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ギフトガーデン  作者:
フランクイェーガー編
11/18

ソフクリ

 「EVESILVER」を訪れた翌日の朝、すっかり気に入ってしまったこの猫のネックレスをご機嫌にいじりながら登校し、真っ先に哲心のもとへと向かうと2組に哲心の姿がなかった。


 なぜ哲心がいないかはわからないが、とにかく姿のない哲心に、俺は近くにいた2組の女子生徒に哲心の居所を聞こうとしたが、俺が話しかける前に小さく悲鳴を上げながら逃げられてしまった。何もしていないに逃げられ、挙句の果てには2組のクラスメートたちから厳しい目つきをされた。


 そんな、なんともやりきれない中、俺は逃げるように2組をあとにして、まだ居心地の良いであろう自分のクラスに戻ると、さっきまでいなかったはずの並の姿があった。すると、彼女はまるで俺の気配でも察するかのように俺に顔を向けて挨拶してきた。


「猫兄、おはようっす」

「あぁ、おはよう、いきなりで悪いんだが哲心のこと見てないか?」


「本屋君ですか?本屋君なら今日は休みらしいですよ」

「休み?」


「そうっす、さっきクラスの子に教えてもらったっす」

「哲心の情報ってここでもわかるのか?」


「いやいや、前も言ったじゃないっすか、本屋君は意外と人気が高いんですよ、だからそれなりの情報は入ってくるわけっすよ、猫兄と違って、ねぇ」

「よ、余計なお世話だ、しかし、そうか哲心は休みか」

「そうっす」


 哲心が休みということで、そこはかとなくテンションが下がり気味の俺は、なんだかその日1日無気力状態のまま堕落した1日を過ごした。


 そして、哲心が休みだと聞いた翌日、再び2組の教室へと向かうとそこに哲心の姿はなかった。もしや喧嘩疲れで風邪が長引いているのだろう?あるいは空繰関連で変なことに巻き込まれてるとか?


 とにかく、そんな不安に駆られた俺はというと、すこしでも情報を得るべく、並に哲心のことについて尋ねてみることにした。彼女は相変わらず俺がいないときはたくさんの女子に囲まれているクラスの人気者、こりゃもう俺は並とかかわらない方がこいつのためなのかもしれない・・・・・・だが、哲心のこともあり俺はすぐに並に話しかけた。


