただの泡ではございません。外部からの攻撃に備えるため、特殊な魔力でコーティングされています。潜水艦から高圧力のエネルギーを放出しますので、しっかり掴まっててください」
操縦士が三人が周囲の手すりに掴まっているのを確認すると大きく舵を切った。
次の瞬間、潜水艦は王城の泡に向かって迅速に走り出した。




