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ギフトガーデン  作者:
フランクイェーガー編
7/18

巷で噂のFランク狩り

 ギフトガーデンにやってきてからもう数日がたとうとしていた頃、相も変わらず幸子と不思議な隣人関係を築いていた。

 彼女は、ことあるごとに俺のところに訪れては、一緒に食事したり、放課後の特別授業では、二人並んで舞子先生の授業を受けていたりした。

 

 不思議なもので、会ったときから嫌な気はしなかったし、一緒にいてもそれほど苦にならない。


 だが、このおかしな関係性の中で俺はちょっとした不審点を見つけた。それは俺は幸子と一緒に登下校したことがないということだ。

 なんだそんなことか、と思われるかもしれないが、幸子は基本的に俺の家にいることが多いし、特別授業の時だけなら一緒にいる。


 だが、決まって幸子は登下校の際になると、俺のもとから姿を消す。


 さながら幽霊少女と出会ってしまったかに思えるそんな彼女の存在を俺は少しだけ奇妙に思っていた。


 そして、俺の元から突然いなくなる理由が分からず、俺はいつの間にか幸子のことを考えながら並と教室内で二人昼食を取っていた。


 並はあちこちにピンバッジやキーホルダーを付け、極めつけはトレードマークともいえるバンダナを装備している。

 もはや新一年生とは思えない出で立ちの彼女は、菓子パンをかじりながら俺の弁当に釘付けになっていた。そんな彼女は口に含んでいたパンを飲み込むと、突然しゃべりだした。


「猫兄っ」

「な、なんだよ?」


「猫兄って弁当作れるんすね」

「これくらいは朝飯前だな、ほら、早起きは三文の徳っていうだろ、俺は縁起の良い言葉は好きなんだ、なんたって幸せになれるような気がするからな」


「へぇー、そんなことよりうまそうっすね」

「そんなことって、おまえなぁ」

「いやぁ、それにしてもうまそうっすね、そのお弁当」


 うまそうと連呼する並の顔はどこか物欲しげな表情であり、それは間違いなく俺の弁当のおかずを貰いたいと言っているように見えた。

 だが、当人の口からほしいという言葉を言われるまで、大切な食料を渡す理由がない俺はそれとなく探りを入れることにした。


「何が言いたい?」

「美味そうだからくださいっす」


 両手を差出し、くれくれポーズをする並はその生まれ持った愛らしい容姿を有効活用して見せた。


「正直だな」

「はい、食べたいっす」


 正直すぎる返答に思わずあっけにとられたが、これだけ素直に求められればもうあげない選択肢はない。いや、むしろ好感すら抱くこの純粋さは非常に愛らしい。


「そうか、じゃあ選べ好きなものをやる」

「え、いいんすか」


「あぁ」

「じゃあその美味そうな唐揚げをくださいっす」


「そこも正直なんだな」

「え、どういう意味っすか?」


「なんでもない、ほら」

「わーい、唐揚げっすー」


 そう言うと並は俺の弁当箱に中でメインとなるおかずの唐揚げを一つ取り上げ、口の中に放り込んだ。美味しそうに咀嚼する彼女は、今にもおちようとするほっぺたを両手でおさえているようで、見てるこっちまでが幸せな気分になった。


「うまいか?」

「うまいっす、肉なんて半年ぶりっす」


「肉が半年ぶりってお前どんな生活してんだよ、肉は食べたほうがいいぞ」

「そうなんすけど、ここ最近は出費がかさんで菓子パンしか食えない生活なんすよ、これでもいい方っす」


「何をそんなに金を使うんだよ」

「そりゃもうおしゃれっす」


「おしゃれって、まさかそのピンバッジじゃないだろうな?」

「そうっすよ、これがたまらないんすよ」


 そういって見せつけるように胸を張る並のピンバッジに目をやると、可愛いキャラものから、なんだかよくわからないもの、そしてなかなかカッコイイものまで、多種多様にそろっており、なんならそのままピンバッジ販売でもしたら儲かりそうなほどそろっていた。


