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ギフトガーデン  作者:
フランクイェーガー編
6/18

フランク

 すこし不機嫌な様子を見せたように見える幸子、彼女が帰宅した後、俺は昼食を食べに行くため学園を後にした。


 学園出て街に向かうと、入学式が重なっていたこともあってか、多くの学生たちが俺同様にぞろぞろと歩き回っていた。


 その多くは学ランを着ている奴なんてのは俺くらいだということにすぐに気付いた。


 まるで場違いとも思える状況の中、俺は人目を気にしながら、どこかに良い店がないかと探していると、ふと目の前に、小学生くらいの背丈で、ランドセルを背負った小学生男子が駆け寄ってきた。

 

 少し癖のあるやわらかそうな金髪、そして、端正な顔立ちと白い肌した少年はまるで西洋で言うところの天使に近い容姿だった。


 しかし、ランドセルの色だけで小学生男児といったが、よくよく見れば女子に見えなくもない、いや、もしかすると、彼女と呼ぶべきなのかもしれない。


 そんな、あいまいで美しい顔立ちの小学生は、何故かあちこちがぼろぼろでみすぼらしい格好をしていた。

 せっかくの美形が台無しといったところだが、これはこれでどこか芸術的なものに見えなくもない、そんな思いを巡らせていると、近づいてきた小学生は俺にむかって指さし、口を開いた。


「フランクだ、フランクがいる」

「は?」


「おい、なんでフランクがここにいるんだよっ」

「何言ってるかわからないけど、なんか用か?」

「用はないけど、なんでフランクがこんなところにいるんだって聞いてるんだよっ」


 ずいぶんと横暴な喋りに顔が引きつりそうになったが、何とか耐え忍び無理にでも笑顔を作りながら心を落ち着けた・・・・・・そう、相手は小学生だ。


「俺はここにいちゃダメなのか?」

「だめに決まってるだろ、お前みたいなギフテッドの恥が平然とこの街を歩くなんてありえないことなんだぞっ」

「は、恥?」


 まさか、小学生男子と思われる奴に喧嘩を吹っ掛けられるとは思わなかった。


 ここは本当に世界で最も進んだ国なんだろうか、いや進んでいるのは科学技術やら文化やらそんなもんで人間性はほとんど進んでない、むしろ退化していたりするのかもしれない。

 そう思いながら、とんでもないところにきてしまったと後悔していると、目の前の小学生が怒鳴り声を上げた。


「おい、聞いてんのかフランクっ」

「なんですか急に」


「だから、お前みたいなフランクは家の中でじっとしてろっ」

「俺は昼飯を食いに行くだけだ、そうだ、どこかいい所を知らないか、できればホットドッグがいい」


「うるせー、知らねぇよそんなこと、それよりも家に帰れよっ」

「・・・・・・そうかそうか、知らないのか、じゃあまたな小学生」


「なっ、おい、ふざけるなフランク、そんな態度でいいと思ってんのか、俺はこれでも優秀なギフテッドなんだぞ、お前なんか簡単にぶっ飛ばせるんだぞっ」

「あのな、優秀だか何だか知らねぇけど、今はそんなこと関係ないだろ、俺は腹が減っているんだ」


「くっそーお前、フランクのくせにずいぶんと偉そうだな」

「だから、偉そうとかそういう問題じゃないって言ってる・・・・・・うわっ」


 随分と面倒くさい絡みをしてくると思っていた直後、突然の突風を体に受けた俺は、いつの間にか空を見上げていることに気付いた。


 何が起こったのかわからない状況の中、空だけはどこにいても変わらないようで見知った青空と大きな雲が流れる風景を眺めていると、その視界に先ほどの小学生がにやついた顔を覗き込ませてきた。

