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ギフトガーデン  作者:
チェックザランク編
17/18

姉二人

 突然の笑顔がどういうものかわからず、それを少しでも探ろうと必死にベル姉さんを見ていると彼女は突然顔をしかめた。笑顔だと思っていたのに突然怒っているかのような表情に俺は思わず姿勢を正すとベル姉さんは声を荒げた。


「遅いっ」


 一体何に対してそんなことを言ったのかはわからないが、怖い顔したベル姉さんは俺の方へと指をさしてきていた。

 「遅い」その言葉が俺に対しての言葉でないことはどことなくわかったが、それなら一体何に対して言っているのだろうとゆっくり後ろを振り返るとそこには笑顔の素敵な女性が立っていた。


「遅いわ夕、一体何をしていたのかしら?」

「すみませんボス、ちょっと色々ありまして」


 きつい言葉をかけるベル姉さん、そしてさわやかな笑顔で返事をする「夕」と呼ばれた人。ベル姉さんをボスと読んだり制服を見るからに同じ学園の人のようだ。

 見た目はオレンジ色のロングヘアーで俺と変わらぬ長身とモデル顔負けのスタイルの持ち主、第一印象だけでいい人そうに思えるその人はとても魅力的に見えた。


「ベル姉さんこの人はだれですか?」

「ん、僕はCランクの夕凪ゆうなぎ ゆうだよ、気軽に夕・・・・・・いや夕姉でいい、夕姉って呼んでよ」


「ゆ、夕姉ですか?」

「うん、だってボスの事ベル姉さんって呼んでるんでしょ、だから私も夕姉ねっ」


「まぁ、それでいいならそう呼びますけど」

「よろしい、物わかりのいい子はお姉さん大好きだほらほら握手をしよう」


 そう自称した人は俺に握手をしてきた、とても軽やかな動きで自己紹介と友好の握手を交わしてくる夕姉はかなり陽気な人らしい。

 よくもまぁ初対面でこれだけ友好的にふるまえるものだ、俺が知ってる友好関係なんてのは大概にらみ合いからの殴り合いからの友好条約というなんとも暴力的かつ非常識的なものだ、ぜひともここではこの人のような友好関係を結んでいきたいものだ。


「俺、猫宮兵助っていいますよろしくお願いします」

「よろしくね、ちなみに兵助君はいくつ?」


「15ですけど」

「そっか、じゃあ僕の一つ下だね」


「そうですか」

「そう、ちなみにここにいる小さなボスは僕よりも一つ上の先輩だよ見えないよね、あはははは」


「あら夕、あなた凍らされたいのかしら?」

「う、嘘ですよボス、温度を下げないでくださいよ」


 ベル姉さんの怖い言葉に寒気がした。そしてなにより「寒気がした」という表現が実際に温度変化で感じ取ることができるなんてのはギフテッドクオリティとでも言うのだろうか?


「ふぅん、まぁあなたを凍らせたところで何の面白みもないからいいとして、あなた兵助の友達はどうしたのかしら?」

「いやぁ、それがちょっと逃げられちゃいまして、ぺへ」


 ベロを出しながらおちゃらけた様子で謝る夕姉はとんだクレイジー女のようだ。よくもまぁあれだけの圧を出す人にこんなおふざけ報告ができるものだ。


「逃げられた、あなたそれ本気で言っているのかしら?」

「いやぁ、そのなんていうか「探してる人がいるっ」とか何とかであっという間に逃げられちゃったんですよ、それはもうすごい速さでシュババってね」


 楽しそうに語る夕姉をよそにベル姉さんは俺を見つめてきた。その目はどこかあきれた様子で俺は思わず苦笑いで応じた。


「ちょっと兵助、あなたのお友達はどういう人なのかしら?」

「普通じゃないですね、間違いなく、えぇ」


「あなたより?」

「いやいや俺は普通です、でもあいつらは個性が強いっていうか一人はマニアックなオタクで食いしん坊だし、もう一人は疑心暗鬼で縦横無尽な文学男子だし逃げられても仕方ないと思いますよ」