「なぁ、並」

「なんすか?」


「今日も哲心って休みなのか?」

「もー、猫兄は本屋君のことが好きっすね」


「好きとかそういうんじゃなくて、普通に気になる」

「はぁ、そうっすか・・・・・・実は、本屋君のことで少し変な噂が立ってるんすけど聞くっすか?」


「変な噂?」

「そうっす、噂では、本屋君がガラの悪い連中に連れ去られるのを見たって」


「なんだそれ、そんな話いつ聞いたんだ-」

「今日っす、でも連れ去られたのはおとといのことらしいっす」


「おととい?」

「はい、でも噂っすから真偽のほどはわからないっす、なので普通に体調を崩してるとかそういうのかもしれないし、それを確認したって人も聞いてないっす」


「そうか、じゃあその噂は本当かもしれないってこともあるんだよな」

「それはそうっすけど、もしかして本当に連れ去られたって思ってるんすか?」


「もちろんだ」

「本当に本屋君のこと探しに行くっすか、ただの風邪かもしれないっすよ?」


「それでも、そういううわさがあるいじょうほっとけないだろ」

「そりゃそうっすけど、どこか行く当てはあるんすか?」


「まぁ、一応な」

「そうっすか」


「あぁ、だから万が一にでもおれのいどころを聞かれたら帰ったと先生に言っといてくれ」

「そうっすか・・・・・・・」


「あぁ」

「じゃあ、あたしは本屋君の自宅に向かうっすから、猫兄は当てがあるって場所に向かってくださいっす」


「え、いや、お前は別にいいぞ」

「いいじゃないっすか、あたしも手伝うっす、人は多い方がいいっすよ」


「いや」

「いいじゃないっすか、あたしたち友達なんすよ、それに土地勘はあたしの方がありますからね、いろいろなところをいって話をきけるっす」


「本当にいいのか?」

「もちろんっす」


「じゃあ頼む、俺はあてのある場所に向かう」

「わかったっす、じゃあ連絡先教えてくださいっす」

「あぁ」


 思えば、入学式で仲良くなってからというものの、ろくに連絡先の交換もしていなかった俺たちは、ようやく連絡先を交換した俺は、唯一の手掛かりがあると思われる「EVESILVER」に向かうことにした。


 あそこには多くの空繰が出入りしているといっていた上に吟子だっている。この間は哲心に外を出歩くときは気をつけろとか忠告もしていたことだし、吟子がなんかしらの空繰の情報を入っているのかもしれないのは間違いないはずだ。


 そう思うと俺は全力で「EVESILVER」へと向かっていた。店はまだオープンしていなかったが、中では店内を掃除する吟子の姿があり、俺は無礼を承知で店に入った。店内に入ると、吟子がすぐに顔を向けてきた。


「あの、まだ準備中・・・・・・って、お客さん、さん?」

「あぁ、開店準備のところ割るな、少し話があるんだっ」

「話し、し?」


 慌てた俺の様子を察してくれたのか、吟子は何も言わずに俺に椅子をさしだしてくれた。本来なら座ってる暇もないが、ここはひとつ吟子の良心を守るため座ることにした。


「早速なんだが吟子、ここに哲心が来てないか?」

「哲心?あぁ、昨日のお客さんのことか、か?」


「あぁ」

「あのお客さんはおととい来やがってから一度も来ていない、ない」


 おとといきやがれなんて言葉は聞いたことはあるが、まさかこんな使い方をするとは、全く持って女子というやつは面白い言葉を生み出す天才だ。


「・・・・・・」

「どうした、た?」


「い、いや何でもない、そうか来てなかったか」

「な、何かあったった?」


「いや、実は哲心がいなくなったんだ」

「ほ、本当に、に?」


「あぁ、まだちゃんと確認したわけじゃないんだが、どうにもそういう噂が立っていてな」

「も、もしかしてってっ」


「なんだ」

「実は昨日空繰のお客さんたちが来て、いろいろ話してたった」


「そいつらはなんて言ってた?」

「本屋哲心をつかまえたってって」


「ど、どこにっ?」

「話じゃF地区東の廃倉庫、そこで本屋哲心を捕えてるって話を聞いたった」


 この話が本当かどうかはわからないが、とにかくとんでもなく重要な情報を手に入れたようだ。そして、何よりも二日も監禁されている哲心の事が心配で仕方なかった。


「ありがとう、本当にありがとう吟子、お前には助けられてばっかりだな」

「気にするな、な」


「じゃあ俺は行くよ」

「どこに、に?」


「哲心のところだ」

「だめだっ、危ない、ない」


「いや、危なくても哲心は大切な友達だ、助けに行ってやらないと」

「友達、だち?」


「あぁ」

「でも一人じゃ危険すぎる、それにお客さんは、その・・・・・・」


 伏し目がちに黙り込む吟子、俺をFランクだからまるで歯が立たないとでも言いたいのだろうか?


 だが、俺にそんな言葉は関係ない、むしろ、ここにいるギフテッドってやつらがどれほど強いのかを見たくて仕方がない、なんたってここにきてまともにギフテッドのすごさを実感したのは吟子くらいだからだ、これから向かう先でとんでもねーやつが出てきたら、それはそれは楽しいし、哲心も助けられて一石二鳥ってところだ。