 子どもだからかその笑顔に嫌味は感じられなかったが、だが、さっきから面倒くさい絡みからこいつは間違いなく悪意の含んだ笑顔を向けていることが何となく分かった。


「ふふん、どうだフランクこれ以上痛い目にあいたくなかったら俺の下僕になれ、そして俺の言うことを聞け」

「・・・・・・」


 小学生は俺の胸に足をのせてぐりぐりといたぶってきた。


 どっかいけといった割に突然の下僕スカウト、こりゃ最近の子どもは何考えてるかわからないとはよく言ったものだ。


「おい、聞いてんのかフランク、下僕になるのかって聞いてるんだよ、まぁ、ならないっていうならまた痛い目にあってもらうだけだけどな」

「なんでお前の下僕にならなきゃいけないんだ」


「それは・・・・・・あっ、そうだお前みたいな弱いフランクは、俺のように強いギフテッドに仕えるのがお似合いだからだよ」

「そうか、わかった」


「え、下僕になってくれるのか」

「ちがう」

「えっ?」


 俺はすかさず小学生の足をつかみ、バランスを崩させると小学生はすぐにしりもちをついた。


 そしてしりもちをついた隙を逃さずに俺はその場で立ち上がり小学生を逆さづりにして持ち上げた。すると小学生は「わーわー」わめきながらじたばたしていた、こりゃいい獲物が釣れたものだと、半ば釣りにでも成功した気分になった。


「はっはっは、お前みたいな生意気なガキには、これがお似合いだな、どうだ楽しいだろう?」

「何をする離せフランク、痛い目にあいたいのかバカ」


「いつまでも偉そうだなお前、礼儀ってのを知らないのか?」

「うるせー、離せー」


 そうして、生意気な男子小学生にお仕置きと仕返しが入り混じった教育を行おうとしていると、突如として女性の声が響き渡った。

 それは俺が小学生男児を逆さづりにしているという、卑劣な行為に悲鳴しているものではなく「コラッ」とまるで俺をたしなめるかのようなそんな声だった。


 そんな声、すかさず顔を向けると、俺のもとに一人の女性が歩み寄ってきていた。


 彼女は警察官のような制服を身にまとい腕には腕章をつけていた。なんというかいかにも何かを取り締まっているかのような人の登場に俺の心臓はバクバクと高鳴った。


「ちょっとあなた、何をしてるんですか?」

「あ、いやこれは」

「早くその子を下ろしなさいっ」


 俺はすかさず小学生を下ろしてやると、小学生は警察官らしき女性に泣きついた。


「うえーん、このお兄ちゃんが突然乱暴してきたんだよー」

「そう、怖かったね」

「なにっ」


 さっきとはまるで違う態度にいらだちを覚えていると警察官らしき女性が俺をにらみつけてきた。その目は確実に俺を悪者として認識している目だった。


「あ、いや違うんですそいつが俺に喧嘩吹っ掛けてきて、おいお前、さっきと全然キャラが違うだろっ」

「何を言ってるんですか、小学生が高校生に喧嘩売るわけないでしょ」


 そりゃそうだ、小学生が高校生に喧嘩売るなんてことそうそうありゃしない、俺はまんまとこの小学生にしてやられたのかもしれない。


「いや、売ってきたような気がするんです・・・・・・」

「それに見てごらんなさい、この子は泣いてるじゃない」


 すると、警察官らしき女性が見てないところで泣くふりをした小学生は、乾いた瞳をいやらしくにやつかせた。

 そんな、邪悪な裏の顔も知らず、目の前の警察官らしき女性は俺に詰め寄ってきたかと思えば腕をつかんできた。


「ちょっとついてきなさい、話は向こうで聞きます」

「いや、ちょっと本当に何もしてないんで、話せることなんてないです」


「往生際が悪いわね、さっさとついてきなさい」

「いや、だから何にもしてないんですって」


 そんな言葉が誰に届くこともなく怒った顔の警察官らしき女性と周りからの冷たい視線にあざ笑うかのような笑顔、そしてまるで計画通りとでも言いたげなウソ泣き小学生。まさに四面楚歌で絶対絶望的状況の中俺の耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。


 今日はよく人から声をかけてもらえるものだと思いつつ声がする方へと目を向けると、そこには並がニコニコ笑顔で立っていた、そんな彼女の登場はまさしく救世主または天使のように思えた。