「ふぅん、一体どうしてこんなことになったのかしら」

「あはは、なんでですかねボス」


「笑い事じゃありませんわよ夕、そもそもあなたがちゃんとしていないからですわ」

「許してくださいよ、こっちだって色々大変だったんですから、ね、ボス許して」


 夕姉はかわいらしく舌を出してごめんなさいのポーズ、そんな夕さんの姿にベル姉さんは表情をさらに怒りに満ちたものにした。さながら「氷鬼」この人を怒らせれば地球温暖化なんてあっという間に解決してしまいそうだ。


「ふぅん、その態度もう一度私の側に置いて一から叩き直してあげましょうか夕?」

「い、嫌ですよそんなの、ボスは良いですけどあの人に何されるかわかったものじゃないです、それだけは勘弁してくださいよボス」


「そんなの知りませんわ、これじゃあなたを呼んだ意味が無いじゃないっ」

「だから謝ってるじゃないですか、仕方なかったんですよ・・・・・・っと待ってくださいボス」


 今にもベル姉さんから折檻を受けんとする夕姉は、突然何かを聞き取ろうとする様子を見せた。ベル姉さんと同じく通信機でやり取りして様子を見せる夕姉は何度かうなづいた後「ありがとう」と言った。そうして通信が終わったのか一息ついた夕さんはどこかほっとした様子だった。


「あのー、兵助君はもちろんボスにも悪い知らせがあるんですけど、聞きます?」

「言ってごらんなさい」

「いやぁ、対象である本屋君がチンピラに絡まれたみたいで、挙句の果てには流血沙汰になっちゃって番田さんと一緒に病院に行ったとの連絡が来ちゃいました、えへへ」


 また少し寒気を感じた、どうやらベル姉さんは感情が高ぶったりするとあたりを冷たくしちゃう人のようだ。このままだと俺たちはこの季節にしもやけになりそうだ、そして夕姉は一度氷漬けにでもなった方がいいのかもしれない。


「夕、あなた今流血沙汰といいましたの?」

「はいそうみたいですねボス」

「流血沙汰って何やってたんだあいつら、やっぱ哲心は俺がいないとすぐ喧嘩売っちまうなぁ」


 夕姉はもちろん哲心にもあきれているとふと服の裾を引っ張られる感覚、引っ張られた方へと目を向けるとそこには俺に身を寄せるくじらの姿があった。


「あの兵助君」

「ん、どうした?」


「本屋君ってそんな流血沙汰を起こすような人でしたっけ?」

「あぁそうだな、見た目おとなしそうだけど結構血の気が多いんだよ、なんかしょっちゅうチンピラに絡んでるらしくてさ」


「そんな人だとは驚きです、あの、ちなみに兵助君は本屋君と仲がいいんですか?」

「あぁ、クラスは違うけど仲良くしてもらってるよ、蕾学園じゃ唯一の男友達ってところだな」


「そうなんですね」

「あぁ、あとクラスに並、えっと番田並っていうぶっとんだ奴もいてさ、そいつも俺みたいなやつを仲良くしてくれてるんだよ、まぁその二人が流血沙汰を起こしたってんだから友達としてはなんか心配半分呆れるっていうか、なんか複雑な感じだ」

「そうなんですね」


 じゃじゃ馬二人も心配だが俺の眼にはそれよりも心配な人の姿が映っていた。それはわなわなと打ち震えた様子のベル姉さんである。


「ななな、なんてことなの、私の平和な世界に血が流れてしまうなんて絶対にあってはならないことよ」

「あぁ、でもそんなに騒ぎにはなってないみたいですよボス、いやぁさすがはC地区の特別警備部隊ですね、あははは」

「・・・・・・ふぅん」


 突如肌が張り裂けそうな寒気と極度の緊張感が襲ってきた、それは紛れもなく目の前にいる小さな人によるものであることはわかっているが、その小さな体からあふれ出るとてつもないパワーに俺は思わず息をのんだ。


 そして、吐く息が白くなっていることとベル姉さんの足元がパキパキと音を立てながら凍り付いていく様子が見受けられた。そんなあまりにも危険な状況の中、さすがの夕姉も最大限の危険を感じ取ったのかくじらのもとに歩み寄りくじらの背中に隠れるように避難した。


