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ギフトガーデン  作者:
はじまり
5/18

猫宮兵助のためのレクチャー

 入学式から赤沢先生のよびだしを食らった俺は、特別授業とやらを受けるためにとある教室へと向かっていた。


 教室へと向かう途中、今朝出会った金髪ロングの女子生徒を見かけた、何やら、また男どもに囲まれている様子だったが、今はそんな厄介そうな出来事に構っていられるほど暇ではない。

 ただ、彼女のその奇抜な容姿はどうあがいても視界に入らざるを得なかった、まるでどこかのお嬢様か何かのようだ。


 まぁ、なんてことはさておき、赤沢先生に無理やり連れられとある教室にたどり着くと、中では舞子先生が手を振りながら出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ兵助君っ」

「舞子先生」


「はい、舞子先生ですよ、そして今日から兵助君の特別授業を受け持つ事になりました。よろしくお願いします」

「舞子先生が俺の特別授業を教えてくれるんですか?」

「そうですよ」


 最後に会った時に比べてずいぶんと笑顔を取り戻していたようだが、俺は知っている。


 そう、この人は間違いなく何かをやらかし教師らしからぬ存在だ、そして、それらの思いは言葉となってすぐに口から飛び出した。


「赤沢先生」

「なんだ?」


「ちょっとだけ不安なんですけど」

「どういうことだ?」


「いや、舞子先生ってちょっとあれじゃないですか、ほら、どこか抜けてるというか、空気が読めないっていうか」

「ん、あぁ、それについては大丈夫だ、彼女は教師としての能力はちゃんと備わっている、それにお前の特別教育には、彼女のようなのがピッタリなんだ、まぁ人間としてはまだまだ未熟だがな」


「そうですか」

「そんなに心配することじゃない、彼女も同じだ」


 ちょっとした不安を赤沢先生に告げた後、再び舞子先生に目を向けると、彼女は頬を膨らませ、まるでぷんすかおこっているような様子をみせていた。


「兵助君っ」

「な、なんですか?」


「私はこれでもれっきとした教師なんですから、ギフテッドの事はちゃんと教えられるんですよっ」

「町の案内もろくにできないじゃないですか」


「えっ、あっ、あれは仕方がないというか、どうしようもないというか、とにかく兵助君、早く席に着きなさーいっ」

「はい」


 ちょっとしたやり取りの後、俺をこの教室まで連れてきてくれた赤沢先生は、舞子先生に頭を下げた後、俺をじろりとにらみつけて教室を出て行った。


 俺が一体何をしたというのだろう、あんなにもにらまれる理由がわからない。


 しかし、思い起こせば、これまでに教師という生き物に、ああいう目をされたのは今回が初めてじゃない、慣れたものだとはいい難いが、何度も見たことのある目だ。


 まぁ、昔を思い出してネガティブになるのも趣味じゃない、これから始まる特別授業とやらを受けるべく気合を入れて黒板に目を向けようとしよう。

 そして、ちょうどそんなとき、隣にもう一つ席があるのに気付いた。これについて何の説明もないことから俺は自然と舞子先生に質問していた。


「先生、机がもう一つあるんですけど、もう一人来るんですか?」

「あぁ、気にしないでください、それに特別授業は兵助君だけですよ、なんたって兵助君はギフトガーデン設立以降、初めての後天性ギフテッドなんですから」


 またおかしな言い方を、もういい加減よしてくれないだろうか。


「そう言う言い方はどうなんですか?」

「どうとはどういうことですか?」


「いや、なんか悪いイメージがあるというか」

「そんなことありません、きわめて特殊な例ですから、むしろ良いイメージでしかありません」


「そうですか?」

「そうですよ、では、さっそく授業を始めましょう」


 そうして舞子先生は咳ばらいを一つしたあと、喋り始めた。


「まず「ギフテッド」というのは俗にいう超能力者の呼び名です、彼らは普通では考えられない、まさに超能力というものを宿して生まれて来ます。そして、それらの超能力のことをここでは主に『シンボルギフト』と呼びます」

