コーヒーブレイク
自宅に戻ると、幸子が俺の部屋にいて彼女は俺に背中を向けてだらだら寝っ転がっていた。
これはもう見慣れた光景だから驚くこともないんだが、客観的に見れば、ギフトガーデンに来た当日から女の子が入り浸っているのは、相当おかしな話なのだろう。
だが、そんな状況は俺によって作られたわけではなく、彼女のせいであり、俺がやましいやつでも何でもないということを心に置きながら、だらける幸子を眺めた。
すると、幸子は俺が帰ってきたのを察知したのか、その体を転がして顔を向けてきた。
相変わらず無表情でけだるさを感じさせる彼女の顔、そして口にはお決まりの棒付き飴、よくもまぁ飽きずにそんなものをなめられるものだと思いながらも、あたりまえのように居座る幸子は口をもごもごと動かした。
「おはえり兵助」
「あぁ、ただいま」
「なにをおぶってるの?」
「不良文学男子」
「そのおかしな単語は兵助が作ったの?」
「あぁ、いいネーミングだろ」
「うん、で、それは兵助のお客さん?それとも誘拐?」
「誘拐なんてするか、普通にお客さんだよ」
「でもお客さんをおぶって家に招待するなんて初めて見た」
「そ、それは、まぁとにかく客なんだよ」
「そう」
「そうだ」
「じゃあ私帰るね」
「え?」
そうしてすっくと立ちあがり、すぐさま帰り支度を始める幸子、今日はずいぶんとあっさり帰っていくものだと幸子を見ていると、彼女はおぶっている哲心を横目にさっさと出て行ってしまった。
幸子が出て行ったあと、ベッドに哲心を寝かせると、彼は相変わらず寝息を立てており、まだまだ起きる気配が感じられなかった。そんな様子を見届けた後、俺はこないだの買い出しで手に入れたコーヒーを入れることにした。
何でも、ガーデンではコーヒーが大人気らしく、買い出しに行った時に、ありとあらゆる数のコーヒーが販売されていたことに驚いたものだ。
だが、大した知識のない俺は、大量に並んだコーヒーを前に最も安いコーヒーをこそこそ買い取ったというなんだか恥ずかしい記憶がよみがえった。
まぁ、そんなことはさておき、とりあえず自宅に備え付けられていたコーヒーメーカーでコーヒーを入れた。
徐々に、香りだつコーヒーの匂い堪能していると、その匂いにでもつられたのか、哲心がもぞもぞと体を起こした。彼はここがどこか確かめているのか、きょろきょろとあたりを見渡した後、ようやく俺へと目を向けた。
「コーヒーの匂いだ」
「開口一番がそれなのか」
あきれた目覚めにそんな一言を投げかけると、哲心は恥ずかしそうに顔をうつむけた。
「す、すまない」
「いや、いいけど」
「それよりもここはどこだ、なんで兵助がいるんだい?」
「そりゃ、目の前で倒れてるお前をほっとけるわけないだろ、だから俺がおぶってここまで連れてきた」
「あぁ・・・・・・そうか、そうだったね」
「あぁ、それより哲心体は大丈夫か」
「大丈夫さ、これくらいのことは慣れてる」
「慣れてる?まさかいつもあんな風にぶっ倒れてるのか?」
「そうだね、基本的にコンクリート上で目覚めるか、病院のベッドで目覚めるかのどっちかだけど、今日のようなパターンは初めてだ、助かったよ兵助」
「そうか、お前も大変だな」
「それでここは?」
「俺ん家だ」
「なるほど、どうりで見覚えがある間取りだと思った」
「そうか?」
「あぁ」
「まぁ、今コーヒー入れてるから、よかったら飲んでいってくれ」
「いや、いい」
「え、なんで?」
「ここしばらくは君にお世話になってばかりだ、これ以上迷惑をかけるわけにはいかない」
「いや、せっかく入れたんだから、一杯だけでも、な」
勝手な事をしているのはわかってる、だが、ここで哲心を逃してしまえばこの先哲心と仲良くなれないようなそんな気がする。何しろ哲心は生まれて初めて会話が成立した男友達だ、このチャンスは絶対に逃せない。