「あ、あはは助けてくじらちゃん」

「ダメです夕さん、夕さんはあまりにも軽率すぎますもう少し緊張感をもって仕事にあたるべきだと私は思います」


 どうやら二人は顔見知りのようで、まるで慣れた様子で会話をしていた。


「そんな、でも仕方なかったんだよ僕の説得を無視して逃げちゃう番田さんと本屋君が悪くない?」

「それはそうかもしれませんけど、そこを何とかするのが夕さんの仕事だったんじゃないでしょうか?」


「うぅ、厳しいよくじらちゃん流石は主席だけのことはあるよ、でもそれよりもっと厳しい人が僕の目の前にいるよー」

「もーまったくもう我慢なりませんわ、私はモニタールームで完全管理体制に入ります」


「えっ、モニタールーム行くんですかボス?」

「勿論ですわ、それから夕っ」


「はい、なんです?」

「あなたにはくじらと兵助の警護を任せます」


「あーはい分かりました」

「この任務は絶対に穏便に済ませるように、これはあなたの失態を帳消しに出来るかもしれないチャンスだということを頭に入れておきなさい、もしこの任務を果たせなかったら・・・・・・」


 その沈黙はさすがの夕姉をも黙らせるものらしく冷や汗をかいている夕姉は苦笑いをしていた。単純に茶らけなければこんなことにはならないのに


「や、約束はできないと思いますよ、どうにもFランクの人たちはアクシデントに恵まれていますから」

「それでもそれを穏便に済ますのが私たちの役割ですの、理解しました?」

「は、はーい」


 そうしてベル姉さんは一目散に走り去っていった。なんだかあの人も色々大変なのかと忙しそうな背中を見送った後、俺は夕さんへと視線を移すと彼女は満面の笑みでいた。

 本当におかしな人だ、これほどお気楽な人は出会ったことがない、どうすればあれほどの事があった後にこんな笑顔をできるのだろうか?


「というわけなので、これからは僕が護衛につきますねお二人さん、できる限り私の元から離れないでね、そうしないと僕はこの世から離れなくちゃいけなくなるから」

「あ、あぁよろしくお願いします夕姉」


「夕さん、へらへらしすぎるのは良くありませんよ」

「ごめんごめん僕はシリアスなのが苦手でさ、ほら世の中少しでも楽しそうな方がいいでしょ、怖い顔して生きるなんて御免だよ、いくら年をとってもそんな大人にはなりたくないのさ」


「それは私も同感しますけど」

「そうでしょそうでしょ、いやぁそれにしてもかわいいなくじらちゃんは、大丈夫ナンパとかされなかった?」


「こんな格好してる人を誰もナンパする人なんていませんよ」

「僕ならするなぁ、このビン底眼鏡が最高にキュートだよ、こんなのつけてる人いないよ普通、滅茶苦茶かわいいよくじらちゃん」


「何でもかんでもかわいいっていうのはあまり良くないと思います」

「そうなの、僕の周りの女の子はみんな口癖のように使うよ?」


「だからです、それより夕さんそろそろ他の場所を見に行きたいんですけど」

「あぁ、いいよどこに行く?」


「そうですね、身近のところでDランクのバトルブースに行ってみたいんですけど」

「バトルブースねぇ、あそこは毎年盛り上がるから僕も楽しみだなぁ」


 仲良さげに話を進める二人を横目に俺たちはバトルブースとやらに行くことになった。


 個人的には哲心の事が心配なのだが、並がついていてくれているからということとくじらが俺の手を引いてバトルブースへと誘導してきたことを拒むことはできなかった。

 我ながら軽率な行動ではあるがこんなことをされたら男子としては女子に誘われちゃったりしたら断われないもんだ。


 ほどなくしてバトルブースへと到着すると、そこは今日一番の人だかりでかなり盛り上がっている様子だった。そこではまるでボクシングやプロレスを行うためのステージが用意されており学生服を着た人が一対一でギフテッドとしての力量を競い合っている様子が繰り広げられていた。


