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ギフトガーデン  作者:
フランクイェーガー編
13/18

ボスエンド

 哲心が眠った姿を見つめていると、並が俺の名を呼んだ。並はなぜか真剣な顔で俺に向かって手招きしてきた。その姿がちょっと招き猫に見えなくもなく、俺はそんな彼女に引き寄せられるかのようにして並のもとへと歩み寄った。


「ちょっと猫兄、本屋君の寝顔ばっか見てないで早くこっちにきてくださいっす」

「あぁ、何用だ?」


 そうして並のもとまで行くと、彼女はまるで抱えるようにして持っていた救急箱を開き、消毒液やら包帯やらを取り出しておれにみせつけてきた。


「並、俺の治療とか本当に大丈夫だから、これはつばつけとけば直るやつだ」

「ゾンビみたいに血だらけの人が何言ってんすか?」


「いや、でも血は止まってるし、ふらふらとかしないんだよ、大丈夫だ」

「ダメっす、これはお決まりなんすよ」


「お決まり?」

「ほらじっとしてくださいっす」


 すると並は無理やり俺を椅子に座らせてきた。


「な、なんだよ」

「ほらいきますよ」


「いく?」

「はい、じっとしててくださいっす」

「まぁ、じっとしとけってんならするけど」


 すると、並はじっと俺を見つめてきていたかと思うと、手に持っていた消毒薬を俺の顔面に向かって吹きかけてきた。そして顔面から感じる激痛に俺は叫ばざるを得なかった。


「ぶ、ぶわーーーっ」

「ちょっと猫兄、じっとしてくださいっす」


「馬鹿野郎、なにすんだお前っ」

「手当っす」


「ふざけんなっ、拷問だろ」

「ふざけてないっす、手当のときはまず消毒薬をぶっかけて、それからガーゼをくっつけるんす」


「くっつけるんすじゃねぇ、いらないって言ってるだろ」

「いいっすね猫兄、その反応も治療のお決まりセリフぽいっす」


「別にセリフのつもりじゃないっ」

「いいからいいから」


 そうして並は俺の言葉を耳にも入れずまるでなってない手当をつづけた、それはまともなものではなく、けがのしてないところに包帯を巻いたり、なぜか鼻に絆創膏を張られたりと、手当というにはほど遠い行為をさんざんされ続けた後、ようやく満足したのか、並は額の汗をぬぐうしぐさをして見せた後、満足げに息を吐いた。