「シンボルギフト」


「はい、そんなシンボルギフトの可能性を秘めた子どもたちを保護し、育成するためにギフトガーデンというものが作られ、多くのギフテッド達が生活する世界を作り上げ、今に至るというわけです」

「すごいですね」


「しかも今では「この世で最も魅力的な場所」だなんて称号もいただいていますし、観光に訪れる方もたくさんいるんですよ」

「まるで観光地ですね」


「えぇ、ギフトガーデンを見に来る方はたくさんいますよ、そりゃもうこの世で最も魅力的な場所ですから」

「へぇ」


「まぁ、そんなことはさておき、説明に戻りますよ」

「はい」


「シンボルギフトというのは、自らに秘められたシンボルを用いて、超能力を発揮するものだということをしっかりと覚えていてください、そしてギフテッドとして才能をもって生まれて来た者は、まずこのシンボルを見つけることが第一目標となるのです」

「え、あの、舞子先生?」


「なんですか?」

「いや、先生が言うところのシンボルを見つけるのが第一目標なのはわかったんですけど、シンボルって例えばどんなもんですか?」

「そうですね、じゃあ兵助君にはこれは何に見えますか?」


 そういって舞子教諭が黒板に描いたのは誰もが目にしたことがあるであろう「リンゴ」という果実だった。


「リンゴです」

「はい、これがシンボルです」


「は?」

「難しい話じゃありませんよ、例えばこのリンゴ、つまり、リンゴのシンボルを身に宿している方はこのシンボルを用いた超能力を発揮することができるんです」


「つ、つまり、どういうことですか?」

「そうですね、一つ例をあげるとすれば、このシンボルを身に宿したギフテッドはリンゴを生み出すことができます」

「は?」


 自分でも「は?」とばかり言って馬鹿みたいとは思ったが、この状況下で、しかもこんな意味不明な言葉を連発する相手に、俺はこの反応しか返せなかった。

 むしろこんな説明をされて「うんうん」「なるほど」なんて言える奴はよほどのバカかよほどの天才だろう、あるいは漫画やアニメの読みすぎ。


 そして、俺はそのどれでもないということで普通の人間、突然変異型ギフテッドとかいうキメラなんかじゃない、そう信じたい。


「そのままの意味ですよ、つまりリンゴのシンボルを持つ人はリンゴを自在に操ることができる能力者ですから、生み出したリンゴを投げちゃってもいいですよ、食べちゃってもいいですよ、力自慢ならつぶしちゃってもいいですよ、とまぁ、そういう感じです」

「そんな感じって」


「そんな感じですからそんな感じなんです」

「まるで、マジシャンですね」


「そうですね」

「そ、そうですねって」


「でも、マジシャンは実在するリンゴをうまく隠して、それを上手く取り出すわけであって、本当に何もないところからリンゴを生み出すことはできませんよね」

「それは、それが普通だとおもうんですけど」


「はい、でもそれができるのがギフテッドです、そして、ここに住むギフテッドの方々は、みなさんシンボルを宿していて、そのシンボルにちなんだ能力を扱えるようになるため、日々勉強と訓練をしているんですよ」

「じゃあ、そのシンボルっていうのはギフテッドなら誰しも持ってるもんなんですか」


「そうですよ、ただし、ちゃんとシンボルを見つけなければなりません」

「なるほど」


 大体のことはわかった、だが、おとぎ話のような世界に、なかなかどうしてのめりこむことができないのはどうしてだろうか、実際に超能力を見たら一気にのめりこめるものだろうか?


「そして、そんな先天性だと思われていたギフテッドという人種の中に、高校生にして突然ギフテッドとして目覚めたという、突然変異型の兵助君が現れたということは、ギフトガーデンいえ、全世界、全宇宙に渡るほどの衝撃であり、私たちは総力を挙げて兵助君を・・・・・・」