 なんだか物騒な催しに見えたが観客は多くかなり盛り上がっているようで、あたりは完成で一杯になっていた。観客たちの中には学生たちも多く皆盛り上がっていた。

 隣にいるくじらや夕さんもかなり楽しんでいるようでやんややんや言いながら知っているのか知らないのかわからない学生を応援していた。


 確かにリング上では様々な不思議な能力を使う学生たちが白熱バトルを繰り広げておりそれはもう見ているとアニメや漫画の世界にでも入った気分になった。


 だが、バトルとはいってもリング上のギフテッドたちはどこか笑顔でバトルを楽しんでいるように見えた。そしてバトルの始まりと終わりには必ず握手をして笑顔で互いをたたえあうというなんだかスポーツマンシップを感じるバトルといったところだ。


 これがベル姉さんの言う人間性を見せるためのチェックザランクということになるのだろうか、確かにこの様子だけ見ればギフテッドという存在が開くには見えないだろうし兵器にだって見えない、素晴らしい力を持った新人類で多くの人に夢や希望を与えてくれる存在にすら見える。


 そしてそんなギフテッドをチェックしに来ているのかリングの周りには白衣やスーツ姿の大人達が応援などせずに何かをチェックしているような様子もうかがえた。


 そんな、一見楽し気で平和そうな雰囲気の中突如として怒号が聞こえてきた。


 それはつい先ほどバトルが終わったばかりのリングから聞こえてきた。男性と思われる怒号はよく聞き取れないものだったが、あたり一辺が一瞬で静まるほどの声に、俺はすぐさまその声がした方へ目を向けた。

 人だかりのせいか一体何者によるものかはわからなかったが、バトルブースのリングで一人騒ぐ男の姿が目に入ってきた。


 目つきが悪くつやのある黒髪を侍ヘアーにしているいかにも怒号を上げそうな男がいた。どうやらあいつが騒ぎの原因らしい。


「おぉいっ、なんで俺が降格しなきゃなんねーんだよこの野郎、出てきやがれ糞審査員共」

「こ、こらやめなさい君早くリングから降りなさい」


 リング上では侍ヘアーの男と、スタッフと思しき人が言い争っていた。見るからに侍ヘアーの男は怒り狂っており手を付けられそうになかった。


「うるせぇくそったれ共、こちとら降格が決まってイライラしてんだよこの野郎」

「決まったものは仕方がないのです、早くステージから降りてきなさい」


「何だこの野郎、俺はこのバトルブースで勝利を収めたのにそれがどうして降格しなきゃなんねーんだよこのやろう、今日はチェックザランクの日で強いやつが昇格する日だろうがっ」

「な、何を言っているんだ君は、今すぐリングを降りなさいといっているだろうっ」

「うるせぇっ」


 もめているようだが全く降りる気配のない侍ヘアーはずいぶんと怒り狂っており、今にもスタッフに手を出しそうな勢いだった。そんな緊迫している様子をボーっと見ていると、ふと夕姉が俺を見つめてきていることに気付いた。


「なんですか夕姉?」

「いやぁさぁ、一応このチェックザランク全体の警備を任されてるいわば特別警備部隊の僕はあそこに行った方がいいと思う?」

「「へ?」」


 特別警備部隊なるものが存在しているとは知らなかったが、まさかこの状況で行くか行かまいかを俺に聞いてくるとは思わなかった。

 おまけに夕姉は苦笑いをしていて、おそらく面倒ごとにはあまり首を突っ込みたくないのだろうというのが滅茶苦茶伝わってきた。


「なんだかやだなぁ、僕あぁいうタイプの人苦手なんだよねぇ、ほら見てすごく怖い顔してる」

「そうですね」


「だからバンドマンとかも苦手なんだよね、眉間にしわ寄せがちって言うか唇とがらせがちっていうか、なんか怖くない?」

「いや、バンドマンどうこうは知りませんけど、そりゃだれだってあぁいうタイプは苦手だと思いますよ」


「あ、ちなみに兵助君は大丈夫だよ、君はやばい顔してるけどとってもかわいいから」

「か、かわいい?」


 やばい顔というのが引っかかるが、それに勝る可愛いという言葉に俺の胸は高鳴った。


 緊迫した状況であるにもかかわらず夕姉の言葉にのんきに浮かれていると、ふとステージに勇敢なる誰かが上がっていく姿が見えた。その誰かの登場に夕姉も気付いたのかうれしそうな顔しながら俺の肩をたたいてきた。


