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第96話 雪華の魔女

 ――レクセア王国王城。


 王城には大きな空間があった。

 何万という数の人を収めることのできる広さ。

 しかし、その空間にいる大量の国民でさえも全て入り切らない。

 そのためか、空中に魔力の足場を創造し、何とかギリギリ収めているという状況だった。

 空間の奥には大きなステージと、魔界の言語で『神聖魔導団(アルテンリッター)』着任式と書かれている。

 

「すごい……数だな……」


 ルークが声を漏らすと、その声は何万という国民という壁に音が吸収されていった。

 それでいて、国民は誰一人として喋らない。

 喋ることを許されていなかったのである。


「ルークさん」


 ソラがルークに小声で話しかける。


「あと、五分で儀式が始まりますよ」

「ああ、そうだな。空いているところに座ろう……って……」


 空いていない。

 空いている席がなかった。


「私、倒れそうだよ……」


 その時、リンフィアがソラに寄り掛かる。


「リンフィアちゃん!? あれ……?」


 最初はいつもの悪ふざけだと思っていたがそうではないようだ。

 少し、顔が青い。


「ソラ。おぶってあげて。多分、この人数にやられてるのよ」

「いいのか?」


 ソラの言う許可は、男女のアレのことだ。

 いつもはイリスが羨ましがって機嫌を悪くするのだが、今回に限っては素直だ。

 イリスがソラに向かって頷くとソラはリンフィアを背中でおぶってやった。


「大丈夫か?」

「うん、ありがと。ソラお兄ちゃん……」


 儀式のための席は確保できなかったので最後尾で潔く立っていることにした。



「それではレクセア王国新『神聖魔導団(アルテンリッター)』ラティス・レシスト様の着任式を開式致します」



 司会役の白髪の老人がそう告げると、式に出席するすべての国民が一斉に一礼した。

 ソラ達もつられて一礼する。


「ラティス様、お入りください」


 その時、幕の向こうから一つの人影を姿を現した。


「おぉぉ……」


 思わず数人の国民が声を漏らす。

 肩まで伸びている艶やかなウォーターブルーな髪と、純白の肌。

 そして、青いドレス。

 この姿を美しいという他はない。

 あまりにもの美貌に国民やソラ達までもが一瞬見とれてしまった。


「綺麗な人……」

「これは予想外でした……」

 

 イリスとエステルもその姿に目を引かれたようだ。

 遠くから見ていただけでも分かる、そして伝わる妖美なオーラと雰囲気。

 

「皆さん、ごきげんよう。わたくしは本国新『神聖魔導団(アルテンリッター)』に任命されましたラティス・レシストと申しますわ……」


 ラティスがステージの中央でそう告げた後、国民が唾を飲む音が微かに聞こえた。

 ただ妖美な笑みを国民に向けている。

 と、老人の司会ははっとして前を向き直ると式を続けた。


「えっ、と……それでは――」

「ちょっと待っていただける?」

「は、はぁ……」


 司会が式を進めようとしたとき、ラティスがストップをかけると、


「居ますわよね? 神薙ソラ様――」

「――ッ!?」


 マイク越しにソラの名前が響くと、ソラの顔色が一変した。

 

「お呼びのようだぞソラ。リンフィアは俺がおぶってやるから行ってこい」


 と、ルークがソラの背中を押すように促す。


「ルークさんにはリンフィアを持たしません。私が持ちますから」

「エステル――酷いな……」


 ルークなら幼い少女に何をしでかすか分からない。

 そう思った上でのエステルの告げだ。

 ソラは頷いた後、エステルにリンフィアを渡し、時空間移動で一気にステージに飛んで行った。


「おぉ……」

 

 突然のソラの出現に驚いたのだろうか、国民が驚く声が漏れる。


「初めまして神薙ソラ様――本式典ではあなたの着任式も含まれておりますの」

「そ、そうでしたか……」


 ここで、ソラがここに呼ばれた意味を思い出す。


(そういえば、アインベルク王国であの騎士が言っていたな……)


 そう、この着任式はソラとラティスの着任式なのだ。


「そ、それではアインベルク王国『神聖魔導団(アルテンリッター)』神薙ソラ様から一言を……」


 司会の老人が告げると、ソラはマイクの前に立つ。


「3か月前にアインベルク王国『神聖魔導団(アルテンリッター)』に就いた神薙ソラです……。よろしくお願いします……」


 ソラの声が響くが、どこかその声は震えていた。


「あの野郎、緊張してやがるな……」


 ルークが最後尾で呟いた。

 ソラにその声は当然ながら届いていなかったが、ソラは言葉の通り緊張している。


(やっべぇ……。何だよこれ。無駄に緊張が――そもそもこの空気よ。どうにかならないのかな?)


「緊張しなくていいですのよ……。国民たちは人形(﹅﹅)なのですから」

「え――?」


(人形? 何言ってるんだこの人――)

 

 その時、一瞬だったが、ラティスの顔の表情が堅くなった気がした。

 気がしただけなのかもしれない。


「どうかされましたの……?」 

「ああ、いや、なんでもないです……」

 

 怪訝な顔をしながらソラを見つめるラティス。

 ソラはぼーっとしていたのか、すぐに顔をぶんぶんと横に振る。


(落ち着け俺……。何を考えているんだ。今は式だろ……)




 ソラが自分に活を入れた時――最悪の事態は起こった。


(何だこれ……急に体が重く……)





 ――ドォォォォォォォン!




「――ッ!?」




 その刹那、レクセア王城を支えていた天井が一気に崩れ落ちた。

 崩れた岩石が次々へと国民を潰し、太陽の光を神秘的なほどに差し込んでくる。

 

「キャーーーーーーーー!」


 国民が一斉に会場から逃げ出す。 

 何万という壁が一気に崩れ、四方八方に散っていった。


「ラティスさん……これって……」

「ソラ様、太陽をご覧になってくださいますか?」

「太陽……ですか……?」


 ラティスの言われるまま、ソラが太陽の方向を見ると、眩しい日輪の中に一つの漆黒の影があった。

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