「ふーーー、手当完了っす」

「完了じゃない、手当になってないだろこれ」


「まぁまぁ」

「まぁまぁじゃない、何のためにこんなことしたんだよ並」


「いいじゃないっすか、お決まっすよ」

「さっきからお決まりお決まりっていみがわからん」


「うーん、しかしそれにしても猫兄は手当しがいのない人っすね」

「なんで?」


「だって、まるで平気じゃないっすか、それだけ血まみれなんすからもっと重症かと思ってましたけど、それは返り血ってやつっすか?鬼って奴っすか?」

「違う、正真正銘俺の血だよ、たぶん」


「それにしては、ねぇ」

「だから、つばつけときゃ治るって言っただろ、かすり傷だよ」


「そうっすか、まぁ個人的には満足したんで、別に何でもいいっすけど」

「何でもいいって、まぁありがとな並」


「いえいえ、それより猫兄はやっぱ変わってるっすね」

「なにが?」


「いえいえ、普通空繰に喧嘩売るなんて絶対できないっすよ」

「別に喧嘩したくてやったわけじゃない、哲心を助けたかったからだ」


「いやいや、それが喧嘩を売ったことになるんすよ」

「なんで?」


「なんでも何もそうなるんすよ、しかもあたしたちFランクが空繰に歯向かったんすよ、こりゃ何か起こること間違いなしっす」

「別に俺は哲心がさらわれたから助けただけであって、なにも悪いことしてない」


「まぁそうですけど、それでも、これからはなるべく穏便に事を済ませた方がいいっすよ猫兄」

「え?」


「なんてったって、あたしたちはギフトガーデン最弱のFランクです、だからその辺猫兄もちゃんとわかってもらいたいっす」

「なんだよ急に?」


「忠告っすよ、こちとらFランク生活が長いっすからこういう根性がしみついてるっす、上には逆らうなって根性がね」

「そういうもんなのか・・・・・・」

「はい、だからあたしはランクがなんであろうと楽しんだもん勝ちって思ってるんすよ、だから、なるべく楽しいことをしましょうね猫兄、その方が絶対楽しいっす」


 なんだか普段からは感じられないような言葉を言った並は、俺に満面の笑みを見せた後、救急箱をしまいにでも行くのか、大事そうに救急箱を抱えながら店の奥へと走っていった。とんでもない治療を受けたものだと、自らにまかれた包帯やら無造作に張り付けられた絆創膏を眺めつつ、俺は並の言葉を思い返していた。

 

 確かに、俺はここに来たばかりだというのに変なことに首を突っ込み結構なことをやらかしてしまったのかもしれない、しかし、これは哲心を思っての事であり、後悔はしていない、だが何かしらの影響が今後の生活の中で出てくるかもしれない。

 

 それは、俺がここにきて決意した平和に過ごすという目標から大いに外れてしまっており、いくら友達である哲心を助けられたとはいえ、この状況だとこれまでの俺と何ら変わりがないことになってしまう。これは実に見過ごせない、ここは何とかして平和な世界へと戻すべく、おとなしいやつになるしかない。そう心に決めた。


 そんなすぐに忘れてしまいそうな決意をした後日、いろいろと面倒ごとを抱え込んでしまった感はあるが、俺は哲心を救出することができたことを後悔はしていなかった。それは、これを機に哲心が俺と友達になってくれないだろうかという淡い期待を抱いているからというのと、どっちかっていうと監禁までする空繰の方だろうという勝手な判断から来ているものだ。


 そして、俺はというと、ここにきて唯一の男友達候補である哲心、それから入学してからなぜか仲良くしてくれている並と昼飯を食べていた。だが俺は今並よりも哲心が気になって仕方がない。


「哲心、昼飯うまいな」

「あぁ、そうだね」


「哲心、楽しいな昼飯」

「あ、あぁ、そうだね」


「哲心」

「気持ち悪いな兵助、なにが君をそうさせているんだい?」


 めちゃくちゃ嫌そうな顔をしながらそう言った哲心は、サンドイッチをかじった。


「い、いや、だってこれって友達との昼飯だろ、だからうれしくて」

「何がうれしいのか理解に苦しむよ、番田さん兵助はいつもこうなのかい?」


「いーえ、猫兄は本屋君と昼食がとれてうれしいんだと思いますよ、だってあたしの時はこんな顔しないっすから」

「別にいいだろ、ようやくできた男友達なんだ、うれしいに決まってら」


 そうだうれしいに決まってる、それなのに、俺の気持ちとは裏腹に俺と昼食を共にしてくれている友人たちはつめたいめで俺を見つめてくる、特に並に至ってはやさぐれた様子で俺の弁当箱をからにしようとしてきている。