「わおっ、同僚が駆けつけてきてくれたみたいだよ、ほら見て兵助君あれ多分僕の後輩だよ、今年から特別警備部隊に配属されたばかりのルーキーだよ、たぶん」

「たぶん?」

「あ、いやほら同じ制服で同じ腕章してるでしょ、私の後輩だよほらっ」


 夕姉は自らの腕章を見せつけつつリングに上がった同僚と思われる女子生徒を指をさした。そして同僚であろう女子生徒は侍ヘアーの男に歩み寄っていた。

 何やら口論になっているようだが侍ヘアーの男ははギフテッドの能力なのかどこからともなくガラクタを出しては投げつけるといった威嚇行為をしておりとんでもなく危なっかしい様子にみえた。


「夕姉、大丈夫なんですかあの後輩さんは?」

「大丈夫大丈夫、ちゃんとC地区の厳しい教育を受けてるんだから大丈夫さ」

「そうだといいですけど」


 教育を受けているから大丈夫だというルーキー、だが目の前で繰り広げられている光景はすぐに決着がついた。

 まぁ結果から言うとC地区の厳しい教育とやらを受けたというルーキーの学生は侍ヘアーの男の高圧的な態度にヘナヘナとその場で崩れ落ちてしまったのだ

 その様子はルーキーにお似合いというか大物ルーキーにはなれないというか、とにかく期待外れであろう結果に隣にいた夕姉は苦笑いしていた。


「あはは、ルーキーはルーキーだねぇ、あの子おしっこ漏らしてないかなぁ」

「ななな、なんてことを言ってるんですか夕さん、あなたの後輩ですよ早く助けに行ってあげてください」


 くじらは顔を真っ赤にしながら夕姉につかみかかり、夕姉は相変わらずへらへらと笑っていた。相変わらずの緊張感のなさとデリカシーのかけらもない発言、本当にこんな人が特別警備部隊にいていいのだろうか?


「夕姉、本当に早く助けに行った方がいいんじゃないですか、なんかあのチンピラさっきよりも顔が赤くなってますよ、それに変なもん投げてるからいつ飛んでくるかわかったもんじゃないですよ」

「ぷぷぷ、本当に顔が真っ赤だ、あれじゃまるでリンゴみたいだよ、うぷぷぷぷ」

「・・・・・・」


 俺ですら呆れる夕凪さんの態度にくじらが声を上げた。彼女は頬を膨らませいかにも起こった様子で夕姉をにらみつけていた。


「ちょっと夕さんっ」

「な、何くじらちゃん?」


「夕さんは先輩なんですから早く行ってあげないとあの人がかわいそうじゃないですかっ、問題が怒っているのに傍観とはどういうつもりですか」

「えーっと、行きたいのは山々なんだけどそれは無理なおねがいだよくじらちゃん」


「どうしてですかっ」

「それはね、僕がボスから君たち二人の警護を任されているからなんだよ」


「まさか夕さん、それを守ってるっていうんですか?」

「まぁボスの命令は絶対でさ、しかも僕はさっき失敗しちゃったから二度目はないんだよ、だから今日は君たち二人につきっきりじゃないとボスの命令に背くことになるんだよ、だからあのトラブルは他の人が来るまで待つしかない」


「だからといって、もうっ、私の事はいいですから早く助けに行ってきてください夕さん、優先順位を考えてください」

「でもなぁ、およ?」


 と、ここで夕姉は突然通信でも入ったのか耳の通信機に意識を向ける様子を見せた、どうやら緊急の通信でも入ったのだろう、そうして夕姉は何度かうなづいた様子を見せた後笑顔で深呼吸を一つはいた。


