第95話 レクセア再び
――レクセア王国。
ソラ達8人が馬車を降りると、馬に乗って馬車を引いてきたアインベルク王国の騎士がソラに歩み寄った。
「私がお付き添いできるのはここまでです。レクセア王国の招待状を受けておりませんので」
「わかりました――」
「帰りの馬車はレクセア王国が手配するとのことでしたので私はこれで。――ではどうかご無事で」
騎士はそう言うと、ソラ達に一礼した。
「こちらこそ無事に帰られることを祈ってます」
ルークが代表して騎士に帰りの告げをすると、ソラ達はレクセア王国に向かっていった。
*
――レクセア王国、入国ゲート。
ルークがこの半年の中でレクセア王国に来るのはこれで2回目だった。
以前は、不法侵入という形でこっそりゼクスを連れ去ろうとした。
まあ、結果派手な戦いをして兵士たちを混乱させたのがオチではあったが。
「止まれ」
8人がレクセア王国に入国しようとすると、不意に一人の兵士が現れた。
(迷彩魔法か……)
自分の姿を消すことのできる一般的な魔法だ。
しかし、自分の気配は消せないため、少なからずここにいる8人にはお見通しだったのだろう。
ソラ、ルーク、セレスティナ、エステルの王国最強魔導師『神聖魔導団』とその付き添い4人。
彼ら彼女らに察知できないはずがない。
再びルークが代表して、兵士に招待状を提示すると兵士は無言で頷き、通らしてくれた。
「ふん、この国の兵士はわらわに向かって『止まれ』など礼儀がなっとらんようじゃ……」
「まあそう怒るなよセレスティナ。この国は――そういう風潮だ」
他国間との交流がほとんどないレクセア王国では、敬語を使う相手など自分たちのボスに限られている。
以前なら、今は亡きゼクスに対してしか敬語は使わなかったのだろう。
自分が尊敬する相手に敬語を使う――それがレクセア王国の基本であり根本だった。
「それにしてもやっぱり寒いわ……」
「そう? 私は寒くないけどな?」
「リンフィアちゃんは暖かそうな格好してるからよ……」
イリスの服装は《クレア学院》の制服で防寒着の一つも着用していなかった。
ソラも同様だ。
エステルの妹、リンフィアは厚い冬用のコートで中は何らかの綿で覆われており、かなり暖かいだろう。
レクセア王国は今日も寒い。
そして、暖かくなる日などない。
今は吹雪が無いが、普段冷たい強風とともに雪が舞っている。
アインベルク王国が恋しいと誰もが思う。
「ソラ君、どうかしたしましたか……?」
エステルが周囲に気を配っていると、ソラの様子が変であることに気づく。
「いや、何かやけに静かじゃないか? ここ……。人の気配も全くしない……」
ソラの言うことは正しかった。
ソラ達がレクセア王国に難なく入国してから人の姿でさえ見えない。
吹雪のない日だというのに――である。
普通なら快適な気候の元だと外出する人の一人や二人居ていいと思うが――。
「着任式の影響だろ」
と、さり気ない口調で話し始めるルーク。
「俺が前来た時もなかなかの静かっぷりだったぜ。まあ、あの日はかなり吹雪エグかったけどな。けど、人の気配がないってのもおかしいわけではない。大体の国民はこれから行くお城に集まってるんだろうよ」
「もしかして、レクセア王国の国民が全員着任式に出席しているってことですか!?」
「だろうな……」
新『神聖魔導団』のために、国民が全員出席。
レクセア王国とてかなりの人口数だ。
これは明らかに絶対王政のようなものだ。
国民の意思で全員出席。
故に、何らかの力が国民を強制的に動かしている。
そうとしか思えない。
*
ソラ達は極寒の王国を歩き、ついにその場所に到着した。
レクセア王国王城。
本日の新『神聖魔導団』ラティス・レシストの着任式が行われる会場だ。
やはり、人の気配はしていた。
入国ゲートとは違い、尋常ではない数の兵士が王城を囲んでいた。
「うわぁ……すげぇ……」
さすがのソラも驚愕とは違う感動が浮かんだ。
「かなり警備が厳重ね……」
イリスが呟く。
王城の周りを兵士たちが埋め尽くす。
人気バンドのライブ会場のような密度だが、その中でも沈黙を極めている。
兵士とて浮かれない。
浮かれてはならない。
常に周りに警戒態勢を取り、いつでも緊急事態に対応できるようにしていた。
「何か奇妙ですね……」
「エステル――?」
「この緊張感……何か変です。何かが……」
その時、エステルに寒気が走った。
「エステル、大丈夫か……?」
ソラがエステルに近寄り、背中を撫でてやった。
それでもエステルは前を向き、気を取り戻す。
「いえ、何でもないです。平気です……。それに、ボディタッチは――エロいです」
「なんでそうなった!?」
「なんだソラ? イリスじゃ満足できてないのか……」
突然、ルークが墓穴を掘り始める。
「ルークさん? 余計なことを言わないでください?」
「ちょっ、待てよ、イリス! 俺は別に本気で言ってるわけじゃ……」
イリスの妖気な笑みに恐怖したのか、ルークは簡単に引き下がってしまう。
「ふん、貴様は気不味い空気を作らないといてもたってもいられないのか?」
「…………」
「無視をするな!」
セレスティナの疑問を華麗にスルーするルーク。
ソラをからかったつもりだったのに、ここまで事態を大きくした自分を恨んだ。
「まあ、ソラお兄ちゃんにはこの私がいるから! 欲求不満の解消でも何でも言ってね!」
「リンフィア……ちゃん……?」
「ソラお兄ちゃん? 私だって女の子だからね? 勿論、男の子のやましいお悩みのお相手してあげてもいいんだよ?」
「ちょっと!? 何言ってるの!?」
ソラは不意に顔が紅潮した。
「何私の妹に発情してるんですか――」
「ソラって、ロリコンだったの?」
「わらわはてっきり熟女の方が好みだと思ってたんじゃがのう……」
「ソラ! 俺はお前がうらやましいぞ!」
「みんなして酷くない!?」
エステル、イリス、セレスティナの全員がジト目でソラを睨んでいた。
一方でルークはまた別の笑みを向けているらしいが――。
ベレニスはそんな他愛無い会話をただ邪魔しないように眺めているだけだ。
ユーズラルは――分からない。
レクセア王国の王城は、招待状を見せたことによりこれも難なく通過することができた。
レクセア王国の一人の兵士に案内されながら豪華な王城の廊下を歩いていた。
先の他愛無い会話は途切れ、そこには静寂な緊張感があった。
兵士に案内されるまま、ソラ達はただ押し黙って歩いていた。
(そういえば、この前の侵入。こんなに堂々と廊下を歩いたことなかったか……)
ルークが以前侵入したときは、別の意味で堂々としていた。
そのせいで王城の一部が破壊されてしまったことは紛れもない事実だ。
兵士は一つの巨大な扉の前に立ち止まると、
「この先が本日の会場となる……」
兵士が一礼もせずに、場所を告げた後踵を返して立ち去って行った。
「腹立つわね……」
「イリス、聞こえるぞ……」
小声でイリスが嫌味を呟くと、ソラは手で制してこの先の言葉を止めにかかった。
確かにレクセア王国の兵士の態度は失礼に値する。
それでも、今は我慢しなければならなかった。
「開けるぞ……」
ルークが先導して扉を開けるとその先にはとんでもない光景があった。
今日の更新ですが、遅くなってしまい申し訳ございませんでした。
これでも3月の毎日更新は守るつもりなので、今後ともよろしくお願いします。
東雲蒼都