「ま、まぁそんな事よりもだ、哲心はこれからどうすんだ?」


 この言葉にやさぐれた様子の並が目を輝かせたかと思えば急に表情が明るくなった。


「あっ、そうっすよ、猫兄から聞いたっすけど本屋君フランクイェーガーって名前でチンピラ狩りしてたんですよね」

「急に元気になるなよ並」


「いいじゃないっすか、ずっと気になってたんすよ、で、本屋君これは本当の事なんすか?」

「番田さん、それは君には関係のないことだほっといてくれ、いや、ほっといてもらいたい」


「哲心、またそんなこと言って」

「だって、これ以上君たちに迷惑はかけられないだろう」


「いや、だっても何も、あの時俺や並がいなかったら、お前は今ここにいなかったかもしれないんだぞ?」

「そ、それはそれ、これはこれというか、なんというか・・・・・・」


 ここにきて哲心は眉をひそめて顔をうつむけた。なんとも歯切れの悪い返答に俺はちょっとした案が思いついた。


「そうか、分かった哲心」

「な、なにがわかったんだい?」

「俺もフランクイェーガーになるっ」


 俺の言葉に哲心は口をぽっかり空けた。かと思えばまるで気絶していたかのように、遅れた反応で声を荒げながら立ち上がった。


「な、なにを言ってるんだ君はっ」

「何って、フランクイェーガーになるって話を・・・・・・」


「違う、そうじゃない」

「そうじゃないって、何が?」


「今回の事でわかっただろう、僕のやってることは馬鹿で危険なことだ、それを君のような人を巻き込むわけには行かないって言ってるのさ」

「いや、俺はフランクイェーガーになる、哲心と一緒にフランクイェーガーになるって決めた」


「兵助っ」

「それに、俺はもうめちゃくちゃ巻き込まれちまったんだ、だったら一緒にフランクイェーガーやってる方がいいってもんだ」


「そ、それを言われたらどうしようもないじゃないだろう」

「それにさ、俺は何かおびえて生きるより、何かに立ち向かって生きていきたい性分なんだよ、だからお前と一緒にフランクイェーガーになる、いいだろ哲心」


「しかしだな兵助」

「本屋君、あきらめて猫兄を受け入れてあげた方がいいっすよ」


 並はあきれた様子で哲心の肩に手を置いた。


「番田さん、だけど」

「そもそも本屋君は何がそんなに引っかかってるんすか?本屋君だって今回の事で猫兄、または誰かがいたことの大切さは理解できたと思ったんすけど、何か他に問題があるんすか?」


「それは間違いないし、僕自身兵助や番田さんにはすごく感謝している、だけど・・・・・・」

「間違いないけど、なんすか?」


「僕は兵助をどう受け入れたらいいのか、分からない」

「猫兄を受け入れるっすか?」

「あぁ」


 その言葉は、なんとなくわかるようでわからない非常に難解な答えだった。だが、哲心の表情は真剣であり、ものすごく悩んだ顔をしながら俺を見つめてきた。簡単に思えて哲心の心は意外と複雑で難解のようだ。そしてそれをもの語るかのような顔は俺を見つめてきた。まるで助けを求めてくるような目に、俺は変わらぬ答えを哲心に返すしかなかった。


「別に受け入れるとか受け入れないとかそんなもん、何も気にしなくていいだろ」

「え?」


「別に、俺の事をどうにかこうにか気にしなくたっていい、ただ俺はお前が一人じゃないってだけを言いたいんだよ、そしてこれからは俺たちに何でも言ってくれって意味でフランクイェーガーになりたいんだ」

「一人じゃない?」

「あぁ、俺たちは友達だ、一人じゃないんだろ?」


 友達、これは哲心を出会ってから一番望んでいたもの、それを今再び声に出した。すると、哲心はじっと俺の眼を見つめてきたかと思うと、突然笑った。


「ふふっ」

「な、なんだよ?」


「いや、君はおかしな人だと思ってね」

「お、おかしくないだろ、友達だって言っただけだろ」


「そうかい、受け入れるとかそういう問題じゃないんだね兵助」

「え、あぁ、うん?」


「・・・・・・君が僕の前に現れてから妙に景色が明るくなったような感覚があって、それが不思議でよくわからなかったけど、君の今の言葉で、ようやく今わかったような気がしたよ」