「へぇー、まぁ悪くはないよな、これなんか特にいい」

「あぁ、猫の奴っすね、しかし猫兄はえらくかわいいのが好きなんすね」


「べ、別にいいだろどんなものが好きでも」

「いいっすけど、そういえば猫兄はバッジの事についはもう知ってるんすか?」

「あぁ、もちろんだ、特別授業で舞子先生から教わったからな。えーっと、なんでもシンボルを見つけたやつらはみんなバッジを付けてるんだろ」


 そう、舞子先生の授業を真剣に受けているからこそのこの知識、ただ、最近は授業というよりも幸子による俺へのちょっかいが気になって集中できていないというのが実際のところだ。


 何しろ舞子先生は話に夢中だから幸子は注意をされることもなく絶好調で好き勝手やりやがる無法地帯とかしている。

 それこそ最近の事なんてのは頭に入っていないわけであり、バッジをつけてる人がいるってことぐらいまでが授業での最後の記憶のような気がする・・・・・・


「そうっす、だからバッジをつけてる人が居たらなるべく喧嘩を吹っ掛けない事っすね、あたしたちFランクが格上に喧嘩なんて売ったりしたら一瞬でぼこぼこにされちゃいますからね、って猫兄はもう喧嘩吹っ掛けてましたねずいぶんと年下のバッジホルダーに」

「あ、あれは、向こうから突っかかってきたんだよ」


「そうっすか、なんか猫兄ってチンピラぽいっすからそういうことするのかと思ってたっす」

「な、なに言ってんだよ、俺はチンピラじゃねぇよ」


「そうなんすか?」

「そうだよ、まったく思い出したくもないこと思い出させやがって」


「猫兄、ちびっこ相手にいともたやすく倒されてましたもんね」

「あれはよくわからんけど、なんかふらついたんだよ」


「中々滑稽でしたよ、高校生が小学生に倒されるというのは」

「大体ここじゃ年齢は関係ないんだろ」


「そうっすよ」

「だったら、高校生の俺が小学生レベルで、あの生意気な小学生が高校生レベルだってことだ、つまり俺は上級生にいじめられたといっても過言ではない」


「なんかよくわかんないっすけど、まぁいいっす」

「あぁ」


「あ、そうだ、バッジホルダーのついでにもう一つ気を付けてほしいのがいるんすけど、聞きますか?」

「いる?」


「そうっす、なんだか世間を騒がせているとんでもない奴っすよ」

「教えてくれ、少しでも情報があった方が穏便に過ごせそうだ」


「じゃあ教えるっす、えーっと確か「フランクイェーガー?」とか何とか言ってたような気がします」

「フランクイェーガー?」


「はい、あたし達のようなFランクを狩っているという人がいるらしいっす」

「それは、穏やかじゃないな」


「まぁ、よくわかんないっすけど、いじめみたいなもんっすね」

「ふーん、ここでもそんなのがあんのか」


「まぁ、あたしたちだけに限った話とは思いますけど」

「で、そいつはどんな奴なんだ」


「なんでも、細身で眼鏡をかけた理系男子らしいっすよ」

「何人だ?」


「一人っす」

「細身で眼鏡の理系男子、そいつが俺らを狩ってるってのか?」


「はい、だから気を付けてくださいっす、猫兄みたいな人は狙われやすいそうですから」

「どういう意味だよ」


「チンピラみたいで生意気そうに見えるからっす」

「いや、だから俺はっ」


 そう声に挙げた途端、教室が静まり返った。原因はもちろん俺が声を上げたせいだと思われる。そして、俺の周りでは、緊張した面持ちのクラスメートたちがじっと俺を見つめてきていた。


 入学式から数日たった今でも、目の前にいる並としか会話できていないことから、もとよりクラスメートたちとは相いれない感じだったが、この出来事によりその溝はさらに深くなったような気がした。そして、そんな俺をあざ笑うかのように並が笑った顔を寄せてきた。


「これはチンピラから、極道にでも格上げしそうっすね」

「あのな、俺は本当に何でもないただの一般人なんだからな、そういう人たちと一緒にしてもらっちゃ困るんだ、むしろその対極にある存在なんだぞ」


「でも、クラスメートがみんなそう言ってるんすよ、ヤンキーだとか、ヤクザとか」

「えっ?」


「根も葉もないうわさっていうのは怖いもんすね、あたしは猫兄がそういう人じゃないってことわかってるんすけど何も知らない人に取ったら猫兄は相当やばいやつに見えるんじゃないっすか?」