それこそ、このまま哲心という男友達を見逃すようなことがあれば、この先男友達ができるかどうかわからん。だから、なんとしても逃がすわけにはいかない。
「じゃ、じゃあいただこうかな」
「あぁ、いただいてくれ」
そうして俺たちはリビングで二人仲良くコーヒーを飲みあうことになった。コーヒーを手渡すと哲心はすぐにコーヒーカップを傾けた。
そして少し笑顔で何度かうなづいてくれた。お口に合ったのか、それとも安物だとわかって笑われているのか、出来ることなら前者であってほしい。
「これ、一番安いやつだね」
「え、なんでわかったんだ?」
どうやらかなりのコーヒーマニアらしく、一発で安物を当てた哲心を見つめていると、彼はどこか笑顔で楽し気にコーヒーをもう一口飲んだ。
「わかるさ」
「なんで?」
「これは僕がいつも飲んでるやつだからね、とてもおいしいよ」
「う、うまいのか?」
「あぁ」
「そうか、そりゃよかった」
たまらず安心していると、目の前の哲心はなんどもコーヒーカップを傾けた。言葉通り好きであるのならいいにこしたことはないが、そんな中、哲心は小さく笑った。
「な、なんだ、どうした?」
「いや、なんだか兵助が不安そうな顔をしていたからね、何を心配していたんだい?」
「いや、安物のコーヒーだったから、笑われたのかと思って」
「違うよ、コーヒーに値段は関係ないのさ、それにこのコーヒーを出している会社は、とても歴史のある会社でね、昔から安価でコーヒーを売っていて、しかも味もおいしいんだ」
「へぇ、そうだったのか」
「あぁ、僕はこれがお気に入りなんだ」
「けど、このあたりじゃコーヒーが人気なんだな、俺のいたところじゃお茶ばっかりだったからなんか新鮮だ」
「俺のいたところ?」
「え、あ、いや何でもない、それより哲心お前もよくやるよな」
「やる?何の話だい?」
「喧嘩だよ、いつもやってんのか?」
「あぁ、本当は暴力的なことはしたくないけど、事情が事情でね」
「喧嘩しなきゃいけない事情があるのか」
「そうさ、誰に何を言われようと、やりたくもないこれをやめるわけにはいかないんだ」
その顔は先ほどまでの緩んだ顔ではなく、厳しく強い意志の感じられる顔であり、俺はどことなくそんな顔に惹かれた。
「それは、空繰ってやつをつぶすまでってことか?」
「そういうことになる」
「なぁ哲心」
「なんだい?」
「やめといたほういい、このままじゃ空繰とかいうのを倒す前におまえの体がもたない」
「気をつかってもらって嬉しいけど、何を言われようとこれをやめるわけにはいかない」
「違うそういうことじゃなくて、哲心一人じゃどうにもならないってことが言いたいんだ、それくらいはわかるだろ?」
「わからないね」
「そうか、なら一つ提案していいか?」
「提案?」
「そうだ、聞いてくれるか?」
「なんだい?」
「俺と友達にならないか?」
俺の一言に哲心はむせた。少しばかりコーヒーのしずくが飛んできたよな気がするが、胸をとんとんと叩きながら平静を取り戻そうとしている哲心は涙目で俺を見つめてきた。
「と、突然何を言いだすんだ君はっ」
「何って、友達になろうって言ったんだ」
「どうして突然そんな話になるんだ、全く意味が分からない」
「だめか?」
「だ、だめではないけど、そんな話をしていなかっただろ」
「いいや、俺はそういうつもりで話してたんだけど」
「そのつもりって、大体どうして僕なんかと友達なりたいんだっ」
「いや、だって哲心ってなんか危なっかしいし、そばにいてやりたいっていうか、ほら俺が友達だったらいつ喧嘩でぶっ倒れても、またこうやって安全な場所に運んでやれるぞ?」
「き、君はおかしなやつだな」
「お、おかしくない、俺はいたって普通の人間だっ」
「そういう意味じゃない、僕みたいなやつを友達になるっていうのがおかしいって言ってるのさ」
「あぁ、なるほど」