「こんちゃっす猫兄」

「並っ」


「大変そうっすね猫兄」

「そうなんだ助けてくれ」


 何もしてないのに助けて都はおかしな話であるが、今にも連行されそうな俺の様子をひとしきり眺めた並ぶはようやく俺の元へとやってきてくれた。すると警察官らしき女性は不審げに並を見つめ、並はというと堂々とした様子で女性の前に立った。


「ちょっといいですか」

「な、なんですかあなたは?」


「ガードさん、あたし見てたっすけど、この兄ちゃんは何もしてないっすよ」

「見ていた?」


「はい、この兄ちゃんは悪くないっす」

「いやしかし、彼はどう見ても」


 どう見ても何なんだろうか、その先の言葉がきになったが、その言葉が口にされることなく「ガード」と呼ばれる女性は、ただひたすら俺の体を上から下までまるで品定めするかのようにみてきた。


「ガードさん人は見かけじゃないっすよ、それにさっきの小学生は逃げて行っちゃいましたよ」

「へ?」


「本当に小学生は逃げ足が速いっすよね、私も小さいころはああやって逃げてましたねぇ」

「え、嘘?」


 俺をからかってきた小学生はピンチになるのに気付いたのか、一目散に逃げて行く背中が見えた。そして、そんな状況に警察官らしき女性は戸惑いながらその場であたふたしていた。


「ガードさんならすぐにわかると思うんすけど、あたしらはFランクっす、いくら年下とはいえ高ランカーに手を出せないっすよ、それなのに真っ先にこっちを疑うんすか?」

「そ、それは」


「この人は高ランカーにいいように遊ばれたんすよ、ガードさんならわかってくれると思うすけど、どうっすか?」

「・・・・・・」


 それからは並はガードさんと呼んでいた人としばらく立ち話をしていると、ガードと呼ばれた女性が突然俺のもとまで来て頭を下げてきた。どうやら誤解は解けたようで、謝る彼女の背後では並が満面の笑みでピースをしていた。


 こんなにも頼りになる知り合いを持ったことを非常にうれしく思っていると、誤っていたガードの姉ちゃんは申し訳なさそうな顔で敬礼したかと思うと、逃げるように俺の元から去っていった。


「いやぁ、猫兄も災難すね」

「災難も災難だよ、小学生に絡まれたかと思ったらわけわかんねぇ風が吹くし、おまけに警察みたいな姉ちゃんに絡まれるしなんなんだあれは」


「お姉さんのほうは「ガード」と呼ばれるガーデンの治安維持活動をしてる人たちっすよ、まぁ大陸でいうところの警察みたいなもんすね」

「警察か」


「ガードは基本的にガーデン全体の治安維持っす、そしてガードに所属している人たちはみんなギフテッド、つまりあたしたちのような学生も所属しています」

「学生が警察をやってるのか?」


「そうっすよ、なんたってここは超能力者ギフテッドの国、治安維持する側の人間もギフテッドじゃないと太刀打ちできないっす」

「なるほど」


「あと、小学生に関していえば、ここはランクがものをいう世界なんすから、いくら年下だろうが、彼らのほうが私達よりも力が上で、権力も上なんすよ、だから猫兄が絡まれたのも仕方ないってことっすね」

「俺はてっきりギフテッドってのはもっと仲睦まじく暮らしてるのかと思った、意外とシビアな所だなここは」


「普段は仲睦まじいと思うんですけど、あたしたちFランクは例外っていうか、結構悲惨な身分なんすよ」

「Fランクってだけでそんなに扱いに差が生じるのか?」


「まぁ、それでも優しくなったらしいっすよ、前はもっとひどかったらしいっすから」

「ふーん、それで入学式の時に人権がないとかなんとか言ってたのか?」


「Fランクの人間はめったに街を出歩かないっす、街に出ればフランクフランクと馬鹿にされ、あらゆる悪意の対象になりますからね」

「それで学ランの奴が少ないのか?」


「そうっす、年下にいいように扱われるのも中々辛いところがあるっすからね、まぁ人によっちゃ年下の言いなりになっちゃう面白い人もいるみたいっすけど」

「そ、そうか」


 そんな変な奴にはなれそうもないが、ともかくこのガーデンとやらは俺が元いた世界と大して変わらん治安らしい、いくらかがくやらなんやらが発達していたとしても人間の本質的部分はそう簡単に変わることはないのだろう。