「並、それってマジで言ってんのか?」


「何がっすか?」

「その、ヤンキーとかヤクザとか」


「もちろんっす、ガーデンでは任侠映画がブームになったこともありますからねそういうことに関しては敏感なんすよ」

「なんてブームだ」


「いやぁ、猫兄も災難っすね、たぶんその目つきの生徒は思うっすけど」

「くそっ、俺は絶対静かに平和的に過ごすって決めてたのに」


「そうなんすか」

「そうだ、そしたらそのうち俺に対する偏見もなくなるだろ、そしてゆくゆくは友達がたくさんできてカラオケに行ったり、ボーリングしたり、カフェで他愛もない会話をしちゃったりなんちゃったり」

「そうっすね、そうなるといいっすね」


 応援してくれているような発言をした並だったが、どことなくその笑顔が俺の平和的生活の妨げになりそうな予感がしてならなかった。だが、変な噂をされているにもかかわらず俺と一緒にいてくれている並はとってもいいやつに思えた。 


 そう思うと、俺はこんないいやつにのことだけは何が何でも大切にしようと心に決めた。そう誓いを立てた後、その日もまた舞子先生の特別を受けて下校した。そして下校という名のもとに決して帰宅するわけではなく、ここ最近は町をぶらついてから帰るという習慣がついている。


 一人でぶらぶらするだけだから何ら楽しいことはないが、それでも目新しい建物やら文化などなどが俺を刺激してくれる。つい最近で言うとガーデンではツチノコを見つけるのが流行ってるとかなんとか・・・・・・まるで一昔前の文化がこんなところに流れてきているのか、はたまた歴史が繰り返されているだけなのか、とにかく俺がいたところとは大分かけ離れた世界になっているようだった。


 まぁそれ以外は特に変わったところもないが、町の中にはやたらとガードと呼ばれる治安維持活動をする人たちが徘徊しており、治安維持に躍起になっている様子がうかがえた。そしてそれら配備されたGたちは見事にその存在意義を示すかのようにあらゆる場所を忙しそうに駆け回っていたりした。


 そう、なんとなくだが、この街は騒がしく刺激的な場所のようだ。


 さてさて、そんなことはさておきガーデン散策、まぁそもそもこの散策を始めたのはもちろんこの場所のことをもっと知りたいということもあるが、何よりも家に帰ると幸子がいるというのがちょっとした原因でもある。いくらガーデンに来た初日から仲良くしてもらってるとはいえ、同年代でしかも美少女が家にいる。


 これは思春期真っ盛りの俺にとっては嬉しくもありちょっとした試練である、だからこそ俺は町中をぶらつき、少しでも時間をつぶせないかと画策している。運の良いことに幸子は外に出るのがあまりすきじゃないようで、外で彼女と鉢合わせになることはない。

 

 まぁ、客観的にみればあれだけの美少女がどういう理由か、妙になついてくれるのだからすぐにでも家に帰ればいいじゃないかと思われるかもしれない。


 だが、女性という生き物に関して、あまりいい思い出のない俺にとっては、いくら恩のある幸子であったとしてもそうやすやすほいほいと自らの欲望をさらけ出せないのだ・・・・・・あとは、なんとなくいえにかえると幸子の面倒を見なきゃいけないような気がする。


 そんなこんなで頭の中でいろいろ考えてながら相変わらず蕾学園の生徒が少ない町を散策していると、

ふと裏路地のほうから人が数人飛び出てくる場面に出くわした。彼らは恐怖の打ち震えた顔で飛び出してきたかと思うと、俺はもちろん、いろんな通行人にぶつかりながら逃げるように去って行ってしまった。


 一体何が彼らをそんな状況に追い込んだのだろうと、彼らが飛び出してきた路地裏に目をやると、そこには薄暗い通路がスーッと伸びているだけだった。ただ、そんな何の変哲もない通路に俺はここに来た日を繰り返すかのように足を踏み入れた。