「確かに、君みたいな人と友達になったらさぞ楽しい日常を送れるかもしれないけど、残念ながらその申し出は断らせてもらうよ」
「な、なんでっ?」
「いや、僕は変なことに首を突っ込んでるからね、君のようないい人を危ない目に合わせたくない、だから君とは友達にはなれない」
「・・・・・・」
なんだそんな事か、そんな事、友達になるうえで大したことでもないのに。これを良い風にとらえるなら哲心は超絶友達思いのいいやつだってことだ。だからこんなことを言って俺みたいなやつを面倒ごとから遠ざけようとしているわけだ。
「わかってくれたかい兵助?」
「わかった、要するに俺たちは友達でいいってことなんだろ」
「な、なにをいってるんだ君は、僕の話を聞いていなかったのかい?」
「いや、でも俺友達欲しいし」
「そ、そういう問題ではなく、僕は君のためをと思って言ってるんだ」
「いいだろ、ここにきて俺はろくに友達ができてないんだ」
「なんだその不幸自慢は、人は僕以外にもたくさんいるんだ、そこから作ればいいだろう。」
「いいだろ友達になってくれるくらい、なっ」
「子どものお願いみたいなことを言わないでくれ、無理だと言ったら無理だ、君には世話になってるしなおさら変なことに巻き込みたくない」
「そんなこと言うなよ、友達になるくらいいいだろ」
「ど、どうして僕なんだ、他にもいろんな奴はいると言ってるだろう、君だったらもっといい友達を作れるはずだ」
「なんでそう思うんだ?」
「そ、それは、君は僕みたいなやつを助けてくれたり、わざわざ家で休ませてくれたりコーヒー入れてくれたり、とにかくいい人じゃないか、君みたいな人なら友達がたくさん出来るはずだ、それに見た目も男らしくてカッコイイし、女性からの人気も高いだろう?」
「・・・・・・」
俺は哲心が紡ぎだす言葉の数々にただただ感動した。「いいやつ」「友達がたくさんできるはず」さらには「男らしくてカッコイイ」、もはや目の前にいる本屋哲心という男に俺は陶酔していた。
こんなにも俺のことをよく言ってくれる人が今までいただろうか?いや、いない、俺は生まれて初めて褒められるという奇跡体験をしている。
「ど、どうしたんだい兵助?」
「哲心、俺っていいやつ?」
「あ、あぁどうみたっていいやつにしか見えないよ、というよりもういいやつじゃないかこうして僕を助けてくれて、おまけにコーヒーまで出してくれるなんて、初めてだよ」
「本当かっ」
「本当さ、嘘を言う必要がないだろう?」
「そうか、じゃあ哲心今すぐ俺と友達になろう」
「だ、だから無理だといってるだろ、どうしてそうなるんだ」
「いや、だって俺のこといいやつとか言ってくれる哲心はめちゃくちゃいいやつなんだよ、だから俺はお前と友達になりたいっ」
「それとこれとは話が別だ」
「違くない」
「違う」
「違くないっ」
なんて、バカみたいと思われるかもしれないが、個人的には重要なやり取りを数分続けたころ、俺ともちろん哲心も喋りつかれたのだろうか、部屋には静寂が訪れた。そして、哲心はどことなく疲れた顔でコーヒーカップをなでまわしていた。
しかしだ、本屋哲心という男は俺にあまり否定的な印象を持たない、いつもなら俺に初めて会ったやつらはチンピラだとか目つきが悪いとか、不良にしか見えない、とかさんざん言ってくる。
だが、哲心はおれの事をいいやつというし、身なりについてもこれといって言ってくることもない。おまけに「いいやつにしか見えない」なんて言う素晴らしい称号までいただいた。
こんなことを言われれば何が何でも哲心とは友達になりたい、まぁ、もともと男友達がほしかったっていうのもあるし、ここにきて男と会話が成立したのも哲心くらいだ。
何とかしてこの関係をいい方向にもっていきたいところだが。現時点ではかなり難しいようだ。
「哲心」
「なんだい、まだ友達になってくれと言いたいのかい?」
