第98話 《六魔》討伐作戦
レクセア王国新『神聖魔導団』ラティス・レシスト着任式中の、《六魔》天魔による妨害。
ルシファーの呪縛してくるような攻防に『神聖魔導団』たちは手も足も出ず、敗北した。
ルシファーの最後の一閃でソラは両断されたような重症を受け、現在に至ってはレクセア王国の医療室で診断を受けている。
即死は免れた。
しかし、ルシファーであろう強敵ならば致命傷を狙った一撃を放ってくるはずだった。
ソラが今回の戦いで不可解だったのはそこにある。
――何故、殺さなかったのか。
――何故、とどめをささずに逃亡したのか。
――何故、わざと生かしたのか。
そして何故、わざわざこのタイミングで現れたのか――。
すべてが謎のまま戦闘は幕を閉じた。
いや、閉じたのではない。
幕は開けたというほうがこの場においては正しい判断である。
ただそこに残ったのは悔しさではなく、半壊した王城だけだった。
見上げた先には空虚な空だけが見えただけだった。
*
ルシファーの襲撃を受けても尚、被害を受けていない部屋は王城にはある。
その一室でソラを除く『神聖魔導団』は緊急で会議を開いていた。
イリスはソラの見舞いに行くために席を外し、エステルの妹であるリンフィアはまだ幼いため、イリスに連れられ、一緒に同行していた。
故に会議室に残ったのはルーク、エステル、セレスティナ、ラティス、ユーズラル、ベレニスの六人だ。
「天魔の襲撃に対応できなかったのは遺憾だったな……」
「そうですわね――」
「それはそうと、ラティス・レシスト。お前は、何をしていた? わざわざ兵士を止める必要があったのか?」
ルークの呟きにラティスが応じると、ルークは疑問を投げる。
「兵士を護るのはリーダーであるわたくしの務めですわ……」
「何だと? 兵士がリーダーを護るのがレクセア王国の風潮だろ……」
「…………」
「まあまあ、二人とも。落ち着いてください。今はそんな言い争いをしている場合では……」
ルークの言葉にラティスが押し黙るとエステルが止めに入った。
だが、実際のところ、レクセア王国の代々の風潮では統率者を兵士が護るのが常識。
即ち統率者が命を落とせば指令が下りない。
故に兵士は混乱する。
ルークはその矛盾に疑問を抱いていた。
「ラティス・レシスト。お前は一体何者だ? お前のような女性の魔導師の存在――レクセア王国では聞いたことがないぞ?」
「…………」
レクセア王国では女性が戦うことは滅多に認められない。
前『神聖魔導団』ゼクス・アーデルニアは、王族の血族の端くれだった。
しかし、ルークはレシストという名の族は聞いたことがなかったのである。
「それは国家機密ですの。赤の他人であるあなたたちに言う義務はないと思いますわ――それに現にあなたたちを信用しているわけではないですの」
「は!? てめぇふざけんなよ!」
その時、ルークはラティスに罵声を浴びせながら立ち上がる。
ルークがラティスの胸ぐらを掴もうとしたとき、ルークの手は止まっていた。
「ルーク。落ち着くのじゃ。天魔とやらに敗れ、我を失っていることも分かる――じゃが、今は待て」
「――すまない」
ルークの手はセレスティナの砂魔法によって固定され、謝りを述べたあとで手を開放してやると、ルークはラティスに頭を下げた。
「い、いえ。わたくしも少し間違えてましたわ――あなたたちは赤の他人であっても目的は同じですのね……」
「あ、ああ……そうだな」
「…………」
「…………」
数秒の沈黙。
「まずは《六魔》の残り五体が魔界の各地に出現しているということに関して話さなければなりませんね……」
「そうだな。仮に、この魔界のどこかで《六魔》が暴れているのかもしれんな」
エステルが話を切り出すと、ルークも乗ってくる。
「確かルシファーは邪魔者を消すと、そう言ってましたわね」
「ああ、その通りだな。標的となるのはまず俺らだろう……」
「でも、何故あのルシファーは私たちを逃したのか気になりますけどね――」
「だが考えたところで分からないだろ?」
「それもそうですけど……」
「ま、エステルの言うことも尊重しなければならない。けど今は一刻でも早く各王国を護らなければいけない――か」
ルークがそう吐息混じりにそう言うと、セレスティナが切り出す。
「だったらこの戦力を五つに分散させなければならんのう……」
現在魔界に存在する国は5か国。
その一つの国を中心に王都などの幾つもの小都市に分かれて存在している。
「まず優先すべき護衛は王様だよな?」
「ええ、ただしわたくしの国では王は不在ですので――」
「なら、レクセア王国の護衛はラティスに任せていいか?」
「もちろんですわ」
ラティスはルークの頼みにあっさり了解する。
「となると必然的に、ソラとイリスにはアインベルク王国を――。各所属国ごとの護衛ということでいいか?」
「ルークさん」
「どうしたんだエステル……?」
全員の意見は一致していたがエステルだけは腑に落ちないような顔をしていた。
「私はルークさんと一緒にディオ王国に行かせてください」
「え……?」
「リリパトレア王国に私とリンフィア以外、戦える魔導師はいません。だったらリリパトレアに《六魔》は現れない筈です」
「そうか。――やっぱり」
「駄目……ですか……?」
エステルはいつもルークと共に行動していた。
ルークの修行と教えの下でずっと。
そして、《六魔》が排除する対象は強力な魔導師。
ならば、魔導師不在のリリパトレア王国を護衛する必要はなく、無駄な骨折りになることを避けなければならない。
そう判断した上でのエステルの決断だった。
「わかった。エステルは俺と共にディオ王国に来てくれ」
「ありがとうございます!」
全員の意見がようやく一致したところでラティスは呟いた。
「もう夜も深いですわ。暗闇の中でのヴァイドビム雪道の移動は極めて危険ですの。出発は日の出の後にしますわ」
毎日投稿も残すところ1週間になりました。