「物好きもいるもんすよ、特にかわいらしい女の子はたくさん手下を抱えていますねぇ」

「なんなんだそれは」


「さぁ、男気ってやつじゃないっすかねぇ、知らないっすけど」

「そんな男気は聞いたことがない、けど並、お前はそんな状況下でもここにいるんだな」


「あぁ、あたしは明るく楽しい街のほうが好きっすからね、家にいるより街のほうが好きっす」

「こういっちゃなんだが、お前は大丈夫なのか、俺みたいに絡まれたりしないのか?」


「えっと、こう見えてもあたしはそこそこかわいいらしいっすから、あんまり狙われないっすよ」

「・・・・・・」


 まぁ、確かにかわいらしいっちゃかわいらしいが、かわいい女とか一番危険なんじゃないだろうか?


「なんすかその無言は」

「いや、逆じゃないかと思って」


「逆?」

「いや、可愛い方が絡まれやすくないか?」


「そうでもないっすよ、みんな優しくしてくれます」

「そうか?」

「そうっす」


 いやしかし、前いたところじゃかわいい女がいれば、そいつを奪い合うためにグループ同士のいさかいがあったり、バンダナチェックシャツ集団が、第三者的に割り込んできたりと。


 女関連は絶えず争いごとの火種になることが多いと思ったが、ここいらじゃそういうこともないんだろうか?


「そうか、まぁいろいろ助かったよ並、ありがとな」

「いえいえっす」


「じゃあ俺は飯食いに行くから、またな」

「あれ、猫兄今からランチっすか?」


「そうだけど」

「じゃあ、いいところを紹介しましょうか?」


「え、教えてくれるのか?」

「もちろんっす」


 そうして連れてこられたのは、町から少し外れった場所にあるさびれた店だった。看板には「ガニューメ」という理解不能な単語が書かれていて、外観はまるで西部劇に出てくる酒場のようなものだった。


 そんな建物を前に、並はためらうことなく店内へと入っていった。


 半信半疑な中、俺は並の後についていくと、中ではまるで客の気配が感じられず、しかもカウンター越しにはいかついオヤジが俺をにらみつけてくるという、なかなかに印象の悪い店だった。


「並、ここ何の店だ」

「ここはレストランっすよ」


「レストラン?」

「そうっす、そしてこちらがマスターさんです」


 紹介されたマスターは相変わらず俺をにらみ続け、無言を貫き通した。


 今日は碌な人の出会い方をしないものだ、と思いつつ、俺はとりあえずカウンターの椅子に腰を下ろした。だが、座ったところでマスターの俺に対する視線がとだえることなく、だんだん居心地が悪くなってきた。


「お、おい並、ずっとにらまれてるんだけど、帰った方がいいのか?」

「あぁ、違いますよ、マスターさんは緊張してるだけっすよ」


「緊張?」

「そうっす、幼いころから人の目をみて話せって教えられてきたらしくて、それを律儀に守ってるそうっす」


「話をしてないんだが」

「きっと緊張して声が出ないんすよ、かわいいっすよねマスター」


 なんだそれはと言ってやりたい気もしたが俺の目の前にいるこわもてオヤジの真相を理解すると、不思議と彼のことがかわいらしく見えてきた。


 そして俺はそんな怖い顔したマスターの目をじっと見つめた。すると、今度はマスターが何やら俺に顔をちかづけ来た。いったい何をされるのだろうと、少しおびえながら近づく顔から距離をとっていると、マスターは突然声を上げた。