「な、何の話だよ?」


「いや、隣に誰かがいてくれるっていうのはこんなにも素晴らしいという話さ、兵助」

「あのさ、なんかいいこと言ってるところ悪いんだけど、ちゃんと説明してくれないと、俺バカだからわからないっていうか、結局どういうことなんだよ哲心?」


「気にしないでくれ、それと兵助の言い分はわかった、これからよろしく頼むよ兵助」

「え、それって・・・・・・」


 すると、哲心は笑顔で俺に握手を求めてくるそぶりを見せた。俺はそんな哲心の小さな手と柔らかい笑顔を見せる哲心を交互に眺めた。


「僕と兵助は友達、君が言い出したことだろ」

「あ、あぁ」


「ただし、僕みたいなやつとかかわるからには色々と覚悟してもらうからね」

「も、もちろんだ哲心、いつでもお前の事助けてやるっ」


 俺はついに聞けた哲心からの友達になろう宣言にすぐさま哲心の手をにぎった。


「だ、誰もそんなこと言っていないだろっ」

「そういうなよ、なんかあったら何でも言ってくれ哲心」

「う、うぅ」


 なんだか気恥ずかしそうに顔を背ける哲心を眺めつつ、念願の男友達第一号の誕生の喜びを噛み締めていると、唐突に並が手を挙げた。


「えーっと、楽しそうなところ悪いっすけど、ちょっといいっすかお二人さん?」

「ん、なんだ並?」


「いや、猫兄じゃなくて本屋君に話があるんすよ」

「僕に?」


「そうっす」

「なんだい?」

「いや、あたしもそのフランクイェーガーに入ってもいいっすよね」


 思いもよらぬ言葉に哲心は驚いた様子を見せながら並をじっと見つめた、かと思うと俺との握手をやめて勢いよく椅子から立ち上がった。


「ば、番田さん、君は何を言ってるんだい?」

「え、いいじゃないっすか、あたしだって今回の事で色々手回ししたんすよ、あたしだってフランクイェーガーの一員になる資格はあるっす」


「いや、確かにあの時は君にいろいろと手を回してもらって助かった、だけどそれとこれでは話が違う」

「大丈夫っすよ、あたしは猫兄や本屋君みたいに馬鹿みたいに突っ込む戦闘員じゃないっすから」


「い、いやそうことじゃなくて」

「まぁまぁ哲心」


「兵助、君からも何とか言ってやってくれ」

「あぁ・・・・・・・まぁ分かるぞ並、こういう軍団とかチームにあこがれるのは非常にわかる」


「わかるっすか、猫兄」

「兵助、君までなんてこと言うんだっ」


「まぁまぁ哲心、こういうチームとか軍団には魅力があるってもんなんだよ」

「意味が分からない、勘弁してくれないか二人とも」


「懐かしいなぁ、俺も小さい頃こういうのに入りたかったんだけど、なんかしらんけど入らせてもらえなくていつも一人だったんだよ、だから、並がこういうものに入りたい気持ちはよくわかる、哲心もそう思うだろ?」