 毎度毎度、この路地裏というやつに吸い込まれてしまう癖をどうにかしたいものだが、ついつい足がこういう場所にむいてしまうのは仕方がないのかもしれない、そう思いながらしばらく歩いていると、一人の人が立っているのに気付いた。


 その人は線の細い、まるで鉛筆のようなスタイルの男性であり、彼は俺と同じ学ランに身を包んでいた。そして俺が近づいてきたのを察したのか、鉛筆のような学生は振り返った。左手で本を抱き、右手でかけている眼鏡を上げるしぐさを見せた彼は、とても冷たい目で俺をにらみつけてきた。


「なんだ君は」

「え、俺?」


「そうだ、君しかいないだろう」

「あ、あぁ」


「まさか、君は増援かい?」

「増援?なんのことだ?」


 足元を見ると、そこには学ランを着た学生らしき人が数人横たわっていた。それはまるで目の前にいる彼がやったとしか思えず俺はすかさず身構えた。


「な、なんだこれ、これお前がやったのか?」

「ん、あぁそうだけど、君も僕をやりに来たのかい」


「やりに?」

「そうさ」


 やり、それってあの武器の「槍?」いやそれだと意味が分からんな、じゃあやっぱり普通に殺すっていう表現の「殺り?」それとも・・・・・・いやいやいやそういう文化があることはなんとなく知っているような気がしなくもないけどそれはないだろう、たぶん。


「そ、そんなわけないだろ、大体やりに来るとかそんな物騒なこと言うなよ俺は普通の通りすがりだよ」

「嘘もたいがいにした方がいいよ、こんなところを通りすがる理由、僕以外にないだろう?」


「いや、だから」

「もういいよ、早く済ませよう」


 そういうと、メガネ男子は俺に向かって突然殴りかかってきた。どうやら「やり」というのは物騒な表現のものだったようだ。


「うわっ」

「よけるなよ当たらないだろ」


「バカ、よけるに決まってんだろ、いきなりなにすんだ」

「何をするって、君もカラクリなんだろ」

「カラクリ?」


 なんだかよくわからない言葉を口にしたメガネ男子はそのあとも俺に向かってその持っている本を鈍器に何度も殴りかかってきた。しかし、その動きはのろまでよけるのはたやすかった。こんな奴が数人の男相手にここまでやれたものなのかと不思議には思ったがとにかく俺はこの状況を何とか打破したかった。


「待てっ」

「なんだい、命乞いかい?」


「いや、俺は別にお前に危害を加えようとは思ってない」

「関係ない、その面を見ればわかる君は間違いなくカラクリの人間だとわかるね、まったく同じFランクのくせにそんな奴らに取り込まれるなんて、恥ずかしくないのかい?」


「だ、だからなんなんだよそのカラクリってのは」

「とぼけるなっ」


 そうして再び殴りかかってくるメガネ男子に、俺は仕方なくその攻撃をかわして見せるとメガネ男子は勢いがつきすぎたのかふらふらとよろめきながら地面にダイブした。もしかするとここに寝そべってる三人を相手にしたものだから相当体力を消耗しているのかもしれない。そう思った俺は厄介なことになる前にさっさと逃げることにした。


 路地裏走り抜け、ようやく人が行きかう街並みへと戻ると後方からは誰も追っかけてきておらず、うまくまくことができたことに安心した。ただ、逃げたのはよかったのだが、どうにも あのメガネ男子とカラクリとかいうわけのわからない言葉が気になって仕方なかった。


 そんな、もやもやした気分のなか、結局どこによることもなくただただ有酸素運動をした俺はというと、いつの間にか蕾寮へと戻ってきていて、時刻はもう六時を回っていた。こうなりゃ家に帰ってゆっくり晩御飯でも作るしかない、そう思った俺はすぐさま自宅へと戻ろうとしていると、何やら騒がしい音が鳴り響いた。


 それはまるでたくさんのものが崩れ落ちたかのような音であり俺はすぐにそんな音がする方へと目を向けた。するとなにやら駐輪場で一人の人間がしりもちをつき、その一人を三人が取り囲んでいた。状況からしてあまりよろしくない雰囲気、おそらく喧嘩だろう。