「い、いらっしゃいっ」


 ようやくきけたその一言を済ませると、マスターはリラックスした様子で目をそらし大きなため息をついた。まるで一仕事終えたようなマスターの様子に俺はすかさず並に目を向けると、彼女はニコニコ笑っていた。


「並、マスターはいつもこんなかんじなのか?」

「そうっす、かわいいっすよね」


「かわいい?」

「はい、小動物みたいでかわいくないっすか?」


「いや、まぁ、とにかくなんか注文するか」

「そうっすね」


「で、ここは何があるんだ?」

「はい、メニューっす」

「あぁ、メニューね」


 メニューを見ると、レストランという名に恥じぬいろんなジャンルの料理が用意されており、その中でもひときわ目を引く「マスターのホットドッグ」というものが気になって仕方なかった。俺はすかさずその「マスターのホットドッグ」とやらを注文することにした。


「あの、この「マスターのホットドッグ」ってやつお願いします」


 すると、注文の声だけでもびくびくするマスターに俺は思わず「可愛い」という言葉が脳内を駆け抜けた、が、駆け抜けただけで何も言ったわけではないし、思ったことにもカウントされないはずだ。

 そう思っていると、隣にいる並が驚いた顔をしながら俺を見つめてきていた。


「な、なんだよ、お前まで」

「い、いや、あたしそれ頼んだ人初めて見たと思いまして」


「なんでだよ、俺はホットドッグが好きなんだ」

「そ、そうなんすね、きっとマスターも喜んでくれますよ」


 ただの注文だろう、そう思いながらマスターに目を向けると、彼はどことなく表情が明るくなっているようで、瞳もキラキラと輝いているようにも見えた。


「ほ、ホットドッグな、ちょいと待ってなお客さん」


 マスターは、まるで言いなれていない様子でそう言った。


 そして隣の並は、マスターにバーガーセットを注文すると、今度はマスターはびくつくことなく、並にサムズアップをして見せた。

 その様子は男があこがれる渋くてかっこいいものだったが、どうして俺の時もそうしてくれないかと思っていると、マスターは俺をチラチラ横目に厨房と思われる方へといってしまった。

 

「並は、マスターと仲いいのか?」

「あたしは常連っすからね」


「へぇ、いいなそういうの」

「いえいえ、猫兄も通えばマスターと仲良くなれますよ」


「そうか?」

「はいっ」


 仲良くなれば、俺もあのサムズアップをしてもらえるのだろうかと想像しつつ、空腹でうるさい胃袋を優しくなでていると、並が俺の顔を覗き込んできた。


「ところで話は変わりますけど、猫兄はどこから来たんですか?」

「なんだその唐突すぎる質問は」


「いや、だって明らかに外から来た人間っすよ」

「どうしてそう思うんだ?」


「だって、入学式が終わってからずっとつけてますけど、行動やら言動がここにいる人のそれじゃないっすもん」

「・・・・・・」


 つけていた、その言葉にたまらずたちあがって大げさに反応すると、並はビクンと体を跳ね上げて俺を見上げてきた。大きな眼がかわいらしくもあったが、そんな事よりも今は並が俺をつけていたということの方が問題だ。