「いや、それはそうなんだけど、とりあえずこの話は保留にするよ」
「そうかい」
「あぁ、悪かったなしつこく迫って」
「いや、いいさ、それでまだ何か話でもあるのかい?」
「いや、実は」
そう言葉にしようとしたとき、突如としてピリリリリと電子音が鳴り響いた。何事かとあたりを見渡していると、目の前の哲心がごそごそと自らのポケットをあさり、携帯電話を取り出した。電話ではないのか、携帯電話をしばらく眺めていたかと思うと、コーヒーを一気に飲み干し勢いよく立ち上がった。
「どうした哲心」
「兵助、介抱してくれてありがとう、それからコーヒーも」
「あ、あぁ」
「少し用事ができたから帰るよ」
「え?」
そうして哲心は足早に立ち去り、玄関の扉が閉まるむなしい音が室内に鳴り響いた。
用事、それがまた空繰関係のものではないことを願いつつ、俺は哲心が飲み終えたコーヒーカップを片付けようとしていると、再び玄関の開閉する音が聞こえてきて、俺はすかさず玄関に目を向けた。するとそこには靴を脱ごうとしている幸子の姿があった。
「幸子、お前はおれたちのことを監視していたのか?」
「どういう意味?」
「哲心と入れ違いで入ってくるなよ」
「入れ違いだったんだ」
「そうだよ」
「それは知らなかった」
嘘だ、明らかに見計らってたに違いない、それこそ壁に耳でもくっつけたりしながら俺たちの様子をうかがっていたのだろう。しかし、そこまでして俺の部屋に来たいものなのだろうか?
そんな疑問の中、幸子はというと当たり前のように部屋に入ってきて、リビングにペタンと座った。家電はそろっているが、家具に関していえばまるっきりないこの部屋は少し殺風景だ、唯一座れるのはベッドくらいだが、さすがの幸子もそこには立ち入ろうとはしない、だからまるで人形のようにぽつんと座る幸子はどこか奇妙だった。
「幸子、何しに来たんだ?」
「遊びに来た」
「遊びって、何して遊ぶんだよ」
「わからない、でも誰かの家に行くのは遊びに行くって聞いたことがあるから」
「あぁ、それは俺も聞いたことがあるな」
「だから遊びに来た、何するかは決めてない」
「あぁ、見てたらわかる、ただ座ってるだけだもんな」
「うん」
そんな幸子を横目に俺はコーヒーカップを洗い行くことにした。簡単にカップを洗い終え、こっちとしてもやることがない俺は、ここ最近よく耳にするようになった空繰ということについて幸子にも聞いてみることにした。
「なぁ幸子、お前空繰って知ってるか?」
その一言に幸子は妙に素早く反応した。それは今日までの幸子からでは考えられないような反応であり、俺は少しだけ幸子のように恐怖を感じた。
「知ってる」
「ど、どんな奴らなんだ?」
「知りたいの?」
「あぁ」
「ギフトガーデンでちょっとした問題になってる集団、集団と呼ぶには少し疑問を感じる人たちだけど、彼、彼女らはまさしく無法者集団。そして、あらゆるばしょであらゆる悪事を働いている。その行動に計画性はなく、まさに実体のない組織とも呼ばれている、その空繰がどうかしたの?」
「えらく饒舌だな、今日は疲れないのか?」
「大丈夫、それより空繰がどうかした?」
「いや、その空繰ってやつに妙に固執してるやつがいてな、しかもそいつたった一人で空繰とか言うのをつぶすとか言ってるんだよ、俺はそいつが心配で心配でさ」
「なんでそんなに心配するの?」
「え、それは・・・・・・・」
そう、それは哲心の姿がどこか俺自身とかぶるところがあるような気がするから、なんてことは言えず、幸子がまじまじと俺を見つめてきた。まぁ、それ以前に空繰ってやつらがそんなにも大きな組織だってことなら、自分の境遇と被るとか以前に普通に手を引かせてやらなきゃならない。
「兵助、それはの後はなに?」
「い、いや」
「言いたくないならいい、でも兵助がその人のことを心配で、それが空繰にかかわることなら早々に手を引いた方がいいと伝えて」