「せ、先生っ、話の続きは?」


 またもや俺を辱めるかのような発言を始めた舞子先生に、俺はすかさず突っ込みを入れると、先生はピタッと動きを止めて、咳ばらいを一つした。


「コホン、そうですね、先に述べたようにギフテッドとなった兵助君が、まずやらなければならないのは自らのシンボルを見つけることです」

「見つけるって、どういう風にですか?」


「具体的な方法はありませんが、ギフテッドにはかつての人類とは大幅に違う能力が備わっているので、日常の中で発見することもあります、何か心当たりはありませんか?」

「そうですね、お前はおかしいとは言われたことはありますが、超能力的なおかしさは見覚えがないです」


「そうですか、でしたら兵助君はこれからどんな些細なことでも気にして過ごしていくことをお勧めします、なんてことないものが、自らのシンボルだったというのも珍しくありません」

「わかりました」


「はい、でも簡単に見つけてくださいと言いましたが、これが意外と大変なんですよ」

「大変なんですか?」


「えぇ、1を生み出すのは大変なことです。あ、ちなみに兵助君が所属しているFランクの人たちは、みんなシンボルを見つけることを目的としたランクですので、兵助君もあせらずじっくり能力を開花させてください、みなさん兵助君と同じで自らのシンボルを求める素晴らしい人材たちばかりです」

「はぁ」


やっぱり実感がない、これもすべて入学式のその日に、いきなり



「では、次に個人差について話します」

「個人差っていうと、ランク付けの事ですか?」


「そうです、ここギフトガーデンでは基本的にAランクからFランクまでの格付けがされています、この格付は年に数度行われる能力テストによって決まることになっています、所謂格付けチェックですね」

「それって、ここの入国審査的な奴みたいなもんですか?」


「いいえ、あれはギフテッドとしての能力があるかどうかを確かめるためのテストです、そうですね、せっかくだからそのことも説明しましょうか」

「はい」


「ギフテッドと一般人では脳波に違いあります。まぁ、脳波を調べたらその違いは圧倒的で、別に専門家でなくても、その判別はつくほどです、兵助君にだってわかるほど違います」

「へぇ」


「そして、それがギフテッドの基本的判断基準となります。ですから、今では大陸のあらゆる場所にギフテッド測定装置が配置されていて、生まれてきた時点でギフテッドかどうかわかるようになっていたりします」

「生まれた時点で?」


「はい、なのでギフテッドであるとわかった赤ちゃんは親元を離れてすぐにでもここへとやってくることになります」

「なんか強引ですね、せめて親も一緒にここに来ればいいじゃないですか」


「そうですね、でも完全に離ればなれというわけでもないのでギフテッドの方は基本的に家族と良い関係を保てていますよ」

「そんなもんなんですか?」

「そんなもんです、では個人差についてです」


 そうして舞子先生が次なる言葉を発しようとしていると、突如として教室の扉が開かれた。


 すると、教室にやってきたのは幸子だった、彼女は相変わらず暗い表情で現れると、すぐさま俺に目を向け、無言で俺のもとへとやってきた。

 もはや見慣れた顔と、今日は少しだけご機嫌なのか、少し口角が上がっているようにも見える幸子は、ようやく口を開いた。これも、ここに来たその日から今日まで一緒にいた賜物かもしれない。


「おはよう、兵助」

「おはよう」


 これも、もう何度も交わした挨拶、昨日今日会ったような奴だと思っていたが、今となってはもうずっと昔から友達だったような感覚すら覚える。


「兵助はこんなところで何してるの?」

「特別授業とか言って、いろいろ教えてもらってるんだよ」


「特別授業?」

「ギフテッドのことについて色々とな」


「兵助はギフテッドについて知らないの?」

「知らない」


「じゃあ、私が教えてあげる」

「え?」


 幸子の思わぬ発言に、教壇に立っていた舞子先生はバタバタと幸子のもとへとやってきた。


「ちょ、ちょっとちょっと八舞さん、今は授業中ですよ、勝手なことはなしですよっ」

「授業、今日は入学式だからない」


「兵助君は特別なんです」

「兵助は特別?」

「そうです、彼はまだここにきて間もない人ですから、いろいろ勉強しとかないと大変な思いをするのです」


 なんだか悪くない言葉を言ってもらったような気がしなくもないが、それよりも今は目の前にいる幸子がなぜか俺をじっと見つめてきていて、それがさっきよりも不機嫌な様子で、俺はなんだか不安になった。そんな、今にも何かしでかしそうな幸子はゆっくりと口を開いた。