「どうしたんですか夕姉」

「あはは、あそこの侍頭君を鎮静化させなさいだって」


「それはベル姉さんからですか?」

「うんボスの命令みたい」


「じゃあ行かないとダメですよね、ボスの命令は絶対ですから」

「う、うんそうだね」


「じゃあ早くいった方が」

「え、えーっと」


「どうしたんですか夕さんボスの命令ですよ、早くいかないといけませんっ」

「あーうん、じゃあこれから止めに行ってくるから、二人ともくれぐれもその場から動かないように、絶対だよっ」


「「はい」」

「まーったく、二つも命令しちゃうなんてひどい人だよなボスは・・・・・・」


 夕姉は文句を垂れつつリングへと向かった、リング上では侍ヘアーの男が暴れくるっており、次から次へとガラクタのばかりを召喚しては投げつけることを繰り返していた。その様子だけ見れば怒ったサルまたは幼稚園児といったところだろうか。


 そしてそのせいで辺りはすでにどこから持ってきたのかわからないようなゴミくずばかりでもはや無法地帯と化していた。どうにもこうにもならない状況の中リング周辺に集まっていた観客たちは悲鳴をあげながらどんどん避難していく姿が見られ、先ほどまでの楽しい雰囲気が完全にぶち壊されていた。せっかくみんなが楽しくやってるっていうのにたった一人でここまで台無しにできるものだ。


 大変な騒動になったがこの騒動の張本人は悪びれる様子もなく、相変わらず納得いかない様子でリング上を支配していた。それにしても、ギフテッドとして降格するっていうことはそんなにも嫌なことなんだろうか。

 あの怒り方を見るとよほど嫌なんだろうと思うが、降格するというよりも上がれなかったことに対する怒りだったりもするのだろうか?

 

 まぁ、詳しくはわからないがそんな尋常じゃない起こり方をする侍ヘアーの男のもとに夕さんが駆け寄った。彼女は身軽にリング上へと上がると、リングで腰砕けになった後輩を素早くリングからおろし目的である侍ヘアー男に迫った。


「あーあー、これじゃまるで怒った猿だね、せっかくのかわいい髪形が台無しだよ?」

「あぁんっ、なんだてめぇ」


 しょっぱなから挑発するスタイルは俺にはできない芸当だ、ただでさえ怒っている相手に猿だなんて言い方設楽余計に反感を買うだろうに


「僕、C地区の特別警備部隊の夕凪っていうんだけど、どうか落ち着いてくれないかな」

「特別警備部隊?なんだか知らねぇがお前もさっきの女みたいにしてやろうか?」


「んー、ねぇねぇ君さどうしてこんなに怒ってるの?」

「そんなもん、俺がこのステージで圧倒的勝利を手にしたってのにEランクに降格したのが気に食わねぇんだよ」


「そっか、降格したんだ君」

「そうだよ、バトルで勝ったっていうのになんでこんなことにならなきゃならねぇんだよ」


「うーん、君さぁギフテッドにとって必要な要素は何だと思う?」

「はっ、そんなもん決まってるぜ」


「何?」

「圧倒的な力だ、普通の人間にゃできないことを圧倒的に見せつけ力でねじ伏せる、それがギフテッドに必要なもんだ」


「それが答え?」

「あぁそれしかないね、いやギフテッドであるならばそれこそが一番の答えだ」


 確かにこいつがいくらガラクタのようなものしか召喚できなかったとしてもそれは普通に人間に比べれば圧倒的に力の差がある、ギフテッドを表現するならそういう力関係が一番しっくりくるのかもしれない。


「残念、そりゃ降格だね」

「なんだとっ」


「だからおとなしくお家に帰ろうか、ほらリングから降りて」

「おぉそうか」


「え、分かってくれた?」

「そうかそうか、てめぇも俺をバカにするつもりかこの野郎っ」


「え、いやバカにしたつもりはないよ、ただリングから降りてほしくて」

「分かったじゃあ力づくだこの野郎、てめぇもギフテッドなら力づくで俺をリングから降ろしてみやがれっ」


「いやぁそういうつもりはないんだけど・・・・・・」

「うるせぇ、偉そうにすんじゃねぇぞ女がこっちはその気なんだよおらぁ」


 そういったとたん、侍ヘアーの男はガラクタの塊を召喚して見せた。大きさにしておよそバランスボールくらいの大きさのそれは、見たところガラクタの集合体のようで侍ヘアーの男はそれを夕姉に向かって投げつけた。


 ずいぶんと原始的な攻撃方法だったが、あの大きなガラクタをものすごい速さで投げつける腕力は到底人間とは思えなかった。

 これがいわゆるギフテッドに備わった特殊能力以外の身体的能力の高さというやつらしいが、それにしたってあの大きなガラクタの塊はどうするつもりだろうか、まさか投げつけてきたりしないだろうな?