 こんな楽しいことを前に、俺は危ないからといってすごむわけにもいかないし、さっさと哲心を助けてやらないと、収まりがつかないってもんだ。


「大丈夫だ、Fランクだろうとなんだろうと、俺はただ哲心を助けに行くだけだ、何もギフテッドと喧嘩しようってんじゃない」

「だとしても、戦闘は避けられない、ない」


 確かに、そう上手くはいかないだろう。それこそ隠密なんてのは性に合わないし、結局ドンパチしてしまうはめになるかもしれないが、哲心のためならなんだってしてやるし、あいつには俺がいてやらなきゃならない。だが、そんな決意を胸に飛び出そうとしていると、さきほどから心配してくれている吟子の顔が更に曇り、小さな声で「いらっしゃいませ」とつぶやいた。


「よぉ兄ちゃん、今からどこにいくんだ?」


 振り返ると、そこには坊主頭に、サングラスをかけた、いかにもいかつい男が立っていた。そして何より気味が悪かったのは、その男は学生服を着ていたということだ。これほどミスマッチな格好もあるものかと目の前に立つ男をじろじろ見ていると、吟子が俺の前に立ちはだかった。


「あのお客さん、お店はまだ準備中でっで」

「いやいや、いいんだよ店長さん、俺らはこのいけすかねぇフランクに用があるんでさ、ちょいとどいてくれるかい?」


 しかし、どくことのない吟子に、Fランクにも優しくしてくれる奴はいるものだと感心しながら、目の前に立つ吟子を引き戻した。


「猫のお客さん、さん?」

「大丈夫だ、この人は俺に用があるんだ」


「でも、もっ」

「いいんだ、この店には迷惑かけないし、実のところ道案内が必要かと思っててな、ちょうどいいのが来たと思っていたところだ」


 そういうと、グラサン学生は眉をひそめ俺に顔を寄せてきた。


「あぁん、生意気だなこのフランク、とりあえず表出ろこのチンピラフランク」

「ち、チンピラじゃない、どっからどう見ても普通の男子高校生だろっ」

「うるせぇな、早く外出なフランク」


 心配そうに見つめる吟子を背に、俺は男とともにEVESILVERの外に出ると、店前には4、5人のガラの悪い連中が待ち構えていた。手には鉄パイプやら金属バットなど、超能力者にしてはずいぶんと不相応なものを持っている。超能力者ってんなら手ぶらで険しい顔でもしていればいいだろうに。


 そして、何よりも彼らの登場は、俺という存在が空繰に知られている事を現していた。いや、それとも哲心と一緒にいたからその取り巻きだと思われただろうか?


 まぁ、理由はなんであれ、ここをしのぎ切ることには哲心にはたどり着けない、そう思った俺は隣でのんきにへらへら笑っているグラサン学生にスリーパーホールドを決めた。こうなると時間の問題、さっさとことを進めるために俺はグラサン学生に尋問を始めることにした。


「なぁ、グラサン」

「な、なにすんだ、離せこのフランク」


「お前達は空繰なのか?」

「だったら何だってんだフランク、離せこの野郎っ」


「哲心がいるところまで案内してくれるってんなら放してやるんだけど、どうだ?」

「はっ、どうせすぐにあいつのところに行けるさ」


「どういう意味だ」

「フランクが調子こいてんじゃねぇってことだよ、お前なんざ俺らの手柄になっときゃいいんだよ」

 

 どうやらはじめっから俺をやる気で来たようだ、それに、この口ぶりじゃ哲心の居所も知っているようだ。こうなったら後はこいつらをどうにかすればいいだけなんだが、どうにもこいつらが何をしてくるかわかったものじゃない。


 なんたって相手はおそらく超能力者であるギフテッド、武器を装備をしてはいるが、どんな力で襲ってくるかもわからない。ただ、こんな状況になってなお俺が絞めてるグラサン男はおろか、取り巻きのやつらはまったくもってその能力を使ってくる様子はない。


 それどころか、少しおびえた様子ででどころを見計らってると来たもんだ。


 こうなりゃ先制あるのみ、俺はグラサン学生を地面にたたきつけ、たまたま店前に置いてあった鉄パイプを手に、勢いよくガラの悪い連中の一人に突撃すると、突撃した相手は勢いよく持っていた武器を振り回してきた。


