第101話 ロギルスの託言
――ヴァイドビム雪道。
レクセア王国の白馬の馬車に乗って1時間。
ソラ達は、雪の凸凹に揺さぶられながらアインベルク王国に向かっていた。
一先ずアインベルク王国の王城に状況を報告せねばならない。
所々襲撃してくる弱小の魔物はルークの神狙撃によって、撃退されている。
いつもと違い晴れているヴァイドビム雪道は、魔物が普段より多く暴れまわっている。
「全く……貴様の命中力はどうなっておるのじゃ……」
「どうしたセレスティナ? 嫉妬か?」
「ちっ、違うわ!」
珍しくセレスティナはルークの神狙撃に気を惹かれていた。
「まあ、セレスティナさんが興味を持つのもまあ、当然って感じだな――。ルークさんは何キロも先の景色を見通せる視力にこの狙撃力」
「この二つが合わさったらもう無敵よね……」
ソラとイリスが呟く。
5秒先の未来を見通す魔眼さえ使用していないもののルークの視力は人間の域を超えている。
狙撃術に関しては魔導師の中でもかなり超越していた。
「そうだな。俺が狙撃を外したことがあるとすれば――回数的には手の指の本数で足りるくらいだな……」
「――ッ!?」
故に、ルークの狙撃を外した回数――それは、10にも満たないということだった。
さすがの『神聖魔導団』であるセレスティナやエステルでも驚愕していた。
「まっ、その狙撃が相手に通用するかどうかといったら話は別だがな――。実際、ゼクスとやりあった時は何弾返されたか……」
ルークの言うゼクスとの戦いは、サキュバス戦前の一戦だけとは限らない。
現に、ゼクスとはかなり交戦していた。
かくかくしかじかの事情ではあるが。
レクセア王国の『神聖魔導団』だったゼクス・アーデルニアは今は亡き存在だ。
ルークの唯一の同等に渡り合えるライバルを失ったリスクは尋常ではない程大きい。
「ゼクス……」
馬車の上に立ち、襲撃してくる魔物を観察しながらもゼクスはため息交じりに呟いた。
「ルークさん……」
と、それを見ていたソラはルークに話しかけた。
「ソラ……?」
「今度俺と決闘しましょう」
「え……?」
「俺だったら、ゼクスさんのように――いや、ゼクスさんよりも強くなります。その時は、手合わせしてください」
「そうか。頼もしいな……。分かった、受けてたとう」
ソラは少しでもルークを気遣ったつもりではいたが、その裏腹にはルークとガチ勝負をしたいという心持ちも勿論あった。
ルークはソラの申し立てに満足したのか、またいつも通りの表情を取り戻した。
その時、前方から五体の飛甲虫型の魔物が飛来していくる。
大きさはただの虫といえる大きさではなかった。
虫の常識を超え、実際に馬車と同等の巨体だった。
「――連弾・故雨!」
ルークが放った無数の銃弾が、鋭い雨になって虫型の魔物を貫通する。
魔物は大気中の魔力と化して消滅した。
「おぉ……」
その場で見ていた全員が一斉に声を上げた。
ルークの狙撃の腕前に皆が感嘆している次の瞬間だった。
『おぬしら……聞こえているか……』
少し若い印象が伝わる男性の声に、全員が目を大きく開いた。
「誰……」
声の主の姿もなく、天から降り注ぐような――そんな印象を持たせてくる反響の声だった。
「これは――! ロギルス様!?」
「えっ!?」
「なんじゃと!? あの召喚神ロギルスか!?」
ソラはその声の主の正体に気づいたが、セレスティナは驚いた。
セレスティナだけでなく、イリスとソラ以外の全員が驚いていた。
召喚神ロギルスと言えば、知らない者はいはい。
会ったことも――話したことも――見たこともない架空の存在。
その存在に驚くのは無理もない当然のことだろう。
『儂は召喚神と呼ばれるロギルスだ。今からおぬしらに重大なことを伝える』
「ロギルス様……何かあったんですか?」
ソラは友達かのように緊張する心も持たず、自然に問いかける。
『――神の集う地が壊滅した。壊滅だけではない、神も神官もほとんど死んだ』
「――ッ!?」
「嘘……だろ……」
突然伝えられた言葉を飲み込めないでいた。
(神の集う地が壊滅!? そんな――なんで……)
神の集う地に住む者は全員神。
魔導師以上の存在で、かなりの戦闘力を誇っている。
『《六魔》の天魔に突然襲撃を受けて神の集う地は一瞬で闇に包まれた……。天魔の力は《六魔》でもずば抜けている――。そして
、その天魔よりも強い魔王が目覚めたら――』
ロギルスが次に発する言葉は想像できていた。
『――魔界は壊滅する』




