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第97話 堕天

 ――日輪の中心に堂々と浮遊する一つの人影。



 

 その人影は徐々にソラ達に近づいてくる。

 王城の着任式会場に残ったのは、ソラ、イリス、ルーク、ユーズラル、エステル、リンフィア、セレスティナ、ベレニス、ラティスの9人だった。

 

「人……よね……?」


 イリスが恐怖しながら呟く。

 その人影から漏れ出す漆黒の魔力。

 背中には巨大な漆黒の翼を生やし、宙に浮いていた。




「天界から堕天してきました。我は魔王の守護担当をしてます、ルシファーという者です」




「――ッ!?」


 告げられた男の声を聴いた刹那、全員が一驚した。


「魔王の守護……だと……。ルークさん、これって……」

「間違いない、彼は《六魔(サーヴァント・セイス)》の天魔だ」

「まさか、こいつが――!?」


 その時、一斉に全員が武器を取り出し、厳重な警戒態勢を取っていた。

 尋常ではない緊張感。


 ――《六魔(サーヴァント・セイス)》。

 魔王を守護する六体の最強の悪魔。

 そのうちの一体は夢魔サキュバスで既に討伐が完了している。

 六体すべてを倒すことにより魔王は復活するという話だ。


 ルシファーと名乗る堕天使から狂気な気迫が漂ってくる。


「ラティス様、ご無事でございますか!」


 と、そこに駆けこむレクセア王国の兵士たちの姿が来る。

 ラティスがそれを手で制すると一斉に兵士は進軍を停止した。


「ほう、貴様が天魔とはのう……貴様ら《六魔(サーヴァント・セイス)》とやらはサキュバス以外は人の姿をしていないと聞いておったのじゃがのう……」

「サーヴァント・セイス? 知らないですねぇ……。そのような言葉――。我々は常に進化を続けています。勝手に決めつけないほうがいいですよ……? 三下の分際で……」


 天魔ルシファーは、ソラ達を眼下で見(くだ)している。

 

「くっふっふっふっふ……。いい顔をしていますねぇ……。我に恐れるか魔導師共ォ……。魔王サタンの目覚めは近い。今、魔王に仕えるすべての悪魔は解き放たれた――勿論、貴方(あなた)達のような底抜けた邪魔者を排除するため――ですがねぇ……」

「――ッ!?」


 その時、ソラの姿は消えていた。


「だったら今ここで、消してやるよ!」


 ルシファーの背後には紅血の剣ブラッディ・クレイモアを振りかぶった。

 が、剣はルシファーに届くことはなかった。



(何だよ、こいつ……。化け物かよ……)

 


 ルシファーはソラの剣を触れずに空中で停止させている。

 ソラは必死に、剣を引き抜こうとするが紅血の剣ブラッディ・クレイモアは抜けない。

 ルシファーは狂気な顔をしながら、口元に三日月形を浮かべた。



「魔界の最強魔導師とはこんなものですか……? がっかりですねぇ――」



 ソラが紅血の剣ブラッディ・クレイモアを魔力化させて消滅させようとするも、魔力すら操作できない。




「放せよ……」




「この我に命令をするんですか? 貴方は罪深い屑ですね……」


 その時、ルシファーの右手に漆黒の大剣が現れた。


「なんだよ……それ……」


 ただの大剣ではなかった。 

 3(メートル)の刀身にも及ぶ大剣を右手だけで軽々と持っていた。


「嘘だろ……」


(まずい――ここから早く抜け出さないと……本当に死ぬ……)




「――黄昏の歪曲トワイライト・ディストーション!」




 刹那、ルシファーに金色の銃弾が凄まじいスピードで向かってくる。

 ルークの狙撃だ。

 が、ルシファーが大剣を一振りした瞬間、金色の銃弾は儚く散った。



「――ッ!? あいつの剣が銃弾に当たってないのに消えただと!?」


「貴方達はじっとしていてください。――ユニバース・ジェノサイド」



 ルシファーがそう呟いた時、ソラを除く全員が一斉に膝をついた。


(何よこれ……体が重い……!?)


「まさか、重力か――」


「御名答。ただし、気づくのが遅かったですねぇ……。気づいたところで貴方達に何ができるというんですか?」


「ちっ……」

 

 ルシファーはこの場にいる全員に重力場を出現させ、身動きが取れないように拘束した。

 それだけではない。

 普段の数十倍にも膨れ上がった強力な重力が、体力を奪ってくる。

 故に脱出不可能な迷宮だった。


「せいぜい、重力に押しつぶされないように気を付けてください」

「クソォォォォォォォ!」


 ルークが唸りを上げても、体は言うことを聞かない。

 重力に耐えているだけでも苦しい。

 

「リンフィア……」

「あ姉……ちゃん……」

 

 エステルがリンフィアを案じている。

 まだ13歳という幼い年齢でか弱い少女がいていい場所ではなかった。


 一方でソラの体からは自由が奪われている状態が続いていた。

 ルシファーに大剣を振りかぶる直前の態勢で体が一時停止していた。

 ルシファーは己の漆黒の翼を閉じ、空中で歩行している。

 故に、無重力を発しているということなのか。




「さて、公開処刑の続きをしましょうか……」




 ルシファーがそう呟いた刹那、ソラの体は二つに割れていた。




「…………!?」




 一瞬だった。




 ソラには何が起こったのか体が理解できていなかった。




 心臓から足部にかけて深紅の血の線が開かれる。

 



(――斬られた……のか……?)



 

 違和感の一つもない一閃。

 自分が斬られたことすら認識できないその一閃は、剣術だけでは成しえない技だった。

 ソラの自由の拘束は解かれ、レクセア王国の王城の床に墜落する。




「ソラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」




 イリスの悲鳴が重力を無視して響く。

 刹那、イリスたちを拘束していた重力も解かれるとルシファーは漆黒の堕天使の翼を広げていた。



「我はデザートは後に食べるタイプです。特別に貴方達を見逃してさしあげましょう……。我々五体の守護魔に反抗すればこうなります――。死にたくないなら逃げなさい。まぁ、反抗したところで貴方達には勝ち目がないということを理解したでしょうから……」



 ルシファーはそう言い残して踵を返して、凄まじいスピードで日輪の向こうへ消えていった。




「ぐはっ!」




 その時、仰向けになったソラの口から大量の血が吐き出される。


「おい、ソラ! 大丈夫か!」

「ソラ君――!? しっかりしてください!」


「ソ……ラ……」




 ――次の瞬間、自分を案じてくる声が徐々に消えていった。

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