 そんな攻撃に身をかがませよけると、俺はすかさずの彼のすねに鉄パイプを軽く当てた。すると「コンッ」なんていうこ気味良い音の後男の叫び声が響き渡った。


 そう、こういう時は足を狙え、特に脛、弁慶の泣き所にさえ打撃を与えれば二足歩行の人はあっという間に無力化できる。


 そして残る三人もその標的になってもらうべく間髪入れずに一人づつ脛破壊を行っていった。残る三人は何が起こったのかわからないといった様子で、特にてこずることなく脛に鉄パイプを当てるという作業を続けると、店先にはいつの間にか人が4人もうずくまっているという不思議な光景が出来上がった。


 なんとも滑稽な状況の中、脛を破壊した連中は足をひきづりながらヒーヒー逃げていき、残されたグラサン学生はというと、その自慢そうなグラサンをずり落とし、捨てられた子犬か何かのようなかわいらしい目で俺を見つめていた。


「な、なんなんだよお前は」

「脛当て屋だ、実はこれが結構勇気のいる仕事でな、これまでに何人の断末魔を聞いてきことか・・・・・・いや、本当辛い仕事なんだ」


「そ、そんなこと聞いてねぇんだよこの野郎っ」

「そうか、じゃあ哲心がいるところまで案内してもらおうかグラサン」


 そうしてグラサン男に案内を頼もうとしていると、店内から吟子が飛び出してきた。その手にはおととい同様、大きな鋏が握られており、彼女はあたりをキョロキョロ見渡しながら安全確認していた。その姿はまるで何かに出てくる殺人鬼のようだった。


「ど、どうした吟子」

「い、いややっぱりお客さんが気になってって」


「大丈夫だ、この通りこいつは道案内してくれるそうだ」

「そ、そうなのか、か?」


「あぁ」

「で、でも心配だから、ら」


 そういうと、吟子は持っていた鋏の端っこを変形させていともたやすく手錠を作ってみせた。そしてそのままグラサン男に手錠をはめると、安心した様子でため息をついた。


「こ、これで安心、お客さんが襲われることはない、ない」

「おぉ、やっぱりすごいな吟子は、こいつら全然そういう力使ってこなかったぞ?」


「このお客さんたちは、制服からしてたぶんEランカーだと思う、う」

「Eランカーってのはまだ能力使えないのか?」


「違う、ガーデン内での能力使用は原則禁止されている、る」

「ところで吟子、その鋏はいいのか?」


 そうして吟子が持つ大きな鋏を指さすと、彼女は慌てた様子で、はさみを隠した。


「あ、これはダメだけど猫のお客さんが、が・・・・・・」

「あ、いや、そうだな原則ダメなんだもんな、ばれなきゃいいんだ、うん」


「そ、そう、でもEランカーは能力をうまく制御できなかったり、まだまだ小さな力しか出せないって人が多いから力を使うことを躊躇しているって話も聞いたことがある、る」

「へぇ」


「それで、猫のお客さんは廃工場に向かうのか、か?」

「あぁ・・・・・・それからな吟子、俺は猫宮兵助っていうんだ良かったら覚えていてくれ、いつまでも 猫のお客さんじゃなんか変だろ?」


「猫宮兵助、け?」

「あぁ」


「猫のお客さん、さん?」

「いや、だから兵助でいいから」


「猫宮だから猫のお客さん、さん」

「・・・・・・まぁ、呼び方は何でもいいや、それよりありがとな、いろいろ終わったらまたここでなにか買わせてもらう」 

「う、うん、気をつけてって」


 そんなこんなで最初にあった時とは別人のような弱気なグラサン学生はしぶしぶ道案内を引き受けてくれた。手錠をつけたまま道案内してくれるグラサン学生は、周りの人間からじろじろと見られているような気もしたが、さながらGに連行される不良だとでも思ってもらえたのか、視線は集まるが、すぐに目を背けてくれた。