「何が分かるものか、君たちは勝手ばかり言って、もしも何かあったときに僕は責任とれないぞ」


「大丈夫だ、俺はそこんところ気にしないからな、なぁ並もそうだろ?」

「いや、あたしの場合は責任とってほしいっすよ」


「「え?」」


 ここにきて、まさかの返答をした並に俺と哲心は声をそろえて驚いた。そして並はというと、何をそんなに驚いているのかといった様子で平然としていた。


「な、なにいってるんだ並、こういう軍団に危険はつきものだったりするんだぞ?お前もそういうつもりで入りたいんじゃなかったのか?」

「いいえ、もしもの時に絶対に助けてくれるっていう保証がないと怖いからそう言ってるんすよ、だから責任は取ってもらわないと困りまっす」


「だ、だったら入るなよ並」

「えー、いいじゃないっすか、あたしだって猫兄や本屋君と一緒の軍団に入りたいっすー」


 まるで駄々をこねる子どものように、机をバンバンとたたく並を前に哲心は口をぽかんと開けてあきれた様子を見せた。


「いや、あのな並、その気持ちはわかるけど、それなりの覚悟ってもんが」

「猫兄、さっきあたしが軍団やらチームに入りたい気持ちがわかるって言ってくれたじゃないっすか、だったらあたしだって入ってもいいっすよね」


「えーっと、それはどうだろう、なぁ哲心?」

「僕に聞かないでくれないか兵助」


「じゃあこうしましょうお二人さん」

「ん?」


「猫兄がボスになって、全責任をボスである猫兄が取るってのはどうっすか」

「な、何を馬鹿なことを言ってるんだ並、そんなことがまかり通るわけないだろ、なぁ哲心」


「なるほど、それは名案だな番田さん」

「ほらみろ・・・・・・あれ?」


 同意を求めてみたがあっさりと並の意見に染まった哲心は、あごに手を当てながら感心した様子で何度もうなづいていた。なんとも様になるその格好を見つつ、なんだか嫌な展開へと進みそうな会話内容に俺の鼓動は少しづつ高鳴っていくのが分かった。わかる、これはめちゃくちゃ嫌な予感がするあれだ、胸騒ぎってやつだ


「でしょ、本屋君もそう思うっすよね」

「そうだね、僕が心配していたのは、僕とかかわる人たちは少なからず空繰の危険にさらされる、だから友達や人との接点をなくしてきた。それはつまり何かあったときに責任を取らなくちゃいけないという僕に眠る正義感やら責任感からくるものだ、だけど、その責任が他人に移るならば僕はそこまで気にしなくていいことになる」


「そうっす、そうっす、本屋君は本当にかっこいい人っすね、話が分かる人っす、ボスっていうより参謀に向いてるっす」

「参謀、そうか、これが僕のあるべき姿の答えか」


 なんだか妙な展開になってきているこの状況、なぜか哲心が並に言いくるめられるとは思っていなかっただけに俺は思わず横やりを入れた。


「これが答えか、じゃねぇよ、哲心はそれでいいのかっ」

「僕は構わない」


「いやいや、お前が作ったフランクイェーガーだろそんな簡単に譲ってもいいのかよ」

「何を言ってるんだ兵助、君だってフランクイェーガーだろ」


「え?」

「これはなにも僕一人のものじゃない、君だって同じFランクの仲間だろ?だったら君もフランクイェーガーだ」


「いや、それはなんとなくわかるんだけど、哲心が創設者だろ、それを簡単に譲るってのはいささかどうかと」

「かまわない、君にお似合いの名前だよフランクイェーガー、いや、君こそがフランクイェーガーの名にふさわしい」


「そ、そうか、哲心が言うなら・・・・・・じゃなくてっ」

「なにがちがうんだ兵助?」


「いや、本当にそれでいいのかよ哲心は、これって結構重要なことだと思うぞ?」

「そんなことはない、むしろ君のような人にこの名を背負ってもらいたいと思うけどね」


 そんな思わぬ展開の中、並が哲心同様に立ち上がって万歳し始めた。


「いぇーい、これで決まりっす、猫兄が全責任を背負って立つっすよ」

「何言ってんだよ、まだ決まったわけじゃないだろ」


「いいじゃないっすか、あたしも仲間入りしたんすから仲良くやっていきましょうっ」

「いつの間に仲間になったんだよ」


「じゃあ猫兄、あたしをなかまにしてください」

「いや、だからそういうのは哲心に」


「何を言ってるんだ兵助、君は今日からフランクイェーガーの代表だよ」

「馬鹿言うな」


「それに、僕はボスの器じゃないし、なんなら好きに身動きの取れる下っ端あたりがやりやすくてちょうどいい、だからボスは君に任せるよ」

「哲心までぇ」


「ほらほら、猫兄今日までギフトガーデンの案内やらギフテッドのノウハウやらいろいろお世話してあげたのは誰っすか?」

「それは、もちろん並のおかげだ」


「だったらわかるっすよね、あたしを仲間に入れてくださいっす、ボス」

「う、うるさい、入れてやるからそのボスとかいうのやめろよ恥ずかしい」


「なんでっすか、いいじゃないっすボス」

「また変な目で見られるだろ、ただでさえヤンキーとか言われて困ってんのに」


「入れてくれないともっとひどい噂流しますよ猫兄」

「な、並、おまえなぁ」


 小悪魔なんかじゃない、悪魔の笑顔で迫る並は、初めて会った時の純粋そうな面影はなく俺はただただ並の仲間入りを認めざるを得なくなった。さっきまで俺が入る入らないの話をしていたはずが、いつの間にか昇進してボスになり、おまけに新入りを受け入れることまでやっている。もう、どうでもいいとしか思えない状況に俺はたまらず机に突っ伏した。