「え?」
「空繰という霞のような集団に確固たる敵はいない、だから空繰をつぶしようがないし、何よりも恐ろしいのは空繰はどこにでもいて、どこでもその力を行使できる、この恐ろしさが何よりも危険な証、だから手を引くべき」
「どこにでもいるって、そんなのありえないだろ」
「ありえなくない、一見普通の学生に見えてもその人が空繰の一員だったりする。そして彼らは独自のコミュニティでつながり、そして何かが起こる」
「何かが起こるってなんだよ」
「それはもう色々」
「色々?」
「そう」
「そ、そんなにも恐ろしい集団どうすりゃいいんだよ」
「どうしようもない、だけど普段からGと呼ばれる治安維持の人たちが頑張ってくれてるからそこそこに平和を保ってる・・・・・・あ、Gって知ってる?ゴキブリじゃないよ」
「知ってる」
「どうして?」
「そりゃいろいろ聞いたり体験したりしてるし、何より舞子先生がそんなこと言ってた気がする」
「あぁ、特別授業」
「そうだ、幸子もいただろ」
「そういえば」
「そういえばって・・・・・・あ、そうだ特別授業で思い出したけど、お前授業中に俺にちょっかい出してくるのやめろよな、集中できない」
「でも、私は暇だから」
「おまえは暇でも俺は勉強で必死なんだ」
「でも私が暇だからゲームしてた時、のぞきこんできたのは兵助の方」
「あ、あれは・・・・・・」
「私は何も悪くない」
「幸子が勉強してる俺の隣でゲームしてるのが悪いだろっ」
「悪くない、それに暇だからお菓子食べてる時もちらちら見てきて、お菓子を要求してきたりしてた」
「ち、違うあれは見てただけで要求なんかしてない」
「でも、あんな捨てられた猫のような目をされたらあげずにはいられない、つまり兵助のせい」
「ぐっ」
「私悪くない、あんな目をする兵助が悪い」
「そ、そうだな、俺が悪いな」
なんだか上手に丸め込まれたというより、自分自身の我慢できない性格ゆえの失態に自己嫌悪に陥りながら、ずいぶんとご機嫌に笑って見せる幸子の様子から、どうやら機嫌は徐々に治りつつあると判断した俺は、哲心や空繰の事も気になるが、まずは夕食の準備と思い、エプロンを着ることにした。
「もういい、今日の晩飯だ」
「今日は何?」
「幸子、お前は俺のペットか何かか?」
「違う、この場所になれない兵助の面倒をみて上げてる心優しいギフテッド」
まぁ色々世話になったが、それ以上に世話している俺は・・・・・いやいや、これはもう考えないことにするか、他人が見たらきっとうらやましいことだろう、そう思えばこれくらいのことなんてことはない。
だから、今はそんな事よりも、俺は哲心とどうすれば友達になれるのだろうかという思いしかなかった。ここに来てからの初めての男友達だ、これは何としてでも仲良くなっとかないと、これからのガーデンの生活がとんでもなく乱れたものになりかねんからな。
「それより兵助」
「なんだ?」
「さっきの話だけど、本当に空繰にかかわるのはやめた方がいい」
まるで 念を押すかのような発言に、幸子は相変わらずの無表情でいまいちその言葉の強味を感じられなかった。だが、何度も言うあたりよほどの組織なのだろうということがわかった。
「そりゃ俺もそう思うんだけど、当の本人が頑固な奴でさ」
「頑固者は早死にする」
「なんだそりゃ」
「ことわざ」
「そんなことわざないだろ」
「ある、私が作った」
「作ったって・・・・・・」
「今回のケースに関していえばの話、もしも兵助がその人のことを本当に心配してるなら力づくでも止めてあげたほうがいい」
「あぁ」
妙に、心配してくれる幸子は相変わらずの無表情で本心を暴けない様子だったが、彼女の言葉で俺はやはり哲心をほっとけない気持ちがさらに強くなった。こりゃ嫌われる覚悟で哲心にかかわった方があいつのためはもちろん俺のためにもなるかもしれない。