「ど、どうしたんすか?」

「お前、俺をつけてたのか」


「そうっすよ」

「なんでそんなことするんだ?」


「いや、だって気になるじゃないっすか、猫兄明らかにおかしいっすから」

「だからって人のことつけるなよ」


「いいじゃないっすか、減るもんじゃないし」

「そういう問題じゃない」


「それより猫兄は一体何者なんすか?」

「俺か、猫宮兵助、ただの人間だ」


「ただの人間ならこのギフトガーデンには来られないし、蕾学園に入学だってできないと思うんすけど・・・・・・」

「い、いや、ギフテッドってやつだ、普通のギフテッド」


「普通のギフテッドって、まぁ、ここじゃそういう区別もされますけど、あたしたち蕾の生徒は普通ではないっすね」

「なんだよそれ」


「さっきの小学生も言っていましたけど、あたしたちFランクの学生はフランクって呼ばれる劣等生なんすよ」

「フランク、フランクってそういう意味なのか?」


「いえ、ただの嫌味っす、あたしたちより上のギフテッドはみんなそう言って馬鹿にしてるみたいっす」

「そうなのか、全然どういう意味か知らなかった」


「ほらやっぱり」

「え?」


「フランクって言葉も知らない人が一体全体どうして突然蕾学園にやってきたんすか?」

「そ、それは」


「もしかして、猫兄が突如ギフテッドとして目覚めたっていう噂の人だったり?」

「うっ・・・・・・」


 なんだか嫌な流れだ、このまま並にも変態的なキメラ野郎だと思われるかと思うと正直めげるどころではないだろう。


「どうなんすか猫兄」

「そ、そうだと言ったら?」


 神妙な面持ちで俺を見つめる並、そんなに見つめられると、顔が熱くなってくるというか、体全体がほてってきて、どうにかなってしまいそうだ。だが、そんな俺に対し並は満面の笑みを浮かべた。


「みゃー、こりゃすごい人っす」

「な、なんだよ急に」


「いえいえ、だってギフテッドは先天性なんすよ、こんなの驚くっす」

「そ、そんなに驚かなくても、世の中には俺みたいなやつがごまんといるかもしれないだろう」


「それはないっす」

「どうしてそう言い切れるんだ」


「前例がないっす」

「いや、でも見つかってないだけで」


「いやいや、あたしが知る限りそんな話聞いたこともなければ、噂にすらなった事もないっす」

「なんだ、じゃあ俺は相当やばいやつって言いたいのか果て案」

「そうっすね、ここに来るまでに賊に襲われたりしなかったっすか、誘拐とかには気を付けてくださいね」


 どういうわけかわからないが、ここのやつらの賊好きには困ったものだと思っていると、注文したホットドッグが到着した。


「お、お待たせ」


 目の前に置かれたホットドッグは、ソーセージがやたらと大きなボリューム満点のもので、俺の口内は一瞬で唾液でみたされそうになった。

 もはやかぶりつくほかないホットドッグを前に、隣の並は同じく届けられたバーガーに勢いよくかぶりついていた。


 俺はそんな並に遅れをとるわけにはいかぬと、わけのわからないことを考えながらすぐさまホットドッグにかぶりついた。


 もはや文句なし、言葉すら必要ないうまさに俺は思わず涙目になった。


「どうです猫兄、うまいっすか?」

「あぁ、うまい」


「そうっすか」

「あぁ」


 やはり外食してよかったと思えるほどの味に俺はたまらず涙があふれてきた。そして、その感動はすかさず店長へとむけられることとなった。


「マスター」


 俺の一言にびくついた店長だったが、俺は間髪入れずに「うまいです」という感想を述べると、マスターは照れた様子で顔をそらした。

 なんだか照れたマスターはその強面の顔とは裏腹な態度に一ミクロンほどのかわいらしささを見出した。


「えへへ、マスターさんも喜んでるっすよ」

「そ、そうなのか?」

「はい、頬が赤く染まってるっす」


 まるで子どもような感情表現に苦笑いをしつつ、おいしさとこんな良い場所に巡り合えたことでここの常連になることを誓った。


「しかし猫兄」

「なんだ?」


「ここに来たばっかりなら、わからないことばかりっすよね」

「あぁ、そうだな」


「なんかあったらあたしに頼ってください」

「え?」


「あたしは幼いころからここで住んでます、だから猫兄にはいろんなこと教えてあげられると思うんすよ、だから気兼ねなく話しかけてくださいっす」

「並、お前・・・・・・」


 満面の笑みで素敵なことをいってくれた並は、まるで天使のように見えた。


 うまれてこのかたこんなにも優しくしてくれた女子がいただろうか?