 そんな、今日二度目の喧嘩現場の遭遇、そして今度は一人に対して三人の一般的な構図俺はそんな様子をうかがいながら静かにその喧嘩現場に歩み寄っていくと、その三人に詰め寄られているのが先ほどの俺のことをカラクリだとか何とか言っていたメガネ男子であることに気づいた。 

 

 さっきは三人を地面に寝かせていた奴に今度は返り討ちにでもあったのだろうか、とにかくまるで浦島太郎にでもなった気分で俺はすかさずけんかの仲裁に入ることにした。


「お、おーい」

「あぁんなんだてめぇ?」


 俺の言葉に機嫌よさそうに反応してくれた人間は金髪リーゼントにブレザーを着た、いかにもやんちゃそうな学生だった。まぁ着ているとはいっても着ているのか、着ていないのかわからないようなだらしない格好だったが、その辺はお約束といったところだろう。とにかくその金髪リーゼントはまるで矛先を俺に変えたかのように詰め寄ってきた。


「おうおうおう、なんだてめぇ」

「いや、良かったらあいつの事見逃してやってもらえないですか?」


「は?」

「いや、それだけぼこぼこにされてたらかわいそうだと思って」


「そんなもん関係ねーんだよ、俺たちはこいつがぼこぼこになろうが何もしてなかろうが、こいつをいじめることを楽しんでんだよ、邪魔すんならお前もぼこぼこにすんぞ?」

「あ、あー、どうしよう」

「なんだなんだお前よぉ、生意気だなぁ、あぁん?」


 どうやら、言葉が通じない相手らしい。


 だがあきらめるな、こういうやつらは意外と素直でいいやつらばかりなんだ。そう、こういうやつらはちょっと生意気したいスリルが大好きなお年頃ってわけだ、そう、そう考えるとかわいいじゃないか、だからここは下手に出て何とか穏便に穏便に・・・・・・と、いいたいところだったが、俺の視界には今にもぶつかりそうな拳が迫っていて俺はすかさずかわした。


「あ、あぶねー、何するんだよっ」

「何するって、てめぇが横やり入れてきたから、邪魔者はつぶしてこいつをぼこる続きやろうってんだよ」


「なるほど」

「何がなるほどだてめぇ、勝手によけてんじゃねぇぞ」


「いや、でも殴られそうになったらよけるのは当り前だろっ」

「はぁ?俺ならよけないね、なぜなら俺はこの地区で喧嘩最強の男、縞村しまむら 大我たいがだからな」


「シマウマタイガー?」

「し、縞村大我だって言ってんだろ、誰がそんなUMAみたいな名前してるって言った、あぁん?」


「あぁ、縞村大我ね」

「いいか、とにかく天上天下唯我独尊、大我という名前を与えられた俺は絶対に拳はよけねぇ、つまりどんなに殴られようとその場で耐えぬく事こそ俺の美学、男の生きざまってもんなんだよっ」


 そんな迷信めいた言葉に興味を持った俺は、すぐさま喧嘩最強を名乗るシマウマタイガーとやらに殴りかかってみると、彼は確かによけることなく俺の拳を受け止めた。だが、受け止めたのはよかったのだが、大河はその場で耐え抜くどころか、力なくその場に取れこんだ。


「あ、倒れた」


 自分でも気持ちよく入ってしまったパンチに自らの拳を眺めていると、シマウマタイガーの連れであるAとBがシマウマタイガーに駆け寄り、そして俺をにらみつけてきた。


「ば、馬鹿野郎、大我さんに何てことすんだよっ」

「いや、よけないって言うから試してみたくなって」

「馬鹿野郎、マジで殴るやつがいるかよ、くそ、大丈夫ですか大我さんっ」


 そうして地区最強と自称していたシマウマタイガーこと縞村大我を神輿のように担ぎ上げたAとBは逃げるようにこの場を後にしていった。そして、俺はいまだしりもちをついているメガネ男子に目を向けた。彼は力の限り立ち上がろうとしていたがそれがかなわず力尽きているようだった。