「兵助」

「な、なんですか?」


 そういうと、幸子さんは無言で俺の横に置いてあった席に着いた。


「あの、急にどうしたんですか?」

「私も兵助と授業受ける」


「いや、幸子さんは受けなくてもいいんじゃないですか?」

「いい、それにここは私の席だから、私が座っても問題はない、授業受ける受けないの問題じゃない」


 そんな強情な幸子さんは席に着くと、すっときれいな姿勢で正面を向いていた。そして俺はというと幸子さんの突拍子もない行動に舞子先生に目を向けた。


「舞子先生、いいんですか?」

「えっと、静かに聞いているならいいですよ、でも八舞さんにはつまらない話かもしれませんが、それでもいいですか?」


 もうしっかり授業モードな幸子はただひたすら正面を向きながら「いい」と淡白な返事をした。


「わかりました、じゃあこのまま続けましょう、じゃあ八舞さんがいるので、せっかくですからバッジホルダーについても説明しましょう、今日はいろいろ説明しますから、ちゃんと覚えて帰ってくださいね兵助君」

「バッジホルダー?」


「はい、ギフテッドは自らのシンボルを見つけ、それを発現することができるようになると、シンボルホルダーとしてガーデンに認められることとなります、そしてその証としてバッジが与えられることになります」

「バッジっていうと校章みたいなもんですか?」


「そうです、そしてなんとお隣にいる八舞さんもバッジホルダーなんですよ」

「へー、幸子はどんなのつけてるんだ?」


 そうして俺は幸子にバッジというものを見せてもらおうとしていると、彼女はなぜか体をそらし、そこにあるであろうバッジを隠すかのように少しだけ身を縮めた。


「なんで、隠すんだ?」

「セクハラ」


「はっ、えっ、違う、別にそういう意味で見てたわけじゃないって」

「嘘、だって私の下着を・・・・・・」

「わー、ちょっと待ったちょっと待った、なんだこれはっ、なんでこうなるっ」


 思いもよらないことを口にしかけた幸子を口すぐさまふさぐと、彼女は何も抵抗することなくしゃべることをやめてくれた。そして舞子先生に顔を向けると、彼女は苦笑いしていた。


「あ、あのー、兵助君、次の話に行きますよ、あと、あんまりイチャイチャするようでしたら八舞さんには出て行ってもらいますよ」

「わ、わかってます、ほら、幸子静かにしててくれ」


 舞子先生の言葉に幸子は姿勢を整え、再びきれいな姿勢で前を向きなおした。


「まぁ、とにもかくにもシンボルを見つけない限りバッジを与えられませんし、一人前のギフテッドになるには少し心持たないです。ですが、Fランクといえど、ここにいるギフテッドの皆さんは、間違いなくギフテッドと認定された方たちです、なのでゆっくりでもいいですから確実にその力を磨いていってくださいね」