 なーんてのはもはやフラグでしかない予想だったようで、俺とくじらのもとに大量のガラクタのかけらが飛んできていた。さながら榴弾のように散らばるそれらは間違いなく俺やくじらめがけて飛んできた。


「あぶねぇっ」

「えっ」


 俺達のもとに向かって飛んでくるガラクタはすさまじいスピードで、俺はすかさずくじらをかばった。


 かばった際に背部に痛みを感じたがそんな事よりもくじらの安否を確認すべく助ける際に押し倒してしまったくじら見ると、そこには絶世の美女がいた。


「う、美しい」

「ふぇ、突然どうしたんですか兵助君」


 俺は確かビン底眼鏡のくじらという少女を助けたはずだ、だが俺がかばったその人は後光が見えるほどの美しき女性であり、俺はこんな美しい女性を押し倒してしまったのかと思わず罪悪感を感じた。


「あれ、くじら?」

「はいそうですけど、じゃなくて兵助君血がっ」


 頭部に何度も経験したことのある痛みと何かが伝ってくる感覚、間違いない俺の頭は流血しているらしい。とんでもない目にあった、もしもこの場にまだ観客が残っていたならそれはもう大変な事になっていただろう。


「兵助君頭から血が出てますっ」

「俺は大丈夫だ、それよりくじらは大丈夫かどこも怪我無いか?」


「私なんてどうでもいいんです、兵助君の方が」

「そういうわけにはいかないだろ、それにまだ終わったかどうかもわからないからな」

「え?」


 本来なら俺たちも遠くへ逃げておくべきだったのかもしれない、そんな後悔いまさら考えても無駄だがどこかこのギフトガーデンっていうやつはやばい場所らしい。

 ここに来る前までは世界一進んでるの何だのと聞いていたものだから平和な世界と思い込んでいが、そんな甘い考えは今日の日から完全にここでの生活の心得を改めた方がいいかもしれない。


 そもそも、ギフトガーデンに来た時からどうにもおかしかった。


 チンピラはそこら中にいるし、ランク付けで格差が激しいし、挙句の果てには小学生にまで喧嘩を売られる始末だ、こんな場所いくら世界で最も進んだ場所だからといって安心して生活できるわけがない。


「くじらが大丈夫ならいい、あとは夕姉が早くあのバカを捕まえてくれることを願うだけだ」


 とんでもない流れ弾をくらってしまった俺は再びリング上へと目を向けると俺のすぐ目の前に夕姉が立っていることに驚いた、そして何を思ったのか俺の頬に手を添えてきた。


「あれ、夕姉いつの間に」

「ごめんよ兵助君、君に大変なケガをさせてしまったようだ」


 今日あったばかりだがこんなにも慈愛に満ちた顔をする夕姉は初めてだ、いつもこんな顔をしていれば多少は好感度も上がるだろうに。


「いや、気にしなくていいんで早いところあいつを何とかしてもらいたいんですけど、っていうかいつの間に」

「うん、さっさと止めるよ、本当にごめんね二人とも怖い思いさせちゃって」


 夕姉はそういうと再びリング上へと走って戻っていった。


「参るなぁ、これじゃ僕の懲罰は決定的だよ、それもこれも君のせいだからね侍君」

「なに言ってんだこの野郎、つか何逃げてんだよ」


「これもすべて、君が突然ガラクタをまき散らすのが悪いんだからね」

「悪い?ここギフトガーデンでギフテッドが能力を使うことの何が悪いんだ、あぁん?」


「兵助君には悪いことしたよ、彼はとてもいい子なのにあんなかわいそうな目に合わせてしまって後悔しかない」

「兵助、だれの事だか知らねぇがなにさっきからぶつぶつ言ってんだっ」


「君は少しやりすぎた、過去に例がないよ君のようにおバカで乱暴なギフテッドはね」

「は?」


 しばらく話し込んだ後、リング上で夕姉と侍ヘアーの男との間に沈黙が流れた。こんなにも静かになるのは奇妙だと思ったその瞬間夕姉が姿を消した。


 間違いなく消えたという表現で間違っていない、そして気付いた時には夕姉は侍ヘアーの男の背後に立っていた。目で追えることなどできないスピードで素早く背後に回った夕姉は、あっという間に侍ヘアーの男を拘束した。