 いや、いない、俺は生まれてから女子という生き物にこき使われ、まるで奴隷に用意扱われてきた思い出しかないだけに、それ故に俺はなんだか今にも泣きだしそうになった。


「なんすか猫兄?」

「お前、いいやつだな」


「なんすかいきなり照れるっすよ」

「いや、本当にいいやつだよ並」


「そうっすか?」

「あぁ、最高だこんなにいいやつに出会ったのはお前が初めてだ」


 先行きが不安だっただけに強力な助っ人だできた。


 そんな俺はというと、まるで並という大切な存在を手放さないかのように、じっくりと雑談して交流を深めた後、こんなおいいしいものがあるにも関わらず、あまり客入りの良くない店に別れを告げた。


 そんな満足の一言に尽きた外食をおえた俺は上機嫌でうちに帰ると、家の中ではなぜか幸子が転がっていて、俺の帰りを待っていたかのように顔を俺の方へとむけた。


「お帰り兵助」

「おい幸子、お前なんで勝手に入ってるんだ」


「開いてた」

「え?」


「鍵もかけずに家を空けるなんて、とても不用心、だから私が自宅警備員してあげてた」

「あ、ありがとう・・・・・・ん?」


「どうしたの?」

「この家、オートロックだよな」


 そうだ、この家はオートロックで、しかも虹彩認証しないと入れないっていう結構なセキュリティの場所だ、それがどうしてこうして幸子が俺の部屋にいるのだろう?


「・・・・・・」

「お、おい、黙るなよ」


「ねぇ兵助」

「え、なんだ?」

「私、ここにいちゃダメ?」


 帰ってきた返事は、予想外、そして妙に心を揺らがせる言葉だった。ドキドキと鼓動が早くなるような言葉を耳にした俺は、冷静に沈着に「ここにいちゃダメ?」という言葉を分析した。


 目の前にいるのは一応面識のある美少女、何度か喋ったこともあるし、何ならここにきてから一番世話になっているし、世話もしているような相手だ、しかも隣人さんで学校も一緒、付け加えるならば洗濯物も共にした、もはや他人とは言い切れない相手。


 そんな相手が、無粋な男である俺に対して「ここにいちゃダメ?」だなんて言葉を吐いてきた。


 そりゃ目の前の人の形をした何かが、明らかにやばそうなやつ出ない限り「出ていけ」だなんて乱暴に言う必要はないのかもしれない。


「あ、えっと、別にいてもいいけど・・・・・・」

「ん、ありがと」


 俺の確認が取れたことに安心したのか、幸子は再びフローリングの上で気持ちよさそうに寝そべった。もういい、こんな美少女が幸せそうに寝てるなら、どうやって入ったかなんてどうでもいいっ。


「あ、えっと、それで幸子はどうしてここにいるんだ?」

「それより兵助、帰ってくるの遅い」


「え、あぁ、昼めし食ったり買い出ししたりしてたから遅くなったかな?」

「お昼、何食べたの?」


「めちゃくちゃうまいホットドッグ」

「ずるい」


「え?」

「兵助だけおいしいもの食べてずるい」


「それは、お前は外食嫌いだっていうから、幸子もついてくれば食えたかもしれないかったのに」

「・・・・・・むぅ」


 何やら納得いかない様子の幸子は黙り込んだと思ったらいじけたように床に突っ伏した。


 そして、よくよく見ると彼女の体の下には、やわらかそうなマットが敷かれており、もうすっかり俺の家を自宅か何かとでも思っているようだった。

 それどころか、変なぬいぐるみが一つ増えていたりと、なんだか俺の家を自らの住処にでもしようとしてるみたいだった。


 ただ、開けっ放しの家の管理をしてくれていた恩がある俺は、ふて寝している様子の幸子のため、夕飯を準備することにした。


 そもそも、こんなやり取りがおかしなことではあるが、いつの間にかこうなってしまったのだから仕方がない。

 そして俺も拒みはしない、むしろこんな美少女が俺のもとに毎日来てくれるなんてことは普通に生きてればそうそう経験しえない出来事だ。


 ならば、この不思議な出会いも俺にとっては幸運だと感謝して、よりよい日々の糧としよう。

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