「おい、大丈夫かお前」

「あぁ、助かったよ・・・・・・って君はさっきの」


そうして俺の顔を見た途端メガネ男子は俺を突き飛ばして今にも倒れそうな体を必死に維持していた。


「また会ったな眼鏡男子」

「どうして君が、なぜ僕を助けたっ」


 どうやら助けたところでメガネ男子の妄想の中で俺は悪者に見えているようだ。というより、ここまで人を疑うやつも珍しい、よほどのことがない限りこんなに人を疑ったりしないだろう。


「なんでってそりゃ、同じ学校のやつがぼこぼこにされてたら普通助けるだろ」

「同じ学校?」


「あぁ、制服みりゃわかるだろ、俺も蕾学園の生徒で猫宮兵助っていうんだ」

「確かに、僕と同じ制服だ、じゃあ君は」


「そうだ、お前が思ってるより俺は普通のやつだと思ってるんだが、どうだ、まだ悪党にでも見えるか?」

「いや、すまなかったな猫宮」


 ようやくわかってくれたのかメガネ男子はため息をついて安心した様子を見せた。だが、それと同時に力が抜けたのかふらふらとし始めたかと思うとその場で今にも倒れそうになっていた。俺はすかさずそんなふらふらのメガネ男子を支えてやると、メガネ男子は「本当にすまないな猫宮」と細い声でつぶやいた。


「気にするな、あと兵助でいいよ」

「そうか兵助、それと、さっきは突然喧嘩をふっかけてすまなかったな、頭に血が上るとつい冷静さを失ってしまうんだ」


「はっ、見た目とは違ってずいぶんと熱血なんだな」

「見た目?」


「いや、一見知的に見えるからさ」

「あぁ、僕は幼いころから目が悪くてね、これがないとやってけないんだよ」


「そうなのか、で、お前はなんで三人がかりでタコ殴りされてたんだ」

「あぁ、あれは」


「もしかしてあいつらがフランクイェーガーとかいうやつらなのか?」

「フランクイェーガー?」


「いや、なんか 最近フランクイェーガーとかいうやつがこのあたりのFランク学生を狩ってるとかなんとかって噂があるらしいんだよ、もしかしたらあいつらがそれだったのかと思って」

「兵助、少しいいかい?」


「なんだ?」

「君はものすごい勘違いをしている」


「勘違い、どういう意味だ?」

「君はフランクイェーガーをいったい何だと思ってるんだ」


「え、最近このあたりでFランク狩りをしている奴のことなんじゃ・・・・・・」

「違う、Fランク狩りを行ってるのは「空繰」と呼ばれる集団だ、フランクイェーガーは全く関係ない」


「空繰、あぁお前が何度か言ってたやつか」

「そうだ、奴らが僕たちのようなFランクを好き勝手いじめて楽しんでいるんだ。奴らに狩りという言葉は似合わない」


「じゃあ、フランクイェーガーってのは」

「・・・・・・」


「おい、フランクイェーガーってのは」

「それは僕のことさ」


「え?」

「フランクイェーガーってのは僕のことで、Fランクの勇敢なる狩人でフランクイェーガーなのさ・・・・・・ぼ、僕が勝手にそうつけたんだ、あまり言わせないでくれ」


「自分でそう名前を付けたってことか?」

「そうさ」


「悪くないじゃねぇか、そうかお前がフランクイェーガーか」

「あぁ、だから勘違いしないでくれ」


「じゃあ、Fランク狩りをしてるやつってのは全くの別物なんだな」

「そうだ、Fランク狩りをしている奴らはさっきも言ったと思うが空繰と呼ばれる組織のやつらだ、そして僕は奴らを」


「そうか、だから あの時お前は路地裏であんなことを」

「そう、君には悪いことしたよ兵助、ありがとうもう行くよ」


「お、ちょっとまてお前、お前名前はなんていうんだ?」

「僕は本屋哲心ほんや てっしんさ、哲心でいいよ、じゃあね兵助」 

「あぁ」


 そうして哲心はふらふらと寮へと入っていった。そんな後姿を見た後、俺は駐輪場で無残にも倒されまくった自転車を直した後、自宅に戻った。

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