 そんなこんなで、本物のGに見つかることもなく、目的地である廃工場にたどり着いた。グラサン学生のことだから違う場所にでも案内されるかと思ったが、意外や意外簡単に道案内してくれたグラサン学生の手錠を外してやると、彼は一目散に俺の元から逃げて行った。


 俺はそんなグラサン男の背中が見えなくなるまで見つめた後、廃工場へ入ると、夕暮れ迫る廃工場内には誰一人いなかった。もちろんそれはあたりまえのことなのだが、哲心がとらわれているとなったら別の話のはずだ。それこそ、警護の連中やらなんやらがたくさんいて俺を盛大に出迎えてくれると思ったが、どうやらそういうわけにもいかないようだ。


 ただ、逆に不安の感じる奇妙な静けさに警戒しつつ廃工場を探索を始めると、とある場所へとたどりついた。廃工場なだけに何もない場所だったが、それゆえに人の姿があることに敏感に気づくことができた。


 身を隠しつつ、その人を確認していると、それは手錠をかけられ、傷だらけの顔をした哲心の姿があった。哲心は動くことがなく、ぐったりとしていた。あたりにひとがいないことを確認しつつ、簡単に哲心のもとに駆け寄ることに成功すると、うなだれていた哲心が顔を上げた。


 やつれた顔に青あざがついており相当な目にあった様子の哲心は俺を見るなり驚いた顔をした。 


「よぉ、哲心迎えに来たぞ」

「兵助、どうして君がっ?」


「どうしてもこうしてもないだろ、お前が学校に来てないから心配したんだぞ」

「心配?」


「そうだよ、まったく後先考えずにこんなことになるんだぞ哲心」

「そんなことより兵助、警護の人間はどうした?」


「なにいってんだ、そんなもんいなかったぞ」

「何を言ってるんだ、ここにはたくさんの・・・・・・」


「たくさんのなんだ?ここには誰もいなかったぞ」

「・・・・・・やられたな兵助」


「やられた?何がやられたんだ?」

「罠にかかったことのないやつは簡単に罠にかかるもんさ、野生動物だってもう少し賢いぞ兵助」


 そんな哲心言葉を最後に、俺の耳には大勢の足音が聞こえてきた。


 振り返ると、そこにはガラの悪い学生たちが大量に立っていた。皆手には凶器を持っており、いい加減ギフテッドらしい姿でも見せてくれればいいだろうと、見慣れた光景にため息が出た。


「なぁ哲心、なんかもっと魔法使い的なローブ纏ってたり、いかにも超能力者的なぴちぴちスーツとか来てるやつはいないのかよ」

「何の話だ兵助」


「いや、何でもないけど」

「そうか、そんなことより早くこの手錠をどうにかしてくれないか、まるで取れないんだ」


「そりゃ手錠は取れないように作られてるんだから取れないだろ」

「頼む、早く外してくれっ」


「いや、でも鍵がないからどうにも」

「あっ」


 哲心は何かを見つけたかのようにそんな声を出した、そして顎をしゃくって俺に何かを見るように促してきた。そんなしゃくった先には手錠のカギらしきものをじゃらつかせる男が一人見えた。


 その男は、まるでソフトクリームのような髪型をしていた。そんな奇抜な髪形に思わず笑いがこみあげてきたが、状況が状況なだけにしばらく笑いをこらえていると、ソフトクリーム頭の男が笑いながら近づいてきた。