「何だっ」

「はい拘束ね」

「くそっ、てめぇいつの間に俺の背後に」


 神業ともいうべき速さで侍ヘアーの男を拘束した夕姉、彼女があっというまに拘束した所でまるで 血アミングでも見計らっていたかのように増援らしき人たちがやってきた。そんな、遅すぎる増援に夕姉は侍ヘアーの男を引き渡した。

 侍ヘアーの男はいまだ納得のいっていない様子なのかぶつくさ文句を言いながら時には逃げようと試みるかのように身体をばたつかせながら増援の人たちに連れられてどこかへ行ってしまった。


 まったく、こんなに簡単に始末できるなら初めからやってほしいものだと再び俺たちのもとへとやってくる夕姉を見ていると、彼女は苦笑いをしていた。多少なりとも反省なりしているのだろうかさっきまでのへらへrとした様子は見られなかった。


「やぁ、いろいろ大変な目に合わせちゃってごめんね二人とも」

「いえ、それより夕姉どうやってあいつの背後に回ったんですか?」


「どうやったって言われても、それはギフテッドだからとしか言いようがないかな」

「へぇ、すごいですね」


「そうかな、僕の場合ただの人と変わらないからさボスみたいに異次元な人に比べると全然だよ」

「そうなんですか」


「うん、ギフテッドの世界っていうのは力の差が激しくてさ、だから君たち二人の事も僕の力不足のせいでもあるのさ、ボスならきっとこんなことにはなってないよ」

「何言ってるんですか、あんな一瞬で人を拘束できるとか十分すごいじゃないですか、それに被害が俺だけでよかったですよ、周りにたくさん人がいたらと思うとぞっとしますよ」


「そうかな」

「はい」


「そっか・・・・・・けど、それにしてもお手柄だったよ兵助君」

「何がですか?」


「何って、まるでお姫様を救ったナイトじゃないか」

「なんの事ですか?」


「とぼけないとぼけない、くじらちゃんをガラクタから救ったじゃないか、それもすさまじい反射神経でね」

「いや、体が勝手に動いただけです」


「謙遜しない謙遜しない」

「いや、別にそういうわけではないですけど」


 謙遜しているつもりはないしクジラが無事なら本当にそれでよかった、ただこれでくじらが俺に変な気を使わせてしまうのは嫌だ、だからなるべく平気な顔してくじらを安心させてやりたい、そう思っていると、くじらが心配そうな顔をして俺の事を見つめてきた。

 ビン底眼鏡をかけていないせいであまり直視できないが少しうるんだ瞳で見つめてくるくじらは俺の腕wおぎゅっと握ってきていた。


「な、なんだくじら?」

「あ、あの兵助君本当に大丈夫なんですか?」


「あぁ俺は大丈夫だって、それよりくじらは何ともなかったか?」

「私は兵助君に助けてもらいましたからだいじょうぶです、それよりも早く治療をしないと」


「あぁこれくらいなめときゃ治るって」

「えー、いつの時代の人なの兵助君、ほら医務室へ行くよ」


 あきれた様子でもう片方の腕を握ってきた夕姉はそういった。


「いや、だから大丈夫ですって、血は止まって来てるんで」

「あのね、止血はしても消毒とかしないとだめなんだよ兵助君、ほら行くよ」


「そうですよ、さぁ行きましょう兵助君早く治療しないとっ」

「あ、あぁ」


 大丈夫と入ってもなかなか信用してくれない二人、そしてくじらが罪悪感を感じてか随分と青ざめた様子で俺の事をちらちら見てきている。

 しかしビン底眼鏡を外したくじらっていうのは本当に見とれてしまうほどかわいいな、これからこのくじらに手当をしてもらえるっていうのなら別に医務室に行くのも悪くはないか。

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