「どうするっすか猫兄、入れてくれるんすか?入れてくれないんすか?」

「勝手にしろ、俺はお前を否定しない・・・・・・あー、くそったれ、もしも空繰とか言うやつらに命を狙われるようになったらどうすんだよ」


「あー、それは大丈夫っすよ」

「なんで、そう言い切れるんだよ、やばいやつらなんだろ?」


「大丈夫っすよ、なんといってもあたしたちはFランクっすから、こんな底辺を相手にする暇人は空繰にもいないっすよ」

「で、でも昨日は大変なことになるとかいってただろ?」


「あの時はああいった方がかっこいいと思っただけっす」

「かっこいい?」

「そうっすよ、なんか秘密組織みたいな会話だったじゃないっすか、楽しかったっす」


 そんな気の抜けるような発言に俺は思わず並に詰め寄ると、彼女は笑顔で対応した。


「お前それ本気で言ってんのか?」

「当り前じゃないっすか、所詮はFランクっすよ、ちょっと喧嘩したくらいで大事になるわけないじゃないっすか」


 何が本当で、なにが本当じゃないのかわからない中、俺は哲心に事の真相を確かめることにした。哲心なら空繰のことについても詳しい。


「そうなのか哲心?」

「まぁ、番田さんの言う通りだろうね」


 哲心はコーヒーパックをのみながらそうつぶやいた。


「な、なんだよそれっ」

「実際そうなのだから仕方がない、僕だって本当は空繰の根本的な所にたどり着きたいとは思うけど、ランクがランクなだけにあまり深入りはできないというかさせてもらえないというか・・・・・・あはは」


「・・・・・・哲心」

「もしかして、兵助には少し大げさに見えただろうか?」


「そ、そりゃ見えるだろ、最初あったときから深刻そうな感じだったし、監禁もされるし相当やばいやつらにかかわったんじゃねえかって心配したんだぞ」

「すまない」


「まぁまぁ、これから楽しくやっていきましょうよ猫兄、本屋君も」

「くそ、もう何が何だかわからん」


「いいんすよ、今回の件で猫兄はよくわかりもしないことに平然と首を突っ込む人だって分かったっす」

「それは、まぁ、認めるけどさ」


「そうだね、兵助の介入っぷりったらとんでもないよ」

「哲心まで、なんか興ざめだぁ」


「でもそのおかげで僕は助かった、ありがとう兵助」

「あ、あぁ、気にするな」


 なんだか馬鹿にされているのか、褒められているのかとわけのわからない状況の中、俺たちは互いの中を深め合えたような気がした。これがいわゆる友達というやつなのかもしれない。こんな気持ちも初めてだし、こんな風にからわかわれたことも初めてだ。だが、目の前で楽しそうに笑ってくれている友の顔を見ていると不思議と元気になった。


 こうして、俺は哲心との出会いから始まったちょっとした騒ぎを一応解決という形で納めることができたようだ。しかし、俺にはもう一つだけ心残りなことがあった。そう、それはEVESILVERの事だ、俺はそんな気がかりから、学校を終えると、すぐさま吟子のもとへと向かった。


 早足でEVESILVERへとたどり着くと、店はもう開店しており、店の近くに多くの女子学生らしき人々であふれかえっていた。以前に比べて圧倒的に女性が多い中、少し周りからの視線を感じつつ、店内へと入ると、店の中も女子学生らしき人たちでにぎわっていた。