「よぉ、これをお探しかフランク?」

「あぁ、それって哲心の手錠のカギか?」


「そうだ」

「じゃあ、貸してくれないか?」


「・・・・・・その前にフランク、お前に聞きたいことがある」

「なんだ?」


「お前は何しに来たんだ?」

「哲心を助けに来た」


「どうして?」

「どうしても何も、たぶんお前らが拉致ったから取り返しに来たんだよ」


「ほぉ、だとすると、お前はまだこのままそいつを連れて帰れるとでも思ってるのか?」

「もちろんだ、そのためにぷふっ」


 ここにきて真剣なやり取りと目の前の男のソフトクリーム頭が相まって笑いが漏れ出した。一応我慢はしていたが、あまりにも滑稽な髪形に笑いをこらえられなくなったのは俺のせいというよりも、目の前の男がソフトクリームみたいな髪形をしているのが悪いとしか言いようがない。


「な、なんだお前急に笑い出して」

「いや、ちょっと待ってくれ、やっぱりあんたの髪型面白くて、ははっ、ははははっ」


「な、なんだとこの野郎っ」

「いや、だから髪型が面白くてつい、いや、もう大丈夫、大丈夫だから」


「な、なにが大丈夫なんだよこの野郎っ」

「ゴホン・・・・・・もちろんだ、そのためにここにきたんだからなっ」


「ふざけんなっ、しきりなおせるとでも思ってんのかこのフランク、お前今俺の髪型を馬鹿にしやがったろい」

「し、してないしてない」


「嘘ついてんじゃねぇよ、お前絶対笑ったろ」

「いやいや、それよりも早いところそのカギかしてくれよ」


「無理だ」

「なんでだよ」

「なんでも何も、そんなにこれがほしけりゃ力づくでとってみなフランク」


 そんな言葉と共にソフクリ男の背後にいる集団はたいして面白いことも言っていない割に大笑いし始めた。何をそんなに面白いものかと思いながら、目の前でじゃらつくカギを前に俺は素直にその長髪じみた行為に乗ることにした。


「なんだ力づくでとってもいいのか?」


 すると、そんな事を言った発した、先ほどまで五月蠅いハエのようだった連中はなぜか黙り込み、みなして互いの顔を見あっていた。そして数秒後、目の前の集団はざわめき立ち、最後には再び爆笑の嵐が訪れた。

 

 人数が人数なだけにあまりにも大きな笑い声がこだまする中、連中は俺のことを指さして笑いものにしてきた。何が何だかわからない状況の中、たまらず哲心を見ると、彼はあきれた様子で首を横に振っていた。


 もしかして、どこか格好つけすぎただろうか、そんなことすら思える状況の中、ようやく落ち着いてきた笑い声の中から、ソフクリ男が話しかけてきた。


「お前、今力づくで取るって言ったか?」

「あぁ、だってそうしねぇと哲心が」

「ばーっはっはっは、お前頭どうかしてるぜ」


 それはこっちのセリフといいたいところだったが、状況が状況なだけに頭がどうかしていると思われても仕方がないかもしれない、だが、今日はずいぶんと調子がいい、この人数なら大量脛破壊兵器として戦果をあげられる気がする。そう思えるほどにちょうどいい苛立ちを感じ始めていた。


「何が面白いんだ」

「そりゃ決まってる、フランクがどや顔で力づくの勝負をするっていってんのが面白いってんだよ」


「だから何が面白いんだよ」

「はっ、お前記憶喪失か何かか?ガーデンではランクが絶対なんだよ、おめーみたいなフランクがDランカーの俺には勝てねぇんだよ」


「なんだ、じゃあやるか喧嘩」

「あぁ、いいぜフランク、格の違いってもんを教えてやる」


 そういうと、ソフクリ男はなぜか俺と距離をとった。


「なんだよ、格の違いを教えるのに距離をとる必要があるのか?」

「もちろんだ、格の違いってのは見てわかるレベルのものだからな、拳を交えずとも俺とフランクのお前とでは圧倒的な差があるんだよ、覚えときな」


 そして、その言葉を終えたソフクリ男はなぜか指をぱちんと鳴らした。マジックでも始まるかと思われるそんな行為を不思議に思っていると、なぜかソフクリ男の周りに黒いもやのようなものがあふれ出てきた。

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