ラスボス 余命30分!
大きなドアの前にいる勇者一行。
周りには、ここまでに倒してきたモンスター達の死体が、ゴロゴロと転がっている。
「行くぞ。」
緊張した顔で、ドアを開ける勇者。
大きな広間の奥に、宝石で飾られたような立派な椅子があると思いきや、
意外にこじんまりした白い部屋で、中央にベッドがある。
「何で? 病院・・・?」
ベッドに横たわっている見るからに弱った老人(酸素マスクと点滴をされており、いろいろな機械に繋がれている)
「おぉ・・・、ひょっとして、勇者か・・・?」
「え・・・っと、失礼ですが、どちら様ですか?」
「わしは、ま・・・お・・・、」
いきなり息絶える老人。
「おじいちゃん? おじいちゃーん。 おい! 誰か看護士さんを呼んで来い! 大至急!」
しばらくして、老人の容体が回復。
「焦った・・・。マジで焦ったわ。おじいちゃん、いきなり死なないでよ。」
「迷惑を・・・、かけたの。」
「でさ、おじいちゃん、魔王ってどこにいるか、知ってる?」
「わしじゃ。」
「いやいや。魔王だから、読んで字の通り、魔物の王だから。」
「だから、わしじゃ。」
「うそつけよ、じじい! マジで息の根止めんぞ、オラ!」
「助けたり、殺したり、忙しい若者じゃ・・・。」
「・・・マジで? マジでおじいちゃんが魔王なの?」
「だから最初から、そう言っているじゃろう・・・。」
「そんな体で、あの凶暴なモンスター達に指示を出してたの? すごいんだけど。」
「いや。あいつらは、わしのことなんて知らん。」
「・・・俺らさ、魔王を倒せば自動的にモンスターは滅びるって聞いてたんだけど・・・」
「それはどういう仕組みなんじゃ? わしとモンスター達は、何かで繋がっているとでも言うのか?」
「全部のモンスターに、魔力を供給してるんでしょ?」
「あれだけたくさんいるモンスター全部にって、わしにどんだけ体力があればできるんじゃ?」
「やっぱりか! 嘘くさいと思ってたが! あの王族、嘘つきやがった・・・。ぶっ殺す!」
「モンスターは一匹ずつ、倒していくしかなかろう・・・。」
「面倒くせー! やだよ。一匹ずつプチプチとなんて。」
「そんな虫みたいに。」
「だって、俺、今日で旅が終わると思って、旅行の予約入れちゃったよ。キャンセルするしかないかな~?」
「どこに行くんじゃ?」
「南の島だよ。」
「どこの? どうやって行く?」
「別にどこだっていいだろ? あと、何で行き方に興味があるんだよ!」
「余命30分の人間の質問を無視するのか? 冷たい男め。」
「え・・・、人間じゃないでしょ? 魔王でしょ?」
「わしは人間じゃよ。」
「・・・どういうこと?」
「魔王というのはあくまでも人間サイドから見た分かりやすい『悪の象徴』じゃ。」
「うん。」
「ぶっちゃけ、わしはただの役者じゃ。雇われておる。」
「・・・嘘でしょ? え、王族たちはそのこと知ってるの?」
「当然じゃ。わしのサラリーはその王族連中から出ている。」
「サラリーって! 何でそんなことを?」
「ちなみに時給で換算すると、」
「しなくていいよ! 高くても安くても、何か、がっかりするし!」
「わしが役者というのは本当じゃ。昔から悪役ばかりだったがな。」
「だから魔王に・・・って、違うでしょ? だから何のために、王族は魔王を雇ってるの?」
「人間サイドとすれば、意思疎通のできないモンスターは怖いじゃろう?」
「そうだね。」
「あいつらは獣といっしょだ。思いつきでしか動かん。」
「戦ってる感じ、そうだったと思う。」
「そこに適当な理由をわしがつけて、人間サイドへプレスリリースする。」
「プレスリリースって・・・。」
「つまりはスポークスマンじゃ。」
「だから横文字はやめろって! 内容が頭に入ってこないから!」
「ふぅ・・・。話し過ぎたか、疲れたわい。」
「ちょっと待って。」
「わしの余命はあと20分じゃ。あまり時間がないぞ。」
「そういう脅し文句ってずるくない?」
「何でも聞くがよい。」
「本名は?」
「ノーコメント」
「答えろよ! 即、拒否じゃねーか。」
「魔王ネームなら言えるが。」
「何だ、それ!」
「それ以外は事務所を通してくれ。」
「・・・わかったよ。なぁ、さっきからずっと気になっているんだが。」
「わしの初体験の話か?」
「違うわ! 何で、死にかけジジイの性行為について聞きたがるんだよ。」
「男はみんな、猥談が好きだろう?」
「好きだけど、今は聞きたくないよ!」
「じゃあ、何じゃ?」
「『おじいさん魔王』はさ、」
「何か失礼な言い方だな。」
「モンスターを従わせることはできないんだよね?」
「その通りじゃ。そんな力は皆無じゃ。」
「俺ら、この城に入ってから、結構な数のモンスターを倒したんだけど、あれはどういうこと?」
「着ぐるみ。」
「は?」
「あれ、全部、モンスターの着ぐるみを着た人間。」
「え? 俺ら結構な数を・・・、」
「君らは大量殺人犯。捕まったら情状酌量無しで一発死刑。」
「嘘だろ~。やべーよ。捕まったら、旅行いけないじゃん。」
「そこ? そこなの? 人間を殺したことの良心の呵責は?」
「ない。」
「現代っ子って・・・。」
「でも何で、わざわざ着ぐるみなんか準備してたの?」
「基本的には、魔王を守るため。」
「まあ。そうだよね。城に魔王しかいなかったら、おかしいもんね?」
「あとは借金取りから、存在を隠すため。」
「全員、逃亡者だったんだ。」
「みんな、気のいい奴らばっかりじゃった・・・。」
「そういうこと言うなよ! ちょっと気になるから!」
「ちょっと、だけなのか?」
「ほんのちょっと。」
「現代っ子め!」
「でも俺ら、今後どうしたらいいの?」
「わしはあと10分程度で死ぬ。」
「リアルにカウントダウンが進んでて、嫌だな・・・。」
「そのことを王族達にそのまま伝えるがよい。」
「それで終わりなの?」
「それで終わりになるじゃろう。あとお主らは多分、王族達に爆笑される。見事にドッキリにかかったわけだから。」
「ふざけんなよ! あいつら。」
「さぞかし滑稽じゃろう。その場に行ければな・・・。」
「うるせーよ。」
「その後は、また新たな魔王が選ばれるだろう。ただそれだけ。何も変わらん。」
「おい。・・・魔王の発言なら、王族達も聞くのか?」
「おそらくは。特に遺言ならな・・・。」
「じゃあ、俺を次の魔王に指名してくれない? 俺も借金があるんだわ。」
「断固として断る。お前は死ぬまで何かと戦い続けるがいい!」
「最後だけ、魔王らしい発言をしやがって!」