 はて、こんなにも客が入っていただろうか?それともこの店は本来これくらいの客が入る超人気店なのだろうか?とにかく、そんな人であふれかえる店内をかき分けながらなんとか吟子の姿を探そうとしていると、店のカウンターで忙しそうに会計を行っている吟子の姿が見えた。


 彼女はぎこちない様子で会計を行い、何度も何度も頭を下げていた。これだけ客が入ればそりゃこんなことにもなるだろうとしばらく忙しそうな吟子を眺めた。俺は客足が落ち着いてから話しかけようと、しばらくてんないで 時間をつぶしていると、徐々に客足が落ち着いていきた。そんな様子に俺はすぐに吟子に駆け寄り声をかけた。


「よぉ吟子、大盛況だな」

「ね、猫のお客さん、さん」


 吟子は笑顔で俺を迎えてくれた。前にあった時よりいくらか元気な様子の吟子は、とても生き生きとしていた。


「あぁ、それよりここがこんなに人気店だって知らなかったな」

「え、違う、がう」


「何が?」

「猫のお客さんのおかげ、げ」


「俺のおかげ?」

「うん、うん」


「いや、俺は何もしてないだろ、なんで俺のおかげなんだ?」

「それは、猫のお客さんが動物のアクセサリーをほしいって言ったから」 


「なんでそれで俺のおかげになるんだ?」

「私、今まで動物のアクセサリなんて作ったことなかったった」


「へぇ」

「でも、猫のお客さんのために作って、そしたら猫のお客さんが喜んでくれた」


「あぁ、だってうまくできてるじゃないか、かわいいし」

「う、うん、それでちょっと自信ついてたくさん動物の作った、そしたらたくさんお客さんきてくれるようになったった」


「へぇ、でもそれは俺のおかげじゃねぇよ吟子」

「え?」


「ここにあるものを作ってるのは全部吟子の力だ、だからこうしてたくさんの人に気に入ってもらえたのは吟子の力だ、俺は何もしてない」

「でも、きっかけと勇気をくれた、たっ」


「そ、そんなもん気にするな、俺は何もしてないっての、それより、ここ最近の空繰騒ぎの礼をと思ってな」

「あ、あぁ、本屋哲心はどうなった、た?」


「大丈夫だった、いろいろと迷惑かけたな」

「そんなことない、無事ならよかったった、でも猫のお客さん凄い、Fランクなのにどうやったの、の?」


「そんなもんちょちょいのぱっぱだよ」

「ちょちょいのぱっぱっぱ?」


「ちょちょいのぱっぱだよ、あ、あと、空繰はまだここにきてるのか?」

「実は、動物主体になってからは空繰の人たちはあまりこなくなってって」


「そうか」

「お客さんにかわりはないから少し残念だけど、でも、お客さんが いなくなったわけじゃないから大丈夫、じょぶ」


「そうか、吟子にとっちゃ普通に客だもんな」

「そう、そう」


「そうか、でもこんだけ人気なら空繰の客が来なくても大丈夫だろ」

「うん、うん」


「まぁ、今日来たのはそれだけだ、じゃあ吟子も店がんばれよ」

「あ、猫のお客さんっ、待ってって」


「ん?」

「ま、またのご来店、お待ちしてますっ」


 何も買っていないのに深々と頭を下げる吟子に、軽く挨拶した後、俺はEVESILVERを後にした。店を出ると、なぜか並と哲心が待っていて、二人して何の用かと聞くと「別に」と答えた。何も用もないのに俺のもとへと来てくれたことになんとなく友達ってこんなものなのかもしれないという気持ちが芽生えた。そして、それにこたえてくれるように二人は笑った。


 俺はそんな二人と共にEVESILVERを後にした。そうだな、またここに来た時にはフランクイェーガーの証でも作ってもらおうか?そんなボス気取りの事を考えてみたが、なんか気恥ずかしくて、並と哲心には提案できなかった。

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