「でも、これまでの話的にFランクって相当救いがないように思えるんですけど、その変動なんですか?」


「そうでもありませんよ」

「そうですか・・・・・・」


「はい、じゃあここから本題の個人差の話なんですが、ランク付けはあくまで目安ですので、あまり気にしなくても構いません」

「はぁ」

「それよりも本当に大切なのは・・・・・・」


 舞子先生はもったいぶるようにして口を止めた。そこまで溜める必要があるのかとじっと先生を見つめていると、先生はにっこり笑った。


「努力と根性ですよ兵助君」

「は?」


「努力と根性ですよ」

「努力と、根性?」


「はい、そしてこれが私の伝えたい事です、ギフテッドも人も努力と根性の個人差で決まっているようなものですからね」

「いや、確かに努力する才能とか、そういうのはあると思いますけど、それってどうなんですか」


「どうもこうもありませんよ、兵助君に気合と根性さえあれば、あっという間にギフテッドとしての才能を切り開いていくかもしれませんよ」

「そんなざっくりでいいんですか?」


「はい、なので兵助君頑張りましょう」

「頑張りましょうって」


「大丈夫ですよ、Fランクの方でとてつもない努力と根性で高ランカーになった人もいますから」

「へぇ、どんな人ですか」


「彼女はすごいですよ、Fランクの誇りといっても過言でもありません、彼女がいるおかげでここの皆さんは希望を捨てずにいられるってものですよ」

「そうなんですか」


「はい、彼女はFから徐々にランクを上げていき、最後にはAランクに到達したんですよ」

「へぇ、もしかしてそれって幸子の事か?」


「どうして私?」

「いや、だって幸子はバッジ持ってるんだろう?」


「持ってるけど私はその人とは違う、その人の方が私なんかより何十倍もすごい」

「ふーん」


 なんだか、思っているよりも気の抜けるような個人差の話に、結局そのあとは幸子と静かに舞子先生の授業を受けた。


 しかも、授業の大半は精神論を話しているようにしか思えず、年齢は関係ないとか、努力すれば報われるとか、とにかく何をやってもうまくいかない連中が聞いたら、ブチ切れるかのような熱血精神論をひたすら叩き込んできた。


 しかし、俺から言わせてもらえば、その精神論とやらも個人差がある、努力できる奴とできないやつ、そして努力をせず、苦にもせず他と差をつけられるもの、大体がこの三つで成り立っているようなものだろう。


 だが、さすがは一番低ランクの学園といったところなのだろうか、そういう気持ちだけでも負けない生徒を育成するには舞子先生の言った論はもってこいの教育なのかもしれない。


 そして、こうは言ったものの、舞子先生がしゃべくる精神論がそこまで嫌いでもない俺は、明日からの学校生活をなるべく真面目に健全に、そして「人間」らしい生活を送っていくことに決めた。

 そんな授業も終わり、熱弁ふるった舞子先生は「今日はここまでです」と言って教室を出ていき、俺は教室で幸子と二人きりになってしまった。


 なんとも言えない空気の中、先に口を開いたのは幸子だった。


「兵助」

「なんだ?」


「どこかわからない所ある?」

「そりゃいっぱいあるけど、それはまた舞子先生が教えてくれるだろう?」


「そう」

「あぁ、それよりも幸子はどうしてここに来たんだ?」

「ここが私の教室、そして教科書やら何やらを置きに来た」


 そういえばここは私の席だとかなんとか言っていたが、本当のことだったようだ、しかし、それにしてもこのだだっ広い教室の中、一人だけの席が用意されている幸子はいったい何者なのだろう。


「幸子って俺と同い年だよな、なんで一人なんだ?」

「・・・・・・」


 質問に対し幸子さんは無視するかのように黙りこくった。


「お、おーい、聞いてる?」

「おなかすいた」

「あ?」


 まるで質問に答えたくないかのような発言に少しの疑問を抱いたが、彼女の発言には俺も同意であり、ちょうど昼過ぎの俺の胃袋は空腹だった。


「帰ってお昼ご飯を食べたい」

「そうだな、確かに腹が減った、だけどその前に俺の質問に答えてくれないか」

「今日のお昼は何?」


 どうやら俺の質問に答える気はないらしく、彼女は言葉を遮るように昼食を求めてきた。


「そうだな、せっかくなんだから外食しよう」

「いや、家で食べる」


「いや、せっかくなんだから観光がてら外食を」

「無理」


 彼女は頑固な女子高生、こう言い始めた幸子は梃子でも動かなそうだ。


「いや、でも俺は外食するぞ、ホットドッグが食いたいんだ」

「それは家でも作れる、食材を買って帰って兵助のおうちで食べる」


「いや、自炊はできるけど、いろいろ面倒だろ」

「む・・・・・・」


 不満気な擬音、幸子は期限を損ねたようだ。


「わ、悪いが俺は外食するって決めたから今から町中を闊歩する、幸子も一緒にどうだ?」

「む、私は帰る、家のほうが落ち着く」


「そうか、じゃあまた明日な」

「・・・・・・」


 幸子はなぜか怒った様子で頬を膨らませ教室をバタバタ出て行ってしまった。


 何をそんなに怒ることがあるのか、むしろ、どうして俺の手料理なんかを食べたいんだ、外食したほうがうまいに決まってるし、その方が楽だ。そう思い俺も幸子に続くように教室を後にした。

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